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『冬の宵闇、綺麗な着物。彷徨い出るは――なんちゃって雪女。』
アリア・ジェラーティ8537)&デルタ・セレス(3611)&石神・アリス(7348)

 笠地蔵の昔話みたいな事を、雪女がする事もあるらしい。

 じー、とアリア・ジェラーティ(8537)は自宅に届いた荷物とにらめっこを続けている。荷物――宛名はあれど送り主の名は特に無し。中身は何か――思い切って開けてみれば達筆かつちょっと古風な手紙が添えられた、真っ白な――凄く綺麗な着物が入っていた。

「……おお」

 手紙を見れば、送り主も判明する。雪女。以前助けて貰った礼だと言う――何だっけ? と思わず思案。一拍置いて、思い至る。……言われてみれば、向こうが恩に思うかもしれない事は確かにあった。でもそんな大した事では無く、ほんのちょっとした事である。
 それで、これ。

 ちょっと過分な気もするが……まぁ、折角の御厚意だし、有難く貰っておこう。



 真っ白で、凄く綺麗な着物。
 つまり「雪女らしい着物」になる訳だ。着丈を合わせる形で着付けて、全身鏡の前でくるり。うん。よし。
 これで夜の街に繰り出して、雪女ごっこをしてみよう。
 そう思い立ち、アリアは家を出る。

 雪女なら、やりそうな事。
 雪を降らせる――それも、吹雪の方がより「らしい」。
 あと。
 誰かを凍らせちゃうのも……あり、じゃないかな?

 うん。

 決めた所で、凍らせるべき相手を探す。幾ら冬だと言ったって、こんな都会の街中で不意に雪が吹き荒ぶ様な天候になってしまえば――遭難し掛かってる人だって沢山居る。観光客っぽい人や、仕事帰りっぽい人。とにかく色んな人が、そう。皆、困ってたり、慌ててたり、何が起きたんだって吃驚してたり、色々。

 出くわす度に、ふぅっと息を吹き掛ける様にして、凍らせてみる。
 それこそ、本物の雪女がするみたいにして。

 目が合った瞬間は驚いて。雪女然としたアリアの姿に目が奪われていたのかもしれない。その御期待に沿う様にして、アリアは凍える吐息をふぅっと吹き掛ける。その吐息が触れる側から、狙われた観光客はぴしりぱきりと凍り付く。沢山の荷物を所持したまま疲弊、休んでいた所に予想もしなかった雪女の姿を見て目を丸くし――そのまま凍える吐息を受けて氷結、まるで雪山で遭難したみたいな雪塗れの姿で完全に動けなくなっている。
 その様を見て、これ、自分の力だけじゃないなとアリアは思う。雪女のくれた着物は、雪女の力も籠っている着物だった。凍らせ方とか、いつもと勝手がちょっと違って面白い。

 うん、と頷く。
 満足。

 その背後、ひっ、と脅えた様な引き攣り声。仕事帰りっぽいOLさん。アリアが振り返って見たら、転んでぺたんと尻餅を付いていた。後退る様な仕草はすれど、殆ど意味を為していない。
 そっちのOLさんにも、ふーっと吐息を掛けて、そのまま凍らせる。
 何となく、ちょっと可哀想な感じで凍っちゃった事になるかもしれない。

 ……。

 誰彼構わずじゃなくて、悪い人を狙った方がいいかな……?
 そんな風にも思い直してみる。
 じゃあ、次はそうしてみよう――そう、思った所で。

 ちょうどよく、人を襲ってる暴漢、つまり「悪い人」に出くわした。
 何事かと思ったら、通り魔っぽかった。何がどうしてそうなったのかわからないけど、とにかく襲っている――襲われてる人も居る。暴漢はナイフを持ってて、それを襲われてる人に振り翳して――あ、だめ。思うのと腕を上げて暴漢を――そのナイフを持つ手元を指差し冷気を放つのが同時。途端、冷気が当たった部分から暴漢が一気に凍り付く。
 ぎょっとする暴漢の貌――変わったのはその表情までで、それ以上は凍り付く方が早かった。そしてついでに、襲われていた方の人にも冷気の余波が届いている。そちらにしてみれば、助けられたと思ったのに一緒に凍らされては感情をどう持って行ったらいいかわからない。表出するのはパニックだけ――えぇと。まぁ、しょうがないよね? とアリアは結構あっさり諦めた。
 悪い人でも悪い人じゃなくても、氷漬けになっちゃえば同じだし。状況のテーマ性あるし、綺麗だし面白いし。

 ……何の言い訳にもなってないのは御愛嬌である。



 他方、近くの公園。

 幾ら冬とは言え陽が落ちてから急に寒くなり、あろう事か吹雪いてまで来た事を俄かに訝しむが――正直、石神アリス(7348)にしてみればそれよりずっとずっと重要な事が今目の前にある。
 それは新たなるコレクションの追加。即ち、気に入った子を石化させて自分の物にする――と言う、アリスのいつもの趣味である。
 その為ならばどんな労苦も厭わない。この場所、公園に『普通』の人間の誰も出入り出来ない様に手を打っておくのもその「労苦」の一つになる。自分に取り得る限りの手段で。誰の邪魔も入らないよう、上手く誘い出して、追い詰めて、信じさせた所から突き落として絶望させて――その様を永遠に閉じ込めて。愉しむ――いつもの事ながら、考えるだけで心が躍る。
 その為の素材――アリスの「お気に入りの子」当人は、もう、この場に連れ出してある。この時点で、この企みは既に成功したも同然。

 ……石神、さん? 嘘だよね、そんな訳無いよね!? 私の味方だって、言ってくれてたじゃ……
 ふふ。本当に素直で可愛らしいですね……貴方をそこまで追い詰めたのが、そもそもわたくしであったとしたら、どうします?
 ――っ。まさか、そんな……っ。
 どうしてわたくしがその事を明かしたか、よく御理解下さいね? そう、今更気付いても、もう遅いんですよ? ……ええ。その貌。貴方がそうやって貌を歪めて絶望するのを待っていたんです――早く、わたくしのコレクションになって下さい。ふふ。

 アリスはじっくりと「その子」を見つめる――石化の魔眼発動。今にも目の縁から零れ落ちそうな涙を浮かべたままで、「その子」の体はぴしりぱきりと石と化し始めている。

 ……っ、なに、これ……っ。
 貴方はこれから石になるんです。そしてずっとわたくしの元に所蔵されるのですよ。
 ……っ、いやだ、うそ……まっ……て……。
 待てません。貴方がそんなに可愛らしいのが悪いんです。逃がしませんよ。絶対に。
 ――っ!!

 石化の魔眼を掛けられた身の皮膚が硬くなり、色を変える。ごつごつとした質感の、けれど元の姿形だけは確りと造形に残した石像が出来上がる。これこそがアリスの目的。手間暇掛けてアリスが目指した物。舞台に選んだこの場所の予想外の天候悪化もあったが、無事ここまで辿り着けたなら重畳、後は思う様その表情を、造形を愉しめばいいだけ――と。

 そう、思った所で。
 不意に、ぞっとする様な冷気が近付いて来るのを感じて、アリスは反射的にその源を確認する――え? とばかりに一拍、間が開いた。虚を衝かれての動揺――驚き。……いや。
 驚いた一番の理由は、美しかったから、かもしれない。
 冷気の源は、突然現れた雪女。
 いや、アリアだ。雪女らしい風体をした、アリア・ジェラーティ。きっと何かの気紛れでこんな事をしている――わかったのは多分後付け。見た時点で、問答無用で自分が凍らされる方が先だった。吹き掛けられる極寒の冷気。感じた途端、感覚が無くなる。「それ」が当たった所から張り詰める様に凍り付いて固まって、少しずつ――それが全身に広がって行く。直接当たらずとも、冷気に負ける。つい今し方、石化させた子を見る――見ようとするが、そのつもりで動く事すらもう難しい。
 それはアリアは『普通』では無いからこの「人払い」で遮れなかったのだけれどそれでも、そのせいで手間暇掛けて作り上げた目の前の「コレクション」をまともに愛でる事さえ出来なくなっているこの状況は――悔しい事に変わりは無い。

 折角、ここまでやって来たのに……!

 熱を生む為の呼吸すら、冷気を体に取り込む行為にすり替わる。意識まで遠退く。それでも――諦めたくない。その一念だけがアリスの中にある。
 あるが――結局、その一念すらも、氷の中に凍り付く。



 他方、その近く。

 デルタ・セレス(3611)が、一人帰途に就いていた。彼がそれまで何をしていたかと言えば、勤める店の倉庫にある彫像――実を言えば依頼の仕事上で彫像に変えた人外娘達なのだが――の整理。実は珍しい事だったりするのだが、その珍しい事をして外に出てみたら、幾ら冬とは言えちょっと有り得ない位に寒いわ予想外の悪天候だわで、これまた珍しい事になっていた訳である。

 えぇと……道、間違ってませんよね……?

 そこからして気を付けないと何だか怪しい位の状況である。周辺の店とか目印になりそうな物を辛うじて確認しつつ、セレスは進む。はぁ、と溜息も出る。そもそも、倉庫の整理自体も終わっていないと言えば終わっていない。一応片付けられはしたが、余った彫像の行き先に困っている――アリスさんやアリアさんにでも譲ろうか。何となく、そんな事を考えていたりもする。

 ん?

 セレスはふと立ち止まる。
 気付いた方向。そちらに、何か、凄く強い冷気がある――ひょっとして、この悪天候の原因か何かだろうか。だとしたらアリアさんみたいな能力者とかの仕業だったりするんでしょうか。だとしたら――……
 むくむくと期待が湧き起こる。

 好奇心には勝てない。



 好奇心に負け、向かった先。

 セレスが期待した通り――いや、期待以上の光景がそこにはあった。恐らくはこの強い冷気によって、氷漬けにされた人々の姿がある。
 荷物沢山持ってる凄く疲れた観光客っぽい人とか、怯えて尻餅付いてるっぽいOLさんとか、ナイフ振り翳してる危なそうな人とか、それに襲われてたっぽい人とか。凍る直前の状況まで鮮やかに目に浮かぶみたいな、凄い造形で。
 うわ……うわうわうわ、すごい。やっぱりあった。期待してた通りの、こういうの。氷漬けにされた人々はどれもまるで氷の彫像で。さっき倉庫で整理してたみたいな――「本物」が素材の奴。氷と言う事はうっかり触ったら貼り付いちゃいそうで怖いから、我慢して観るだけに留める。周囲のネオンとかさりげなく受けてきらきら鈍く光る中に、雪が吹き付けてるのが何とも言えない趣きで。
 いいなあ、と思う。

 そうやって、次々に興味深く「氷の彫像」を見て行って。
 不意に、急激にひやりと一段階温度が下がってるみたいな場所があった――更に強い冷気に満ちた場所。
 ごくり、と生唾を飲む。
 多分、そっちに「原因」がある。

 公園。



 勿論、行かないなんて言う選択肢は無い。視界が利かないながらも、そぉっと冷気の源と思しき場所を、草の茂みから覗き込んでみる――女子学生? っぽい姿が二つ。これも当然みたいに素敵な氷漬けで――いや、片方は何か違うかも? 石像かな? それから、その近くに真っ白な着物を着た――雪女?

 え? と思う。

 これは――道で見たさっきまでの氷漬けも、この雪女がやったんだと理屈じゃなく感覚で理解する。同時に、あっ、多分これヤバいとも自覚した。頭の中に危険信号が灯り、逃げなきゃとも思うが、体を動かす方にまでその命令が行くのが、多分、少し遅れた。
 そしてその遅れは、致命的。

 雪女がセレスに気付く方が絶対的に早かった。

 ふわりと白い着物が翻る。……自分の目の前、茂みから逃げ出した所。それが視界に入って、セレスは思わず目を奪われた。吹雪を背負った白色の乙女。氷で出来ている様な髪が風に煽られていて顔立ちははっきり見えない。指先がこちらに延ばされる。殆ど魅入られる様にして、セレスはそこから動けなくなる。でも。

 凄く、綺麗なひとを見た、と思った。

 思う間にも、自分の体に容赦無く冷気が浸透して行くのを感じる。体が重くなる。呼吸する度に熱が奪われる。あ、だめだと思う。このまま、凍らされる。でも。それでもいいやって、何か、何処かで、感じてて。
 これまで見て来た、あの氷漬けの人達みたいになるのなら、って。

 半分凍り掛けて、混濁した意識の中でも、ぼうっとそう思っている自分が居て。
 気が付けば目の前に、白い着物の、美しいそのひとが居て。

 これが、現代の雪女――そう思ったのが、最後。



 時は少し遡る。

 出くわす人全てを凍らせまくっていた雪女ごっこ中のアリアは、ふらりと近くの公園に立ち寄っていた。何だか元々人払いがしてあったっぽくて、人の姿は無いに等しい。
 が、暫く進んだらその一角で――学生っぽい女の子を石化させようとしている「誰か」が居るのに気が付いた。石化途中のその子は、何だか泣いて抵抗してるっぽい。
 じゃあそれをやってる方は――「悪い人」かな、と判断。ふぅっ、と凍て付く冷気を吹き掛け、その「誰か」を一気に凍らせる。でもその時その「誰か」の方も石化されてる方の子と同じ位の女の子だって気付いたから――あれ、ひょっとすると喧嘩でもしてただけだったのかなとちらりと思う。
 が、だからって、凍らせるのを止めたりもしない。

 そこまでの氷漬けを終えて、アリアは、ふぅ、と満足の吐息を漏らす。
 うん。いっぱい雪女らしい事をした。

 と。

 一人頷いた所で――茂みから「誰か」がこちらを覗き込んでいるのに気が付いた。あっ、と思う。これもまたいいシチュエーションになる。見てはいけない物を見てしまう「誰か」を凍らせる。これも凄く雪女っぽい。うん。

 ならば、これを逃がす手なんて無い!

 思うのと、その「誰か」へと冷気を放出するのが殆ど同時。狙い過たず命中し、一気に「誰か」の姿が凍り付く。初めは逃げようとしていたが、結構すぐに諦めたのか――途中からぼうっとこちらを見ている様でもあった。なら、と有難くそのまま氷漬けにさせて貰う。「誰か」のこの反応もまた雪女に出くわした人っぽいかもと思えて、ちょっと照れ臭くも嬉しくなる――いい締めになった、と思う。

 じゃあ、そろそろ雪女ごっこは終わりで、いいかな。

 うん、と頷き、アリアはひとまず吹雪を止ませておく。
 その時点で――今の最後に凍らせた人や、さっき「悪い人」と思って凍らせた女の子の姿が何となく視界に入って来た。

 あ。

 薄暗くて気付かなかったが、どうやら前者はセレスちゃんで、後者はアリスちゃんである。凄い偶然だなぁと思いつつ、「あ、二人なら元に戻してあげないと」と思い立つ。
 が。

「……どうやったら溶けるんだろ」

 今回の雪女ごっこで使ったのは自分の力だけじゃないから、その辺の加減がいまいちわからない。どうしよう――ちょっと悩みつつも、ついつい二人の「今の姿」を鑑賞してしまう。何だか悔しそうな名残惜しそうな様子で、石像に手を伸ばした形で凍り付いているアリスちゃんに――何だかこちらに見惚れている様な表情の、無防備な感じのセレスちゃん。

 本物の雪女と思われたかなと何となく思いつつ、ごめんねと謝るだけ謝っておく。まぁ、今の姿も見応えあるし、いいなあって思うけど。

 でもこれ、本当に――どうしよう?

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 アリア様、セレス様、アリス様、御三方ともいつも御世話になっております。
 今回は皆様御一緒での雪女ごっこに纏わる一幕、発注有難う御座いました。
 そして今回もまた大変お待たせしております。
 あと昨今は世間的に健康面で気懸かりな事が多いですから、どうぞ御自愛下さいとも追記しておきます。セレス様とアリス様にもと言う事で。

 内容ですが、「濃く」と御指定頂いた各場面の濃さが御期待に添えているかな、とまず気になっております。状況が三つ絡むので、描写の加減に当たり一番の敵だったのは文字数制限だったりするのですが(苦笑)

 如何だったでしょうか。
 では、次に機会を頂ける事がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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東京怪談
2020年03月30日

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