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『空駆ける風』
霜月 愁la0034)&回風la0034#MS-01J

 霜月 愁(la0034)はアサルトコア回風(la0034#MS-01J)のコックピットに収まった。
 彼の小さめの体躯に合わせて作られたシートに座り、ぴったりの位置に設けられた操縦桿を握る。
 そしてイマジナリードライブを起動。

「出動だよ、回風」

 戦いに臨もうとする愁の意志に応え、回風のシステムが粛々と立ち上がっていく。
 システムオールグリーン。

 輸送用キャリアーの格納庫のハッチが開き、回風のモニターに青い空と海が映る。

 ブースター・NBs-01スヴァローグから赤々と噴炎を発し、回風は空へ飛び立った。紫色の機体が陽光を受けて輝く。

 今回愁が受けた依頼は、海上を飛んで向かってきている5体のナイトメアを迎撃するというもの。
 依頼内容の説明で愁が見た資料によると、敵は戦闘機ほどの大きさがある鳥型のナイトメアだ。「コンドル」と呼称されている。攻撃力と機動力が高いことが特徴。
 コンドルの目的は分からないが、陸地への到達を許せば沿岸の街が危険にさらされる可能性がある。
 よって戦場は海となった。

 本作戦での主戦力は愁の回風。彼が空でコンドルを射落とす。
 これまでの戦闘データによると、コンドルは水中では動きが鈍る。
 海に落ちてきたコンドルに、海中に潜んでいる僚機のSJ-02やSJ-02Sがトドメを刺すという寸法だ。

 もしも回風がコンドルを撃ち漏らせば作戦は瓦解する。
 愁の責任は重大。
 それでも海上の空を1機で飛んでいる愁はいつも通り落ち着いていた。

 水平線に小さな粒がいくつか見える。
 その粒は次第に大きくなっていく。
 空を飛んで接近してくるコンドル5体だ。

「行こう、回風。帰巣起動」

 愁の意志に呼応し、回風のスラスターユニットが動き出す。
 空を飛ぶ感覚がよりはっきりと愁に伝わってきた。体が軽い。まるで自分自身が飛んでいるかのようだ。

 回風の左手には弓。白と黒の勾玉が円となっている乾坤の模様が描かれている。兵装・乾坤弓だ。
 回風は右手で弓に矢をつがえる。支えのない空中であるにもかかわらず、帰巣の高性能な飛行能力により弓も矢も全くぶれていない。
 静かな闘志と共に矢が放たれた。
 威力も精度も高められた一撃がコンドルの翼に当たる。
 強烈な力で的確な場所を射貫かれコンドルは飛行体勢を崩した。あまりもの強打に体勢を立て直すこともできず、海へ墜落する。
 下方から水しぶきの音。

 MS-01Jは日本の国土防衛を目的に開発された。
 空を飛び海を越えて日本へ迫るナイトメアに対抗するため、紫電重工はMS-01Jの射撃攻撃に工夫を施した。
 エースパイロットはMS-01Jのポテンシャルを最大限に引き出し、飛行する敵をどのような状況下でも墜落させる。
 人々はMS-01Jの技術とパイロットの技量を称え、その一撃を天射と呼称する。

 愁は落ちていくコンドルに目もくれず、未だ飛来してくる4体の敵に意識を集中している。
 海に沈んだ敵にトドメを刺すのは味方の役割だ。自分は自分の役目を十全にこなすまで。

 2体のコンドルは速度を落とし、弾丸のように羽根を飛ばしてくる。帰巣で高めた機動力で回避。
 残り2体のコンドルは素早く真っ直ぐに愁へ接近してくる。体当たりを仕掛ける魂胆だ。

 愁は回風を射撃主体の一撃離脱戦法用にチューンアップしている。
 接近されないよう、回風は敵に正面を向けたまま空を後退。
 背後を視認できない飛行でも愁が怖がることはない。地上ではできない動きが可能なのをむしろ楽しんですらいる。
 回風は全く体勢を崩すことなくバックを終えると、瞬く間に天射を放つ。
 矢は接近してきていたコンドルに吸い込まれるように当たった。そのナイトメアも海に墜落する。

 続けざまに3射目。接近してきていたコンドルを天射で撃ち落とす。
 敵は残り2体。ここまでは順調だ。
 しかし弓を3本放ち、兵装・乾坤弓はリロードを挟む必要が出た。
 ナイトメアはその隙を狙っていた。
 羽根を飛ばすのを止めたコンドル2体は超高速で飛び出す。愁へ急接近。1体は上から、もう1体は下から。
 本来地面の上で生きる人間は前後左右への対応は得意だが、上下からの刺激には反応が遅れる。これまで人間を殺してきたナイトメアはそれを知っていた。

 それでも愁は冷静さを保っている。
 素早い敵へ迅速に対応するという想像を高め、イマジナリードライブを活性化。MS-01Jの機動性を限界まで発揮。
 目にも留まらぬ速さでリロードを済ませ一息に矢を放った。
 上から迫ってくるコンドルの頭を射て、その飛行軌道を乱す。

 その速さをもってしても下からせり上がってくる敵までは射撃できなかった。
 ぐいぐい迫るコンドルに対応するため、回風は片手剣を抜き放つ。
 剣を構えたまま回風は後退。それでもコンドルは追いすがり体当たり。
 避けきれないと判断した愁は回風の剣を横に薙いだ。
 ダメージを与えるための攻撃ではない。敵の突撃の勢いを削ぎ、自分が受けるダメージを最小限にするための一撃だ。
 コンドルの速度の乗った攻撃は回風のイマジナリーシールドを破損させた。が、愁の工夫が功を奏し、機能停止までは至らない。
 シールド損傷によりパイロットである愁の精神にも負荷がかかる。愁の表情がわずかに歪むが、彼の戦意は衰えない。愛する家族を「犠牲」に自分だけが生き残って「しまった」彼は、ただ冷静に、ナイトメアを倒すための行動を続ける。

 リロードせずに放てる矢はあと2射。天射の使用可能回数もあと2回。敵は残り2体。後はないが、愁が慌てることはない。
 弓を構え直した回風は、ブースターの最大出力で上へ上へと飛ぶ。地球の引力に抗い、空へ。実際はコックピットの中にいるのに、愁は青い空を吹き抜ける風を感じる気がした。
 体当たりしてきたコンドルが追いすがる。もう1体もその後ろから追ってくる。
 自分に近いコンドルへ射撃。剛弓の一撃に推進力を殺されたコンドルが上昇から一転、母なる星の引力に従って海へ墜落していく。

 最後のコンドルが近付いてくる。もう一撃喰らってしまえば回風もただでは済まない。しかし愁は防御も回避も選択せず、回風は兵装・乾坤弓を引き絞る。
 コンドルが迫る。どんどん迫る。――矢が外れる心配もないほど近くへ。
 天射と称えられる射撃を受けたコンドルは、スクリーン一杯に猛禽のような恐ろしい顔を映す。回風のメインカメラに頭の羽毛がちょこんと触ったところで飛行能力を失い、そのまま真っ逆さまに墜ちていった。

 仲間から愁の元に、海中でコンドルを倒しきったと知らせが入る。今回の依頼は成功だ。
 愁はふぅと息を吐く。
 後方で待っているキャリアーへ帰投するため、回風は空できびすを返した。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 この度はノベルのご発注ありがとうございました。
 
 愁さんのMS-01J“回風”の性能を最大限活かせる空中戦をと考えて戦闘をセッティングいたしました。
 空を飛びながら単機での攻防、いかがでしたでしょうか。
 楽しんでいただければ幸いです。
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錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月06日

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