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『Twilight of an era』
鞍馬 真ka5819)&カートゥル(ワイバーン)ka5819unit005


 鬱蒼と茂る深い森。
 木々の合間を抜けようやく陽射しの許に躍り出た少女だったが、その瞳は絶望に曇っていた。後方から獣達の唸り声が迫ってくる。懸命に駆けたけれど撒くことは叶わなかった。疲労と恐怖で乱れた呼吸、足先の感覚はとうにない。
 これ以上は逃げきれない。例え走り続けられたとて、このまま村にも帰れない。獣達を村へ導くことになってしまう。少女が足を止めたその時、背後の茂みから巨大な狼が四体飛び出してきた。
 覚悟と諦観から固く目を瞑った少女だったが、ふいに瞼越しの陽が陰る。同時に、

「行こう、カートゥル!」

 凛とした声音と勇ましい嘶きが降ってきた。ハッとして振り仰いだ幼い目に映ったのは、まるで彼女を護るように頭上で翼を広げた龍と、その背から舞い降りてくる黒髪の剣士。振りかぶる両手には蒼い炎めくオーラを纏った剣が煌めく。落下の勢いを乗せた強烈な斬撃で、自らよりも巨大な狼の頭蓋を両断した。

「この先の村の子だね? もう少しだけ走れるかな」

 肩越しに振り返る整った面差し、力強くも澄んだ声。男女どちらともつかない不思議な魅力に惚けかけた少女は、狼の唸り声に我に返るとやっとのことでかぶりを振る。このまま村へ逃げ帰るわけにはいかないと。
 すると剣士は一瞬青い目を丸くして、それからとても穏やかな眼差しで語りかけてきた。

「きみが足を止めたのは村を守るためだったんだね。……大丈夫、絶対に村へ危害を加えさせたりしない。私たちに任せて」

 言葉が終わるのを待っていたかのように、カートゥル(ka5819unit005)と呼ばれた龍は再び甲高く鳴くや滑空し狼達へ突っ込んでいく。マテリアルを纏った突進で狼達の体勢が崩れたのを見、

「今だよ」

 剣士の手が、声が、優しく背を押した。少女は弾かれたように走り出す。一度は帰るのを諦めた村へ。


 小さな背中が丘の向こうへ消え行くのを視界の端で捉えつつ、鞍馬 真(ka5819)は狼の攻撃を白い光刃で受け流す。『響劇』の名を持つ剣は、管楽器に似た音を優雅に奏で獰猛な牙をいなした。すかさずカートゥルが獣魔苦無を突き立てると、先程の一体同様に狼はたちまち黒霧となって散る。雑魔だ。真は密かに肩を竦めた。

「邪神が消え、その眷属達が消えても、雑魔はまだまだ湧いてくるんだね」

 戦いの中に身を起きながら、真はふと物思いに耽る。
 かつてハンターや諸国の騎士や軍人、精霊や亜人たちと力合わせ強大な邪神に抗ったのは、ひとえにこの世界の破滅を防ぐため。かけがえのない仲間たちを失いながらもようやく邪神を退け、その眷属たる歪虚を討ち倒し、世界は未来を手に入れた――それは間違いないのだが。
 星の外からの侵略者である邪神や歪虚を退けても、この星に汚染や負の淀みがある限り雑魔達は"湧き続ける"。歪虚の置き土産たる汚染地域もあるが、負のマテリアルはこの星の内で発生するもの。
 蒼き世界へ還る友人を見送って以降、真とカートゥルはこうして雑魔を倒し土地を浄化する旅を続けているが、力なき人々が真に平穏に暮らせる時代への到達はまだ遠く感じられる。果てしない道程の先は見えず、恐らくその時代を自分が目にすることはないのだろうなとぼんやり思った。
 カートゥルの力強い羽ばたき音で我に返ると、真は剣を握り直す。手に馴染んだ柄の感触、そして傍らの美しい神秘の眷属と同じ敵に挑むことに、剣士としての魂が高揚していく。

「先が遥か遠くても……どんなに僅かな一歩でも、私は――止まるわけにはいかない」

 聞き咎めたカートゥルが不思議そうに、どこか労るような視線を投げかけてくる。それにうっすらと微笑み返すと、真は迫りくる一頭から半身引いて逃れ斬りつけた。狼の毛皮に赤が滲んでいく。爪が掠めたか、真の頬にも細く朱が滴った。それを見たカートゥルは激昂したように敵へ飛びかかり、獣よりも鋭く研ぎ澄まされた龍の爪で胴を斬り裂くと、残る一体を鋭く睨み据えた。

「待って、カートゥル!」

 真が呼び止めた隙に、最後の一頭は身を翻し森の中へ。その姿はたちまち入り組んだ草木に紛れて消える。
 カートゥルは振り返ると、何故止めたのかと訝るでもなく、真の傷を心配するように鼻先を擦り寄せてくる。もう長い時間生活も戦場も共にしたカートゥルは親友であり戦友。言葉が交わせずとも解っているのだ、真が何の考えもなく少女との約束を反故にするようなことはしないと。
 真は頬の傷を拭うと、寄せられた鼻先を大事に大事に両腕で抱きすくめる。

「ありがとう。このくらい何ともないよ、私は大丈夫。……さあ、もう一仕事頑張ろうか」

 囁くように告げると、カートゥルは真が乗りやすいよう身を低くした。その背の鞍へ跨ると、カートゥルは今日の空に似た美しい水色の鱗を輝かせ飛び立った。



 西の山の端がほのかに橙を帯びてきた頃、森の中を駆ける雑魔狼達の姿があった。先頭を行く頭目と思しき漆黒の個体はそれらより一回り大きく、大の大人を一呑みにしそうな巨躯だ。
 狼達は声もなく薄暗い森を往く。目指すのは、群れの一頭が当たりをつけてきた人間の村。森の端で子供が独りでうろついていたのだ、その近くに人里があろうことは狼の頭でも想像に難くない。近くにさえ行ってしまえば、あとは獣の鋭敏な嗅覚で匂いを探し辿ればいい。
 じきに風の中に人間のにおいを捉えると、狼達は急いたように足を早め森を抜けた。暗い森に慣れていた眼に、鮮やかな緑の丘陵地帯が映る。
 頭目が舌なめずりをした次の瞬間、突如背後から突風が押し寄せ、仲間達の呻きがあがった。

「やっぱりまだ仲間がいたね」


『ディープインパクト』で群れの後方を吹き飛ばし、一旦空に舞い上がった真とカートゥルは、森から出てきた異形の狼達を見下ろした。
 数は二十。その中に昼間あえて逃した一頭を認め、カートゥルは低く喉を鳴らす。真はそんなカートゥルのすらりと長い首を宥めるように撫でつつ、敵の群れを観察した。

「昼に遭遇した時、狼の群れにしては統率が取れていなかったから、群れの本体が別にいると踏んで泳がせたけど……大きな群れが釣れたね。明らかに頭目らしい個体もいる。ここで倒しきってしまえば……。
 カートゥル、また無理をさせてしまいそうで申し訳ないんだけど、」

 度重なる戦いに疲弊しているのは真もカートゥルも同じこと。それ以上言わなくて良いとばかりにカートゥルは甲高く嘶き、再び群れへ突っ込んでいく。狼の頭目も反撃の咆哮をあげた。
 強い風が真の頬を打つ。敵はこちらの倍、それもただの狼ではなく巨大化した強敵ばかり。それでも真の心は凪いでいた。

(このくらいの戦場なら幾つだって越えてきた……)

 今、真の隣に並び立つ仲間はいないけれど。
 瞼の裏にはいつだって鮮やかに、仲間達を思い描ける。
 "未来"をもたらすため散っていった仲間の真っ直ぐな眼差し。
 邪神を退けた後の世界を、どれだけ見たいと切望していただろう。
 託された遺志を明日へ繋いでいけるのは、今日という日を生きている者だけだ。
 その使命感が、真の疲れた身体を動かし続ける。
 忘れられないのはもうひとつ。
 星のため、世界のため、やむを得ず倒さなければならなかった者達の声。
 残された無念を背負い、償っていけるのもまた、今日という日を生きている者だけだ。
 背負うたそれらが、歩みを止めることを許さない――否、真自身が許せずにいる。

 それでも。

「カートゥル、先にボスを叩いてしまおう!」

 ひとりだけれど独りではない。真の胸の内を理解し、果てしない道行きの供をしてくれる相棒がいる。それが真の心を支えていた。
 次々に襲いくる牙を、カートゥルは急加速してすり抜け頭目へ肉薄。真は鞍から飛び降りざま前脚を斬りつける。しかし凶暴な顎門が開かれたかと思うと、足許へ着地した真を地面ごと喰らう勢いで飲み込んだ。
 カートゥルの声にならない悲鳴が響く。苦無を咥え直し、がむしゃら頭目へ特攻を仕掛けようとした刹那、漆黒の姿態に幾筋もの青白い炎の筋が奔った。真のマテリアルを纏わせた斬撃だ!
 一瞬の後、頭目の巨躯は無数の肉片に解かれ砕け散り、その只中から返り血塗れの真が現れた。血は肌や服に染む間もなく黒塵になる。真はそれをぽんぽん払い、

「うーん、これは流石にお風呂に入りたいかも。終わったら、少しだけ温泉に寄り道するのも良いかもね?」

 無事だと告げる代わりにそう言って、カートゥルに笑みを向ける。歓喜の嘶きをあげたカートゥルは、すぐさま真の元へ飛び鞍へ押し上げる。そうして頭目が倒され狼狽える狼達へ冷ややかな一瞥をくれた。

「さてと、もうひと頑張り。……って、こればっかりだね私達。さあ、行こうか」

 暮れなずむ森の辺りに、魂を共鳴させた剣士と龍の咆哮が響いた。



 それから十数分ののち、森の端に真の歌声が流れた。
 無事に雑魔狼達を討伐し終え、彼奴らが振りまいた負のマテリアルを浄化すべく『風の唄』を紡いでいるのだ。
 風のように伸びやかで自由な歌声が、周囲の空気を清めていく。風の名を持つカートゥルは目を閉じて、歌声に耳を傾けながら気持ちよさそうに首を揺らしていた。
 じきに唄がやんでしまうと、カートゥルは名残惜しく瞼を上げる。真も歌う間目を閉じていたらしい。辺りを巡っていた唄の残響が消えるまで待ってから、そっと目を開け振り返った。長く豊かな黒髪と、それを束ねる黒いリボンがさらりと音をたてる。

「お待たせ。行こうか」

 真を鞍へ乗せると、寛げていた翼を広げ空へ舞い上がる。途端に真は感嘆の吐息を零した。

「見てカトゥール。森の向こうへ陽が沈んでいくよ」

 見れば、空は一面オレンジに染まり、大きな夕日が森の向こうへ沈もうとしている。陰気な森も眩いばかりの光を浴びて、その輪郭を金色に浮かび上がらせていた。
 カートゥルは今飛び立った森の端を見下ろす。そこには何もなかった。雑魔は遺骸を残さない。その身から零した偽りの血の一滴すらも。明日件の村の住民がこの場を訪れたとして、ここで死闘が行われたなどと夢にも思わないだろう。
 そのことをカートゥルは少し残念に感じた。
 かつてのように、活躍ぶりがハンターズオフィスで華々しく公開されることもない。
 人々の暮らしを守り抜いても、褒章を受けることも称賛されることもない。
 そのために真がどれだけ傷つき、疲れ、痛みを覚えているのかも、誰にも知られることなく埋もれていってしまう。
 せめて自分だけは覚えておきたいと――龍であるカートゥルは、人間の真より長生きするであろうから、少しでも長く真の記憶と記録を留めておくべく――しっかりと瞳に焼き付けた。
 たまに思うことがある。
 誰にも知られず、感謝もされず、身も心も削りながら往くこの旅路に、真は虚しさを覚えることはないのだろうかと。
 そっと真を窺うと、真はある一点を見下ろし、愛おしそうに微笑んでいた。何を見ているのかと先を辿れば――連なる丘の向こう、夕闇の底に点り始めた人里の灯が。

「綺麗だね……」

 大事そうに押し出された、掠れがちな囁き声。その声が堪らなく愛しくて、カートゥルは目を伏せた。
 ――ああ、そうだ。
 守護者として数々の功績を上げていた時だって、真は見返りなど求めていなかった。
 守りたいものを守るため、自らが傷つくことなど厭わなかった。
 だからこそ、愛おしい。
 青龍の眷属であるカートゥルとと比べれば、人間は脆弱で短命な生き物だ。真が背負いこんだ使命や贖罪は、その背には重すぎるのではと案じることもある。いっそ全て手放して、残りの命を自分のために使って欲しいと胸痛めることも。
 けれど、そうして真が休まることなどないことも知っている。
 仲間達の遺志と共に、沢山の無念を供に、本当に平穏な時代を迎えるまで歩み続けること。

『先が遥か遠くても……どんなに僅かな一歩でも、私は――止まるわけにはいかない』

 それが、真の願いなのだから。

 それならば行ける所まで共に行こう。
 背の荷が重ければ分かち合えばいい。
 人間らしい優しさ故に脆さを併せ持つ彼が、望む限りどこまでも。
 人間らしからぬ高潔な魂がいつの日か星に還るその時まで、共に。



 剣士を乗せた飛龍は、金色に染まる空を駆けていく。
 やがてその姿は、沈みゆく夕日の眩さの中へ溶けるように消えていった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
【登場人物】
鞍馬 真(ka5819)/神秘の眷属と共に
カートゥル(ワイバーン)/高潔な魂と共に

【ライターより】
真さんとカートゥルの旅路のお話、お届けします。
大変お時間を頂戴してしまい申し訳ございませんでした。
徐々に近づく閉幕の時を受け止めながら、前向きに進んでいくお二方の意志、姿勢。
お二方らしいなと微笑ましく思いつつ、暗くなりすぎないように表現するには……と頭を捻りました。
とても難しいテーマでしたが、少しでもご希望に添えていればいいのですが。
お気づきの点がありましたら、お気軽にお問い合わせよりお申し付けください。
おふたりにとって大事なひと時を書かせていただき光栄でした。ありがとうございました。
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2020年04月06日

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