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『ある夜のカニとの邂逅』
天霧・凛8952

 長い黒髪の女性天霧・凛(8952)は見知らぬ部屋で目を覚ます。そこは白い大きな部屋であり、目の前には一言『カニ』と書かれた扉だけが存在している。

「え、カニ? どういうことですかね」

 数多の危険な仕事さえも遂行してきた彼女にとってもこんな事は初めての事象である。
 見知らぬ内に誰かにどこかへ閉じ込められた? それとも催眠術の様なものでかけられた? 思案は巡るが一向に答えは出ない。
 美人系の顔立ちを軽く歪めながら歩みを進めると目の前の台座に使えとばかりに武器が出現した。
 それは大型の剣であり、振幅は厚く広く見た感じ切れ味は良さそうだ。赤い刀身が煌めく様に彼女を誘う。
 両手で持ってもまだ長い柄を握り締め引き抜くとまるで愛用の武器であったかのようにすんなりと彼女の手に馴染んだ。

「おかしいですね。初めて持つ武器のはずなのですが」

 考えていても仕方がないと頭を切り替えた彼女はカニと書かれた扉を開けた。
 すると眩い光に包まれ、彼女の目が光になれて視界が晴れると目の前には武人の様な座り方をした大型のカニが鎮座している。
 その姿は赤い甲冑を纏った鎧武者の様で見た目にはカニの姿をした人に見える。だがその腕は右に4本、左に4本存在しているのが違う点だった。

「稀人、来たれり……我がお相手致そう」
「へぇ……いきなりの交戦意思の表明、穏やかじゃないですね。まあ武器を抜き身で携えている私も私ですが」

 彼女の言葉の終わりを待ち低い姿勢で地面を蹴ったカニの武人……カニ武人は何本もの腕を交差させながら凛へ突進する。
 素早いその動きに慌てる事もなく凛は右へ飛び、見た目以上に軽い大型剣を片手で構えると後ろ手に振り被った。
 カニ武人は彼女の動きを見て方向を急転換させもう一度地面を蹴り、彼女に向かって真っすぐに突っ込んでくる。そしてそのまま交差していた腕を勢い良く振り抜いた。
 刃状に尖っている彼の腕の切っ先から十字に発生したいくつもの衝撃波が凛に襲い掛かる。だが彼女が動じる事はない。
 彼女の間近まで衝撃波が迫った瞬間、振り被っていた大型剣を水平に思いっきりスイングする。それは向かってきた衝撃波を全て打ち払った。
 勢いそのままに凛は返す刃で剣の柄を両手で握り締めると猛進してくるカニ武人目掛けて大振りの袈裟斬りを放つ。
 いくつか腕を交差させそれを防ごうとしたカニ武人であったが大型剣の切れ味はすさまじく、彼の装甲ともいえるカニの甲羅をいともたやすく分断し斜めに大きく彼の身体を斬り裂いた。紫色の血飛沫が迸る。
 凛は攻撃の手を休めず、怯んだカニ武人へ鋭い回し蹴りを入れると彼をそのまま仰向けに倒す。軽く飛び上がってその上に乗ると体の中心に大型剣を突き刺した。
 断末魔の咆哮をあげながらカニ武人は手足をばたつかせ、もがき苦しむが数秒も経たずに動きはゆっくりと緩慢になり……絶命した。

「稀人……願い……我を使え……忘れ、る、な……」
「願い? 忘れる、それってどういう……ッ!」

 そこまで聞いた時点でカニの武人と共に世界はぼろぼろと崩れ去り……彼女の意識はそこで途切れた。





 朝の鳥のさえずりで目を覚ます。
 凛はベッドに寝乱れた衣服を纏い転がっていた。肌にはじっとりと汗が滲んでいる。

「今のは、夢?」

 起き上がると彼女はふと思い出す様に冷蔵庫の下段を漁る。そこは冷凍室であり中には他の素材に埋もれているカニがあった。
 それを取り出すと彼女はしばし眺める。色合い、足の感じ、そして大きく切れ込みの入った傷跡。カニ武人に似ている、彼女はそう思った。

「まさか……使うの忘れてたから夢に出たんですかね?」

 このカニは頂いた貰い物だ。使おう使おうと思っていたのだがアルバイトに日常にと忙しく、いつの間にかあることすら忘れていたのである。
 かなり凍ってはいるが見た感じ、しっかりと解凍すれば使えそうであった。
 鍋を取り出し水を張ってお湯を沸かす。その間にカニをぬるま湯にさらしてある程度の氷の欠片をこそぎ取った。
 しばらくしてぐつぐつとお湯が沸く。

「じゃあ、お望み通り食べますよ。願いはこれで……叶いましたかね」

 そう考えながら彼女はお湯の張った鍋にカニを入れたのであった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございます!
細かい所はこちらで色々やらせて頂きました。
気に入って頂けたら幸いです。
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東京怪談
2020年04月08日

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