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『三途の川の辺で』
ミィリアka2689


 ゴツゴツとした感触が背中に伝わる痛みでミィリア(ka2689)は目が覚めた。
「なんで、こんな所で?」
 語尾を付けるのも忘れ、ミィリアは背中へと手を伸ばして摩る。 
 しかし、残念ながら背中の全てに手が回る訳がなく……届かない場所が惜しくて仕方ない。
 豪快な性格をしていると自分でも思うが、河原で寝てしまうなんて、乙女としてはいかがなものだろうかと内心、苦笑する。
「次からは気をつけないといけないでござる」
 一つ、咳払いをしてから立ち上がると、反省の言葉を口にした。
 覚醒者とはいえ、年若い(?)女の子が河原で無防備に寝てしまうなんて、変質者が出たらどうしようというのだ。
 周囲は濃い霧に包まれていて、太陽の位置すら確認できなかった。空全体が薄ぼんやりとしている。
 誰かが河原の石を跳ねながら近づいてくる音を拾い、ミィリアは身構えた。
「まさか、変質者が!?」
 自分の背丈を越える大太刀を構える。
 かくして、霧の中から現れた人物は、刀先が向けられていた事に大いに驚いた。
「ちょ、折角の再会だっつーのに、あぶねーって」
「寝込みを襲う輩は成敗でござる!」
「お前、わざとやってるだろ」
 現れた人物は、ミィリアもよく知る侍……菱川瞬だった。
 だが、警戒を解く事は無かった。なぜなら、彼は……。
「ミィリアを騙そうとしても無駄でござるよ! 瞬は既に死んでいるんだから!」
 東方での憤怒との決戦の折、瞬をはじめ、幕府軍は全滅している。
 あの戦いから既に十年以上経過しているのだ。ミィリア自身も心に深い傷を負った。それでも、“彼ら”に恥じない生き方をしてきたはずだ。
 むしろ、誰だか知らないが、卑劣な手段で騙そうとする敵が、今は許せない。
「正体を現せ! で、ござるぅ!」
「いやいや、俺は俺だって。というか、いい加減、自覚を持てよ」
「なにがでござるぅ!」
 ガルルルと獰猛な犬のように敵意むき出しのミィリアに、瞬は大きくため息をついてから言い放った。
「お前、死んだんだよ」
「え…………」
 衝撃的な宣言に、ようやく、ハッとするミィリア。
 周囲は深い霧に包まれていて何も見えないが、不自然な程に『音』がしなかった。
 例えば、鳥の鳴き声だったり、川の流れだったり、風が吹き抜けたり……。
 目をパチクリとするミィリアの肩を、瞬がポンと叩いた。
「ったく、死んでも自覚ねぇとか、足りねぇのは胸だけにしとけって」
「なにか物凄く酷い事言われてる気がするけど、こんな状況だから、今は置いておいて、ちょっと、瞬、これはどういう事でござるか?」
 食い入るように詰めるミィリアの両肩を押し戻しながら瞬は人差し指を天へと向けた。
「ここは“あの世”だ。そして、今、居る場所は“三途の川”だ」
「ミィリア、本当に死んじゃったでござるか?」
「直前の記憶とかねぇーのかよ?」
 問い返された台詞に必死に思い出そうとするが、何故か、頭に浮かんでこない。
 そんなに記憶力無かった訳でもないはず……なのに。
「思い出せないでござる……」
「まぁ、こっちに来たショックで忘れているだけかもな。少ししたら思い出すかもしれねぇし」
 瞬の適当な慰めの言葉を真に受けて、か弱く頷くミィリア。
「死んでしまったのならしょうがないでござる。ところで、正秋さんは?」
「お前、まずは俺の事を聞けよ」
「どうせなら、正秋さんに会いたかったでござる」
「それを言うなら、俺だって、胸のでかいお姉さんに会いたかったよ!」
 売り言葉に買い言葉。お互いを指差して大声で叫ぶ二人。
「また胸の話してる! 瞬のエッチ!」
「なにが『瞬のエッチ』だ。ガキかよ」
「こう見えて、立派な大人だもん! お嫁に来てって言われたで、ござる!」
 必死に胸を張って主張するミィリアに瞬が目を丸くした。
「うっそだろ。誰だよ、そんな変態ロリ」
「聞いて驚くな! 大轟寺家の現当主でござるよ!」
「あのメガネかよ!」
 目玉が飛び出ちゃったんじゃないかと思う程に、驚く瞬。
 交友があったかどうか分からないが、よく考えれば同年代だから、知らない仲ではないのかもしれない。
「どうだ、参ったか!」
「……いや、だったらさ、お前、尚更、ここに来ちゃダメなんじゃ?」
「う……」
 瞬の台詞にミィリアは言葉を詰まらせた。
 しかし、よくよく考えてみれば、プロポーズを受けただけで承諾はしていない。
「いいのでござる。別に……それに、ここは正秋さんもいるのでござろう?」
「俺達は河原の巡回だからな。そりゃ、探せばいるだろうけど……だけどよ、“川を渡る気が無い”なら、さっさと帰れよ」
 呆れた口調で瞬はそう告げると、適当な石に腰かけた。
 そして、遠くの方を見つめながら静かに言う。
「蒼人はよ……特段、仲良かったとかそんな事なかったけど、彼奴も色々と背負ってるんだよ」
「武家の監視役の話でござるか?」
「知っているのなら、尚更だ。彼奴には心休まるような、誰かが必要なんだろう」
 大轟寺は朝廷との関わりが深く、武家を秘密裏に監視する役目を持っていたのだ。昔の事とはいえ、蒼人も色々なものを抱えていたはずだ。
「…………」
「なんで、黙るんだよ!」
「いや、いつも不謹慎な事ばっかり言う瞬にしては、まともな指摘だなって思ったでござる」
「おいおい、逆だぜ。いつもまともな指摘しかしてねーだろ。特に胸の大きさに関しては……」
 直後、瞬の脳天にミィリアの大太刀の鞘が直撃した。
「いってぇーな。ここがあの世じゃなかったら、死んでるぞ!」
「酷い事言うのが悪いでござる! ミィリアは帰る!」
「おう、さっさと帰りやがれ! てか、後、100年はくるんじゃねぇーぞ!」
 川と反対方向に向かって歩き出したミィリアは一度振り返って、ベーと舌を出した。
 100年とはいわず、200年は来るつもりはない。
 大股で立ち去るミィリアの後ろ姿を眺めながら、瞬は「あばよ」と声を掛けると、踵を返して川の方へと向かうのであった。



 ミィリアは再び目を覚ました。
 龍尾城の大宴会場の隅に幾枚も敷かれた座布団の上で転がっていたのだ。
「あれ……?」
 どうやら、帝主催の宴の席で暴飲暴食が過ぎたようだった。大いに咽ながらミィリアは何とか上体を起こす。
「もう起きて大丈夫なのか?」
 ずっと傍に居たのだろうか、起き出したミィリアに心配そうに声を掛ける蒼人。
「……変な夢見たから、そっちで……大丈夫じゃないで、ござる……」
「なんだいそれは」
 クイっと伊達眼鏡の位置を直しつつ、蒼人は言うと、キンキンに冷えたおしぼりを渡す。
 ミィリアはそれを受け取りながら、ボソっと瞬との会話を思い出して呟いた。
「……話は受けたでござるよ」
 絶対に100年以上生きてみせると心に誓うと気持ち新たに――。
 ――が、唐突に蒼人がミィリアの手を取った。
「ありがとう! ミィリア! ずっと返事を待っていて良かった!」
「え?」
「さぁ、今すぐ、スメちゃんに報告に行こう!」
 どうやら、蒼人が盛大に勘違いしているようだ。
 困惑している状態のまま、お姫様抱っこされるミィリア。
「え、えぇぇぇーで、ござるぅぅぅ!!」
 小さき桃侍の叫び声が響き渡るのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お任せに来たら、これは絶対に書かねばと思っていた事を勝手に詰め込ませて頂きました!
蒼人とのその後の関係はもう想像するしかない形で申し訳ないですが、瞬との絡みというか、漫才というか、やり取りはどこかで描く機会があればと思っていただけに、ちゃんと書けて良かった……と今は内心、ホッとしています。
お任せってこれでも大丈夫だったのかな……とか心配もしつつ、ミィリア様も楽しんでいただければ幸いです。

この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2020年04月09日

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