▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ラスト・アイテルカイト』
Uisca=S=Amhranka0754

●最後の傲慢
「私の声は聞こえていますよね」
 幾重にも張り巡らされた魔法陣と幾何学模様の魔導陣によって封印されている魔装鞘に向かって、Uisca=S=Amhranは話し掛けた。
 直接の返事は無いが、Uiscaの意識の中に魔装の言葉が響く。それが守護者としての能力なのか、長年、義姉が研究し続けた成果なのかは分からない。
 義姉家族……魔装の監視者の話によると、魔装自身が変質している可能性があるという。長年に及ぶ浄化や封印が何か影響しているようだ。
『当然だ』
 大袈裟な身振りで尊大に言い放ちそうな口調。
 魔装の変わらない性格に僅かに口元を緩めてUiscaは鞘から魔装を抜き放つ。
 自我を持つ武具というのは伝説にも等しいだろうが、魔装はそういう類のものではない。
 その正体は、歪虚。それも七眷属の一つ、傲慢――アイテルカイト――だ。
「私が知る限り、この世界に残った傲慢歪虚は、貴方が最後の1体です」
 かつて、グラズヘイム王国を存亡の危機に陥れた強力無比な存在は、傲慢王討伐後、騎士団とハンターによる残党狩りによって、今は王国のみならず、この世界から駆逐されている。
 Uiscaの知らない所で僅かに生き残った個体もいるかもしれないが、一般的には傲慢は全滅したと認識されていた。
『興味はないな。まぁ、悪い気はしないが、な』
「そして、今日これから、本当に最後になるのですね……良かったのですか?」
 少し声のトーンを落としつつ、Uiscaは魔装に問い掛ける。
『雑魔として果てるのは傲慢としては許せないからな』
「歪虚を滅ぼしたハンターと共闘する事は?」
『言っただろう。他の傲慢に興味はないと。むしろ、貴様は我が力を扱うに足る人物であり、そして、我が従者が最も信頼する者だ。共闘になんら問題はない』
 刹那、魔装が眩い光を放ちながら、魔導剣弓の形状へと変形した。
 合わせるよう同時に禍々しいほどの封印が施されていた魔装鞘が、奇怪な音を立てながら“立ち上がった”。
 赤黒い腕や足が生えると不気味な一つ目が鞘の中央に開く。
「……」
 膨大な負のマテリアルが放たれる中、Uiscaは覚醒状態に入った。
 魔装鞘は十数年、魔装を守り続けていた。だが、浄化や封印に限りがあったのだ。魔装本体から染み出た負のマテリアルが鞘自体を汚染する事で、雑魔化してしまったのだ。
 幾年か魔装が押さえ込んでいたが、それも時間の問題だった。
 雑魔に全てを飲み込まれる前に……決着をつける。それが魔装の考えだ。
 そして、雑魔と戦う事は、鞘を失うと共に僅かに残ったマテリアルをも失い……魔装は完全に消滅する事になる。
「戦う前に一つ教えて下さい。ノゾミちゃんは今でも貴方の従者なのですか?」
 その名の女性が老衰で亡くなって幾年か経っていた。
 今、Uiscaがこの場にいるのは、その時の縁がある為だ。
『この世界から我が従者が旅立った後だったとしても、主として、従者を守るのは当然の事だからな』
 彼女が身に着けていた魔装鞘が雑魔化して暴れるというのは不名誉な事なのだろう。
 従者の名誉を守るのも、主の役目という事だ。
「ノゾミちゃんには、いつまでも甘いのですね」
『それは貴様も言えた事だろう』
 そんな返事にUiscaはクスっと笑った。
 彼女の最後の願いを叶えようとしているUiscaも甘いといえば甘い。もっとも、守護者として、ここに立つ理由もUiscaにはあるのだから、やっぱり、魔装の方が甘いはずだ。
『言うまでもないが、この雑魔は傲慢の能力を引き継いでいる。気をつけろ』
「分かっています。準備万端ですよ」
 油断なく鞘雑魔を見つめるUiscaの胸元には、特別なサークレットが輝いている。
 ただの装飾品ではない。オーダーメードで作成される特注品であり、現在は限られた者しか製造されない品だ。
 鞘雑魔の腕先が伸び、Uiscaを指差すと、威圧的な負のマテリアルが覆いかぶさるように襲ってきた。
 傲慢が使える特殊能力【強制】だ。
 昔は何度、この力に苦戦した事か。だが、今のUiscaにとっては無駄な事だ。
「どんな強度があったとしても、私に【強制】は通じません!」
 サークレットから放たれる法術陣の力が負のマテリアルをかき消した。
 仮に相手が傲慢王であったとしても、Uiscaに【強制】は届かない。
『【懲罰】の可能性もある。仕留めるならば、一撃だ』
「最初からそのつもりです」
 魔装を持つ手に意識を集中させる。小難しい技は必要なく、強力な一撃で敵を粉砕すればいいだけだ。
 慎重に間合いを調整する――その隙を突いて、鞘が【変容】していく。傲慢特有の能力だが、恐れる程ではない。
 朧気な輪郭がゆっくりと収縮すると……そこには、幾何学模様の二本角を生やした人型の歪虚の姿が現れた。
「これは……そんな事も?」
 その姿は魔装の元の姿だった。
『気にするな。あれは紛い物だ』
 魔導剣弓の剣先は魔装鞘の角へと向けらた。
 Uiscaは知っている。本来、片方の角の先端は欠けている事を。そして、治す事も出来たのに、欠けたままである理由も――。
『完璧というものはこの世界に存在しない……変わり続け成長できる。完全無比だと自身を主張する事こそ、もっとも愚かな事』
「人も歪虚も……同じですね」
『それを説いたのは、貴様だろう』
 いつかきっと、歪虚とも手を取り合う事ができる。世界は変わり続け成長できるのだから。
「いきますっ!」
『貴様の全てを込めろ!』
 全身から光り輝くマテリアルを放ち、Uiscaは魔装を高く振り上げた。
 鞘雑魔が腕を振るってきたが、それをマテリアルの光で阻むと意識を高めて、全ての力を一点に集中させる。
「これが“私達”の力です!」
 最上段から振り下ろした剣先は確実に魔装鞘を両断した。
 Uiscaのマテリアルが両断された敵を包み込むと、雑魔化した鞘はボロボロとなって崩れ出した。
 雑魔が確実にこの世から消滅するのを見届けると同時に魔装がパキンパキンと乾いた音を立てる。
 刀身に細かいヒビが次々に入っていくのだ。
「……お別れ、ですね」
 魔装も残ったマテリアルを使い果たしたようだ。残された時間も僅かだろう。
『そのようだ。我が従者の願い、叶えた事に感謝するぞ』
「最後にノゾミちゃんに伝える事はありますか?」
『フン……』
 何か言い出し掛けると同時に、刀身の先から塵となって魔装は消え去る。
 それはあっという間に、まるで、最初から存在していなかったのではないかと思うような別れで――。
 しかし、言葉は無かったが、誇らしく凛とした歪虚のイメージをUiscaは確かに感じていた。
 それが傲慢――アイテルカイト――だからか、それとも、主として従者を見届けた事なのかは分からない。もしかして、その両方かもしれない。
「お疲れ様でした。貴方の最後の想い、ちゃんとノゾミちゃんに伝えますね」
 唯一残った柄に向かってUiscaは優し気に呟く。
 柄からは負のマテリアルを感じない。最後の傲慢は確かに消滅したのだ。
「遺品まで残すなんて、やっぱり、ノゾミちゃんには甘いんだから」
 Uiscaは微笑を浮かべながら、柄を握り締めて歩き出すのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お任せノベルが来たら、Uisca&ネル・ベルで描こうと思っていたので、嬉々としながら描かせて頂きました。
私の自己満足だったら、本当にすみません……とか感じつつ、改めて、バランスの取れた二人の組み合わせだな〜と改めて再認識しています。


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
おまかせノベル -
赤山優牙 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年04月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.