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『DIVE.01 -Embodiment- 凛の場合』
天霧・凛8952

「あらアナタ、初めましてさんよね?」
 ネットカフェの店長であるクインツァイト・オパール(NPC5478)がそう言った。
 彼(彼女)の視線の先にいるのは、一人の女性であった。
「ご挨拶遅れましてすみません。天霧・凛(8952)と申します」
 そう名乗った凛は、クインツァイトに対して丁寧にお辞儀をしてから再びゆっくりと顔を上げた。美しい黒髪がさらりと肩を滑る様は、クインツァイトから見ても魅了されるほどであった。
「美人さんねぇ。ここに来てくれたってことは、能力者と判断してもいいのよね。ダイブの説明はさっきの通りだけれど……」
「はい。それで、あの……私は刀を扱うのですが、今回は必要そうですか?」
「そうねぇ……降りてみないと解らない相手だし……一応、持って行ってもらおうかしら」
 彼女の質問に対して、クインツァイトは素早く凛を見定めて頷きながらそう言った。
「詳しい事は現場にいるミカゲに聞いてね。無茶はしないこと」
「はい、では……行ってきます」
 凛はそう言いながら、クインツァイトから一本の疑似ケーブルを受け取って、初めてのダイブを実行した。

 体が一度、重い負荷がかかったかのような感覚であった。
 だがそれは一瞬で消え去りふわりとした感覚に切り替わった後は、足が地面についた感触を得て、凛は思わず閉じていた瞳をゆっくり開いた。
「ここは……」
 あたりを見回す。
 視界に入るだけでは、いつもの光景と変わらない。街並みの一画であった。
「――ようこそ、ユビキタスの世界へ。凛さま」
「……っ!」
 か細い少女の声を聞いた凛は、慌ててそちらへと視線を向けた。
 ミカゲ(NPC5476)がそこには立っていた。黒のロリータ服を身に纏う、見た目はほんの小さな少女だ。
「あなたがミカゲさん、ですね」
「はい、この度はよろしくお願いします。早速ですが、ご案内します」
 ミカゲはぺこりと一度丁寧に頭を下げた後、凛を招いた。
 少々、急いでいるようだ。
「変形するウイルス……との事ですが、りんご飴、金魚……お祭りでも?」
 ミカゲに付いていく形で移動しつつ、凛は彼女に問いかけた。
「そうなのです。季節イベントで歩行者天国と露店を設定していまして、一般の方も楽しんで頂けるようになっています」
「なるほど……では、持ち込まれたルートは、そこのようですね」
「はい。意図的ではないにしろ……一般の方によるものだと考えてます」
 ミカゲはそう言いながら、前を進んでいた。
 そうして数メートルを進んだ先の光景が、徐々に変わっていった。
 ――祭り会場が現われたのだ。
「人が居ませんね。少々、不気味な光景に見えます」
 歩行者天国に、多くの露店。本来であれば、多くの人で賑わうはずの場所が、静まり返っている。
 それはやはり、不気味であった。
「メンテナンスと称して、他の区画とは切り離している為なのです」
「なるほど……それでそのウイルスは、金魚やりんご飴の他には何かの形なっていましたか?」
「……この通りの、露店の商品であれば、なんにでも模れてしまうようです」
「ふむ……」
 ミカゲの話を聞いて、少々厄介だと凛は感じたようだ。
 だからこその外部の能力者へと向けられた依頼だったのだろう。
「事情は分かりました。時間経過で変形する事を考えると、見つけ次第排除したほうが良さそうですね」
「お願いします」
 凛はミカゲのそんな返事に、こくりと頷いて見せた。
 そして腰ベルトに装着している狭霧という銘の刀へ手を添えつつ、その通りを歩き出した。
 幸いにも人はいない。気配を辿ることは、難しくはないだろう。
「…………」
 カラカラカラ……と音を立てて回転するのは、お面屋の脇に飾られている赤い風車だった。風で動いているだけなのだが、人気のないこの場所ではやはり暗い印象がある。
 綿あめ屋、チョコババナの屋台などを見て回った。ウイルスの残した軌跡があり、凛はそれを辿っているのだ。
「――凛さま!」
「!」
 ミカゲが少し離れた場所から声を上げた。
 凛はその声に即座に反応して、抜刀の姿勢を取る。
 視線の先は、射的屋だった。三つ並んでおかれている銃の一つが、こちらを向いている。それだけで、凛には理解が出来た。
 相手側も、排除するものの気配を呼んでいるという事か。
 そしてまた、向こうも排除しようとしているのだと。

 ――パン!

 そんな音が響いた。
 ミカゲはそれに怯え、その場で両手で顔を覆ってしまう。凛が撃たれたと思ったのだろう。
「せいっ!」
 凛は狭霧を抜き、音から生まれた対象物を的確に斬りつけていた。
 露店であるために、銃の弾はゴム弾ではあったが、それを真っ二つに切り落としたのだ。
「ミカゲさん、このまま撃破してもいいですか?」
「……はい、お願いします……!」
 柄を握り直し、構えを取る。ミカゲの言葉を受け取ってから凛は、静かに間を詰めた。
「……可能であれば、説得をとも思っていましたが……先に手を出してきたのは、そちらですからね」
 凛はそんな独り言を空気に乗せつつ、刀の位置を少しだけ上に向ける。
 そして次の瞬間には、地を蹴っていた。
 銃に姿を変えたウイルスも、同時にゴム弾を放ってくる。
「……っ」
 光景を見守るだけになってしまったミカゲは、祈るようにして胸の前で手を組み合わせて、それでも目を閉じずにその場で待っていた。

 ――パン! パン!

 二発、弾が放たれた。
 凛はその二つ共を器用に刀で薙ぎ払い、銃本体へと詰め寄る。
「――はっ!」
 次の瞬間には、銃――ウイルスは凛の描く軌道に逆らえずに、二つに裂けて消滅した。

 《disappear》

 一拍ののち、宙にそんな文字が出た。消滅を意味する言葉であったが、それには凛も素直に驚いて慌ててミカゲを振り返る。
「……現実に限りなく寄せた世界ですが、ここは電子の海ですので、こうした現象も普通に見られるんです」
 ミカゲはそう言いながら、手元に小さな画面を呼び出し凛へと見せた。
 凛の能力値、先ほどの行動で得た経験値など、ゲーム画面などでよく見られる『ステータス画面』に似ている。実際、そのようなものなのだろう。
「……少々混乱しますが……こうして私がいる事が、何よりの証ですよね」
「凛さまの的確な行動で、素早くウイルスを除去することが出来ました。ありがとうございます」
「いえ……お役に立てたのなら、良かったです」
 ミカゲが凛の目の前で深々と頭を下げてくるので、彼女は少々戸惑いを見せた。小さな少女がする仕草ではないと思えてしまったのだ。
「私はこの世界を『監視する』しか出来ません。サポート能力も一応存在するのですが、ルールを外れてしまう事になるので……こうしてお手伝いしてくださる方を探してるんです」
「そういうものなんですね」
 ミカゲの説明は、やはり少し寂しく凛に届いた。
「あの、またお役に立てることがあったら、呼んで下さい」
「……そう言って頂けると、とても嬉しいです」
 凛の言葉に、ミカゲはとても嬉しそうに笑った。その笑顔だけは年相応に見えて、凛は安堵する。
 知り合ったばかりで深い事情などはわからない。
 それでもいつかまた――機会があれば、この少女に会いに行ってもいいのかもしれない。
 そんなことを思いながら、凛はユビキタスでの初仕事を終えるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ライターの涼月です。この度はご参加くださりありがとうございました。
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
またの機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年04月13日

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