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『商いが届く先に』
ジャック・J・グリーヴka1305

「先生、荷の積み込み終わったぜー!」
「おー」
 外からかけられる元気のいい声に、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は負けじとばかりに大声を上げて返事する。
 直前までの話し相手に適当な会釈をしてから、やってきた報告を受けるべくジャックは食事処を出た。

「これ、運んだもののリストな。確認印はこれで、荷車はもう先に行かせている」
「よーし、良くやった」
 仕事に問題がない事を確認し、連絡に来た青年に向けてチップを放り投げる、投げられたチップをキャッチしながらも、青年はジャックの行動が心底奇妙であるとばかりに目を白黒させていた。

「……???」
「なんだその顔は」
「いや先生も貴族らしくなったなぁって……元からだっけ? 出会った時から偉そうだったからよく覚えてないや」
「俺様はハンターしてる時からジャック様だぜ?」
「へー」
 この場所での買い付けはこれで終了、他にも青年に用事のありそうな婦人が詰めかけている事もあり、ジャックは場所を譲って引き上げようとしていた。

「ねぇ坊や、巡りの商人さんが来たのってこの前だったかしら」
「一週間前だな、次に来るのはもう少し先になるんじゃないか?」
「そう……困ったわぁ」
「何か足りないものでもあるのか?」
「うちの子の予備薬、あるでしょう? 今朝ちょっと調子が悪くて、そしたら使った分でなくなっちゃったみたいで……」
「予備薬かぁ……」
 微妙なところだ。
 ないと即座に命に関わるという訳でもなく、しかし切らしたままでは不安が残る。
「つっても追いかければいいってもんじゃないからな、発注されてない薬なんてそもそも持ってこないだろ?」
「そうよねぇ……」
「発注かけるなら連絡回すけど?」
 婦人に発注書を渡し、書かせて、それを受け取って引き上げようとした青年が振り返ると、まだ引き上げてなかったジャックを見て声を上げた。

「あれ、先生、まだいたんだ」
「ん……いや、なんつーか、つい聞いちゃってな」
 薬の調達くらいジャックにとっては簡単な事だ。
 だがそうではなくて、商隊が回ってこなければ薬の入手も儘ならない光景を目にして、ジャックは少し考え込んでしまっていた。

「薬が手に入らない根本的な原因……供給自体が確保出来てないのか? ある程度の備蓄を確保しておかないと緊急時の調達が遠回りに……」
「先生、此処同盟。先生は王国の貴族だろ」
「ぐ……商売人にとっての天国、都市同盟ともあろうものが物流がこんなに貧弱とは」
「同盟は同盟でも此処は隅っこの工業地帯だからなー、リゼリオとは端と端だぜ、まー噂に聞くリアルブルーの鉄道とかあればどうにでもなるかもしれないけど……」
 幾ら先生でもそれはむずいよな、とか言われてジャックは地団太を踏んだ。
「ええい、こんなとこにいられるか、俺は王国に帰るぞ!」
「はいはい、向こうでちゃんと荷物受け取ってくれよな、あ、神霊樹は山降りて向こうの街だから」
「これだから僻地は!!!」

 +

 何もかも救う事なんて出来ない、そんな事、ジャックだってわかっている。
 目の前の誰かを救う事くらい簡単だったけど、それでハッピーエンドを気取れるはずもない。
 色々書いて、考えて、リアルブルーの話も聞いて。
 結局クリムゾンウェストでは物流コストの壁が立ちはだかるという事だけ思い知らされる。

「……くそ」
 いい方法はまだ思いついていない、だが諦める気もない。
 そのための貴族位だ、権力の裏付けを持つ今、方法さえ見つければすぐにでも実行してやる。

『たまたま手配がついたから件の薬を送ってやる。なんと定価だ、俺様の慈悲深さに咽び泣きながら受け取るように』
 婦人の宛先は聞かなかったので青年宛てにしたが、まぁ上手くやってくれるだろう。
 ついでに物流の事は現状まだどうにも出来ないみたいな事を書いてしまったら、気にしないでいいのにといった感じの返事が来た。

『やー、先生はいい人だな、薬サンキュ。
 しかしやけにこだわるじゃないか先生、物流が貧弱だから商人も仕事があるんだろ?』
 返事の手紙はなしにした、あのクソガキ今度会ったら直接げんこつしてやる。

 気にするに決まっている。
 必要な時に必要なものが手に入らず、それで命を落とすかもしれない想像なんて、恐怖以外の何物でもない。
 手を尽くした末ではなく、ただ未熟だから、ただ届かないから、ただ出来なかったからで何かが失われるのだ。
 そんな結末は認められない。

 病には薬が必要だ、その薬を届けるには商いが必要だった。

「……俺様はジャック・J・グリーヴ、スーパー大商人だからな。
 商いが届かない場所とか、すぐに地上から消してやるぜ」

 それが多くの幸福につながると信じている。
 届きさえすれば、救えるのだと。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
発注有難う御座いました。
……えーと、受理した直後はジャックさんがスーパー大商人パワーを発揮して困ったご婦人を助けハッピーエンドみたいな緩いお話を考えてたんですけど。
書いてるうちになんか違うな……ジャックさんみたいなスケールの大きい男がそんなちゃちでチープな着地点で満足して良いはず無いよな……みたいな。
婦人は助ける、助けるが! それはそれとして見据えるものはもっと大きく!
そんな感じのお話でした。
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2020年04月13日

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