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『古塔の冒険』
クリスティア・オルトワールka0131


 王国秘蔵の古塔の管理者となったクリスティア・オルトワール(ka0131)は、修繕維持だけではなく別の仕事もあった。
 塔の全容把握も、彼女の大事な仕事の一つであったのだ。
 地下階層に降り立った完全武装のエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が振り返る。
「ここから先か」
 目の前には重厚な扉。細かい装飾が逆に不気味だ。
 扉には一文が記されており、クリスティアはそれを白紙の地図の余白に書き写した。
 『正方の歪みの中に真実を恐れない者のみが辿り着ける』
それは此処から先のヒントなのかもしれない。
「扉の先から未踏区域でありますので、お気をつけ下さい」
「その為に同行しているからな」
 探索にあたり、黒の隊隊長であるエリオットが護衛として選ばれた。
 これも古の塔を探索した経験からの人選だ。それだけ、王国として、古塔の探索は重要な事なのだろう。
「廊下が……左右どちらも続いている」
 広い幅の廊下に出たエリオットは左右を確認し、クリスティアに告げた。
 地図に描き込みながらクリスティアも扉を越えて廊下に出ると、なるほど、確かに廊下はずっと続いているようだ。
「左沿いに進む」
 盾を構え歩き出すエリオット。
 その5歩後ろを維持しながら歩くクリスティア。
 暫し、無言の行軍が続いた。
 男女二人っきりで何を話していいのか分からない……というウブではなく、ただ集中しているだけだ。
 どんな罠が出てくるか分からない。そして、かつて古の塔を探索した時と違って、今は二人しかいないのだ。慎重にならない訳がない。
「右に曲がっているな」
 直角の折れるような曲がり角。
 その手前で呼吸を整えると、エリオットは一瞬、チラっと覗き込んだ。
「どのような様子でしたか?」
「……廊下が続いているだけだ」
 警戒していただけ、ある意味、期待外れの現実にエリオットは僅かに口元を緩めた。
 そうした細かい表情や雰囲気をよく感じ取れるようになる位には、以前よりも二人の“距離”は縮んでいる。

 その後、直角のような曲がり角を4回曲がり、エリオットとクリスティアは入ってきた扉の前に戻ってきたであった。
 困った顔を浮かべ、彼は意見を求めるように尋ねてくる。
「扉に“正方”とあったから、真四角と思ったのだが……5回曲がるとなるとな。しかも直角にだ」
「それは、この地図を見て頂ければ解決します。エリオット様」
 マッピングした内容を見せると、エリオットは「おっ」と唸った。
 そこには綺麗な正五角形が記されていたからだ。
「いずれの曲がり角も直角だと錯覚を起こすように精巧に作られていました」
「よく気が付いたな」
「曲がり角の所だけ、壁の組石が違っていましたので」
「それで、廊下の距離が長かったのも、僅かにつけた角度を稼ぐ為だったという事か」
 エリオットの言葉にクリスティアは深く頷く。
 クリスティアは廊下の距離も歩幅で数えていたが、どの辺も同一の長さであった。
「“正方の歪み”というのは?」
「スタート地点の廊下を底辺として、かつ、正方形の一辺とするならば……」
 正五角形の中に正方形を付け加えるクリスティア。正五角形の頂点から正方形までの間に空間が生じる。
 ここが“正方の歪み”という意味にも捉えられるはずだ。
「きっと隠し扉がどこかにあるはずです」
「分かった。それでは、二週目といくか」
 クリスティアの見事な推察にエリオットは感心しながら宣言するのであった。

 二度目の曲がり角から少し進んだ所で隠し扉を発見した。
 人一人が通れる狭い道が続いているようだ。二人は頷き合うと、やはり、エリオットを先頭に進む。
「“真実を恐れない者”とは一体、どういう意味か……」
 慎重に進むエリオットの前に小部屋が現れる。
 小部屋には本棚と机や椅子が置かれていた。誰かの気配を感じ、片面の壁を見ると、そこには、自身の姿が映っていた。
「これだけ大きな鏡の壁。見た事がないな」
「扉に書かれていた事の可能性はあると思います」
「この鏡が“真実”だとすれば、この先に何かあるという事か」
 鏡に映っているのは虚像なのか、それとも現実なのかは、王国の頭脳を持ってしても明らかではないとエリオットは聞いた事があった事をクリスティアに告げる。
「映っている存在は虚としても、映るには現実に存在するものという事ですね」
「存在していなければ映る事が無いという事は、映っている姿は存在しているという事を証明する……と」
 だが、鏡に映っている者が右手を挙げても、映っている者は左手を挙げる。
「虚像かそうでないのかと論議が繰り返されているそうだ」
「鏡自体が“真実を恐れない者”という事は説明が付きそうですね」
「あぁ……さて、奥はまだ続いているようだ」
 鏡だけではなく、小部屋の本棚の中身も気になるが、今は探索が先だ。
 二人は更に奥に進む。先程のような狭い道を行くと、再び小部屋に出ようとしていた。

 何気なく踏み込んだエリオットが突如として後ろに飛び下がった。
 油断していた訳ではないが、あまりの動きの速さについていけず、クリスティアは押し倒すような形で、エリオットと共に倒れた。
「すまない」
 エリオットは素早く立ち上がりながら、手をサッと差し出す。
 それに掴って立ち上がるクリスティア。
「大丈夫です。それより……」
「部屋の造りはさっきと同じなのだが……妙な気がして、下がった」
 狭い通路から覗き込むと先程と同じような小部屋だった。
 体を密着させてすれ違うと、次はクリスティアが部屋に入る。それで彼が飛びのいた理由をすぐに理解できた。
「鏡に……姿が映っていませんね」
 優れた戦士故の反射能力と言うべきだろうか。
 それはそれで素晴らしい警戒心という事だ。だからこそ、幾つの死線を越えてきたのだ。
「魔法なのか?」
 鏡に姿が映らなくなる事で、どのような罠になるのか。
 魔法が関係しているのならば、彼女の領分だ。
「いえ……これは……」
 そして、フフっとクリスティアは微笑を浮かべた。
 怪訝な表情なエリオットは、彼女の微笑の意味が分からないようだ。
 クリスティアは部屋の本棚や机、椅子を順に指差した。
「直角と錯覚を思わすほど精巧な技術があるのです。対を成すように家具を配置して、先の部屋で実物の鏡壁を見せておく。よく出来ていると思いませんか」
「……なるほど、一つ、化かされたという事か」
 この部屋に鏡など存在していないのだ。鏡が無いので、自身の姿が映る事もない。
 つまり、エリオットは何もないのに驚いて飛び下がったのだ。この塔はどんな強力な歪虚でも怯ませられなかった歴戦の戦士を怯ませたともいえる。
 “真実を恐れない者のみが辿り着ける”場所はこの部屋の一角だろうと思い、クリスティアは対を成している本棚に近寄ると手を伸ばした。
 塔の秘密にも関わるような、あるいは、この世の真実が記されている本があるかもしれない。
「どんな真実よりも、今日は滅多に見られない事実を知る事が出来た方が、私にとって最大の成果でした。エリオット様」
「報告書に記す時はお手柔らかに頼む」
 苦笑を浮かべた歴戦の戦士に、古塔の守り手は楽しそうな笑顔を向けるのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
古塔の守り手であれば、塔に関係する事が書きたいと思い、そうしたら、「探検」するしかないじゃんと至りました。
それも、ちょっとした謎解きがある冒険。それがクリスティア様には似合う気がするしという思い込みも含みまして。
登場するNPCは直接の紐付けはありませんが、幾度か自身のリプレイでも登場させていたた関係でエリオット隊長にさせて頂きました(状況的にも適任だし)。

錯覚トリックは楽しいですが、文章でちゃんと表現できたか不安だったり。
ちなみに鏡部屋のトリックは実際に展示されている場所がありますので、機会ある時に補完いただいても!(
おまかせノベル -
赤山優牙 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年04月13日

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