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『桃李不言』
桃李la3954


 桃李(la3954)と言うライセンサーを知っている? そう尋ねられたグスターヴァス(lz0124)は、はて、と首を傾げてから、
「ああ、存じてますよ。あの背の高い方ですよね。タッセルピアスの」
 と、返事をすると、話を持ちかけたSALFの職員は声を潜めた。曰く、情報らしい情報がサーバーに記載されていない。曰く、記入されている名前も本名ではないらしい。曰く、為人がさっぱりわからない。
 ということで、最近依頼に同道したグスターヴァスから、「彼」がどんな人間なのか聞きたいのだと言う。
「普通にご本人と雑談でもされるのが良いとは思いますが」
 グスターヴァスは一応そう前置きをした上で、話し始めた。
「私も最近お近づきになったのですが、つかみ所がないのは事実だと思いますね」


 桃李本人は、ふらりと立ち寄ったSALF本部で、先日一緒に依頼を請けたグスターヴァスが職員と何やら話をしているのを見かけた。おそらくはカクテルパーティ効果と言うやつだろう。自分の名前が、喧噪の中でも耳に入ったのだ。グスターヴァスは自分に背を向けている。職員から見えない所に座って、彼は聞き耳を立てた。
「私も最近お近づきになったのですが、つかみ所がないのは事実だと思いますね」
 グスターヴァスは語る。彼が次に話したのは、先日の脳科学研究所での依頼だった。脳味噌型のナイトメアが出現したときの話。その時、桃李はこれから脳味噌のガワができるのではないか、と言った覚えがある。
「冷静でしたよ。脳味噌の形をしたナイトメアが出てきても、『これからガワができるのかな?』なんて仰ってますし。私が冗談で、『足からできたらどうしますか』って言ったら『面白い』って」
 くすりと桃李は笑った。そうだった。そんなこともあった。
「その一方で、『素手では触りたくない』って言うから快不快はあるんじゃないですか? ええ、頭から泥かぶっても平気だよ〜んって感じではないですね。バッと避けて隣の人に掛かってるのを見てそうな気はします」
 印象はどうなのか、と問われると、グスターヴァスは、
「不思議な人って感じですね〜。最初派手なマントだなって思ってよーく見たら着物でした」
 桃李は洋装の上から着物を羽織るスタイルが主だ。今も羽織っている着物を摘まむ。お気に入りの内の一着だ。
「色々変わったりしたところはありますけど、まあ良い人だと思いますよ。この前転んだら起こしてもらっちゃいました。てへ」
 グスターヴァスは両手を頬に当てて喜んでいる。そこで、桃李は姿を現した。
「やあ、こんにちは。何の話してるの?」
 職員はびくりと肩を震わせて気まずそうにした。少し怯えているようにも見える。
「あなたの話です! くしゃみが出ました?」
 グスターヴァスの方はあまり気にしていないようだった。まるで最初から桃李がいたかのように振る舞っている。桃李が尋ねてからコンマ一秒くらいの即答だった。
「正直だねぇ、聞こえてたけど」
 桃李の方も何でもないかのように振る舞って、空いた椅子に座った。職員はいよいよ針のむしろという感じで、腹痛を我慢しているような顔をしている。気付いたグスターヴァスが、
「あら、お腹痛いんですか? お手洗い行かれます?」
 と、きょとんとして尋ねると、こくこくと頷いて逃げるように席を立った。
「拾い食いでもしたんですかね?」
「不衛生だね」
 桃李は頬杖を突いた。金を散りばめたような、瑠璃色の瞳をすがめ、
「グスターヴァスくんは、面白いねぇ」
「よく言われます」
「俺のどこを見て、いい奴なんて思ったのさ?」
「え〜? 廃墟で起こしてくれるとことか〜、冗談言ってもドン引きしないとことか〜、後は……」
 指折り数えるグスターヴァス。
「ふふ」
 桃李はくすくすと笑う。職員が去った方にちら、と流し目を寄越してから、再びグスターヴァスに目を戻し、
「……まぁ、確かに俺は善良な一般人だけどね?」
 にっこりと笑った。


 その後、桃李とグスターヴァスが、町中のダイナーで夕食をともにしている時の事。二人のテーブルの傍を、保安官事務所の制服を着た青年が通り過ぎようとした。桃李の座っている方面から来た彼が、その横に差し掛かったその時だった。
「ヴァージルくん」
 桃李が呼び止めた。ヴァージル(lz0103)はぴたりと足を止め、ちらり、と桃李のつむじを見下ろした。相手の反応を確認してから、桃李もヴァージルを見上げる。
「何でわかったんだよ。顔見てねぇだろ。透視でもできんのか?」
「なんとなく、だよ。それより、一緒にご飯食べない? 隣どうぞ」
 グスターヴァスもピザを食べながら反対はしなかった。
「腹は減ってない」
 と、固辞しようとするヴァージルだが、動じない男二人の圧に負けた。桃李の隣に座る。改めて周りを見て、自分より目の位置が高いことに気付いた様で、
「俺がこの中で一番背が低いの、おかしくねぇか……」
 桃李が百八十六センチ、グスターヴァス百八十五センチ、ヴァージル百八十センチである。世間的にはヴァージルも長身の部類に入るが、並ぶと小さく見える。比較マジック。
「お酒飲むかい?」
「『勤務中』だ。相伴する気はねぇぞ」
 と言ってばっさりと断った。
「別に良いんだけどね。ヴァージルくん面白いから、いてくれれば」
「そんな愉快なことをお前に言ってやった覚えはない」
 そう言うところが愉快じゃないか、と思いつつも、
「駄目だよ、保安官代理がそんな言葉使ったら」
 ね? と、桃李は緩く微笑んで見せる。笑顔の圧力を感じて、ヴァージルは口をつぐんだ。目を泳がせる。桃李は頬杖を突いて、
「僕ってそんなに訳わからないかなぁ?」
「俺が何だかわかってて飯に誘ってるんだったら、ヒトとしては正気じゃねぇな」
 ヴァージルはそれだけ言うと、じとっとした目で探る様に桃李を見た。
「変人か奇人かで言ったら両方だろ?」
「同じ意味だからね。酷いなぁ、僕は善良な一般人なのに」
 桃李はくすくすと笑っている。グスターヴァスは孫を見る祖父の顔で桃李を見ながら食事を続けていた。ヴァージルは完全に毒気を抜かれた顔で、置かれた水を飲んでいた。桃李はメニューを取って、
「デザートはどうだい?」
「勤務中って言っただろ」
「面白いねぇ、ヴァージルくんは」
「お前ほどじゃねぇよ」
 桃李はグラスに口を付けながらくすりと笑う。


 さて、結局桃李とはどんな人物なのか?
 それは誰にもわからない。
 わかっているのは、彼が自分のことを「善良な一般人だと思っている」ということ。そして、それをわざわざ口に出すと言う事で、周囲からそう思われていないのを自覚していること。
 目は口ほどにものを言う。口は重たいこともある。金が瞬く青い瞳が、真実を語ることになるのはいつだろうか。
 それは誰にもわからない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
謎の多い桃李さんについて、本当はどうなんだろうとあれこれ想像しながら書かせていただきました。NPCは割と好き放題なんですが、OMCはIFなのでちょっと大袈裟かもしれません。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月13日

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