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『天文学者と歪虚絵画』
瀬織 怜皇ka0684


 瀬織 怜皇(ka0684)は天文学者としてクリムゾンウェストとリアルブルーを行き来する生活を過ごしていた。
 研究していく中で、怜皇はある事実に気が付いた。それは、共通する星座が多い事だ。
「交流歴史学者の星加さんとも意見を交わしたけれど、やっぱり、転移者の影響が強いみたいですね」
「そんな悠長にしている場合ですか? 怜皇様」
 少し困ったような表情を浮かべ、紡伎 希(kz0174)が呟く。
 怜皇は小さく頷くと微笑を浮かべた。
「焦っても良い結果にならないからね」
「ですが、早く歪虚を討伐しないと、奥さんの出産に間に合いません。ここは即突入して一気に畳みかけましょう」
 二人が居るのはアルテミスが管理している倉庫の一つだ。
 そこは主に絵画を保管している。譲って貰ったものや調査中に発見したもの等、多数あった。
「中に取り残されている人の状況を把握してからでないと危険です」
 今は入口前の小窓から倉庫内の様子を確認している。
 討伐目標の歪虚は一枚の絵画だった。底なしの黒い背景一色の絵に多数の触手が生えて空中に浮かんでいた。
「こんな時に、他に誰もいないなんて……やはり、私一人で行きます」
 意気込む希に怜皇は首を横に振った。
「雑魔ならともかく、相手は歪虚です。それも素性も分からず、持ち運ばれた絵画の中に紛れて入ってきた。こうなる状況を向こうも分かっているはずです」
「アルテミスの倉庫に持ち込まれる事が前提と?」
「ノゾミさん達は世の中に良い事をしようとしているけれど、それを好ましくないと思う人間だっているだろうし、その人間が歪虚と手を組む悪人だって考えられるからね」
「最初から、私達を狙っていた……と?」
 深読みのし過ぎかもしれないが、あり得ない話ではない。
「だから、時間が無くても慎重に行動しないと……倉庫の中に取り残された人を安全に助ける事も含めて」
「……分かりました。でも、歪虚を討伐したら、すぐに戻って下さいね」
「分かっていますよ」
 そう応えて、怜皇は改めて歪虚絵画を冷静に観察する。
 何かを探しているように宙をフラフラと飛び、一枚の絵を見つけると、長い触手を伸ばして掴み取った。
 そのまま、引き寄せると“真っ暗な背景の絵の中”に強引に捻じ込み“食べて”しまった。
「今の、見ましたか? 怜皇様」
「厄介ですね。俺達も飲み込まれる可能性がある」
「倉庫に取り残された人はもう食べられてしまったのでしょうか?」
 二人が状況を聞き、駆けつけるまでの間に犠牲になった可能性はある。
 だが、希望は最期まで捨てたくなかった。
「まだ、分からない。隠れる木箱も多いし、アルテミス小隊員なら、少しは心得ているはず」
「そうです……よね」
 気持ちを切り替える為、自分の頬をパンパンと叩く希。
 怜皇は歪虚絵画を見つめたまま、希に訊ねた。
「ここには“色々な絵”が保管されているのですか?」
「はい。流石に、私が全部の絵を把握している訳ではありませんが……」
「例えば、女性の絵とか、獅子や鷲の絵というのはあったりしましたか?」
 質問の意図が分からず首を傾げながら希は答える。
「あったと思います。よくある絵だとも思いますし……ただ、ここからは見えませんね」
「分かりました。ありがとうございます、ノゾミさん。それでは、行きましょうか」
「え? あ、はい?」
 思わずキョトンとする希。
 錬金杖を片手に怜皇は扉に手を掛けた。
「入ったら、俺が気を引きます。ノゾミさんは物陰に隠れて、これを焚いて下さい」
「これは発煙筒……ですか? でも、視界を塞ぐと私達も見えなくなるのでは?」
「そこは大丈夫です。考えがありますから」
 ニッコリと笑うと怜皇は勢いよく扉を開いた。
 すぐさま大声で叫ぶ。
「救助に来ました! 歪虚を討伐するまで音を立てずに隠れていてください!」
 返事は無いが、代わりに歪虚絵画が反応を示した。
 長い触手を鞭のようにしならせて、怜皇を叩こうとしたが、機導術の盾で防ぐと転がりながら移動する。
 隙を突いて別方向に潜んだ希が幾本もの発煙筒を焚くとモクモクと煙が倉庫内を覆い始めた。視界がなくなるまで時間の問題だろう。
 その間にも歪虚絵画の鋭い攻撃が続く。怜皇は二度三度を避け続けたが、木箱際に追い詰められた。
 触手に捕まれば飲み込まれる――が、怜皇に襲い掛かる触手が途中でピタリと動きを止める。
「やっぱり“そういう事”なのですね」
 怜皇は一枚の大きな絵を持っていた。
 その時、ついに煙が倉庫の中に充満した。もはや、影すら見えない状態だ。
 煙の中を怜皇は手探りで移動しつつ、あらぬ方向に向けて物を投げて音を立てた。
 シュっと触手が動く音が響く。
「あんななりでも視る事もできるし、聞く事もできるようですね」
 そんな事を呟きながら、怜皇は立ち止まると、先程の絵を抱えたまま再び叫ぶ。
「俺は此処です!」
 直後、触手が伸びて、怜皇を絵画ごと掴むと、物凄い力で宙に引き寄せられた。
 飲み込もうとしているのだろう。だが、そんな事にはならなかった。
 怜皇が片手に抱えていた絵画がつっかえ棒のように、歪虚絵画の真っ黒な画版に引っ掛かっているのだ。
「“星座”由来であれば、飲み込めたのでしょうが、あいにく、それは“星座”には無いです!」
 もう片方の手に持つ杖の先端から眩いばかりの光の剣が出現した。
 機導術によって作られた剣だ。怜皇はそれを歪虚絵画に突き刺す。
 奇怪な雄叫びを挙げる歪虚絵画。宙に浮かんでいられなくなったのか、床に落下した。
 落下した際も怜皇が上手く態勢を整えたおかげで、下敷きにされた事もあり、歪虚絵画は塵となって崩れていく。
「歪虚を倒したので換気して良いですよ」
「はいっ!」
 すぐさま排煙装置を起動させる希。
 外の新鮮な空気がワッと入ってくる中、視界が徐々に開け、希が駆け足気味に駆け寄ってきた。
「流石、怜皇様です。あんな短い間で歪虚の特性を見抜くなんて」
「突入前にじっくりと観察できたからです。歪虚と倉庫に残っている絵を見て、ピンと来ましたから」
 歪虚絵画の真っ黒な絵は夜空を彷彿とさせた。何の目的があったかは分からないが、あの歪虚は自分の中に星座を持ちたかったのもしれない。
 宙に浮いている敵を倒す為に閃いた怜皇の作戦だった。
「あの時の質問は、そんな意味があったのですね……って、怜皇様! 急がないと。取り残された人は私が探しますので、早く!」
 大事な要件を思い出し、希は怜皇の背中を押す。
 すでに陣痛は始まっている状態だったのだ。一刻の猶予もない。
 怜皇は改めて倉庫の中を見渡した。負のマテリアルは感じない。後は希に託しても問題ないだろう。
「後の事、お願いします、ノゾミさん」
 そう言い残し、怜皇は手にしていた絵を床に降ろすと、微笑を浮かべて走り出した。
 勢いよく扉を開くと振り返りもせず転移門があるオフィスへと向かう。
 外はさっきまで持っていた絵画と同じように青空が一面広がっていた。どこまでも突き抜けた爽やかな青だ。
「君と逢えるのが楽しみです」
 父となる彼は、そんな空を見上げ、まだ見ぬ我が子に届くよう、そう呼びかけたのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
どんな内容が良いかなって考えていくうちに、やっぱり、子供(ミュール)と絡ませた方が良いかなとか思っていたら、なぜか戦闘ノベルに。
未来では天文学者という設定があったので、これを上手く活かせるような形になればと思いましたが、いかがでしたでしょうか。楽しんでいただければ幸いです。

この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2020年04月13日

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