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『帰還の先の道行きは』
浅黄 小夜ka3062)&藤堂研司ka0569

 色んなことに決着がつき、リアルブルーに戻れるようになって。
 それからはまた一つの別れが訪れようとしていた。

 浅黄 小夜(ka3062)は私物をトランクに詰めようとして驚く、身一つで来たはずなのに、いつの間にこれだけの物を溜め込んでいたのか。
 この世界で長い時間を過ごして、季節が巡って。その間に経験した事、形として残ったものが小夜の部屋には降り積もっている。
 誰かが笑いかけてくれた証、誰かが手を引いて一緒に世界を巡ってくれた証。
 部屋から自分がいた証明を持ち去るたびに寂しさが痕を残す。
 もう来れなくなる訳じゃない、でもこのままこの場所に留まる事も出来ない。
 元の世界に戻るのだと、お世話になった人たちに告げるのはどうしても気分が重くて。
 でも彼らはいずれにせよ笑顔で背中を叩いて、元気であるように告げ、まるでいつもと同じように、いってらっしゃいと言ってくれたのだ。

 少なくはない荷物を思い出とともに抱えていく。
 本来なら最小限まで減らすべきなのだろうが、小夜にはどうしても想いの数々を取りこぼす事が出来なかった。

 帰還の段取りは色々と用意されていたが、やはり波乱は避けられなかった。
 小夜にさしたる問題はない、実家に連絡して迎えに来てもらうだけ。
 平穏とはいかないだろうけれどそこにあるのは気持ちの問題だけで、きっと時間が落ち着かせてくれる。

 一方で、共に帰還を約束した藤堂研司(ka0569)の決断は大きなものだった。
 覚醒を封印し、一般人として生き直す。恐らくは軍にでも舞い戻った方が余程安定した生活が出来るのだろうが、研司の希望に沿うものではなかったし、予想される問題も幾つかあった。

 帰還当日、研司は寝起きしてたテントを畳んで、既に片付けてしまった座席と共にまとめていく。
 名残惜しさはある、今になってこの世界の色々をもっと見れたんじゃないだろうかと思いがよぎるが、まぁもう来れなくなる訳でもなし、次は一般人として観光しようと思いながら、研司はさっぱりと気持ちを片付けた。

 転移門で小夜と待ち合わせをし、順番待ちの列に並ぶ。
 まずはお互い落ち着く時間が必要だろうと、帰還した後、暫く時間を開けてからの再会を約束した。
 見栄があるから小夜には言えなかったけれど、……研司は胸を張って会えるようになるまで、きっと時間がかかってしまうから。

「えっと……じゃあ通信アプリのIDを……」
「……ごめん持ってない」
 小夜がメモ帳を探そうとするのに対して研司は気まずげな返事を返す。
 だって転移直前まで軍にいたし、当時は通信代の節約になるとすら思ってた。
 転移前の住処がどうなってるか確認するところから始めないといけなくて、確実な連絡先など渡せそうにもない。
 軍やら組織やらを伝言場所にするのも憚られて。

「じゃ、じゃあ……三ヶ月後に、待ち合わせでどないかな……?」
「わかった」
 最初の待ち合わせはとりあえず京都近くで。
 その後は、お互いの道行きが定まってから決めよう。

 +

 三ヶ月後、二人は約束通りに待ち合わせを果たした。
 その間、お互いの間にあったのはただ一度交わしたきりの約束だけ。
 余りにも長い時間連絡手段すらなくて、時間が約束を薄れさせてしまうのではないかと心が揺らぐ時もあったけれど、互いに律儀な二人同士、約束を違えるはずもなかった。

 出会い頭に研司は端末を掲げて見せ、端末と、通信アプリのIDを取得したことを示す。
 研司が見せる画面の意味を理解した小夜は自分の端末を操作し、そわそわした様子でIDの交換を行った。
 画面をスクロールして、連絡先リストに研司が表示されてるのを確かめて小夜は頬を緩ませる。
 リアルブルーでもまたお兄さんと連絡が取れるようになった事を思えば嬉しくて、端末で口元を隠すものの笑みまでは隠しきれていなかった。

 合流を果たし、二人して手近なカフェに入る。
 飲み物と軽食を頼み、ゆっくり話が出来るように、柔らかな日差しが差し込む窓際の席についた。

「折角だし、戻ってからの事を話そうか」
 研司の職探しは、ぶっちゃけて言えば難航した。
 クリムゾンウェストから戻ってきた人たちをどう扱うべきか、リアルブルー側に心構えが出来てなかったのだ。
 害あるものとして疎まれる訳ではない、ただよくわからないものとして困惑され、遠巻きにされる。
 元々同じ人間……と主張する気持ちこそあれど、研司がそれを口にする事は出来なかった、人間として生き直したかったけれど、もう変わってしまった事実は在ったのだから。

 結局研司を助けてくれたのはクリムゾンウェストで知り合った誰かで、彼女が転移前のコネを使って口を利いてくれた事で、試用期間だけでも望みの職につく事が出来た。
 ……正直なところ、研司はかなりなりふり構わない手段を取ったと思う。
 ある程度援助金は出ていたから当面の生活に困る事はなかったが、小夜と切った三ヶ月の約束が研司の尻を叩いた。
 携帯端末と通信費にも困る有様が三ヶ月経っても解決されてないとか、流石に小夜には見せられない。
 それに、これからの道を歩いていくためにも職は必要だった。
 自分より年下の少女が道を決めているのに対する大人としての見栄とか、……小夜と向き合うにあたり積み上げるべき社会的地位とか。

 ただのお兄さんと妹分として故郷を巡る約束を果たすのもいいのだと思う。
 でも、それとは別に、違う形の未来を見据えている。
 まだ用意の出来ていない事だから、口には出せないけれど。

 簡単に職場の様子を話し、今度は小夜の話を聞いた。
 異世界に数年飛ばされた結果、簡単に復学とは言えなくなってしまっているのだが、一応支援はしてもらえるらしい。
 当然、遅れている勉強は詰め込む必要がある。それとは別に覚醒者としてエージェントを志すなら研修もあり、その辺のバランスに苦慮しているようだ。

「部活とかは難しいやろなぁ……」
 学校を諦めるか、もしくは一旦学校にだけ専念するか、別に卒業してからの就職でも構わないとは言われているけれど、向こうの事を考えたら余り時間を空けすぎるのも憚られる。
 結論は出ていない、出てないままにとりあえずは勉強漬けの毎日だ。
 一人で考え込んでるとどうも塞ぎ込んでしまいそうで、今日の事は心の支えであり、いい気分転換だったのだと語った。

「そうか……」
 小夜の悩みに対して研司が挟める口はない。
 ただ小夜がどのような決断をするにしろ、必ず耳を傾け、共にいようとするだろう。
 出来る事があればいいのだけれど、今は厨房だってまだ自由に使えない身の上だ。
 だか研司は、黙って小夜の話を聞き続けた。

 結論を出せないまま、小夜はクリムゾンウェストに行ってないだろう人間から心無い言葉を言われた事もある。
『異世界帰りの子供なんて学校も持て余すだろうし、そのまま異世界に残って働いたらどうだ』
 研司も似たような扱いを受けた以上、小夜がそれを免れる話などあるはずもないのだが、実際に聞いてしまうといくらか不穏な気持ちが湧き上がった。
 口を開こうとしたのだが、研司はすぐに小夜がそれほど気にした様子でないことに気づく。

「お、お母はんがね……めっちゃ怒ってくれて……」
 異世界に迷い込み他にはない経験をしたが、うちの子は学生の身から変化した訳ではない。
 変わらず学ぶ意志のある子どもであり、他人と共存する意志のある人間であり、その権利、その在り方を狭い了見によって押しのけようとする事は許されない。

 ――それともリアルブルーはクリムゾンウェストと仲良くする意志などないのか。
 そのような見本を持って、子供を世界に送り出し、異世界と向き合うつもりなのか。

 親の言う事は多くの建前や綺麗ごとが含まれていたけれど、我が子を守ろうとする一心である事には違いなかった。
 長い時間離れてしまっていたのに、小夜を変わらず想ってくれている事、それが何よりも嬉しい。

「あのな……多分、仕方ない部分もあるんやと思う」
 誰だってよくわからないものは怖い。
 いくら小夜がリアルブルーの人間だったと言っても、いきなり異世界を受け入れろと言う方がきっと無理がある。
「でもな……でも、異世界の人たちだって、優しかったんや」
 だからまずは、クリムゾンウェストに行った自分たちの事から知っていって欲しい。
 無理はしない、押し付けもしない、だが気が向いたら自分たちの話を聞いて欲しいと思う。

 ――自分たちは異世界でどれほど心細くて。
 故郷を想って泣いた日もあって。
 それを現地の人たちが、どれほど優しく受け止めてくれたかの話を。

「も、勿論、仲間がいたというのも……大きいんやけど……話がおかしくなるから」
 秘密な? と言って小夜は胸前で手を合わせた。
「……有難う、お兄はん、私と一緒に居てくれて」
 こうして戻ってくる事が出来た、家族と再会出来た、ずっと恋しかった日常を再び始める事が出来た。

 そしてこの日常に、今日からあなたの色が増える。
 私は私の人生を歩いていくけど、その横に貴方の姿が見える事が嬉しい。
「メッセージ……送らせてもらうな」
 故郷を案内するという約束はまだ果たされてない。
 今日の事はノーカン、だって流石に緊張する。故郷すなわち親のいる場所で、意識しないままに子供らしくはしゃぐとか小夜にはできそうにないから。

 緊張のあまりに、場合によってはもう一度告白するのも手かもしれないと小夜は思った。
 決着さえつけてしまえば、余計な事など考えずに済む。
 問題は自分に度胸と思い切りと、……その、頷いてもらうための魅力が足りるかどうかだが。

「……ああ」
 小夜の考えなど研司には知るよしもない、だが急いだほうがいい事はきっと察知した。
 小夜は可愛い女の子だけど思い切りが良くて、時にアグレッシブですらあるのだから――。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ちょっと長いエピローグ(捏造)でした。

今回の後書きはちょっと長くなります。
まず、こんな大事な話をおまかせノベルでやってもいいのか? という葛藤がありました。
だが二人のその後というのはどうしても書きたい項目で、他のテーマも一応考えはしたのですが、何を書くにしても前置きが必要だという結論に至りました。
話のシビアさ、取った行動は一応PCに合わせたつもりです。
そしておまかせを書く時の音無はPCにとって都合が悪かったら何時だってなかったことにされる覚悟100%です。

そんでもう一つ重大過ぎる項目だろというのが、二人の交際についてです。
勿論、曖昧にしたまま話が終わるのも大変美しいと思います。
そもそもPL様のゴーサインなしで扱えるお話でもありません。
ですが私の中で「研司お兄さんが小夜ちゃんの気持ちを曖昧にしたままとか不誠実な真似する訳ないだろ!!」ってなったのでぶっこみました。
無論、決行はしてません(ゴーサイン取れてませんからね) ただ研司さんが「ちゃんと小夜ちゃんの事を考えてる」というのを表現してぶっこみたかっただけです。
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2020年04月14日

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