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『休日の過ごし方』
鬼塚 小毬ka5959)&エステル・ソルka3983)&鬼塚 陸ka0038

 明るい陽射しの入るキッチンから、トントントントン……と軽快な音が響く。
 エステル・ソル(ka3983)にマリちゃん、と呼ばれ、鍋の用意をしてした鬼塚 小毬(ka5959)は顔を上げた。
「エステルちゃん、大根切れました?」
「はいです! 大きさはこれくらいで大丈夫です?」
「ええ。バッチリですわ」
 にこにこと笑い合うエステルと小毬。
 ――ここはどこかというと、リゼリオの海沿いにあるコテージだ。
 久しぶりの休暇ということで、一棟借り切って数日のんびり過ごすことにしたのだ。
 そんな訳で、キッチンのテーブルには、ありとあらゆる食材が並んでいる。
 折角キッチンに立つのだし、どうせならお互いの得意料理を教え合おう! ということで、エステルは早速、小毬から和食の手解きを受けていた。
 小毬は水を張った鍋をエステルの前にそっと置く。
「切った大根はこちらにお願いしますわね。軽く下茹でをしますから」
「下茹で? 調味料は入れないんです?」
「味が沁み込みやすくするための準備ですのよ。そのまま煮るより、味が沁みるんですのよ」
「そうなんですね! マリちゃん凄いです!」
 目をキラキラと輝かせて、尊敬の眼差しを向けて来るエステルに、小毬は少し恥ずかしそうに頬を染める。
「いえ……以前よりは少し腕前が上がったという程度なんですのよ」
「そんなことないです。先生が、『マリの手料理は世界一』って言ってたです」
「……は? え? リクさんそんな事仰ってたんです? ちょっとそのお話詳しくお聞かせ戴いても……?」
「はいです。もちろんです!」
 笑顔だが、瞳の奥がきらりと光る小毬。
 自分の夫は、奥さん馬鹿というか、ちょっと自分を過大評価しているような節がある。
 もちろんそれは有り難いし、嬉しいことだけれど……可愛いお友達にトンデモないことを拭き込まれていたら困る。
 エステルはそれに気づく様子もなく、切った大根を鍋に入れながら、師匠から聞いた『奥さんの話』をし始めて……。


 一方、噂の鬼塚 陸(ka0038)はというと、妻の妹分である、三条 真美(kz0198)にお茶を勧めているところだった。
「はい、真美ちゃん紅茶どうぞ」
「ありがとうございます。陸兄さま、お砂糖とミルク要ります?」
「あ、ミルクだけ貰おうかな。ありがとね」
 真美の気遣いに目を細める陸。
 紅茶を一口啜って、ちらりと彼女を見る。
「……天ノ都のことは聞いてたけど、詩天はどう? 問題とか起きてない?」
「はい。今のところは……皆が頑張ってくれていますから」
「そっか。良かった。心配してたんだ。詩天も色々あるみたいだからね」
「今は時代が変わりゆく過渡期ですから。ある程度の混乱は織り込み済です」
「うんうん。真美ちゃんはちゃんと周りを見ててエライな」
「いえ。そんな、王として当たり前のことですよ……」
 陸に手放しで褒められて、頬を染める真美。
 ――そう、目の前で上品にティーカップを手にしているこの可憐な女性は、エトファリカ連邦の一国、詩天の国の王なのだ。
 要人である彼女に、彼の妻である小毬も、弟子であるエステルもひとかたならぬ思い入れと絆があるようで、3人の仲睦まじい様子を、陸もずっと間近で見て来た。
 妻や弟子を通して真美とも親しくなり、こうして家族ぐるみでお付き合いする仲になったけれど……彼女達が何故仲良くなったのかまでは、きちんと聞いていなかったような気がする。
 ふと陸は思いつくままに疑問を口にした。
「そういえば、真美ちゃんは小毬やエステルちゃんとどうやって知り合ったの?」
「陸兄さまにお話したことなかったでしたっけ? ……お二人には、困っているところを助けて戴いたんです」
「ん? それは詩天での話?」
「そうです。歪虚が領地を荒らしていると聞いて……王になったばかりの私は、ただただ焦っていて……この状況を何とかしなくてはと思ったんです」
 九代目詩天の座に就いた時、真美はまだ10歳。
 年端も行かぬ子供で、戦ったこともないくせに、ただただ正義感だけで黙って城を飛び出したのだ。
 ――そこで出会ったハンターの中に、小毬とエステルがいた。
「私も右も左も分からぬ幼子でしたが、お二人もまだ駆け出しのハンターさんだったんですよ」
「真美ちゃん、あのマリとエステルちゃんが駆け出しの頃から知ってるのか! いーなーー!! えっ。ちょっと詳しく。そこ詳しく!!」
 真美の言葉にガタァ! と乗り出す陸。そんな兄貴分に、彼女はくすくすと笑って頷く。
 小毬とエステル、そして真美は、詩天の一角にある小さな村で出会った。
 最初は、繰り返し襲い来る泥田坊という歪虚を止めに行った真美とばったりと出会ったことで巻き込まれる形で。
 2度目は、襲撃してきた泥田坊から防衛線を敷いて村を守り抜いた。
 そして3度目は、泥田坊を幾度となく送りこんで来た首謀者を撃退した。
「あの頃から、小毬姉さまもエステルちゃんも、お強くなる片鱗が見えていらっしゃいましたね」
「……その泥田坊の事件、少しマリから聞いたことある。確か、そこで……君の従兄が事件に関わっていると分かったんだよね」
 思い出すように呟く陸に、頷く真美。
 そう。3人が出逢った事件は、詩天を覆おうとしていた闇の切欠に過ぎなかったのだ。
 泥田坊を差し向けていた歪虚を従えていたのは、死んだとされていた真美の従兄であり、全ての事件は彼が引き起こしているものと思われていたが……真相は、真犯人である初代詩天に依代として身体を利用されていたのだ。
 そして更に、強大な依代を手にして詩天を蹂躙しようとした初代詩天を、紆余曲折ありながらも撃破して――。
「……本当に、小毬姉様にも、エステルちゃんにも、色々助けて戴きました。勿論身体だけじゃなくて、心もです」
「そうなの?」
「はい! 悲しいことがあれば抱き寄せて慰めて下さいましたし、私が間違ったことをすれば殴ってでも止めて下さいました」
「……待って。真美ちゃんを殴ったの? ちなみにどちらが?」
「はい。エステルさんですけれど」
「ワーオ」
 にこやかに言う真美に素っ頓狂な声をあげる陸。
 流石俺の弟子! 思い込んだら一直線だ!!
 そして、小毬も……大事な妹分に寄り添いながら、守り続けて来たのだろう。
「……マリは何でもできるし、常に涼しい顔してるけど、実は誰よりも努力を欠かさないし、エステルちゃんは自分が決めた事を決して諦めない。二人とも誰かの為に頑張れる、そういういい所があるよね」
「はい。そうなんです! 流石陸兄さま。実は、詩天での戦いが終わった後も、幾度となく助けに来て下さって……」
「真美さん真美さん、ちょっとよろしいかしら! お味見をしていただきたいのですけれど!」
 小毬とエステルがどれだけ素晴らしいか、という話でどんどん盛り上がって行く2人に割り込む小毬の叫び。
 陸は振り返って妻を見る。
「えっ。何。今すごく良い話してるとこなんだけど」
「……リクさんと真美さんが仲良しなのは良いのですけれど……出来たら他の話にしませんこと?」
「えっ。何で?」
「何でじゃありませんわよ! 何がどうしてそういう話になってるんです!!? と、言いますか、リクさん。エステルちゃんに聞きましてよ。私の可愛いお友達に何を吹き込んでいらっしゃるのかしら」
「何って本当のことしか言ってないよ。マリ、可愛い上に素晴らしい人だし」
「ですから、大事なお友達の前でそんなこと言わなくたっていいじゃありませんの! 何故真美さんまで頷いていらっしゃるの!?」
 ああいえばこういうリクの後ろでこくこくと首を縦に振っている真美。
 夫が自分をすごく大事に思ってくれていて、本当に悪気なく、素で言っていることは分かっている。
 分かっているけれど! 恥ずかしいものは恥ずかしい!!
 気恥ずかしさ最高潮で頬を染める小毬の横で、エステルがハイ! と挙手をした。
「マリちゃん。わたくしも先生と真美ちゃんと、『マリちゃんがすごい』トークしたいです」
「いや、俺達『エステルちゃんがすごい』トークもしてたんだけどね」
「えっ。そうなんです!? それはちょっと恥ずかしいので是非マリちゃんのお話を……」
「しなくていいですから!!! さ、真美さんも一緒にお料理しましょうね。リクさんはお茶飲んでらしてくださいな!」
 真美を夫から引きはがすようにして連れて来た小毬。エステルににこやかな笑みを向ける。
「エステルちゃん、お見苦しいところをお見せしましたわね」
「わたくしも『マリちゃんがすごい』トーク……」
「お料理教えて下さいますわよね?」
 あっ。マリちゃんの笑みが深くなったです! これ有無を言わせないやつです!!
 仕方がないです。それじゃ、『マリちゃんがすごい』トークは後にするです。
 そんなことを目まぐるしく考え、笑顔で頷くエステル。
 ――そう。エステルは一度決めたことは諦めないのだ!!
「分かりました。それじゃ、ミートパイを伝授するです」
「みぃとぱい……? あ、それ一度戴いたことありましたよね」
「はい! 真美ちゃん覚えててくれて嬉しいです。ミートパイはお家毎に味が違う正にソウルフードなのです! ソル家はお父様の味なのです!」
「まあ。まさに家庭の味なんですのね」
「そうなのです。それでは、マッシュルームと玉ねぎ、にんじんをみじん切りにます。小毬ちゃんと真美ちゃん、お願いできますか?」
 エステルに促され、頷く2人。
 包丁を手にして、材料を切り始める。
 小毬は毎日やっているというだけあって手慣れた手付きだが……真美の包丁遣いもなかなか悪くない。
 以前はもっとおっかなびっくりな感じだったのだが……小毬とエステルがその変化を見逃すはずもなく、目をきらりと輝かせて真美を見る。
「真美ちゃん、包丁の使い方、とても上手になってますわね」
「わたくしもそう思ってたです! 練習したですか?」
「あ、はい。その……あの人にご飯を作ってあげたくて……」
 頬を染めながら、ごにょごにょと呟く真美。
 彼女には恋人がいる。
 この間、ようやく真美の軍師から出されていた条件をクリアして、正式に婚約を果たしたのだ。
 結婚を見据えて、花嫁修業を本格化した、ということらしい。
 ――まあ、真美と、その恋人がこの関係に至るまでに、小毬の鉄壁のお姉ちゃんガード……『お姉ちゃんは許しませんよ』が幾度も発動した為、婚約に至る条件は更に厳しいものだったと付け加えておく。
「真美さんの手料理だなんてなんて羨ましい……!!」
「マリちゃん、本音が出てるですよ」
「あら。何のことですかしら」
 エステルのツッコミに笑顔を返した小毬。刻んだ材料をボウルに移しながら、うふふと笑う。
「今から真美ちゃんの結婚式が楽しみですわ。結婚の儀は詩天の政が関わるでしょうから仕方ありませんけれど、二次会は是非私達に取り仕切らせてくださいな」
「はいです。真美ちゃんにいっぱいお色直ししてもらうです!」
「ええ! どんなドレスにしましょうかしら。真美ちゃんは可愛らしいですから、何でも似合ってしまって困りますわね……」
「皆で話し合いしましょう! 真美ちゃんに一番似合うドレスを探すですよ!」
「あの……。小毬姉さま、エステルちゃん。まだ大分先の話ですから……」
「……そうだ! 明日はリゼリオのブティックに行きませんこと? 真美さんに似合うドレスを探しに行きましょう」
「わあ! 素敵です! 賛成です!! 下見して、どんな形のものが似合うか調べておけば、ドレスのオーダーメイドもできますよ、マリちゃん」
「……! エステルさん、流石です。賢いですわ……!」
「ドレスを作ってくれる工房も探しておきましょう!」
 真美そっちのけでどんどん話を進めて行く小毬とエステル。
 この2人はこうなったらもう止められない。
 ……ずっと前、出会った頃からこうだ。
 もう大分大きくなって、婚約までする歳になったというのに、甘いのは全然変わらない。
 父とは離れて暮らし、子供の頃からあまり子ども扱いされてこなかった真美には、何だかくすぐったく、そしてとても有り難いもので……。
 そこにひょい、と陸が顔を覗かせた。
「……マリ。俺達の結婚式の衣装を作ってくれたお針子さんの腕もなかなか良かったよね。彼女に頼むのはどう?」
「リクさん天才ですか!!?」 
「そういえば、マリちゃんの結婚式も素敵だったですよね。ね、真美ちゃん」
「はい! 赤いドレスが良くお似合いでした!」
「そうでしょうそうでしょう。あれね、和布を探してきてドレスにしてもらったんだけど、マリ、何でも似合うから困っちゃってさー」
「ですから私の話は置いておきましょう!!?」


 そんな話で盛り上がりながら、時間は進んで。
 結局陸も巻き込んで、4人で料理を楽しみ……小毬の大根・たまご・手羽先の煮物や、エステルの作ったミートパイとチゲ鍋、そして真美と陸が差し入れにと買って来たケーキとフルーツも並び、豪華な食卓となった。
「わあ! マリちゃん! この煮物すごく味が沁みてるです!」
「エステルちゃんのミートパイも、マッシュルームの旨味が利いて美味しいですわ」
「お二人ともすごいです。私もこんなお料理、出来るようになるでしょうか……」
「大丈夫です! もし心配だったら、わたくし達が定期的にお料理教えに行くですよ! ね、マリちゃん」
「ええ! 真美ちゃんにも会えますし、私達も嬉しいですわ」
「本当ですか!? 嬉しいです!」
 きゃっきゃと弾む声で話す女性陣を、陸は穏やかな目で見つめていた。
 ――今この光景は、彼女達の努力の賜物だ。
 僕が帝国でそうであったように、こうして笑えるように成るまできっといくつもの困難を乗り越えてきたはずだ。
 だからこそこの今が、この未来に辿り着けたことはちょっと嬉しくて誇らしい。
 そしてこの先も、確かなものへとつないで行きたい――。
 そんな陸の思考は、エステルの声で中断された。
「……先生! 先生ったら! 聞いてます?」
「ん? ごめん考え事してた。エステルちゃん、どうしたの?」
「先生! あとでスーパー高い高いしてください!」
「いいよ!」
「……スーパー高い高いって何です?」
「見れば分かると思いますわ……」
 小首を傾げる真美に、小毬は少し困ったような笑みを返した。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
4人の日常のお話、いかがでしたでしょうか。
『マリちゃんがすごい』トークと『エステルちゃんがすごい』トークは実際もうちょっと長かったんですが、入りきらなかったので割愛しました。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
イベントノベル(パーティ) -
猫又ものと クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年04月17日

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