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『一期二会の巡り会い』
ラシェル・ル・アヴィシニアla3428)&ルシエラ・ル・アヴィシニアla3427

 そのお手並みは鮮やかという他なかった。前線を張るのは刀や大剣、あるいはその鋼の拳を武器に二倍以上もの大きさを誇るナイトメアを相手取る戦場の花形とでもいうべき人達だ。私にはまるっきり縁がない。だから後ろに小さく映っている彼らの方に目がいったんだと思う。前に出ず見晴らしのいい高所から弓矢とバズーカを使って行なわれる支援は的確の一言だった。あんな感じなら、頑張れば私にも出来るかもしれない。そんな風に思いあがって私は食い入るように本部で中継されている画面を見ていた。端っこで二つの機体が人知れず仲間を支えている。私の身体はまだ、鉛のように重い。

 この感情を言い表すとするなら、憧れという言葉が一番近いような気がする。けどお近付きになろうとはこれっぽっちも思ってなかった。色々と忙しかったのもあるし、あのアサルトコアを駆る中の人にあまり興味がなかったというのもある。だから想像すらしてなかった。例の機体のパイロットが私と同じくらいの歳とは。未だにどこか信じられず、ぼんやりする私に気付き、ふわふわ緩いウェーブがかかった黒髪を揺らした彼女が振り返って首を傾げ、私の名前を呼ぶ。すぐさま我に返ると、いつの間にか開いていた距離を慌てて走り縮める。彼女の後ろでは背が高くすらっとした体型の彼が私をじっと見ていた。淡々とした何を考えているか判らない眼差し。でも彼も私を待っている。実質的には今日一日だけの付き合いの私でも優しい人だということは知った。つきりと胸を刺す痛みに気付かないフリをして私は走る。休日のショッピングモールは沢山の人で賑わっていた。

 私が何故、憧れのライセンサーであるラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)とルシエラ・ル・アヴィシニア(la3427)の兄妹とこんなところに来ているかといえば答えは簡単、任務の一環だからだ。要するに偶然同じ任務に参加し、仕事を分担することになって同じ班になったと、それだけの話だった。もっとも一緒になるのはこれが二度目だけど。人数の関係で三人ずつが丁度よく、今回は珍しく――でもないかな、年上の人が多かったから歳の近い私達が固まるのは当然の成り行きで。尻込みはしたけど居心地が悪いなんてことはなくむしろルシエラは私の手を引いてはラシェルさんに怒られてるくらいだ。それも心配からで、ちょっと小言を言うみたいな感じだから少しも嫌な感じはしない。でもルシエラが小声で物真似をしだしたときは思わず笑っちゃった。そしてそれをちょっと後ろを歩いていたラシェルさんも聞いていて、「ルシ?」と微妙に怒ったみたいに彼女を呼ぶからますます私はおかしくなり、笑いを堪えるので一杯になった。ホント楽しい兄妹だなと思う。
「ラシェル、早くするの〜!」
「これは鬼ごっこじゃないぞ」
 丁度人が掃けて邪魔にならないからとルシエラは私の手を引いてぐんぐんと進む。でも私がコケないよう加減してくれてるのか、単にきょろきょろしてるからか、彼女の足取りは遅めで、気持ち早足のラシェルさんもすぐ追いついた。私が「あそこはどうかな」と看板を指差せばルシエラは悩まずそのお店へ向かう。行き先は女子向けの、ルシエラはいけるけど私にはもうキツそうなファンシーな雑貨店だ。ラシェルさんの眉根が若干寄って、店の前で待ってるって言うのかなと思ったけど別にそんなこともなく来てくれた。
「これはどうかの?」
「うん、可愛いしいいと思う」
 店内を見回したルシエラが手に取ったのはぬいぐるみだ。形的には人型に近いというか、たまにネットで流れてくるふてぶてしく座っているあの感じの猫だった。ちょっと目つきが鋭い人生に疲れたおっさんみたいに見えなくもない。
「可愛い……?」
 と疑問形で呟くラシェルさんに、
「可愛い以外の何物でもないの!」
 と胸を張りルシエラが言う。脇を支えるように持って眼前に突き出してくる彼女にラシェルさんは半歩引いた。
「一周回って可愛くないですか?」
「一周回ったら同じじゃないのか」
 私の援護にラシェルさんはズレたツッコミを入れてくる。あれ? それとも私の使い方が間違ってる?
「私はこれにするの。二人もほら、何か選ぶの」
「タマさんに似た猫はいないのか……」
 タマさんというのが飼い猫なのか何なのか判らないけど、ラシェルさんが残念そうなのは解った。ルシエラに言われて私はさっき目星をつけたネイルコーナーに行き、少し悩んでネイルチップを取った。マニキュアは合う合わないがありそう、というふわっとした発想で。そうして合流しようと二人の姿を探してたらラシェルさんの後ろをついていくルシエラの横顔が見える。ぴょこぴょこって擬音がしっくりくる感じ。立ち止まり、棚を眺めている二人の話し声が漏れ聞こえる。……仲いいんだな、ここの兄妹は。邪魔をするのは気が引けるので話が纏まりそうな空気になってから自然な流れを装って混ざりにいった。視線を感じ、キャラクターが描かれたバッグをルシエラに渡すラシェルさんを見上げる。彼女は私の分も手にレジに向かった。
「私の顔何かついてますか?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
 そう言われると余計気になるけど私達は今任務中で、任務に関係のないこと――特に個人情報に関しては安易に尋ねるのはマナー違反という風潮がある。放浪者なんか分かりやすい例だけどライセンサーなんて多かれ少なかれ何か事情を抱えているものだし、ね。私は別に聞かれたっていいけど。でも変にしこりになったら申し訳ないな、って気持ちは持ってる。と、私か彼かどちらかが気を取り直す前にきゅるると小さくて可愛い音がした。お会計して戻ってきたルシエラの頬があっという間に赤く染まる。買い物袋を提げた腕でお腹を押さえ、上目遣いに私達を見てきた。
「まだ時間に余裕があることだし、そろそろ休憩するのがいいと思うのっ。ちなみに私のオススメはケーキバイキングだの!」
「……ギリギリまで寝てるからだ」
「むぅ、ラシェルが起こしてくれなかったせいだの」
 その言葉を聞いてふっと小さく息が零れる。それは私の口からじゃなく、横目で見たらラシェルさんが少し困ったような顔をして微笑んでいて驚く。赤の他人と妹じゃ全然違うのは分かってるけど空気が柔らかくて、ルシエラのことが大事なんだなって伝わってきて胸が痛くなった。二人は歩く。私は止まる。名前を聞いて兄妹と知って、作戦に必要な分だけ話して戦う背中を見るだけでよかったな。再会したくなかったなんて酷い我儘。
 私がついてきていないことに気付いたルシエラが振り返って私の名前を呼ぶ。いつの間にか買い物袋を引き取っていたラシェルさんはきっと私を気遣ってる。だから、笑って追いかけた。上手く笑えたかどうかは分からないけど。

 一応空腹を満たせたからだろう、ラシェルさんの袖を引いたり頬を膨らませたり、子供っぽい反応をしていたルシエラは上機嫌に戻って、満面の笑みを浮かべると何か歌い出しそうな軽やかな動きでケーキがずらりと並んだショーケースに向かう。お腹が空いているだけに結構な量を食べそうなルシエラと比べてラシェルさんは二個でもう充分みたい。見ているだけで満腹になる、とは私の視線を感じた彼の言だ。確かにルシエラはとても美味しそうに食べるから見ていて気持ちいい。ケーキを倒さず尖っている方から丁寧に食べ進めていた辺り、私は縁のない教養を感じた。
「後は男の子用のプレゼントを買って帰るだけですね」
 早いなあ、と口には出さず思う。本番は明日の慰問交流会なんだけどね。
「君も進んでいないようだが食欲がないのか?」
 行儀悪くフォークでケーキをつついていたことを咎められるならともかくとして、心配されるとは思わず、私はぽかんと口を開けた状態でラシェルさんを見返す。さっきのルシエラに対してのものと違って分かりにくいけど、気遣わしげに眉を寄せているのが見える。何故だかむずむずした。ルシエラ早く戻ってこないかななんて都合のいいことを考える私。大丈夫です、と元気よく言って汚くなったケーキを掬ってもぐもぐと咀嚼する。泣きたいくらいに甘い。
 初めて一緒になったときに、アサルトコアを使っているのを見てあの二人だと気付き、それとなく探りを入れてみたらビンゴだった。それで名前が分かったからグロリアスベース内のデータにアクセスし、二人の素性を調べたのは内緒だ。といっても、分かるのは名前と登録番号と任務を幾つ受けたかっていう履歴、その他本人が公開を許可した情報だけ。訳ありの人が多いのはさっきいった通りで、放浪者は真実を調べる術がないからやろうと思えば嘘だって書ける。ルシエラ達は多分嘘は書いてないと思うけどね。でもライセンサーとしてのキャリアと違い戦い方が完全に慣れてて、その手の訓練を受けてきたっぽいとは想像がつく。最初は私より強いのにキャリアが短いって焦ったな。だから私にも可能性があるって話でもないのが現実の怖いところだ。
 黙々と食べている間にルシエラが戻ってきて、ご機嫌で座り直すとまた手を合わせる。
「ホント仲のいい兄妹だよね……」
 羨ましい、なんてもう口が裂けても言えない。行儀悪く頬杖をついて眺める私に、ケーキを食べているルシエラと紅茶を飲んでいるラシェルさんがほとんど同時にこちらを見返してきた。一拍置いて口の中をしっかり空っぽにした後、
「そういうものかの」
「俺達はこれが当たり前だからな」
 と顔を見合わせて言う。別に誇らしいとか自慢げとか、そういう雰囲気じゃない。本当にそれが自然体な感じがして少し和んだ。
「ラシェルさんは無茶なんかしちゃ駄目ですよ」
 そう言ってから自分が何を言ったのか気付き、しまったと舌打ちしたくなる。その気持ちはぐっと堪えて、こう付け足した。
「ごめんなさい、生意気なこと言いました。ラシェルさんもルシエラも私より全然強いのに」
 ごめんなさいともう一回言い頭を下げる。でも無関心なようで案外、というとそれこそ失礼だけど、初めましてのときは戦闘任務だったから今日改めてちゃんと話して、もしかしたら三度目はないかもしれない私のことも結構見てる。だからさっきの一言で私が何を思っているのか、あの言葉の裏側にどんな気持ちがあったか察したみたいだった。――憐れんだりしないで。心の声が通じたのか否か、ラシェルさんは何か言いたげに口を開いたけど一度閉じて、それから改めて開き直す。ふと何だか遠くを見るような眼差し。誰かを思ってる?
「……俺もルシもまだまだだがな。ただそれでも大事な人を助けられる力は持っているつもりだ」
「そんなラシェルのことは私が守るの。ラシェルと一緒なら絶対、今以上に強くなれるの!」
 言ってルシエラがぐっと拳を握った。ラシェルさんの口からまたふっと笑う声が聞こえる。
「頼りにしてるぞ、隊長」
「どーんと、大船に乗ったつもりでついてくるの!」
 軽く袖まくりをして白くて細い腕を見せる彼女を見て、胸の奥にずっと刺さっていたものが抜けたような気がした。それでも傷口は塞がらないけど痛みが徐々に薄れていったらいい。
 二人にとっての私なんてきっと、ただ通り過ぎてすぐに忘れてしまう存在だ。でも私は二人のことをアサルトコアに乗る度に思い出して、少しくらいは近付けたらいいって意識する。友達とか仲間とかっていうには大袈裟で、でも記憶には残るだろう。そんな距離の二人が私みたいにならないならちゃんと前を向いて歩けると思った。任務なのに傷の舐め合いみたいな気構えでいたの馬鹿だ。この任務が終わったらお墓参りに行かなきゃ。
「明日は子供達と一杯遊ぶの。何をして遊ぶのか楽しみだの」
「下手したら楽な戦闘任務より疲れるかもね?」
「子供達の体力は無尽蔵だからな」
 ラシェルさんがちらと横目でルシエラを見る。視線に気付いた彼女が見返したときには彼はもう素知らぬ顔をして「ルシが食べ終わったら買い物を再開するとしよう」と言うので、私は笑いを堪えつつ頷いて応えた。私のは後ちょっとだけど先に食べてしまうに越したことはないよね。
 ルシエラがニコニコととても美味しそうな顔をするのを眺めて食べるケーキは普通に美味しかった。いつかきっと二人の背中が見えるくらいには強くなる。その誓いは本人の目の前で言うのは恥ずかしいので内緒にしておこ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
一応、モブが出過ぎないように抑えたつもりなので
分かりにくい部分もあったと思います。ので野暮ですが補足をちょこっと。
大規模作戦で二人の活躍を見て憧れる、その後、戦闘任務で一緒になって
調べて意識しだす、今回の任務(ライセンサーが孤児たちを慰問)に参加。
モブは活躍を見て〜の直前に同じライセンサーの兄を喪っている(戦死)。
だから二人が羨ましかったり勝手に心配してるという感じでした。
自分が裏方や後方支援役が好きなので、そこに憧れるモブという発想から
広げたら割とシリアスになって自分でも驚きました……。
今回も本当にありがとうございました!
おまかせノベル -
りや クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月17日

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