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『吹き続ける風は突き抜ける風を導いて、未来に』
エステル・クレティエka3783)&ユリアン・クレティエka1664

「兄様〜励まして……送っていって……」
「……エシィ」
 他愛無いお願いごとをする時の距離よりももっと近く。ユリアン・クレティエ(ka1664)の腕に抱きつきながら、エステル・クレティエ(ka3783)はぐりぐりと額を押し付ける。呆れたような声には溜息は混ざっていないし、何より遠慮なんてする気はなかった。
「なあ、これじゃ、髪が崩れるんじゃないか?」
 降って来る声は優しい。多分、いや間違いなく。離れたら髪を直してくれる筈。
「だって」
 約束の日時は迫っている。着ていく服も髪型も、直前で迷うかもしれないけれど決まっている。伝える言葉だって決めた。そんな段階になった今。
「ご利益欲しいの」
 決意を固めてはいたのだ。大きな戦いが終わったら、とずっと前から決めていた。置いていくような未来が、可能性がなくなれば迷う理由なんてないから。
 けれど戦いの後の慌ただしさに甘えていた。用事が出来たらそちらを優先して、忙しいから仕方ないと理由を作って過ごしていた。
 気付いたらこのタイミングだ。バレンタインを機に、なんて言っている猶予もなくて。本来ならば告白する切欠となる筈の日は例年に近い形で渡せていた……筈だ。
 彼の家は贈り物を求める客がより多く集うからこそ、バレンタインの時期は忙しくなる雑貨屋で。そんな時期に時間も手間もとらせたくないという建前は、今までと同じように足踏みを続ける都合のいい理由だった。むしろ、その理由を携えて渡しに行った。
 それは渡すために長い時間をかけないで済む事実を生みだして。だからこそ告白は出来ないという自分の為の理由でもあった。
(でも、今年は)
 いつもと同じように渡したけれど、いつもと違う一歩を進めた。
 バレンタイン商戦が落ち着いた頃合いで、共に出かけてくれないだろうかと……誘えた。
 その日が、もうすぐ迫っている。
 当日が迫っているからこそ急に怖気づいたことを、きっと兄はわかっている。だから今、こうして甘えさせてくれる。
 親友と恋人になった兄。この兄への恋を成就させた親友。その二人が少しずつ見せるようになった幸せの欠片を、お裾分けしてもらえるような気がして。
「出来れば見守ってて欲しいな……とか」
 あの人と二人きりになったことはあるけれど、デートと呼べるほどの時間を過ごしたことはなくて。
 家族に見守られることに恥ずかしさはあるけれど、なによりも見守ってくれているという安心感が欲しいのだ。
 これまでだって、兄弟には気持ちはバレバレで。切欠を貰って、チョコレートを渡してきたくらいなのだから。
「……だめ?」

 ほんの少し前まで腕につかまっていた妹の温もりと、視線の向こうで妙なくらい姿勢が綺麗になった妹は、確かに同一人物だ。
(こんなところで実感するのはどうなのかなあ)
 親友の隣で、緊張した様子を見せる妹。その表情を見ながら自分もああ見えていたのだろうかと、そんな事を考える。
 例えば外見……その中でも顔立ちだろうか。特に色彩が理由だとは思うけれど、どちらかと言えば母親に似ていると言う自覚がある。父親似の弟が居るからなおさらそう思う。しかしユリアンもエステルも自覚していないだけで、ふとした仕草や表情が似ていると周囲に思われていたりするのだが。
(性格はそこまで似ているわけではないと思ってるけど)
 自分は父に、妹は母に近いと思っている。母が父に言うような言葉を、妹が自分に言ってくる。幼い頃に聞いた父の台詞を、自分が同じように妹に返しているから。
(でも一つ、共通している)
 棚上げ癖と呼ぶべきそれは、つまるところ恋愛事情におけるものなのだけれど。
(俺にはあんなに発破をかけていたのに)
 妹なりに応援してくれていたのはわかる。
(肝心の自分の事が……)
 そこまで考えたところで、人の事がいえないと認識を改める。
 兄の親友を好きな妹と、妹の親友の気持ちに向きあった兄と。
 結局は同じだ。
 傍から見てバレバレな想いを抱えた妹の為にバレンタインは同行していた。渡しに行く後押しをしていた。
 今思えば自分の想いだって妹にはバレバレだったのだろう。そりゃあ勢いつけて発破をかけに来るはずだ。
(とうとう言葉にして言う気になったのなら協力は惜しまないけど)
 きっと同じことを妹も考えたに違いないと、今なら確信を持って言える。それはあまり胸を張れるものではないかもしれないけれど。確かに家族の証だと思うと素直に受け入れてしまうものだ。

 本屋に辿り着いた二人が少し奥に入り込んだタイミングを待ってから、無関係の客を装ってユリアンも入店する。足音を殺してはただの不審者だからそこはいつも通りに。けれど服はいつも選ぶようなものとは違っている。妹が事前に話を通していたのか、ただの偶然か。彼女に見立ててもらった服は今日に都合が良かった。
 なるべく気配を殺しながら、ついでに興味のあるジャンルの新規開拓でもしようかと本の並ぶ棚を眺める。
 見守ってほしいとは言われたけれど、全てを見聞きしてほしいわけでもないだろう。妹が自分に求めているのは勇気を奮い起こすための、背を押してもらうための安心感。
(どんなやり取りをするか予想もつくけど)
 家族と親友のそういったやり取りを聞く、と言う気恥ずかしさは計り知れない。話半分くらいがいいだろうとも思う。
(あいつがどう思うかって部分もあるしな)
 もし同じ立場に自分が立っていたとしたら。最終的には許してしまうと分かっていても羞恥心がゼロになるわけではない。
(その瞬間までには覚悟を決めておかないと、かな)
 そう思いはするが、難しいことではないのはわかっていた。兄としての応援もしていたし、親友としての立場上、ある程度は知っておかなければならないことだろうから。
(まぁこの手の事に関しては本当に俺は何も言えないんだけど)
 自分だって背を押された側だ。彼女との関係はまだ手探りで、将来を見据えてその形に向かう意思は固めたけれど、それでもまだ彼女の想いに相応しい返し方が、想いを示せているか自信があるわけではなかった。
 そんな自分に言えることがあるとすれば、ただ一つ。
(結果がどうなっても、俺とあいつが気まずくなる事はないってことかな)
 それこそ幼い頃から家族ぐるみの付き合いで、これまでだって妹の想いを知りながら親友をやってきていた。
(あいつがどう思ってるかまでは知らないけど)
 向こうの家族も知っていることのように思える、そんなそぶりだって幾度もあった。その指摘は流石に控えておいたけれど。
『気にせずぶつかっていけ』
 送り出すその瞬間に、それだけは伝えてある。
(……ん、あの本は)
 視界に気になるタイトルを見つけて思考が途切れる。薬に関する新たな学術書を師匠は持っているだろうか、妹と母も見るかもしれないし、ここで買って無駄になることもないだろう。
 ぱらりと捲って、まだ聞いたことのない論説だと判断したそれを抱え込む。一冊くらいは持ち歩いたって問題ない。エステル達はまだ贈り物に相応しい装丁の、物語の棚にまだ夢中らしいが、丁度いいタイミングだ。買ったら先に店を出ることにしよう。

 これまでだってわかっていたつもりだったけれど。
(思い知らされる、って言葉がしっくりきちゃうなんて)
 エステルが好きそうだから、と薦めてくれた本は確かに好み通りのものだった。
 お菓子屋さんに行ってもいいかと尋ねる必要もなく、気付けばエステル好みの香りに溢れる店にエスコートされていた。
 ウィンドゥショッピングをしながら二人で過ごす時間に慣れて、いつも通りの会話が出来る程になった頃合いを見て……そんな風に考えてこうして時間を過ごしているけれど。
 気付けばこのデートを思いきり楽しんでいる自分が居る。自然と彼が自分を楽しませてくれていることに気付かないわけがなくて。
(今日こうして過ごしてくれるお礼だってしたいのに)
 彼の店は何でもある。誰かに贈るための様々な品物は、彼と彼の家族がその為に仕入れ、並べたものだから。彼がその品々の知識を持っているのは当たり前で。
 普段からそれらを求める人々に対応しているのだから、好むものを、嗜好を知って薦めてくれるものはどれも外れたことがない。そこは小さい頃から知り合っている間柄ということもあると思うけれど。それでも、自分が不満だと感じるものに出会ったことはなかった。
 接客のそれとは違う態度で、幼馴染として接してくれる彼に甘えたままだとつい、自分の好みのものにばかり視線が向かってしまう。それだけ、自分の事を知ってくれているその事実はどうしても浮かれてしまうものだ。
(楽しいし、嬉しいけど。そうじゃなくてっ)
 彼の店で見たことがないようなものをなんて贅沢は言わない。ただ彼に、自分で選んだものを贈りたい。だから彼の店ではない別の場所で選ぶことになるのだけれど。
 バレンタインの時とはまた違う。確かに毎回気持ちを込めて作っていたし、それぞれが全て唯一のものだけれど。
 今日贈りたいのは、消えないもの。
 想いを言葉にしてはっきりと形にする日だから。
「陶器のループタイか、和紙か皮のブックカバー……とか?」
 何件目かの店の前、展示された女性もののアクセサリの隣にあったネクタイが目に留まったからこその思いつきだ。
 でも折角なら堅苦しいものではなく、普段使いできるものがいい。
 彼と一緒に歩く時間が終わらないうちに、嬉しい気持ちを籠めた一品に出会えたら。迷わずそれを手に取ろうと思う。
 何を贈ろうか迷った末に零れた呟きは彼に届いてしまっていたのだけれど。幸いなことに、彼からの問いかけはなかった。

 春になりきらぬこの時期に、冷気の混じる風は川のほとりだからこそ少し強く吹いている。
 人通りは減っていて、けれど徐々に染まる夕焼けが温かみを増やしているようにも思える。
 風はそう大きくない声を遮断している筈だが、ユリアンは十分に聞き取れる場所でただ、耳を傾けた。
「あの、あなたが、好きです」
 妹と向かい合うあいつの顔は見えない。それは妹が知るべきもので、兄である自分が見るものではないと思うから、そんな場所を選んでいる。
「ずっと好きでした」
 自分も、今ここには居ない弟も知っているくらいには長く温めた想いがやっと形になっていく瞬間だ。
「幼馴染でも、兄様の親友としてでもなくて……」
 見えなくてもわかってしまった。あいつはきっと、好きの種類を違えていないか聞く素振りをしたのだろう。
「永く、貴方の隣に居られる存在になりたい」
 長く抱えていた想いなのだから、その可能性はとうに乗り越えているのだ。そんなエステルの言葉は止まる様子がない。
「……でも、それが叶わないなら。母の薬草園を継ぐつもりです」
 微かに聞こえてくる息を飲む音は、あいつのものだろうか。
(こうと決めたら思い切りが良いと言うか良すぎると言うか)
 それを親友も知っている筈だと思っていたが、どうやら思い違いだったのかもしれない。
 想いを自覚してからの妹は、けれど親友にだけは気付かれないよう配慮していたはずで。
(それと一緒に、抑えられていたなら、仕方ない……か?)
 答えを見つけたユリアンは一人頷いている。しかしまだ話は続いている。
「一番条件の合う……それなりに気持ちの合う人を探します」
 だから、と呼吸を整える気配に、ユリアンもつい息を飲んだ。
「ダメなら早めに言ってくださいっ! すっぱり諦めて、お見合いでも何でもして次に進むのでっっ!」
 勢いよく頭を下げた妹の姿勢は綺麗だけれど。
(妹よ……それは告白じゃなくて)
 脅迫と言うのではないだろうか。
(あいつの顔、見える位置のが良かったかな)
 まさかこのタイミングで反省することになるとは思わなかった。
「き、今日は!」
 声をあげるものの、エステルは彼を見ていない。真っ赤な顔を隠しているのは明白で、どもりそうな声は微かに震えている。
「告白するのに勇気使い果たしたので、答えは今度に……」
 多分、笑顔を見せようとしたのだろう間があって。
「あの、今日は本当に、本当にありがとう……じゃ、じゃぁっ!」
 駆け足が聞こえる。
「兄様っ」
 小さな声で自分を探す声に、物陰から手を出して合流場所を示した。
(あいつには、後日フォローかな)
 今日は、妹を甘やかす日……ということで。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【エステル・クレティエ/女/18歳/宝魔術師/その壁が抱き留める腕になるか否か、それよりもただぶつかっておきたくて】
【ユリアン・クレティエ/男/21歳/疾風影士/家族に示す手はいつまでも変わらず、今後増える相手への方法を探しながら】

『COLORFULL PARTY』
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2020年04月20日

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