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『戻るも戻らぬも大問題』
海原・みなも1252

●晩
 海原・みなも(1252)は色々あって雪女の姿だった。
 前日から泊っている宿で、従業員に言いくるめや説得をする。少女みなもと草間・武彦(NPCA001)だったのに、今は謎の美女と武彦だからだ。
 結果的には納得はしてもらい、そのまま泊まることになる。
 なお、みなもと武彦が一緒にいるのは、依頼での関係だ。
「で、途中で戻ると、また、言いくるめと説得か……考えても仕方がないな……」
 部屋に入ると武彦はつぶやき、溜息をついた。
「まずは風呂、そして、飯、そして寝て、明日に備える」
 みなもは落ち込み掛かったが、武彦がカラッと今後の予定を告げ、確認を取ったのでうなずいた。
「はい、かまいません」
 その言葉のあと、武彦はさっさと部屋を出ていった。
 みなもも風呂に行くことにした。初日は荷物を置いただけで温泉を利用していない。
 部屋にあるくつろぐ用の浴衣も持っていく。今着ている和服はくつろげないのは明白だ。
「これ、脱いだら着られるのでしょうか? まさか、脱げなかったりして!?」
 着ることに対しては、どうにかできるとしても、雪女と和装がセットであると、脱げないかもしれないという疑問が湧く。どういう仕掛けかわからないけれども。
 悩んでも仕方がないので、脱衣所まで行く。
 途中、宿の中ですれ違う人達の視線もあり、みなもは緊張する。
(あたし、変な歩き方していました?)
 和服は普段通りの歩き方ではいけないのは理解している。それができるかはまた別だ。
 しゃなりしゃなりを意識して歩く。
 音だけではなあいまいだけど、脳内にイメージを作り上げる。
 脱衣所に到着して誰もいないことに安堵する。
 着物は脱げたし、きちんと畳めた。
 温泉に入ったら雪女だと溶けるのではないかという危惧もなくはなかったが、問題はなかった。
 みなもは心身共にぬくもりに包まれる。
(これで、戻っていたらどうなるのでしょう! 服は!)
 くつろぐと今度は現状を考え始める。
 上がったあと、鏡を見る。雪女のままだ。透明感のある白い肌はほんのりと赤く染まっている。

 夕食は山の幸と海の幸に舌鼓を打った。
 翌朝に備えた早く寝るのだった。

●朝
 一晩明けたら戻っていると良い。説得問題はともかくとして。
 みなもはおそるおそる鏡を見た。
 そこに映る姿は、寝起きかつ困った顔をしている雪女の姿。つまり変わっていないし、みなもの心情を表した表情である。
 そのうえ、モデルとなっている雪女はどんな顔でも美人だなと思えた。
 みなもは何とも言えない気持ちになるが、映る姿が美しいため、より一層複雑な思いが去来するのだった。
「……自分ではない……なんというか、化けるのとは違ってこう……もやもやします」
 声に出して呟いたときに口が動いているのだから、鏡に映る姿が自分だと理解できる。
 そのまま見つめていても仕方がないので、身支度を始めた。
 衣装を着る前に確認したところ、山の中を歩いた割には泥等もなくきれいだった。
「これは、着物が自動的にきれいになるシステムでしょうか」
 不思議はたくさんあるとしても不思議ではないとも考えられる。それならば、雪女の服がきれいな物を維持するのはおかしくのかもしれない。
 和服を着て髪をきれいにした後、朝食をとるため部屋に入る。
 そこにいた武彦が安堵とがっかりという相反する表情をした。
「えっと……すみません」
「理由は分からなくはない。そう言うと、逆にこっちが申し訳ないんだがな……さて、食事だ。しっかり食べて、帰り道に備えよう」
「はい」
 みなもは食事が並んでいる前に座った。
 白飯に味噌汁、焼き鮭に煮物といった和食だった。適度な塩分や量であり、目覚め立ての舌が活動を始め、脳や胃袋も働き出すようだった。

 食事を終えてから、みなもと武彦は宿を後にして駅に向かう。
 みなもは自分の荷物を持つとき、そでを引っかけないように押さえた。和服を着ていると、どういうことが必要か想像が働くようになった。
(面倒くさいですが、一つ一つ対処するしかありません)
 おおざっぱに行動すると袖が引っかかり体勢を崩すこともある。楚々と動くしかない。
 列車の網棚に荷物を乗せようとしたとき、見知らぬ人たちの視線を感じた。
 昨日から妙に他人の視線が気になる。
(やはり、雪女は目立つんですね)
 豪奢な着物を負けずに着こなす女性であるのだから目立つのだ。それに見合う内面や行動を取ろうとみなもは考えている。
 みなもが考えている間に、武彦が二人分の荷物を網棚に乗せる。直後、周囲をにらみつけていた。まるで威嚇にも見える。
 二人は座席に着くと、静かに列車に揺られる。しゃべることも特にない。
 みなもは座るときも足をそろえる。スカートの時よりより一層気を付ける。
 トンネルに入り窓に自分が映った時、みなもは雪女を意識した。
 不意に戻っていたら嬉しいと思わなくもない。そうなると、注目もあるため、騒ぎになりかねないが。
 通路を歩く人の目が自分に向いているとトンネルで気づく。
 何で見られているのか分からず、振り返り、会釈した。
(この雪女さんの知り合いとか……まさか、雪女だとばれているのでしょうか? あ、だから、草間さんが威嚇していたんでしょうか)
 真相はわからないまま、みなもは大人しく座っていた。

 何度か列車はトンネルを通り、みなもは自分の姿を見る。
 見慣れたみなもになることはなかった。

●到着
 草間興信所に到着した。
 武彦は荷物を置いて、椅子に座ると大きく息を吐いた。自分の城に戻ったからか、無事だったからか、どちらでもあろう。
「途中で戻られるのも厄介だが、戻らないのも厄介だ」
「そうですね、良かったのか悪いのかわかりません」
 みなもは大きく息を吐いた。
「いつもの風景、ということで戻ることを期待したんですけど」
 頬に手を添え、軽く首を横に傾ける。
 困ったわ、のしぐさ。
「これ、放り出したらまずいよなぁ」
 武彦は頭をバリバリと掻き、たばこの箱を手にしたのだった。
「家に帰れ……ませんね」
 みなもはうつむいた。
「雪女のままだと事件が起きそうだ」
 みなもは武彦の言葉にきょとんとなった。
 雪女、人の精を吸う。その際、たぶらかす場合があり、妖艶かつはかない雰囲気だ。
 みなも自身はみなもとして行動しているが、端々に雪女としての片鱗を見せていた。本人が意識していなくとも漏れるものであり、それに武彦は気づいていた。
「草間さん、不機嫌ですよね……」
「……怪奇現象はな……」
 みなもの確認の言葉に武彦は何か言いかかるが止める。
「何もない幸せを味わっておく」
 たばこの火を消すと、椅子に深く座り目を閉じるのだった。
 みなもはほっとする。
「じたばたしても仕方がないですね」
 ここまで来たら、なるようにしかならないと大きく構えるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございます。
 楚々とした美女なみなもさんの道中となりました。
 いつ戻るか、それが問題ですね。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年04月20日

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