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『花よ華麗に、逞しく咲き誇れ』
不知火 楓la2790)&日暮 さくらla2809

 ふわぁと欠伸が零れる。扉を隔てた向こうではその内お偉いさんと客が盛りあがり出すだろう。今声が聞こえないのは静まり返ってるせいなのか、それとも分厚過ぎて音が通らないのか。何にせよ中に入る権利がない俺には知ったこっちゃない話だが。腕時計で時間を確かめればもう参加を締め切る頃だ。俺にもたらふくの飯を食わせてくれよって思うが、正直マナーなんざ気にしたことねぇし、お偉いさんに睨まれてつまみ出されるのがオチだ。……何で俺、この組織に入ったんだっけか。糞みたいな親だったから殺されても別に何も思わなかった。掃き溜めみたいな人生を生きてくのが馬鹿らしくて、恵まれてる奴はとことん恵まれてるのがただ嫌で、皆俺と同じになればいいって――。だが全部半端だ。少し早いが、見張り役なんてしょうもねぇ仕事ふけちまえ。そう決意したところで視界に影がかかった。顔をあげればそこに一組の男女の姿。その顔を見て俺ははっと息を飲み込む。一言でいえば美男美女だ。しかしこの二人ただの美形じゃねぇ。
 女は何つーか、何でそのドレスにしたんだよって感じ。薄紫の、光の加減によっては桜色をした髪は足を止めるとさらさらと揺れて、同じ色した睫毛に隠された金瞳が上向き俺をじっと見返してくる。一応パーティーの体なんだ、愛想笑いすりゃ大抵の男はころっといくだろうに、オレンジがかった赤に塗られた唇は固く結ばれてて、決闘でもしに来たのかとアホらしい発想が脳内にちらついた。しかし違和感がやべーのは、さっきもいった通り着てるドレスだ。すらっとした体つきなんだ、線が出る感じの奴にすればいいのに、下半身がすげぇびらびらだ。俺はドレスに詳しくねぇが、あれだ。幼稚園児のガキが遊ぶ何たらちゃんっていう人形。あーいうのが着てる如何にもな感じのドレスだった。と仕事も忘れて糞失礼に眺めてたら、女を庇うように連れの男が前に出てきて微笑む。
 男の方は少しなよっちい感じだ。といっても態度は普通に堂々としてる。恋人――かどうか知らねぇが、女をナンパしようものなら相手を軽く捻り潰しかねない迫力があった。俺はしがない下っ端で腕っ節には自信がねぇんだ。髪は後ろで一つに括って、それこそ連れみたいなドレスでも着れば女にでも見えそうな顔してんのにスーツはぴしっと決まってる。文句ないイケメンだった。下腹部だけちょっと出てるのは何か気になるけど。紅葉した楓みたいな色の瞳は俺を見てるんだか何だかさっぱりだ。
「ギリギリになって悪いんだけど、僕達も参加者なんだ。これで入れてもらえるかな?」
「はあ」
 うっかり生返事が出てしまった。差し出されたのは二枚の身分証明書だ。俺はそれを適当に流し見してズボンのポケットに突っ込んでたスキャナーを取り出しチェックを掛ける。するとランプが緑色に点灯した。ちゃんと登録済みの客らしい。俺は証明書を返した。
「もうすぐ始まるんで早く入った方がいいです。まあ本題はもう少し後になるでしょうけど」
「どうもありがとう。じゃあ行こうか。……そんなに緊張してたら可愛い顔が台無しだよ?」
「なっ……!? 緊張なんて、していません! 揶揄うのはやめて下さい」
「ごめんごめん」
 少し高めの声で男に囁かれた女が言い返すも、男は笑っていて全然意に介した様子もない。それでも男がやけに細い腰に手を当ててじっと見つめれば、女はそれに応え、自然にその細腕を絡めた。そうして俺がロック解除して開けた扉にエスコートしつつ、二人で入ってく。
「……最後に今日一のリア充見せつけられたわ」
 思わずそんな言葉が口をついて出る。しかも、どっちも顔いいとかお手上げだろ。嫉妬する気にもならねぇよ。――ただちょいと引っ掛かるんだよな。死ぬ程絵になるのにしっくりこないってか。
 頭を掻きつつ後ろ姿が扉に隠されるのを見届ける。と、煙草を吸いに見張り兼受付を俺に押し付けてやがった相棒がようやく戻ってきた。次は俺がサボるかな。テルミナスとは違って地味な組織、SALFも相手にしねぇだろう。

 ◆◇◆

「気に障ったならごめんね」
 横から声が聞こえたのは想像に似つかわしくない眩しさに目を細めたときだった。見れば自然なエスコートをこなす不知火 楓(la2790)は前方を向いている。意図を察し、日暮 さくら(la2809)も正面に向き直った。首を振る代わり、同じ小声で返す。
「いえ。分かっていますから、気にしないで下さい」
 少し無愛想に見えることは自覚している。少なくとも、楓のように接するのは無理だ。だから誤魔化そうとしてああいったのだろうと否定した直後に気付いた。何より楓は他人を軽んじる真似はしないだろう。それよりも――。
「ああもザルだとは思いませんでした」
「うん、どうなんだろうね? 自分達は大丈夫って高を括ってるのか、何とか出来る奥の手があるのか……」
 遠巻きに視線は感じても近付いてくる者はいない。適当に空いたテーブルの前に立ち、腕を解いて給仕係からグラスを受け取る。この手のパーティーは先に主催者に挨拶するのがマナーだが、疾しい行為をしているだけに直前まで表に出てこないと聞いていた。不自然ではない程度に周りを見て、仲間の潜入を確認する。何とはなしにカクテルグラスに注がれた淡黄色の液体を眺めていると、横から伸びてきた手に奪われた。楓は目を閉じ匂いを確かめる仕草をすると、敵陣の中だというのに躊躇なくそれを口に運ぶ。思わず声が出そうになった。
「平気だよ、毒は入っていないからね。でもアルコールだし、君に飲ませるわけにはいかないな」
 怒られちゃう、と怒られるのを恐れていない声で言い笑う。成人まで残り一年を切り、宴会に混ざる日を楽しみにしている身としては複雑だ。しかし楓も毒に関する知識はあるのか。髪を纏めている分よく見える顔色は会場中の酒を飲み尽くしても変化なさそうだ。
「そういう貴女が飲みたいだけなのでは?」
「ふふ、実はそうかもね」
 ふと思いついた指摘も楓には何処吹く風。男装の麗人は任務中も飄々としている。端からはただ楽しく談笑しているように見えるだろうと判断し、さくらはその横顔を見つめた。楓は中性的な面立ちをしているから、服装に左右されるのは分かる。しかし一緒に温泉に入ったこともある為か、楓が受付の男に同じ男だと認識されたのが不思議に思えた。
 他愛のない話をしている内にマイクを使ったアナウンスが入る。さくらと楓は一瞬視線を絡め、その声と奥側の壇上に上がる主催者に意識を集中した。一つ呼吸をして、気持ちを切り替える。自分達が何故ここに来たか。己の役割を完璧にこなしてみせる。ドレスの腿の辺りの膨らみをなぞった。
 最初、白々しく尤もらしい挨拶を語った主催者が急に沈黙した。会場中が静まり返る。緊張感に空気が凍るも、すぐにまた主催者は口を開き――そして核心に迫る発言に至った。瞬間、さくらは楓へと視線を向ける。目配せする僅かな時間に同じく潜入した仲間が合図を出して――。
 幾重にも重なるドレスの層にはスリットが仕込まれている。例えばそう、愛刀より小振りだが乱戦を充分に潜り抜けられる程には慣れた小刀が取り出せる大きさの。誰かが甲高い悲鳴をあげ、それが開戦の狼煙に変わる。
 さくらは小刀を携えて手近にいる女の懐に飛び込んだ。そして躊躇せず、手首を返し胴を打つ。卒倒する身体からはすぐに注意を外し、連れの男へと目を向けた。見る間に恐怖に歪んだ顔――対人間に慣れていない者は躊躇うかもしれない。しかしさくらは暗殺技術を身につけている。それを家業として実践したことは一度もないが意志は継ぎ、戦う手段として糧にした。戦意が見えない男にも一撃を加え、昏倒させる。捕縛は後でいい。殺人鬼に追われるかのようにパニックに陥った者が出口に殺到するが、容赦なく次々と倒されていく。全くの素人であろうがナイトメアと繋がっているなら油断は出来ない。と、不意に殺気が迸り、さくらは反射的にそちらへ振り向いた。やはり護衛はいたらしい、と真剣を受け止めつつ冷静に考える。歯を食い縛ったのは流石に腕力と得物両方の分が悪かったからだ。巨漢が勝利を確信して下卑た笑みを浮かべる。入った力を受け流し、飛び退れば、男は僅かに体勢を崩した。反撃に出ようと足を踏み出したところで、背後に別の気配を感じる。それでもさくらには判断に迷う必要はなかった。背後で不意に悲鳴があがる。身体と身体が触れる寸前まで詰め、顎先を蹴りあげれば男は今度こそふらつき、隙が生まれた。ドレスがめくれホルスターが覗く。銃を掬い取って断続的にゴム弾を浴びせかけた。振り返れば不浄の霧が晴れ、突っ伏している女が映る。

 ◆◇◆

 ――僕は君のことも守りたいと思ってるんだ。そう言ったらさくらはどんな顔をするのだろう。怒る? そんな薄っぺらなプライドを持ってるわけじゃない。さくらが持つのはサムライガールの矜持だ。喜んでくれたら嬉しいけど、第一に戸惑いがくるだろうと思う。僕とさくらの関係はこの世界に来て出会ってからが始まりだけれど、僕達の間を繋ぐ存在が同時に僕達を未だ隔てている。そんな気がするんだ。

 スーツは誤魔化しが効かず露骨に不自然だったろうに、魔導書は簡単に持ち込むことが出来た。それもこれも持ち物検査すら行なわない受付の杜撰さが原因と、他人事のように思いながら人が固まっているところに楓は間髪入れず雷撃の雨を浴びせかける。即死は勿論大事に至るような攻撃ではないが素人を拘束するには充分だろう。
「死ねばいいんだよ、お前ら化け物も、皆……」
「――言いたいことはそれだけかい?」
 自分の声の温度が判らない。考えるのをやめ、拾った刀の峰で床に這い蹲る男に一撃を入れる。
 どの世界も人間は同じなんだと思う。自分が得をするなら他人はどうなっても構わないと笑い、自らの不幸を他人に擦りつけたくて仕方ない。それが人間の本質だ。でなければ、ナイトメアに生存圏を奪われている現状で人同士の争いは起きないだろうと事実が真実を証明している。しかし同じ不知火家で暮らす人々は楓にとって掛け替えのない存在というのも確かだった。だから全部引っ括めた世界を守る。
 パーティーを装ったとあるレヴェルの一派の会合はさして時間を要さず、ライセンサーの手で制圧された。受付がああだった時点で烏合の衆と分かりきっていたが、一応はナイトメアの施しによって武器を寄与されている心配もあった為、一切の容赦はしなかったのだ。せいぜい一週間、痛みにもんどりうつ程度だろう。
 いつでも真剣な眼差しをした少女は裏で待機していた警察の人間が気絶した、あるいは放心した人々を連れ出す様を眺めている。果たして何を思っているのか――楓には分からない。ただ彼女には人に失望してほしくないと身勝手なことを考えた。
「お疲れ様」
「楓も、お疲れ様でした。それと――」
「ああ、お礼だったらいいよ、気にしなくても。僕が何もしなかったとしても、君ならどうにか出来ただろう?」
 柳眉が僅かに潜められ、さくらは息を吐いた。戦っているときは少しも苦に感じる素振りはなかったのに、煩わしげに今頃になってドレスを気にする。まあその程度ハンデにもならないのは全員が同じだろう。と――。
「確かに無傷で切り抜けられた自信はあります。ですが助かったのは事実ですから、言わせて下さい。ありがとうございます、楓」
 礼儀正しい人柄なのは前からよく知っていて、自分に向けられたこともある。珍しいことではなく、改めて言われる程でもない。ただ胸中で黒々と渦巻く何かが晴れていったのを感じた。それだけの話だ。それだけで彼女を守りたいと思える。ふ、と笑い声が零れ落ち、思ったのとは別の言葉を吐き出す。
「さくらのそういうところ、凄くいいと思うよ」
 好きだな、と言って髪を掬いあげた。唇を近付ければ瞬く間にさくらは身を引き、綺麗な髪も手のひらから逃げていく。目元が赤く染まって、腕を軽く叩いてきた。
「かっ、揶揄わないで下さい!」
 可愛いと思ったが拗ねてしまいそうなので言わずにおいた。
 この世界で後何度桜が咲くのを見るだろうか。自分も彼女も放浪者、そして、ライセンサーである限りずっと側にいる。死が分かつ日が来ないよう、いつまでも笑っていられるよう。願って楓はさくらに笑いかけた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
がっつりと男装した女子にモテる系女子の楓さんと
刀と銃(小刀と拳銃)を使い分けるさくらちゃんが
書きたかった……んですが、前者はともかくとして
後者はあまり格好良くは書けなくて無念な限りです。
段々と関係性が変わっていって、気持ちにも変化が
生まれ、成長していく過程をほんの一端でしょうが
リアルタイムに感じられてとてもワクワクしますね!
今回も本当にありがとうございました!
おまかせノベル -
りや クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月20日

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