▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ある少女の旅路』
銀 真白ka4128

 王国歴1152年10月 グラズヘイム王国古都アークエルス
 グリフヴァルト(文字の森)と呼ばれる王立図書館に、一人の女性が訪れた。
 深紅のドレス姿が美しい淡い青色の短髪を引き立てている。歳は20前後だろうか。
「ようこそ、僕の館に」
 出迎えたのは、一人の少年。かつて、フリュイ・ド・パラディ(kz0036)と呼ばれていた貴族だ。
 訪れた女性――銀 真白(ka4128)の様子を足の先から頭の天辺までじっくりと見てくる。真白の色気よりも、その存在自体に興味津々といった様相である。
 その視線を真白は苦ではなかった。むしろ、怪しんで見られない分、まだ『まとも』だ。
「お忙しい中、お手数お掛けします」
 見た目、明らかに年下だが、真白はこの貴族が自分よりも年上だと知らされていた。
 丁寧な態度を示すのは、当然の事。なにより、図書館に入るには、貴族の協力が必要なのだ。
「時間は有限だからね。社交辞令はいい。深層までの案内がてら見せてくれないかな。きみの『十翼輝鳥』を」
「分かりました」
 歩き出した貴族の横に並びながら、真白は『十翼輝鳥』を手渡した。
 柄のような握りと指先を保護するタグからなる不可思議な武具……いや、宝具というべき代物。
 貴族は真剣な表情を浮かべ、『十翼輝鳥』をあらゆる角度から観察する。
 時折、呪文を唱えるが、魔術師ではない真白には、それが何の魔法なのか分からなかった。
 図書館の最深層に到着する頃に、貴族は『十翼輝鳥』を真白へと返した。
「なるほど……十翼、だね。まだ結論を出す訳にはいかないけど、後は、きみが自分の手で探すべきだよ」
「本の解読はお願いできるのですか?」
「無論さ。僕も少し興味があるからね」
 貴族の足がピタリと止まる。
 ここから先が図書館の最深層という事なのだろう。
 真白はドレスのスカートを軽く持って、貴族に無言の挨拶を送ると、『十翼輝鳥』を構えて歩き出す。
 ――自分が何故、不老なのか……その謎を解明する為に。


 不老の異変を感じたのは、30歳前後の頃だ。
 明らかに可笑しいと理解したのは、それから10年後。真白は邪神戦争時から容姿が変わらないままだった。
 やがて、仲間のほとんどが天寿を全うし、僅かに残ったエルフやドワーフの友人と手紙でやり取りするようになってから、真白は決意する。
『私はなぜ生きているのか』
 領地を次世代に託して、真白は“命題”の答えを探し続けた。
 そして、辿り着いた場所は、王立図書館である。構造は不明だが、呪術的な力で図書館は奥に入れば入るだけ迷宮と化しており、歴史の真実が記録された貴重な本も多数、眠っているのだ。
「図書館自体がある意味、封印の場という事か」
 もはや、本の壁となっている棚を確認しつつ、真白は油断なく慎重に進む。
 目的は古代文明が繁栄した際に製造された宝と、歪虚から逃避を続けた事が記録された書籍だ。
 視界の先、目指した本棚の手前で異形の怪物を発見する。
「負のマテリアルは感じない。本から滲み出たか、番人か」
 老人の顔を持つ蟷螂は真白の姿を発見すると問答無用で襲い掛かって来る。
 その動きは極めて素早い。ニタリとした顔で鼓膜を破くような甲高い鳴き声が不気味だ。
「こちらが大物だと見ているのかっ!」
 大太刀形状の『十翼輝鳥』で、辛うじて怪物の連撃を受け止めた。
 反撃に出ようも微妙に立ち位置をずらし、効果的に大太刀が振るえない。
 通路の幅と武器形状が合ってないのだ。
「ケケケェェェ!」
 嘲笑うような鳴き声が耳に突く。
 相手の装備や体格など見て仕掛けてくるタイプのようで、図書館の怪物に相応しく、どうやら、馬鹿ではないようだ。
 距離を取って『十翼輝鳥』を弓形状にしても敵が追い付いてくるだろう。かと言って、盾形状は防戦一方で倒せない。
 そんな状況だが、真白は冷静だった。振り下ろされた怪物の鎌を受け止め――
「破ッ!」
 気合の掛け声と共に、怪物のもう一つの鎌が斬り飛ぶ。
 間髪入れずに、真白は受け止めた方の鎌も斬り落とした。何が起こったのか把握していない怪物の目には、大太刀ではなく二刀の小太刀を構える真白の姿が映っている。
 それは『十翼輝鳥』に隠された能力の一つだった。長い旅の中で、真白が得たものだ。
「……今更、語る必要はないだろう」
 真白は怪物にそう告げると、シュンっと床を蹴って二刀を怪物に突き立てる。
 状況を理解できぬままに怪物は床に転がった。そのまま末端から体が塵となって消えていく。
 安全を確認した後、真白は目的の本棚へと改めて向かうのであった。


 持ち帰った幾本もの古代の記録の中に、星の力を引き出した宝具の詳細が記してあった。古代の文明は絶対的な技術力で、強引に星の力を使用する事が出来たようだ。
 その宝具と共に、古代文明人が現在の北方、そして、そこから更に逃避を続けた事が断片的ではあるが、判明したのだ。少しでも歪虚の手から逃れる為に、古代人の旅もまた、辛いものであったようだ。
 本を喰らってしまうのではないかと思うほど真剣に読み解いていた貴族が、視線をそのままに尋ねてくる。
「……十の翼。きみは何を意味すると思う?」
「何かの揶揄かと」
「その通り。無数の翼を持つ星の守護者。きみはそれを見た事があるんじゃないかな?」
 貴族の言葉に真白は唾を飲み込み、小さく呟いた。
「マスティマ……」
 その圧倒的な力を真白はよく知っている。
「つまり『十の翼』が星の力の揶揄だとしたら、きみが持つ、それもある意味、星の武器なんだろうね」
「星の力を強引に引き出した古代文明の遺産……それが『十翼輝鳥』の正体と」
 古代人は歪虚に追われ、新天地を目指した。
 そして、逃避を続けた先に、東方の地に辿り着いたのだ。十鳥城が堅牢な城壁に囲まれ憤怒歪虚の猛攻を退けていたのも、城壁建造の技術が古代文明の名残であるとすれば、辻褄が合う。
 更に言うと、それほどの城壁と『十翼輝鳥』が城の深層部に隠されていた事から推測すれば、十鳥城そのものが『十翼輝鳥』を守る役目を担っていたとしても不思議ではない。
「本物の“星の武器”との差は不明だけどね。少なくとも、星が叶えられる内容であれば叶えてくれるはずだ。そして、それこそが、きみが不老である原因」
 真白が持ってきたすべての本を読み終わり、貴族は立ち上がった。
 貴族に感謝の言葉を告げつつ、真白は心の奥底から声を絞り出す。
「私は不老を願った事はない」
「だろうね。けれど、結果的に不老になる理由があった……と、僕は推測するけど。これからどうするかは、君が決める事だ。そこに僕の興味はないさ」
 立ち去る貴族の小さな背が消えてから、真白は天を仰ぐ。
 “彼ら”の分を生きて未来を見届ける……それを『十翼輝鳥』は願いとして受け入れたのだろう。
 その結果が望むべきだったものかは、別としても……。
 だとしてもだ。
 真白は『十翼輝鳥』を強く握り締めた。
 これを手にした時から、実は、なんら変わりはしないと思う。迷う事も恐れる事も、元々無かったのだ。
「……少し遠回りしたけど戻ろう。十鳥城に」
 凛とした表情を浮かべ、真白は陽が昇る方角を真っ直ぐと見つめるのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
伏線回収ぅぅぅぅ!!(叫
おまかせノベルに来られたら、絶対に描こうと思っていた内容でして、『十翼輝鳥』と『十鳥城』に張った伏線の回収もさせて頂きました。
それが出来るキャラクターは限られている……というか、真白様しかいないので、機会いただけて、感謝ばかりです。
ちな、ドレス姿はギャラリーの方から勝手にいただきました。普段は和装だけど、ドレス姿が可愛くてつい。今は反省しています。

この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
おまかせノベル -
赤山優牙 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年04月20日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.