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『夕暮れの邂逅』
ラン・ファー6224


「あっ、私、そろそろ帰らなきゃ」

 子供たちの帰宅を促す音色が流れ始めた頃、少女がそう言って、遊びの手を止めた。

「えぇ、もっと遊ぼうよ」

 一緒に遊んでいた、もう一人の少女はむぅと口を尖らせるが、

「お母さんに叱られちゃう。また遊ぼうね」

 少女はそれだけ言って走り去ってしまった。

「あぁ……行っちゃった」

 残された少女は口を尖らせ近くにあったベンチに座り込んだ。

「つまんないの。せっかく遊んでくれる子見つけたと思ったのに……」

 宵の空の中、少女の服が空気に溶け、着物姿に変わる。

「本当、つまんない」

 ため息交じりに少女は道行く人を眺める。

 昔は自分が見える人も大勢いたが、時代が移り変わるにつれ、そう言った人は減っていってしまった。

(昔はよかったなぁ)

「あんた、何してるんだ?」

 いきなりかけられた声にハッと顔を上げると、そこには男性とも女性ともつかぬ美しい人が立っていた。

  ***

「そりゃ、難儀だなぁ」

 ラン・ファー(6224)と名乗ったその女性は隣にドカッと座ると同じように道行く人を眺めた。

「貴女は私が怖くないの?」

「怖い? 私に怖いものなんてないさ」

「でも……」

 自分が見える大人は大抵怖がって逃げてしまうのだと、少女が言うと、ランはあははと豪快に笑った。

「最近の人間でなくても得体のしれないもんはみんな怖いもんさ」

「じゃあ、貴女はどうして私が怖くないの?」

「まあなぁ。あんたみたいなのをよく見るからじゃねぇかな」

「それじゃあ、余計に怖いんじゃないの?」

 少女にはランの言っていることがよくわからない。

「私はあんたのような連中の対処法を知ってる。だからってのもあるが……」

 ランの緑の目が少女の目をじっと覗き込む。

「あんたは俗にいう神様だろ。神様を怖がる奴なんていないさ」

 少女の目が大きく見開かれる。

「どうして……わかったの?」

「どうして……かぁ。んー、まあ、私にわからないことなんてないのさ。で、その神様がこんなところで何やってんだ。私にはそっちの方が気になるところさ」

「……ここは昔、小さな神社だったの」

 それが、土地開発だか何だかで、大した解体祭も行われないままに取り壊しになってしまったのだと少女は続ける。

「でも、私はここを守る神様だから……どっか行くわけにもいかないし……」

「ふーん、偉いなぁ」

「偉い?」

「最近はそういう連中も多いって聞くが、大抵はどっか別の地に移るか、祟り神になるかだろ」

「祟り神……」

 そんなこと考えたこともなかったと少女は呟く。

「確かに、誰もお参りしてくれないのは、私の住むところを壊されたのは哀しい。けど……」

 それまで祭ってくれていた人たちのことを考えると祟るなんて出来そうもない。

 彼らの信仰心は本物だったから。

「あんたはいい神様なんだなぁ」

「でも、これ以上寂しいのもやだなぁとは思う……」

 先程遊んでくれた少女が次ここに来た時、自分を見つけてくれるかは分からない。

 今はランのいう通り、良い神様でいられてもいつ祟り神になってしまうかは分からない。

 寂しさで、いつそうなってもしまってもおかしくない気がすると少女は続ける。

 その表情は暗い。

「……よし、あんた、うちに来ないか?」

「うち? でも、私のお家はここで……」

「あぁ、そういうことじゃない。私は人材派遣業をやっててな、最近は神様を派遣してくれって依頼もあるんだ」

「神様を派遣……?」

「神様だって人手不足ってことさ。たまにでもいい。そういう依頼が来た時にあんた行っちゃくれないか。ここから離れられないわけじゃないだろ?」

「う、うん。でも私でいいの?」

「あぁ、あんたみたいな良い神様なら引く手あまただろうさ」

 また、誰かの役に立てるかもしれない。

 そんな思いが少女の表情を明るくする。

「うん! やる!! やらせてください!!!」

「よし、決まりだな。そうと決まりゃとっとと契約しちまおう。この近くに私の事務所があるんだ。これからちょっとそこまで来ちゃくれないかい?」

「うん。わかった」

 立ち上がる少女の手を取ってランは歩き出す。

 ランに派遣された少女が各地で引っ張りだこになるのはそれからすぐのことだった。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 6224 / ラン・ファー / 女性 / 18歳(外見) / 神をスカウト 】
おまかせノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年04月22日

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