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『【王戦】巡礼路の戦い』
檜ケ谷 樹ka5040

 王都に迫る巨大な空中城。傲慢王の本拠地でもあるその城が王都へと迫る中、王都から離れた各地でも傲慢との戦いは繰り広げられていた。
 ハンターも王都での決戦だけはなく、王国各地へと派遣されていた。
 そのうちの一つ、現場に到着した一組のハンターが敵を確認している。
「どう見ても、こっちの戦力が不足しているよね」
 前髪を横に流しながら、檜ケ谷 樹(ka5040)は苦笑を浮かべた。
 彼はハンターオフィスからの依頼で巡礼路の一つに来ていた。目的は巡礼路を通過する傲慢歪虚を討伐する為だ。
 元々は貴族と騎士団、そして、ハンター達が一丸となって戦う予定だったのだが、功を焦った貴族が先走りして敗走。それを救助する形で動いた騎士団も戦力を半減。
 これでは簡単には勝てそうにはない。
「主戦場は王都だと思っていたが?」
 直剣を構えながら“北の戦乙女”と呼ばれたリルエナが尋ねた。
 彼女に、そう呼ばれるだけの力は……もう無い。それでも、巡礼路を汚す歪虚の存在を見逃す事は出来ず、樹と共に戦いに志願したのだ。
 リルエナにとっては、巡礼路を守る事は、亡き姉を守る事でもあるのだろう。
「敵の方が圧倒的に戦力はあるから、戦力を分散させても痛くも痒くもないんだろうね。逆に王国側は寡兵を更に分けなきゃいけないから、辛い所だと思うよ」
「戦略も傲慢の方が上という事か。亜人とは違うのだな」
「亜人が協力してくれればいいけど……」
 樹の台詞にリルエナは険しい表情を浮かべて首を横に振る。
 亜人との戦いをずっと続けていた彼女だからこそ、亜人の生態はよく知っていた。
「どう考えても、傲慢側に付く」
「ですよね」
 分かっている事だが、亜人の驚異が低下している今だから、冗談で済む話なのだろう。
 それだけ、北方動乱の影響は亜人にも大きかった訳だ。噂によると、亜人の勢力域はかなり縮小したという。
「それよりも、敵が巡礼路を進む方が、私には気掛かりだ。まさか、巡礼路の“秘密”を知っている訳じゃあるまい」
「メフィストが傲慢王に伝えていた可能性はあるかもしれないけれど……王都での決戦が間近なこのタイミングで、今更って感じがするからね」
 王国の地に張り巡らされた巡礼路は、ただの道ではない。
 法術陣の根幹となるものだ。傲慢王がどこまで“秘密”を把握しているか分からないが、時期的に何かをしようというのは遅すぎる。
 メフィストは歪虚が巡礼路を行軍する事で、負のマテリアルによって法術陣を汚染させるつもりだったからだ。
「戦力を分散させる為のフェイクという事か?」
「僕も最初はそう思ったけれど、あの敵を見て……違うと感じたよ」
 視界の中に映るのは、巨大な車両のようなもの。長い構造物を背中に背負っていた。
 あれが何か……というのは、貴族も騎士団も、もちろん、リルエナにも分からなかった。なにせ、初めて見る構造の車両だからだ。
 だが、樹だけは、あれと似た物を知っていた。それも、クリムゾンウェストではなくリアルブルーで、だ。
「間違いなく、巡礼路……いや、法術陣に何かを仕掛けようとしているに違いない」
「そう思うものがあると?」
「敵が背負っているあの物体。あれはきっと、巨大な杭打ち……楔だよ。それも負のマテリアルの塊。僕は魔術に詳しくないけれど……法術陣に悪影響を及ぼすんじゃないかな?」
「……ただの負のマテリアルを打ち込む程度であれば影響はないはずだ……だが……」
 言葉を詰まらせるリルエナの背中を樹は軽くポンポンと叩いた。
 反動で彼女の豊満な胸が揺れるが、今はそこに注目している場合ではないと、樹は自分に言い聞かせる。
「突拍子もない事だが……例えば、打ち込んだ楔を起点として魔法陣を展開し、上書きすれば……効果があるかもしれない」
「あれと同じものが他の巡礼路でも出現しているのなら、その可能性はあるって訳だね」
 そして残念な事に、他の巡礼路の確認を取っている暇はない。
「私がこの依頼を受けたのも、ここが巡礼路の起点の一つだからだ……つまり、ここは法術陣にとって大事な箇所といえる」
「なるほどね。それじゃ、やっぱりアレは倒さなきゃいけないって事で」
 樹は大きく深呼吸をした。
 やるなら、短期決戦だ。傲慢車両の取り巻きは騎士団に任せて、自分達だけで、決着をつけるしかない。
「作戦はあるのか?」
 聖女の幻影を自身に降ろし、覚醒状態に入ったリルエナが訊いてきた。
「構造がリアルブルーと同じか不明だけど……原理的には同じはずって、ちょ。動き出した!?」
 釘打ち機が地面に向かって直角になるように傲慢車両が動きを見せた。
 作戦を丁寧に説明している暇もないようだ。
「合図出すから、僕をファントムハンドで引っ張って!」
「分かった。だが、無茶をするな」
 慌てて駆け出した樹に、何も聞かされていなかった騎士団の面々が泡喰らって急いで付いてくる。
 自然と、敵の取り巻きを騎士団が抑える形になり、樹は歪虚車両に取りつく事が出来た。
「まずは!」
 ファイアスローワーを放ってみるが、効いている様子は無かった。
 装甲も分厚いので、正攻法でダメージを与えられるのは、この場ではリルエナしか居ないだろう。
 近付いてきた存在が邪魔ものであると感じ取ったのか、傲慢車両の側面がパカっと開くと隠し腕がグッと伸びて来た。
 後方から様子を見ていたリルエナにも見えたようで、自分の名を叫ぶ声がハッキリと聞こえる。
「っぶない。けれど、予想済みさ!」
 今度はマテリアルを流すことで巨大化させた拳を“振り下ろした”。
 狙いは傲慢車両の足元――地面だ。
 先程のファイアスローワーも、実は傲慢車両を狙ったものではない。地面に向けて衝撃エネルギーを放ったのだ。
「リルエナァァァ!!」
 樹の叫びと共に準備していた彼女がファントムハンドを発動させる。
 巨大な幻影の腕に掴まれると同時に、二度の衝撃で緩くなった地面と自身の重みが災いし、横転し始める傲慢車両。
 下敷きになる一歩手前で、物凄い勢いで樹は引っ張られ、リルエナの豊満な胸に頭から突っ込む。
 直後、巨大な音を立てながら、傲慢車両が完全に横転した。
 これこそ、樹の作戦だった。要は楔を打ち込まれなければ良いのだ。
「あ、あれで、起き上がるまでは楔を打ち込めないはずだ」
 柔らかい感触を左右から感じながら、樹が告げる。
 見事な手際の良さにリルエナは感心しながら、そんな樹をギュっと抱き締めた。
「やっぱり、樹は凄いな」
「リルエナが居たからだよ」
 戦場というのに見つめ合う二人。
 軽く唇を重ねると、抱擁を解き、樹とリルエナは並び立つ。
 “続き”を楽しむには、まずは敵を倒して依頼を達成しないといけないのだ。
「巡礼路に込められた人々の祈りを……」
「エリカ姉さんが願った未来を……」
 意識を集中させてマテリアルを高める二人に向かって、横転した傲慢車両が最後の悪足掻きか、負のマテリアルを射出してくる。
 それらを叩き落とし、樹は法術刻印弓を強く引き絞った。狙いは横転した事で露わになった腹側。ここなら装甲も厚くはないはずだ。
「……僕達二人なら守れる!」
 決意と共に放った矢は、煌々たる光跡を描きながら飛翔したのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
王国と傲慢との決戦は王都だけではなく、きっと、王国全土で色々な戦いがあったのかなと思っています。
当然、【聖呪】で重要なポジションにあったリルエナやアランも決戦では何かしらの活躍があったと考えるのが自然で。
シナリオ自体は未公開のものを流用(オイ
謎解決もあり戦闘もありラキスケもありと私自身も楽しく描かせて頂きました。

この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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赤山優牙 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年04月22日

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