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『Never Give Up!』
白神 凪la0559

 白神 凪(la0559)は依頼を受け、他のライセンサーと共にナイトメアと戦った。
 討伐対象はマンティス。歴戦の凪にとっては戦い慣れた相手だ。ライセンサーには恐ろしい敵ではない。
 しかし一般市民にとっては違う。凪達が現場に駆けつける前、逃げ遅れた一家が犠牲になってしまった。
 不幸中の幸いにもナイトメアは意外と小食だ。身を挺して7歳の幼い娘を庇った父親と母親は捕食されたが、そこで満腹になったマンティス達は小さな子供を放置した。
 こうして、ライセンサーはマンティスを倒した後、血まみれになって呆然と立ちすくむ幼子を保護することとなる。

 彼らはSALFの小さな支部に幼女を連れ帰る。
 女性のライセンサーは幼女を風呂に入れる者と新しい服を買いに行く者に別れた。
 SALF職員と共に、幼女の両親の遺品を回収しに戦闘現場へ戻る者もいた。
 凪は頼まれるままに児童養護施設へ電話を掛ける。

『――承知しました、こちらで保護いたします。すぐに準備をして、1時間後にはお伺いします。それまでその子をよろしくお願いいたします』

 電話の相手は沈痛な声ながら自分の仕事を果たすべく段取りを決めて行く。
 まだ名前すら分からない幼女について伝えられる情報は多くなかったが、それでも凪は分かることを理路整然と伝え、彼女が迅速に保護を受けられるようにした。

 電話を終えた頃、新品の服に着替えた幼女がライセンサーに連れられて入室してきた。
 茶色の髪にも柔らかな肌にも返り血の跡はない。
 しかしその顔は子供らしくない無表情で、ライセンサーに手を引かれるままにしか歩こうとしなかった。

 凪は唇を引き結んだ。もしももっと早く現場に行けていれば。
 自分の力が至らなかったことが悔しくて、強く拳を握る。

「1時間後には保護に来るだとさ」

 今の凪にできるのは、自分の電話の成果を情報共有すること程度。

「分かりました。ねえ、あなた、お風呂に入って喉が渇きませんか?」

 一緒に風呂に入った女性ライセンサーは、凪に向かって頷いてから、再度幼女に顔を向けた。
 SALF職員が持って来てくれたミネラルウォーターのペットボトルを幼女に差し出すが、幼女は手を伸ばそうとしない。

「……お風呂でもずっとこんな調子でした。何も喋ってくれませんし、自分から何かをしようともしません」

 そのライセンサーは困り果てた様子だ。

 その後、他のライセンサーは何とか幼女の元気を取り戻そうとした。
 おちゃらけた振る舞いをして笑わせようとしたり、美味しいお菓子を見せてみたり。
 それでも幼女は何の反応も返さなかった。
 それを凪は遠巻きに見ていた。

「無駄だ、止めとけ」

 何とか粘って幼女から反応を得ようとしているライセンサーに、凪はぴしゃりと言う。

「そいつは両親を突然目の前で失ったんだ。あんたらがこいつくらいの歳で同じ目にあったらどうなる? すぐに笑えるか?」

 沈黙が返される。
 凪は初めて幼女に近付き、彼女の目線の高さに合わせるようしゃがみこんだ。
 凪の鋭い金色の目が幼女の虚ろな目を捉える。

「あんたは生きるのを諦めるのか? このまま自分を終わらせるのか?」

 幼女の目をじっと見つめ、凪は静かに言う。幼い虚ろな顔には何の表情も表れない。

 凪は放浪者だ。この地球に転移してしまい、自分が異世界にいると知ったとき、大切なものを全て失ってしまったことに気付いた。
 生きる意味すら見えなくなった凪は自分に2択を迫り、葛藤の果てに――生きることを選んだ。約束をしたから。

 この幼女はこのままだと自分とは別の選択をするだろうと凪には推測された。
 彼女がそれを心から望むのであれば止めることはできない。
 安易に生きろと言葉をかけるには、凪は喪失の絶望を知りすぎている。

「あんたにとって親は大事な人だったんだな」

 それだけ言って、凪は顔を背後に向けた。後ろでくくられた長い黒髪がつられて揺れる。
 幼女に背を向けたまま立ち上がろうとして、不意に後ろ髪が引っ張られる。

「いっ?!」

 凪の顔が上を向き、顎が上がる。思いっきり引っ張られたのだ。
 幼女はぼんやりとした顔をしているが、凪の髪をしっかり掴んでいた。

 凪が去ってしまうのを阻止した幼女は彼の鍛え抜かれた背中に抱きつく。

「……ひっ……うぇ……」

 小さな小さな嗚咽を漏らしながら、幼女は凪の背中に顔を押しつけたまま泣いた。
 凪は黙って背中を貸してやる。
 児童養護施設の職員が到着するまで幼女は泣き続けた。

 大人しく保護されていった幼女を見送り、凪は鏡で自分の背面を見てみた。分かっていたが、服は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。



 それから幼女がどうなったか、凪は知らない。
 あのSALF支部に問い合わせれば教えてもらえるのかもしれないが、わざわざ聞こうとは思わなかった。

 あの幼子がどちらの選択をしたにせよ、凪にできることはただ一つ。
 今の自分が有する戦闘能力を高め、同じような絶望が再度生まれることがないよう精進するだけだ。
 ――もしかしたら、その果てにこの世界で生きていくだけの意味が見つかるのかもしれないとも思いながら。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 この度はおまかせノベルのご発注ありがとうございました。
 凪さんのご性格やこれまでのご経緯から、このような物語を紡がせていただきました。
 少しでも心に響く作品となっておりましたら幸いです。
おまかせノベル -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月24日

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