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『天国に逝ったけど色々思う事があったから地獄に降りて魔王を目指します』
アルマ・A・エインズワースka4901

「やべぇやつだー!」
「うわっ! こっちに来たぞ!」
「冥界王だ! 逃げろ!」
 奇怪な怪物共が、アルマ・A・エインズワース(ka4901)の姿を見つけて一斉に逃げ出した。
 アルマといえば楽しそうな笑みを浮かべて走り出している。
「魔王であって、冥界王ではないって言ってるです!」
 ぶんぶんと魔杖を振り回して注意――本人は軽く指摘しているだけなのだが、怪物共は恐れを成して逃げていく。
 なんせ、アルマの強さは、強者揃いの地獄であっても、人外……いや、怪物すらも凌駕しているのだ。
 彼の外見に騙されて襲い掛かった奴等は、ことごとく、返り討ちにあったのは言うまでもない。
「呼び方の問題じゃねぇって!」
「馬鹿! そういうのが死亡フラグなんだよ!」
「だぁぁぁぁぁ!!」
 注意という名の炎の渦に巻き込まれ、吹き飛んでいく怪物共。
「呼び名は大事です!」
 ムスッとしながら遠くに飛んでいった怪物共を眺めていたアルマは、ふと、足元に“欠けた角”が転がっているのを見つけた。
 首を傾げながら拾う。
「……?」
 どこかで手にした事があるような感触だが、それが何かまで思い出せなかった。
 なんせ、死後の世界に至るまで、とてつもなく時間が掛かったのだから。生きている時の記憶を呼び起こすのは大変な事であった。
 立ち止まったまま唸り続けるアルマに、蜘蛛の顔を持つ人型の魔物が近付いて来た。
「道端に転がっている石が何者であったかなど、それこそ記憶から零れていましたが、思い出しましたよ」
「……誰です? 今、構っている暇ないんだけど」
「『冥界王』などと名乗るのは不遜というもの。王とは王に相応しい者の呼び名。路傍の石が如き存在が自称して言い訳がない」
 魔物から発せられる雰囲気に、アルマの嫌な記憶が掘り起こされた。
 その魔物の名はメフィスト。傲慢の歪虚として幾度となくハンター達の前に立ち塞がった。
 多くの悲劇を巻き散らしたこの存在は、アルマにとっても、許すことが出来ない敵だ。
「歪虚は滅びれば何も残らないはず……何故、ここに?」
「私が答えるとでも?」
「……何かを知っているのであれば、無理矢理にでも話して貰うです!」
 力を練ってアルマは術を発動した。
 猛烈な氷のレーザーがアルマの魔杖から放たれたが、対抗するようにメフィストが黒渦を作り出して相殺させる。
「あの時は数の暴力で負けましたが、ここには他の誰も居ない。貴方は孤独だ」
 事実を突き付けて来るメフィスト。
 この地獄は孤独だ。探せば誰かは居るかもしれないが、少なくとも、アルマの友は“まだ”見つかっていない。
「そっちだって、人の事、言えないのです!」
「私にはこのような力がある!」
 そう宣言すると、メフィストの身体から幾体もの分体が出現した。その力は後に解明されている。蜘蛛は脱皮するが、メフィストは自身の力で脱皮したものに自我を与えていたのだ。
 分身ではなく『分体』と表現されるのは、この為だ。
「それってでも、元は一人だからやっぱり孤独です!」
「道理が分からぬ愚か者め!」
「屁理屈って言うんですよ!」
 確かに屁理屈ではあるが、数という事で見れば、アルマが圧倒的に不利な事実は変わらない。
 地獄を我が物顔で闊歩する怪物共も二人の争いに巻き込まれないように遠目から見ている。その中から、アルマに駆け寄る存在は無かった。所詮は地獄か。
「これが現実! それを思い知らせてあげましょう。この私が」
 無駄に大きな身振りをみせながら宣言したメフィストに対し、アルマが手にしていた“欠けた角”が唐突に言葉を発した。
「黙って話を聞いていれば言われっぱなしではないか、アルマ」
「え? この声……」
「なんだアルマ。知っていて手にしたのではなかったのか?」
 “欠けた角”の正体はネル・ベル(kz0082)だったのだ。
 そして思い出す。角を手にした時の感触は【魔装】を手にしていた時と同じだった事を。
「わっー! ネルさん! なんで角なんですか!?」
「どうやら悪い事をし過ぎたようだからな。とりあえず、角の状態で地獄に落とされたようだ」
「酷い話です」
「顔が笑っているぞ、アルマ。まぁ、純粋な歪虚でなければ、地獄逝きなのは確実だからな」
 ネル・ベルが言うには堕落者や契約者は、死後、地獄に生まれ変わるらしい。
 元が蜘蛛の精霊か何かの類だったメフィストはそういう理由で地獄に居たのだ。ちなみにネル・ベルは元々、龍の眷属らしい。
「……という事は『あの人』もここのどこかに!?」
「それが誰か知らんが、そういう事だ」
 俄然、やる気を出したアルマは、口元に不敵な笑みを浮かべるとメフィストに向かって一歩踏み出す。
 話が本当であれば、こんな所で油を売っている場合ではないからだ。
「悪いですけど、メフィストさん。さっさと消えて下さい」
 自身に向けられていた空気が変わった事で、メフィストは警戒する。
 そういう観察眼の鋭い所が、メフィストの素晴らしい真の力だろう。だが、それだけだ。メフィストはアルマを変えてしまう時間を与えてしまったのだ。
「よし、アルマ。偉大なる我らの力、見せつけるが良い」
「ネルさんの力を使っていいんですか?」
「何を言っている。アルマは友なのだろう。ならば、存分に使え」
 彼の言葉にアルマはギュッと角を抱き締めた。
 そう――アルマはどこに行こうが孤独ではないのだ。沢山の友が居るのだ。
「力をイメージしろ! アルマが願う力を!」
 蒼焔が角を包み込むと、角は青白い刀身――先端だけは紅に染まった――の剣に形を変えた。
 同時に、それまで幻影であったアルマの背から生えていた蝙蝠の翼が実体を持つ。
「答えは聞きませんけど……今すぐどいて下さいね」
「愚か者め!」
 一斉に襲い掛かって来た分体を一刀の下に斬り落とし、アルマは剣先を向けると術を行使する。
 蒼く光り輝く三角形が幾つも出現すると、それぞれの頂点から、純白の光が迸った。
 暗闇の地獄に、それは輝く雨となり、メフィストは全身に浴びて断末魔を残しつつ、あっという間に消滅する。
 これが【魔装】に秘められた本来の力なのだろう。
 鞘が無いので抜き身のままブンブンと剣を振り回し、少しご機嫌な様子のアルマ。
「邪魔者も居なくなったし、ネルさん、一緒に行くのです!」
 やるべき事は沢山ある。
 まずはその為には『あの人』を見つけないといけない。無限ともいえるこの地獄で見つけ出すのは大変かもしれない。
 だが、必ず見つけ出せると根拠ない自信だが、アルマにはあった。
 だって、アルマは孤独ではないのだから。
「そうだな。だが、まずはドロップ品を忘れるな。メフィストを倒すと蜘蛛の糸が手に入る。それでいつでも天上に帰れるのだ」
「まるで、これから何体も出現するような台詞です!」
 【魔装】状態のネル・ベルはフフっと笑って応える。
 地獄でのチュートリアルはここまで。ここからが魔王となる物語の真のスタートラインなのだ!



「ところで、ネルさん、人の姿に戻らないのですか?」
「メタ的な事を言うとだな、尺が足らんのだ」
「よく分からない言い訳はずるいですー!」
 賑やかなアルマの台詞が地獄中に響き渡るのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
まずは私の盛大なジャンピング土下座をご覧くださいぃぃぃぃOTL
なんかもう、冒頭から好き勝手色々とやってしまって、ほんと、ご馳走様でした。
絶対にネル・ベルとの再会だなと思ったのですが、ただ再会するのも何かなと思い“あの世の続き”を描きました。
ちょっとでも、フフってなる所があれば、幸いです!


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2020年04月24日

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