『リュウのパック詰め？』

ファルス・ティレイラ（3733）

　私、ファルス・ティレイラ（3733）はなんでも屋の仕事で、手伝いに来たの。
　通信販売用の量産品魔法道具を保管している巨大倉庫で、運搬用魔法機械が故障で使えなくなったんだって。
　通販ではなく梱包材などの搬入の手伝い。
　大きな倉庫だし、本来の姿で作業しても問題はないようなのよね。念のため、依頼人に確認したら、大きさを聞かれ、そのヒトは倉庫に確認しに行き「ぎり、通れます」と太鼓判を押してくれた。
　もちろん、移動させるとき、用心は必要だと念を押されたし、私も気をつけるわ。
　依頼人にどの荷物をどこに運ぶか指示を受ける。重さと距離があるということがはっきりしている。
　その一つがこの梱包用の魔法フィルム。
　発送する荷物をこれで梱包するの。
　物理および魔法に対する耐性があるのよ。鋭利な刃物でも簡単に切れない。それは中身に対してであり、外からの干渉に関して必要なものなのよね。
　魔法の品を発送する店ならでは。
　私が受け取った荷物も、この魔法フィルムでくるまれていたの。開けやすくなっているけれども簡単に切れないのよね。
　梱包の時にどうやって切るのか、ということは気になる。
　今私の目の前にあるフィルムは１メートルくらいの高さで直径１メートルくらいの筒状になっているの。
　人間の通販でおなじみに「ぷちぷち」がロール状になっている場合、ハサミの刃物部分をスライドさせれば切れる。
　刃物に耐性がある魔法のフィルムはどうやって切るのかしら？
　耐性だけで切れないわけではないから、やはりハサミで切るのかしら？
　気になる品物だから運びながらもあれこれ考えてしまう。
　大量にあり、ロール状になっているため重い。本来の姿でぐいぐいと押していく。
　魔法フィルムが置いてあるところを見ると、一定サイズに切り分けられた物もある。
　このサイズで届くのか、このロール状のものをこのようにそろえるのか……。

　魔法のフィルムに対して考えを巡らしながら、何往復かして、無事、全部運び終えた。
　本当、これ、すごいのよね。
　ロール状のフィルムを運ぶとき、何らかの傷がつくこともあるのに梱包されていない。
　私が運ぶ時も丁寧なつもりでも、爪は鋭いから、傷はついていると考えられる。
　でも、気になって見るけど何もないものね……。
　この魔法のフィルムに爪が引っかかっても、柔らかい感触であっても、切れてもないわ。
　さすが……。
　何度目かの感心を覚える。
　感心とすばらしさをたたえるため、撫でた。しっとりした感触が伝わる。
　仕事終えた報告のため、方向を変えたとき、棚に翼が当たり、バランスを崩した。
　翼でバランスを取ったため、風が起こる。
　棚にあった、使い勝手がよいように切られたフィルムが飛んだかもしれない。床を探すならば、人の姿に戻った方がいいかもしれないわね。
　向きを変えようとしたとき、足の裏がつるりとしてヒヤッとした感触を伝えてきた。
　薄いものを踏んだ感触。
　ここにあるようなフィルムを踏んだ時のような感じよね？

　聞き覚えのない音が聞こえた気がした。何かの言語かもしれない。
　
　落ちたはずのフィルムは新聞の全国紙、見開き１枚分だろう。
　それが、広がっていくのが見えるのっ。
　そのフィルムは魔法を帯びたものがあると広がるのかしら。
　衝撃があるとかしら？
　どっちにしろ、逃げないといけないわね。
　私が荷物としてパッケージされちゃう！
　竜の姿のまま、私は逃げる。
　倉庫の外に向おうと思ったわ。だって、そっちに向かえば、依頼主だけでなく、この倉庫で働くヒトがいるはずだもの。
　私は走ろうと足を動かした。
　でも、重い。
　後ろ肢がフィルムに挟まれている。そこから圧縮を掛けるようにぴちっとなっていく。
　薄いフィルムであるけれども、足が押さえつけられている状態で動かないっ！

　私は翼を広げ、飛んで逃げることにした。
　周りに棚があるし、吹き飛ばしてしまうかもしれない。
　でも、ある程度広いし、気を付けて飛べば最小限の事故ですむわよね。
　すでに遅かったみたいっ！　フィルムはふわりと私のしっぽや胴を覆う。
　しっぽもじわじわと固定されていき、動けなくなる。
「急がないとっ！」
　フィルムが圧縮されていくより以前に、フィルムが引っかかることで翼が思うように動かなくなる。
「飛べないっ」
　パタパタ動かすことで、フィルムを吹き飛ばしてしまうことができるかもしれない。
　そうよ、魔法ではないし、各種耐性があるとはいえ、飛ばないってことはないのよね。
　自然の摂理だし。
　でも、フィルムは広がり、中の空気を抜いているのか、それとも、フィルムが包むものに合わせて縮むのか……動きが阻害されていく。
　梱包用魔法のフィルムはすごい、と感心してしまうが、それどころではない。
　どうやって逃げるか、必死に考え、もがく。
　逃げるために。
「助けてぇ！」
　声があげられるうちにあげておく。
　倉庫に声が反響しているようだった。
「お願いしますー」
　さらに声を上げるが、フィルムによるパッケージングは進んでいた。
　胴体と翼がパック詰めされ、首と顔が残るだけまだ動ける。
　私は地面に伏せる形になっており、すでに立っていない。フィルムはできるだけ私を小さくしようとしているのか、しっぽが胴体に絡まってくる感触が伝わる。
「あ、人型を取れば隙間ができて逃げられる？」
　すでに今の体勢だと、人の姿になったところで、地面に横たわっている状態よね。
　結局、逃げられない……。
　顔の部分も覆われて、徐々に空間が狭くなる。
　視界はあるけど、フィルムにしわが寄っていき、段々と歪んでくる。
「助けてぇ」
　フィルムで遮断され、曇って聞こえる。
　次に声を上げようとしたときには、もう、口は開けられなかった……。

　袋詰めどころか真空パックに近い形でパック詰めされている。
　息はできているけど、身動きできない。
　このフィルム、生き物もパッケージできるのね。
　そうね、今、外から見たら、竜のパック詰め。
　もう、頭の中は現実逃避になっているのかも……うっうっ……誰か、助けて、ください……。
　声が出せず、心の中で叫ぶだけ。
　ぺしゃんこにつぶれた私は、依頼主が気になって来るのを待つだけ……。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
　発注ありがとうございます。
　イラストを見て、パック詰め、と思ったのでそのままタイトルとなりました。
　いかがでしたでしょうか？

東京怪談ノベル(シングル)

狐野径

東京怪談

2020年04月24日