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『未知との遭遇』
吉良川 奏la0244

「では、ニュージーランドで発見された放浪者と同種と思しき一団がイベリア半島でも発見されたというのですね?」
 SALFより展開された情報をチェックする水無瀬 奏(la0244)。
 奏自身も世界が混迷を極めている事は知っている。
 ナイトメアが出現して世界の勢力図は大きく変貌。ライセンサーがナイトメアと争っている最中、ニュージーランドに放浪者と呼ばれる一団が出現した。この一団の出現は、SALFにとっても扱いに困った案件だ。出現当初は敵か味方かも明確ではなかった上、敵対すればナイトメアと放浪者の両方を相手取って戦う必要が出てくる。
 最終的に放浪者を保護対象として扱う事に決まったが、未だ放浪者自体の情報は乏しい。
(そんな中でイベリア半島にも放浪者が……。あそこはナイトメアとの戦闘地域。放浪者は戦場の真ん中に出現したという訳ですか)
 奏は冷静に情報を分析する。
 欧州イベリア半島は現在ナイトメアとSALFが勢力圏を争っている地域だ。
 特にフランスのパリ、マルセイユなど大規模都市は激しい戦闘が続いている。もし、放浪者がこの地域に出現したとなれば、早急な対応策が必要になる。放浪者を保護対象として見据える事で放浪者側と良好な関係を築こうとしているSALFにとっては、戦場の真ん中に姿を見せた放浪者の一団を保護しない訳にはいかない。もし、ナイトメアに捕食されるような事があれば、今後の放浪者との関係にも影響を及ぼしかねない。
「どうかね? そちらで対応できそうかね?」
 SALFの高官が、こちらの答えを待っている。
 奏はSALF版海兵隊と自称する『海猫隊』広報官だ。正式な権限を持っている訳ではないが、多忙な隊長に今回特別な権限を与えられている。緊急事態となれば、奏にも一定の指揮権が与えられる。
「確認となりますが、本案件は早期決着が必須でしょうか?」
「早い方が良い。既に放浪者側から彼らの安否を確認されている。彼らに危険が及ぶ恐れがある事も、すぐに気付くだろう」
 高官の口ぶりから厄介事を早くに片付けたいという感情が読み取れる。
 無理もない。今やナイトメアとの戦場は世界各地に散らばっている。それら一つ一つを総合的に判断しなければならない状況で、放浪者はこの世界に姿を見せたのだ。未知との遭遇に時間を取られる暇があるとは思えない。
 ――ここは、海猫隊の出番のようだ。
「承知致しました。我が部隊より隊員を現地へ派遣致します」


「情報によれば周辺地域に放浪者が目撃されています。捜索を開始しましょう」
 奏はFS-Xの操縦席から隊員へ指示を出す。
 本隊が欧州戦線支援に駆り出されている関係で、広報官の奏が自ら部隊を率いて放浪者の捜索を行っている。表に顔を出す役目を負いながら、必要に応じて現場でも辣腕を振るう。海猫隊は実力重視であるが故、奏のような二足の草鞋を履ける隊員は多く働かされる事になる。
「了解」
 周辺へ分散する隊員達。
 マルセイユから北上した小さな街の郊外。ここで放浪者の一団を発見したという情報が入っている。放浪者からすればSALFが味方だと知らない可能性がある。突然の遭遇で放浪者側より攻撃を受ける事を憂慮して、奏は決して手を出さないように厳命していた。
(ここはナイトメアとの交戦地域。できれば、ナイトメアよりも先に放浪者を保護しないといけないのでしょうが……)
 奏は、この放浪者という存在に対して未だに立場を決めかねていた。
 それは放浪者自身が謎に満ちている事もあるが、それ以上に政治的な対応が求められるからだ。たとえば、放浪者が地球には存在しない技術を保有していたと仮定する。そうなれば動き出すのはアサルトコアを開発する企業が技術入手に動き出すだろう。その競争が激化する事はSALFにとって良い事ではない。
 さらに放浪者にはリーダー的存在がいる。保護できたとしても彼らへの対応は慎重に行うべきだ。
「放浪者の対応を海猫隊へ回す……厄介事は、海猫隊に押しつける、か」
 無意識に奏の口から言葉が漏れる。
 SALFも高官となれば求められる責任が増大する。
 ナイトメアへの対応に苦慮する中、放浪者への対応も求められてはキャパシティも限界を迎える。ならば、厄介な事は適当な連中に任せておけばいい。責任はそいつらに取らせればいい。
 政治的権力を用いた責任回避だが、奏にとってはため息の出る話だ。
 致し方ない。それも分かってる。 
 だが、政治よりも前にすべき話があるのではないか。
 放浪者達の立場になって考えてみろ。
 そう言い放てれば、どれだけ楽か――。
「ナイトメアが出現、そちらへ向かってます!」
 部下からの通信で奏は現実へと引き戻される。
 響き渡る部下の言葉。
 どうやら、単独で迷い出たナイトメアと遭遇。好都合にもこちらへ向かって移動しているようだ。
「了解。こちらで対応します」
 操縦席のモニターに映し出される敵影。
 そこには巨大なマンティスがこちらへ向かって来る。
 間合いも十分。これなら――。
 奏は機体のスラスターを全開にする。
「一撃で仕留めます」
 マンティスが鎌を振り上げると同時に、遠心力を乗せたキャリアーバスターを振り抜いた。
 スラスターで勢いを付いたまま、刃がマンティスの胴体を捉える。
 一閃。
 鎌は振り下ろされる事なく、マンティスは地面へと倒れ込んだ。
「ふぅ」
 奏は一息ついた。
 周辺にマンティスの影はない。だが、群れを成して行動していたとすれば増援が現れる可能性もある。
 ――急いだ方がいい。
 奏は部下へ捜索を急がせる事にした。


「発見しました。既に放浪者側から連絡が入っていたらしく、敵意はありません」
 部下からの通信だ。
 既にナイトメアの敵影は確認できていない。
 急ぎ放浪者を確保すれば、敵と交戦せずに済むかもしれない。
 ――だが。
 それでも奏にはやっておきたい事があった。
「放浪者の皆さんは?」
 FS-Xから降りて息を切って走ってきた奏。
 そこでは放浪者の集団が集まって点呼している最中であった。
 放浪者の一人が奏を目視。その顔を見るなり、放浪者は奏の方に走り寄ってくる。

 ――心細かったのだろう。
 異世界からやってきて誰を頼れば良いのか分からない。
 先に行った仲間達がいるのは知っているが、それでも異世界の住人とやっていけるかも分からない。
 これからの事。
 将来の事。
 そんな中、奏が笑顔を浮かべて手を差し伸べてくれる。
 それが、どんなにも心強かったか。
「もう、大丈夫ですから」
 抱き付いてきた放浪者を、奏はそっと包み込む。
 せめて、放浪者達が安心して暮らすだけの勇気を奏が分け与えるように。


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近藤豊 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月24日

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