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『小娘二人へのからかいを兼ねた組手、をしてみた後の話。』
黒・冥月2778

 私――黒冥月(2778)との組手。それはノインの「新しい体」の運動機能を確かめる為、そして小娘二人――エヴァ・ペルマネント(NPCA017)と草間零(NPCA016)との関わりも絡めて、「いかに人間らしく」反応出来、行動に移せるかを確かめる為に行った事だったのだが(からかいの気持ちも無かったとは言わない)
 まぁ、ひとまずの及第点を上げてもいいか、と言う所まで持っては来れた。……少なくとも、組手の当の相手としての立場では。
 となれば、次は客観的に見てみたい。

 そして丁度良く、ここには手頃な相手ことエヴァと零が居る。暫し二人を見比べ――いや、一目見た時点で頼みたい分担は決まっていたか。

「エヴァ」
「……何よ」
「次はお前がやれ」

 ノインとの組手。

「へぁっ!?」
「声が裏返ってるぞ」

 と言うか、妙な声になってるぞ。

「っ、ど、どうでもいいのよ、そんな事! ユーがいきなり振って来るのが悪いんじゃないっ!」
「霊力使うなよ、純粋に肉体だけでやれ」
「肉体だけで、って」
「何か不都合があるか」
「……」

 俄かに複雑そうな――まだ何か裏があるんじゃないかと疑う貌になっているエヴァを、くいくい、と指だけで呼び付ける。普段なら挑発と取られそうな所だが、今の場合はそうでもなかった。エヴァは妙に素直にこちらに近付いて来る――つまり、その位自分のペースが崩れているのだろう。今の私の言動は無視したくとも無視が出来ない。
 ともあれ、それで守備良く内緒話の距離になった所で――すかさず耳打ちをする。

「わざと体勢崩して抱き付くのは許そう」
「っ〜〜〜」

 素直に聞いた自分が莫迦だった、とでも言いたげな態度でエヴァは間近に居る私を即座に突き飛ばす――突き飛ばそうとする。が、難無く避けられた。殆ど可憐な乙女の照れ隠しに等しい行為。エヴァでもこんな風になるんだな、と妙に感慨深くなる。

「まぁ、何にしろそういう訳だ。任せるぞ」



 風を切り、肉を打つ丁々発止の音が鳴る――何の音かと言えば、ノインとエヴァの組手に伴う音である。
 初めの内はまるで踊ってでもいる様にゆっくり型を合わせていたのだが、少しずつ速められており、今となっては私との組手と大差無く見える。いや、大差無いと言うより、向こうの二人の方が息が合っている様ではあるか。
 地を蹴り肉薄、相手に打ちかかる掌打は風を切り、往なすだけで鋭く肉が鳴る。次の一手でまた風が。躱したとなれば更に風。急制動で鳴る靴の底。ぴしりぴしりと短く小気味良く――それを聞くだけでも力量が読める程。……何だ。わざと抱き付く様な真似はしてないな? ああ、逆に「出来ない」と言う事もあるかもしれないか。あの見た目の割に意外な位に純情な小娘は。

 零を見る。ノインとエヴァの組手の一挙手一投足を、どうも落ち着かなげにはらはらしながら見ている様だった。一秒でも目が離せないとでも思っている様な――心配している様な――嫉妬している様な? その様子には色々混じった複雑な感情がある様な気はする。まぁ、零の方で不満だったとしても、この「役割」を逆にする気は無かったが。

「零には別に頼みたい事がある」
「っ――え?」

 この返答をしている間にも、零は二人から目を離していない。

「ああ、ひとまず今のエヴァの霊力の状態――状況はどうだ」
「っと、それなら――さっき冥月さんが言った通り、使わないでいられてます」

 あれならきちんと組手になってます――時々、少し揺らいでる感じもありますが、ノインさんには当たってない位置でに出来てます。

「見えてるな」

 そこまで。

「?――はい」
「零も今のノインが霊的に無防備だって話は聞いてたよな」

 魂が体に定着出来ていないから、霊的な影響次第で魂が体からすぐに追い出されるとか何とか。
 そんなノインがどの程度までの霊圧――と言う言い方でいいのかわからんが、とにかくどの程度まで耐えられるのか把握しておきたい。

「そっちを確かめるのはエヴァより零の方が向いている様に思えてな」

 霊力の微細な調整は零の方が得意そうだろう。

「折を見て、ノインに霊力を少しずつ強めながら浴びせて貰う」
「今、ですか」
「零に任せる。今でも、後でも。不意打ちでも、話した上ででも。零が判断出来ると思える遣り方でやってくれればいい――そうだな、正確に把握するなら触れる……例えば手を繋ぐとか抱き付くとかした方がいいかもな?」

 からかいがてらそう耳打ちをするなり、ぴたっと零が固まる――視線が止まる。その時点で少なくとも、組手を追えていない事だけはすぐにわかった。
 言われた事に動揺したらしい。……まぁ、そうなりそうな気はしたが。こちらもまた純情だ。

 さて。

「私は少し出掛ける、後でノインの体調を看ておいてくれ」



 そう残しておけば零ならこちらの意図を汲んできちんと復活するだろう。信じつつ、私は影の外に出る。

 出た場所は、近所にある高いビルの屋上。そこに居たのは――数十人の男女。年齢も性別も服装もバラバラで――特に裏稼業の者、戦う者とも思えない姿の者も多く混じった一団だった。そしてそんな人々が、恐らくは丁度散らばっていた所から集合場所に集まった――様な雰囲気。
 出た時点で彼らに即座に気付かれた――様な気はしたが、反面、対処される様な気配は全く無かった。その時点で――まぁ、思った通りだなと思う。鋭さと鈍さが同居するこのちぐはぐさは、要するに一つの事にだけ秀でている連中だと言う事だろう。

 つまり、霊的な索敵や感知の類。その異能を以って、彼らはノインの魂を見付けたのだろう。虚無の境界からも霊鬼兵の身からも外れながら、力を持ち続けた人造魂。……興味を持つのはわからないでも無い。少し前から「影」を介して暫く彼らの様子を窺ってみていたのだが――どうやら素体とされた刑部の名から辿っていた形跡すらあり、つまりノインが「今は誰の物でも無くなっている」筈だと見て、入手すべく行動に出た様でもある。
 つまりこいつらはそういう事をしたがる組織、でもある訳だ。の割に、後ろ楯も何も無い、一捻りで決着が付きそうな相手にしか見えないのだが。となると恐らくは、霊鬼兵の事を「俄か」で知っている程度の、頭に超がつく弱小組織。……そう見て良さそうでもある。
 霊鬼兵の事をきちんと知っているなら、零やエヴァを見逃すなど、そしてこんな半端な手の出し方をするなど有り得ないだろう。
 勿論、私が良く知る方の裏社会とて同じだ。
 私の存在に――その意味に気付かない事自体が甘い。

「さて。丁度上手い事集まってくれたな。助かった」
「っ――何者だっ」
「その位、自分で心当たりを考えろ。……最近近所を探っているのには気が付いていた。私達に手を出すからには当然覚悟の上だよな?」

 面倒は潰しておくに限る。
 私の「依頼人」達の為にもな。



 その頃の影内空間。

「び、びびびっくりしたぁ〜〜!!」
「ご、ごごごめんなさい、ノインさん!!」
「……えぇと、冥月さんがやってみろって言った事なんだったら、零君が謝る筋じゃない筈だよ」
「で、でも、だって、たったあれだけで……」
「確かめておく必要は……確かに、あると思う」
「でもあんないきなりぐったりしちゃうなんてダメでしょどう考えたってっ」
「でも。こうやってすぐに戻れる訳だし」
「それでもよッ」

 あの黒女――姉さんにとんでもない事を試させて!

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 黒冥月様にはいつも御世話になっております。
 今回も続きの発注有難う御座いました。お待たせしました。

 内容ですが……零とエヴァ側に任せると大体真面目にやります(笑)。遊び必須とでも言い聞かせない限りは。はい。あと結果の描写は最後の通りです。どうも相当に耐性無かった様ですが、詳細が必要でしたら次回にと言う事で。
 あと怪しい組織ですが――練り過ぎると無駄に膨らむ気しかしないので、極力抑えてみました。
 如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 今回お受けしている間に残り期間も少ない事になってしまいましたが、続きの機会を頂ける事がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年04月27日

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