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『魔法じかけのタマゴ』
吉野 煌奏la3037)&加倉 一臣la2985)&月居 愁也la2983


 眠たげな柔らかな色の青い空。
 ぽかぽか陽気に、目覚めかけた人も二度寝しそうな春の朝。
 今年のイースターは、絶好のお出かけ日和になった。
 多くの人々がそぞろ歩きながら向かう先は、緑も眩しい公園だ。
 公園を取り巻く植物モチーフの柵は、ピンクや水色や白のリボンで飾られている。
 かけられた横断幕には『HAPPY EASTER!』のポップな文字が躍っていた。
 
 家族連れの多い流れの中、多少違和感のあるふたり連れも混じる。
 ナイスミドルと呼ばれてもおかしくないヒゲ男ふたりが、小ざっぱりとおしゃれして楽しげに歩いていた。
「いやあ、こんなお天気になるなんて、やっぱり日頃の行いがいいってことだよな!」
 月居 愁也(la2983)はキャスケットの庇を親指で軽く持ち上げ、空を仰ぐ。
「まあその辺りはともかく、強運だけは間違いないってことで」
 やんわりと肯定を避けた加倉 一臣(la2985)の笑顔が、不意に引き締まる。
「え? あれ? 俺、時間間違った?」
 一臣は公園の入口に立つ人物を目にすると、薄手のスプリングコートの裾を翻して足を速める。
「え? え? 30分前には到着するように家を出てきたはずだけど……」
 愁也も一臣と共に、小走りに近いスピードで歩き出した。

 公園の入口では淡桃色の豊かなロングヘアを風に揺らす吉野 煌奏(la3037)が、笑顔で手を振っていた。
「「ごめん、待った!?」」
 男ふたりがほぼ同時に声を上げたことに、煌奏は思わず噴き出す。
「大丈夫ですよ? 少し早く着いたのです。でも早く小父様たちに逢えたから、デートが長くなってラッキーです♪」
「そうだよな! うんうん、早く来てよかったよ!」
 愁也が嬉しそうに目じりを下げる。
(ほんと、嬉しいことを言ってくれるよなあ)
 一臣は胸元に片手を当て、軽く腰をかがめた。
「ではお姫様、参りましょうか」
「ふふっ、今日はおもいっきり楽しむのですよ♪」
 3人は足取りも軽く、公園へ入っていく。

 煌奏とは実際は親子といえるほど年が離れているが、一臣と愁也のナイスミドルふたりは気ままな独身貴族のせいか、随分若々しく見える。
 煌奏はふたりを「小父様」とよんでいるが、血縁関係はない。
 だが下手な親戚なんかよりも、ずっと心を許せる間柄だ。
 何か下心のある相手なら、すぐにわかる。
 だけどふたりはただ煌奏が笑顔でいることを喜び、一緒に過ごす時間を楽しんでいる。
 煌奏も彼らと一緒に居るのが楽しいし、ふたりがあれこれと気遣ってくれるのも心地よい。
 ふたりには自分の欲しいものをねだることを遠慮しないし、ふたりがくれるプレゼントは素直に受け取ることができる。
 今日も以前プレゼントしてくれたアクセサリーをつけてきた。
 似合うとくれたものを身につけていると、「小父様」は嬉しそうにするからだ。



 人の流れに導かれるままに歩いていると、カラフルな屋台のテントが並ぶ広場に着いた。
 卵や砂糖の甘い匂いと、醤油やソースの焦げる匂いが、風に乗って漂ってくる。
 広場で一番大きなテントには『フラワーガーデンdeイースター 〜卵を探せ!』の文字が躍っていた。
「たくさん隠しましたから、がんばって見つけてくださいね!」
 ウサギの耳をつけたガイドから、小さな籐籠をひとつずつ受け取る。
 どうやらイースターラビットということらしい。
 煌奏は籠に入っていた簡単なルールブックを広げた。
「この公園の、このエリアにイースターエッグが隠してあるのですね。エッグの中には……くじが入っているみたいです」
「え、何、当たり付きなの!?」
 俄然やる気を見せる愁也。
「屋台で使える引換券か。お、なんかバルっぽい屋台もあるけど、あれも入ってる?」
「入ってる入ってる! よーし、運動の後の一杯を引き当てるぞ!!」
 ナイスミドルは小さな籠をさげて、きょろきょろとあたりを見回す。

「たくさん隠したって言ってたけど、この人数だからなあ……」
 一臣が家族連れやカップルでいっぱいの広場を見渡して、思わず苦笑いを浮かべた。
「臣小父様は高いところを探すといいのですよ。煌奏さんは目の高さから下を探します♪」
「あったまいい! じゃ、俺はその隙間だな……と、みっけ!」
 さっそく愁也がひとつ発見。
 緑色に黄色のシマシマ模様のタマゴが、樹の枝の分かれ目にちょこんと乗っていたのだ。
 まさに一臣と煌奏の視線の隙間だ。
「お、幸先いいな。どんどん見つけようか!」
「その前にっと。何が入っているかなあ?」
 愁也が子供のように目を輝かせて、いそいそとタマゴを開けてみる。
 プラスチック製で、ねじって開くようになっていたのだ。
「んーと……おい、そんなのアリか!?」
 中から出てきた紙片を開くと、ウサギがウィンクしているイラストのとなりに、大きく「ハズレ」と書かれていた。
「ははっ、愁也らしいな!」
 一臣が笑いながら、紙片を手に唸る愁也の姿をスマホで撮影。
「でもハズレは、エッグランタンを作る材料と引き換えらしいのです」
「え、ほんと? じゃあ可愛いエッグランタンを作って煌奏ちゃんにプレゼントするからな!」
「じゃあ煌奏さんは、愁也さんのためにビールの引換券を当てますよ♪」
 煌奏の目が、獲物を探すハンターのそれになったのは気のせいか。

 こちらのベンチの陰、あちらの花壇の縁。
 カラフルなタマゴはかくれんぼを楽しむように、ひっそりと見つけられるのを待っていた。
「どうやって、ここに、置いたんだ……!」
 一臣が思いきり手を伸ばして、池の噴水の彫刻に置かれたタマゴを掴もうとする。
「え、これって押すなよ押すなよって奴? 振られたネタは拾うべき?」
 愁也がワクワクしながら、一臣の背中にそっと手を置く。
「愁也くーん、幾つになったのかなあ? わ、うそうそ、手を貸して、お願い!!」
「いいけど。そんなところに置いてあるのは、絶対にハズレだと思うぜ? だって子供とか、危ないじゃん?」
「……もっと早く言ってほしかったかな……」
 愁也に引っ張ってもらいながら、一臣はどこか遠いところを見る目でタマゴを掴んでいる。
 子供の遊びは、大人を子供にしてしまう遊びでもある。
 煌奏はそんなふたりを、楽しそうに眺めていた。

 一臣が苦労して手に入れたタマゴだったが、やはりハズレ。
「これって本当に、当たりは入ってるのかね?」
「さっき屋台に走っていってる子供がいたからなー……だいたいこういうのは、子供目線になれば……ほーらな!」
 しゃがみ込んでいた愁也が、ニヤリと笑う。
 古いタイヤを地面に埋め込んだ遊具の陰に、紅白水玉模様のタマゴを見つけたのだ。
 だが手を伸ばした先に、小さな女の子が同じところを覗き込んでいるのが見えた。
 愁也は伸ばした手をわざと違うほうへ振り、四つん這いになって辺りをきょろきょろ。
「いやーなかなか見つからねえな!」
 鼻歌交じりの声に、女の子はちょっと迷った後で、水玉タマゴに手を伸ばす。
 それから中身を確認して歓声を上げた。
「ふふーん、俺に惚れるなよ?」
 走り去る後ろ姿に、軽く手を振って見送った。



 2つずつ程見つけた辺りで、タマゴ探しはいったん休憩。
「愁也さん、ほら!」
 煌奏は宣言通り、見事ビールの引換券をゲットしていた。
「おーいいねいいね、早速ビール飲んじゃお☆ 煌奏ちゃんは何食べる?」
「春は苺がおいしい季節です♪ 煌奏さんクレープが食べたいです、苺マシマシの!」
「よっしゃ、任せとけ!」
 昼どきとあって、屋台のエリアは人でごった返していた。
 愁也は素早く空席を見つけると、煌奏を座らせる。
「煌奏ちゃんは座席の確保な!」
「えー愁也くん、おじさんもこれ食べた〜い♪」
 煌奏の前に座った一臣が、当たり券をぴらぴらさせて、上目遣い。
「ぐえーおっさんのおねだりは可愛くねえー!」
 そう言って笑う愁也だったが、一臣がそこに座を占めた理由はわかっている。
 こんな人混みに、目立つ容姿の煌奏をひとりで置いておく気にはなれないのだ。
 もちろん、おねだりというのは冗談で、ちゃんと一臣から折半分の軍資金は手渡されている。
「んじゃちょっと行ってくるよ」

 愁也を見送り、一臣は穏やかな笑顔を煌奏に向けた。
「いやぁ、春はいいもんだね。おじさんたちの故郷は冬、雪に閉ざされるから春は解放感があるよ」
 ソメイヨシノは散りかけていたが、木には八重桜、花壇にはチューリップにパンジー、アネモネ。その他にもカラフルな草花が笑うように咲きそろっている。
 うららかな日差しをいっぱいに受けて、まさに春を謳歌しているようだ。
「でも雪も綺麗ですよ?」
「うん、綺麗だね。怖いほど真っ白で、とても綺麗だ」
 そうして他愛のない会話をしていると、愁也が戻ってくる。
「ほいイベリコ豚串、それからたこ焼き!」
「お、サンキュ。……って、また行くの!?」
「全然足りなくね? てか、ビールまだだしな! あ、クレープは今焼いてもらってるから!」
 慌ただしく、愁也はまた人混みに消えていく。
 サービス精神が旺盛と言おうか、じっとしていられない性質らしい。

 やがてビールとクレープとフレンチドッグを乗せたトレイを持って戻って来た。
「フレンチドッグに砂糖は、絶対に必要だよなあ!」
 がっかりした顔で、一臣に同意を求める。
 地域限定の食べ方に慣れていると、物足りないのだ。
「美味しいのにもったいないねえ。さて、では乾杯と行きますか!」
 愁也と一臣はビールを、煌奏は苺ソーダを前に。
「乾杯!」
 賑やかにあれこれつまみながら、お手軽ピクニック気分だ。
「せっかくの公演だからね、花見酒を堪能しないと……」
 一臣がさも美味そうに喉を鳴らして、ビールを飲む。
「花がなくても飲むんだろ?」
 愁也がまぜっかえすと、すました顔で2杯目に。
「いやいや花も愛でますし」

 暫く飲んで食べて、タマゴ捜索の苦労話に花を咲かせていたが、愁也がふと時計を見る。
「あ、そうだ。この後、エッグランタン作るんだっけ?」
「ハズレタマゴは全員分あるのですよ♪ 臣小父様はこういうの上手そうですね」
 そう言われれば、張り切らざるを得ない一臣だ。
「もちろんですとも! 最高のエッグランタンをお姫様に献上しますよ!」
 委細承知とばかりに、ウィンクで請け合うのだった。



 ワークショップの講師の指導もあり、エッグランタンはなかなかの出来栄えになった。
 なお、一臣のランタンが講師もびっくりの出来だったのは言うまでもない。
「ま、加倉さんほどじゃないにしても、俺のも結構いい出来じゃね?」
 愁也が満足そうに、出来上がったランタンを眺める。
 光を受けてキラキラ光るエッグランタンは、明かりを入れれば優しく穏やかに部屋を照らすだろう。
 愁也は優しい時間を思い、目を細める。
「よし、じゃあこれは壊さないように持って帰るとして。煌奏ちゃん、これ」
「なんですの?」
 愁也に手渡された、手のひらに乗る小さな箱に、煌奏は小首をかしげる。
「さっき見つけたんだ。開けてみて!」
 出てきたのは、鳥籠ごのように繊細な細工の、金属でできた卵型の小物入れだった。
「とっても綺麗です♪ お部屋に飾りますね。ありがとうございます、愁也さん」
「どういたしまして! 気に入ってくれたんなら嬉しいよ」
 女の子が嬉しそうにしていると、見ているほうも嬉しくなる。
 愁也は満足だった。
「じゃあ俺からは、これを。お姫様のブーケだ」
 一臣はフリージアの花束を差し出す。
 あどけなさ、純潔、親愛の情。
 煌奏にプレゼントするにはぴったりの花束だった。
 白に黄色、オレンジが優しく揺れると、甘い香りが立ち上る。
「いい香りです♪」
 女の子が花を抱えていると、見ているほうも嬉しくなる。
 一臣は満足だった。
 ――つまりはこのふたり、お姫様をもてなすのが楽しくて仕方がない訳だ。

 だがお姫様のほうも、それだけでは済まないのだ。

 一臣が籠を返しに行こうとして、タマゴがひとつ残っているのに気付いた。
「あれ? こんなタマゴ、見つけたっけ」
「え、何。どうしたの? って、俺のにも入ってる」
 愁也も自分の籠に見慣れないタマゴを見つける。
 ふたりはそろって、それぞれのタマゴを開けてみた。
 そしてほとんど同時に顔を上げ、それから煌奏を見て笑いだす。
「いつの間に?」
「秘密です。なんたって、煌奏さんは魔法が使えるんですからね」
 すました表情の中、アップルグリーンの瞳が悪戯っぽくきらめいた。
 一臣のタマゴに入っていたのは「煌奏さんとデパートデートできる券」。
 愁也のタマゴに入っていたのは「煌奏さんと喫茶店デートできる券」。
 少し早めに会場にやって来た煌奏は、これを用意していたのだ。
 密かに自分のポケットにふたつのタマゴを隠し持ち、ついさっき、そっと籠に入れておいたもの。


「最後にすごいプレゼントを貰っちゃったね」
 一臣がちょっと大げさに一礼。
「ご指名光栄です、お姫様。いつでもお申し付けください」
「俺は明日でも大丈夫だからね。苺パフェの美味しい店のチェック、任せといてくれよ!」
 愁也も負けじと胸を張る。

 魔法のかかったタマゴは、明日も続く幸せの約束。
 そっと開いてみれば、素敵な何かが飛び出してくるに違いない。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

またのご依頼、有難うございます。
せめてノベルの中では、平和に賑やかに、イースターエッグ探しをお楽しみいただけましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
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2020年04月27日

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