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『魔法のフィルムと倉庫番』
ファルス・ティレイラ3733

 郊外に位置する倉庫エリアに、魔法道具を専門に保管する大きな倉庫が存在した。
 主に通販用に量産されている商品であり、フォークリフトが数台入らないと動かせない木箱ばかりが並んでいる。
『よい……しょっと!』
 紫色の竜が、そんな声を上げながら木箱を所定の位置へと移動させている。ファルス・ティレイラ(3733)が本来の姿になり、奮闘しているのだ。
 魔法道具専用の特別製フォークリフトが故障してしまい、修理に時間を世するためにティレイラへと依頼が回ってきたらしい。
 少女の姿では到底動かせないと判断した彼女は、素直に最初から竜の姿へと戻り、重い荷物を押したり引いたりを繰り返していた。
『えっと、これは上に上げるんだっけ』
 人が十人ほど入りそうな木箱を、軽々と持ち上げる。そうして倉庫の奥の、同じ色の箱へとその荷物を積み重ねた。そうしてそれを、数回繰り返す。
『……ふぅ、あとちょっと!』
 広い場所なので、自慢の羽を広げても誰にも迷惑を掛けない。
 そんな解放感からか、ティレイラの作業は思っていた以上に順調に進んでいった。

「ティレイラさん、今日は助かりました!」
 心底助かったと表情にすら現しながらそう言うのは、今回の依頼主であった。
 この倉庫に管理をしているらしいのだが、今日中に運んでしまわなくてはならない案件であったらしく、心の底から安堵しているようだった。
「……あっ、すいません、相手先に連絡入れないと」
『あ、どうぞどうぞ〜私の事はお気になさらず!』
 依頼主は慌てるようにしてその場を離れていった。数メートル先に事務所があるらしく、連絡をとらなくてはならないようだ。
 一人残された形となるティレイラは、作業中から気になっていた魔法アイテムへと視線を向けつつ、そちらへと移動した。
 見た目は梱包時に使われる保護フィルムだった。
 先ほどの依頼主に聞いてはいたのだが、魔法具専門の倉庫ゆえにこのフィルムも魔法で作られたものだ。
 ありとあらゆる衝撃から守るという機能性が優れたものでもあるらしい。
『見た目はただの透明な紙なんだけどなぁ……』
 そんな独り言を言いつつ、ティレイラは自身の前足の爪でそのフィルムを少しだけ引っ掻いてみた。
 線が付くどころか、何の変化も現れない。普通であれば竜の爪に触れれば、大抵のものは裂けてしまうというのに。
『……ほんとに、すごいフィルムなんだなぁ。だからここの商品は破損も無くて、評判もいいんだね……』
 強度の確認が出来たことに満足したのか、ティレイラはそれだけぼそりと言うと、くるりと踵を返して手前の立っていた位置へと戻ろうとした。その際、尻尾がフィルムの端に当たり、筒状であったそれが床へと転がってしまう。
『あっ、しまった……!』
 コロコロ、と数メートル先まで転がっていく筒状のフィルム。端がティレイラの尻尾の先に引っかかったままなので、フィルム全体が床に広げられてしまう状態へとなってしまった。
 ティレイラは慌てて芯のほうを拾いに行こうと、露わになったフィルムを踏んでしまう形で数歩を進んでしまう。
『……あれ?』
 何かに引っ張られる感触が足元からあった。
 ティレイラはその違和感にすぐに気が付き視線を下ろすも、次の展開までには予想が出来なかった。
 フィルムがティレイラの竜の足を包みだしたのだ。
『え、なに……私は商品じゃないよ……!』
 フィルムは瞬く間にティレイラの半身を包み込み、それで身動きが出来なくなった彼女は、広げていた翼を閉じて床に転んだ。
 翼を閉じたのは、他の商品に当たってしまうと思ったからだ。
『……ちょ、ちょっと……あぅ、まずい、まずいよコレ……!!』
 ティレイラはそう言いながら、もがいた。そんな彼女を無視する形で、フィルムはぐるぐるとティレイラの体を包むようにして巻き付いてくる。
 魔法具であるためなのか、おそらくはティレイラを『商品』と誤認してしまっているのだろう。
『うう、……ダメ、動けない……』
 翼も尻尾も巻き込まれ、ぐるぐると包まれていく過程でティレイラはそれなりに抵抗を試みた。
 だがそれはあまり効果的ではなく、体が転がる程度でしかなく、その間に彼女は目を回してしまう。
『……だ……誰か……』
 どたん、と大きな音を立てて、紫の丸みを帯びた物体が床に落ちた。
 綺麗に包まれてしまった、ティレイラ――紫の竜であった。
 口元までもが包まれてしまったがために、彼女はそれ以上の言葉を発することが出来なかった。
(うう……管理人さん〜〜早く戻ってきて……!)
 ティレイラが心でそう叫ぶが、無人の倉庫では響きにすらならず。
 倉庫の管理人が連絡先の主と話し込んでしまい、こちらに戻ってくるのはそれから一時間後となってしまうのだが、ティレイラはその間フィルムに包まれたままで放置されてしまうのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ライターの涼月です。いつもありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
またの機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年04月27日

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