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『千鳥の鞘に棲まうもの』
神取 アウィンla3388


 商業施設に取り残された民間人の救出を行なうことになった。広さに対してライセンサーの数が足りないが、応援を待っている暇もない。
「となると、助け出した一般人には、その場に留まってもらう方が安全だと思う。自力で出口に行ったとしても、万が一取りこぼしがあったら殺されかねない」
 アウィン・ノルデン(la3388)は少し眉間に皺を寄せながら言った。前には館内の見取り図がある。放送室を確保した一行は、救出・殲滅作戦を立てているところだった。
「つまり、各フロアの掃討は徹底せねばな。その前に、館内放送による要救助者への説明、敵の陽動が急務とみるが、どうだろうか」
「要救助者の居場所はどうします?」
「内線電話がある。もし手近に内線があるなら、それで放送室に掛けてもらうのが良い。ああ、わかっている。もちろん彼ら、彼女らが喋るのはまずい。しかし……」
 アウィンはこちらの世界に来てからのバイト経験から、一つの考えが浮かんでいた。内線電話を振り返る。ディスプレイがついており、発信元の番号がわかるようになっている。
「内線なら各機に番号が振られている。内線表があれば、それがどこからの発信かわかるはずだ。向こうは喋らなくて良い。コールさえしてくれれば。館内放送で要救助者に伝えてもらい、どこにある内線からかかってきたかを各階担当者に伝えてほしい」
 彼の案は受け入れられた。一階にある放送室には別の仲間が入り、敵の掃討にライセンサーが入ること、危険がないならその場から動かないこと、居場所を特定するために、手に届く所に内線電話があるなら放送室にコールして欲しいこと、話さなくて良い、内線番号から特定することを伝えた。
 狭い屋内に放たれるなら、小柄なマンティスかそれに類するものだろうと言う予測が立てられていた。恐らく、ワンフロアに複数体いる。
「私は元々範囲攻撃が可能だ。上が済んでも、下の安全が確保されずに下りられない事態は避けたい。下方の階を担当しよう。終わり次第上に合流する」
 階の分担を決めて、ライセンサーたちは受け持ちに向かった。


 アウィンがそっと三階の婦人服フロアに足を踏み入れると、天井のスピーカーに飛びついているマンティスが複数見えた。知能が高いとは言えない個体群らしい。鎌が網目状のカバーに突き刺さり、音が割れる。それっきり、そのスピーカーから音がすることはなくなった。ハンガーラックの影に身を潜めて様子を窺う。その時、放送室の仲間から連絡が入った。三階フロアの要救助者はレジの裏、従業員室の番号から内線をかけてきている。他に一般人が隠れている可能性がゼロではない。早急に倒してしまおう。
 その時、スピーカーに飛びついたマンティスの鎌が電灯を叩き割った。少しだけフロアが暗くなる。アウィンはハンガーラックの影から立ち上がると、雷刀・千鳥を抜いた。
 頭上が暗くなり、横から鋭い紫の光は感じやすかったことだろう。マンティスたちの注意がアウィンに向いた。抜刀の勢いで、刀身の輝きが放たれた、ようにも思えた。
 一直線に冥府の沼がマンティスたちの足元に敷かれる。抜刀からの勢いで、ぴたりとまっすぐに切っ先を向けると、それを合図にして沼から幻影の刃が次々と放たれた。マンティスは何が起こったかもわかっていないのだろう。下手な悲鳴を上げた。貫かれたものの鎌が、首が吹き飛んだ。胴体を両断された個体もある。アウィンが納刀すると、沼は消え失せ、後にはマンティスの残骸だけが残った。


 騒ぎを聞きつけて、フロアの反対側にいた数体がこちらに向かって来た。ハンガーラックをなぎ倒し、飛び越え、大きな鎌状の腕を振りかざして向かってくる。
 アウィンは相手から目を離さないまま後ろに下がった。下がって、下がって、下がり続けて……やがて壁に背中が付く。袋の鼠と見たマンティスたちは、高い雄叫びを上げて鎌を振り上げた。それと同時に、彼は再び抜刀する。相手は咄嗟に、鎌を前に出して防御の体勢を取ったが、千鳥の刃はそれを叩き切るようなことはしなかった。
 ギリギリ触れるか触れないか。鍛錬の成果がなせる業。アウィンは千鳥を寸止めにしている。先頭のマンティスが不思議に思ったのか、鎌の下からこちらを見た。後続のマンティスたちも戸惑っている。
 千鳥の刀身が、今度は青白く燃え上がった。アウィンの眼鏡に反射して、相手からは彼の目が塗りつぶされたように見えただろう。
 同じ色に燃え盛る狼が吠える。もう、相手には避ける間もない。一直線に、マンティスたちを巻き込んで燃やして行った。利口な狼は蟷螂だけを焼き尽くして、商品には一切傷をつけなかった。アウィンは千鳥をきっちり鞘に戻すと、一通り見て回り、
「こちら三階。敵の掃討は完了。これから要救助者に待機を伝える」
 今すぐ手が必要な階はないようだ。アウィンは千鳥を鞘に納めると、レジの中に回り込んだ。


 丁寧にノックを四回。少し待ってから、
「ライセンサーだ。失礼する」
 声を掛けて、ドアノブを捻る。中では、施設の制服を着た女性が口を押さえて震えていた。外でひっきりなしにしていた破壊音に怯えていたのだろう。アウィンは部屋の電灯を付けると、安心させるように、
「SALFのアウィン・ノルデンだ。もう大丈夫。この階のナイトメアは掃討した。建物全体の討伐が済むまで、もう少しここで待ってもらいたいのだが、大丈夫だろうか? 怪我や体調不良は? 処置や投薬が今すぐ要る持病などあれば下まで送って行く」
 相手はこくこくと頷いて、怪我はないことを伝えた。持病もないが気分は少し悪いと。相当怖かったのだろう。当然だと思う。アウィンは相手の背中をさすって、パニックから脱するまで待った。
 やがて、相手は落ち着いた。また何かあったら放送室に内線をかけるように、SALFの人間なら名乗る筈だから、それ以外が扉を触っても開けないようにと言い渡す。相手はアウィンの冷静ながらも親切な態度に落ち着きを取り戻し、また信頼したようで頷いた。

 他に隠れている人間がいないことを確認してから、一階の仲間に連絡を入れた。
「こちら三階。今要救助者に説明して待機してもらっている。また全員に伝達。三階の掃討は完了。ひとまず安全だ。他の階で応援がいるところは?」
 七階からヘルプを頼まれた。アウィンは了解を伝えると階段を駆け上がって行った。

「本当に三階から来たんですか?」
 七階担当者は顔を合わせるやそう言い放った。
「どう言う意味だ?」
 アウィンは目を瞬かせて問い返す。四階分上がったのに、大して息が切れていない、というのがその理由らしい。
「鍛錬の成果だろう」
 アウィンは眉を上げて告げると、千鳥を抜き放ってデモンズブレイドを発動。新たな獲物を見つけて走って来るマンティスたちを正面から迎え撃ち、ズタズタに切り裂いた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
アウィンさんに千鳥を振り回して欲しい一心で書きました。
個人的に、アウィンさんって作戦立案がすごい似合いそうだな……って思っちゃったりしています。地図とか見取り図を広げたテーブルの上に手をついて周りを見回しながら提案する絵がすごく似合いそう。そういう感じで冒頭部分描写させて頂きました。
設定等から色々超解釈してしまっていますがいかがでしょうか。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
おまかせノベル -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月27日

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