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『永遠の白姫』
銀 真白ka4128

 王国歴1207年3月 エトファリカ連邦国十鳥省
 人の身には長い年月が経過し、歪虚との決戦が過去の伝説となったこの時代に、銀 真白(ka4128)はこの世からひっそりと旅立とうとしていた。
 十鳥城と城下町は歴史的文化財に指定され、今は連邦国の守護神ともシンボルとも言える黒龍の居住地となっている。
「封印の術式は既に作動している。貴女に残された時間は僅かだろう」
 巨大な黒龍が祭壇の上に横たわる一人の女性に告げた。
 白無垢に包まれた真白の手には『十翼輝鳥』が握られている。
 生きる伝説となった彼女は東方の地の繁栄を見届けた。歴史の表舞台に立つ事は無かったが、それでも影で多くの人々を支え続けたのである。
「見送りもない寂しい最期だが、本当に良いのか?」
「構わない。私がやるべき事は全て終わった」
 真白は瞳を閉じたまま黒龍の確認に答える。
 “お別れ”は既に済ましているのだ。それに……見送りしてもらう訳にもいかない理由があった。
「我の伴侶となって星が滅びるまで永遠に生きる事も出来るというのに」
 どこかしら、寂し気な黒龍の言葉。
 精霊である黒龍には寿命という概念がない。真白が『十翼輝鳥』に望めば、それも叶う事だろう。
「『十翼輝鳥』は持ち主の願いを叶える力がある。けれど、これは使い方を誤れば極めて危険な力。私があの世に持っていく」
 それこそ国一つを大混乱に陥れる事もできるだろう。多くの人々に不幸を呼び込むリスクがある事を知っていたからこそ、古代人は十鳥城の深層に『十翼輝鳥』を隠していたのだから。
「その覚悟は承知しているが……正に、永遠の白姫という事か」
 祭壇の周囲をマテリアルの淡い光が包み込み始めた。
 真白が旅立つにあたって最大の問題は『十翼輝鳥』の所有権だった。
 心無い人物の手に渡らないようにするには、所有権を真白に固定させたままが最も確実だと黒龍は提案し、真白はそれを受けた。
 つまり、魂の宿らぬ肉体のみを封印するという事だ。
 意識が徐々に薄まっていく感覚の中、真白はゆっくりと瞼を閉じる。
「……ありがとう。東方の守護神よ」
「気にするな、我が友、永遠の白姫よ。安らかに眠れ」
 こうして、真白は天界に向けて旅立ったのであった。
 この日、十鳥城の桜並木はいつもより暖かい天候の為もあって、満開だったという。


 桜の花弁が一面を覆っていた。一陣の風が駆け抜けると桜が舞い上がり視界の全てを染める。
 その中に一筋の鮮やかな新緑が流れ真白の腕を掠めていく。真白は無意識に手を伸ばして、それを確りと掴んだ。
「……思い出した。そうだ、私は……」
 掴んだ新緑は細長い布だった。所々、ほつれや痛み、染みがあって、周りの風景の中で異質ではあった。クイっと手にしている布が引っ張られる。まるで自分が釣り餌に掛かった魚のようだと真白は感じた。
 新緑色の布に案内されるように進み――だいぶと歩いた先で視界が開けると、そこには和装の礼服を着込んだ男性が姿を現した。彼が真白をここまで引き寄せたようだ。
「渡したっきりのものでしたので自信がありませんでしたが、よく、手にしてくれました」
 仁々木 正秋(kz0241)が安心した様子で告げると最後の距離を詰め、唐突に真白を抱き締める。突然の事に、もう年十年も発していなかった少女らしい声が漏れた。
「ひゃえ!?」
「唐突にすみません。理由は後で説明しますので、このまま……漆黒が駆け抜けるまで、このまま」
 途端、桜色の世界が暗闇へと変貌した。
 ガシャガシャと不気味な音を立てて冥界へと至る階段が交差する間、真白は自身の身体を正秋に委ねる。
 あの音は地獄に落ちる何かなのだろうと直感が働いた。
 耳元のすぐ傍で鳴り響く不気味な音を聞くまいと正秋に顔を埋める。
 どの位の時間が経過しただろうか。揺れと音が消え、暖かい光に満ちてきた所で正秋が腕に込めた力を緩めた。
「望まぬとはいえ、星の力を強制的に使ったのですから、地獄に落ちる可能性もあった訳で……この様子だと、大丈夫ですね」
「……もう少し、このまま」
 顔を埋めたまま、正秋の服をギュッと掴みながら真白は呟くように言った。
 色々な想い出が過っていく。楽しかった事も辛かった事も。
 悔しくてどうにもならない事も、ひたすらに前を向き続けた事も。
 気が付けば、大粒の涙が次から次に溢れてきて、正秋の服を濡らしていた。自分と彼らの分まで生き続けた年月は、覚悟していたが、やはり長かった。
 その長い旅路の果てに待っていた人が、この人であった事、それが真白は嬉しかった。
「……っあ。申し訳ない、正秋殿! 折角の礼装を」
 ふと我に返り、慌てて離れる真白。
 だが、正秋は真剣な表情のまま首を横に振った。
「大丈夫です。むしろ、この装いで来て良かったと思っています」
「なぜ?」
「真白殿も白無垢なので」
 指摘されてハッとなる真白。
 気が付かなかった……というよりかは、認識していなかった。
 最後の時の服装そのままだとは思っていなかったからだ。
「これは、嫁ぎにいく訳ではなく、封印の儀式の都合上の事で」
 なぜ慌てて言い訳しているのか自身でも分からないままの真白。
「いえ、そうではなくて……真白殿」
 そう言ってから正秋は姿勢を正すと深呼吸した。彼が緊張している様子が手に取るように真白にも分かる。
 真っ直ぐに真白を見つめて正秋は告げた。
「十鳥城の事、東方の事。ありがとうございました。沢山の事を真白殿に背負わせてしまった。これからは、拙者も……ずっと一緒に。そう思って迎えに来ました」
 改めて差し出された正秋の手を真白は確かに握った。
「正秋殿がよければ……」
「それでは行きましょう。皆、待っていますから」
 再び桜の花弁が舞い始めた中で、二人は手を繋いだまま歩き出す。
 “あの時”握る事が出来なかった手を、もう二度と離れないように確りと。
「『十翼輝鳥』は?」
「あそこに飛んでいますよ。あれが本来の姿……なのでしょう」
 真白の質問に正秋が指差した先、十の翼を持つ輝く鳥が、ぼんやりと光る大空を舞っていた。
 石畳を歩く二人を祝福しているのか『十翼輝鳥』が光の塵を残していった。
(これも、私が望んだ事なのだろうか? それとも、星の意思なのだろうか?)
 そんな事を思いながら、真白は遠くに向かって飛翔していく『十翼輝鳥』を見送った。正秋も同じように見つめながら、真白に告げる。
「父上から古い言い伝えを聞かされた事がありました。十鳥城には、希望を司る、十の翼を持つ輝鳥が住み着いていると……伝説かと思っていましたが、本当だったのですね」
 その伝説に、永遠に眠り続ける姫という事が付け加わる事になるのだろう。
 感慨深いものがあるが、伝説に変な誇張がされない事を祈るばかりだ。
「……ところで、正秋殿。『皆』とは?」
「拙者達の友だけではなく、父上も帝も、真白殿のお身内も含めて『皆』です。ご報告にはちょうどおあつらえ向きの服装ですし」
 正秋は一世一代の事をやってのけたような清々しい表情を浮かべていた。それの意味する事を改めて思い出すと急に気恥ずかしくなる。
 その為、参進する新婦のように、しおらしく俯く真白であった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
白無垢の真白ちゃん、絶対可愛いと思うんですよ。でも、口調はそのままだろうから、なんだろうギャップ萌え?
やたら正秋が積極的かもしれませんが、これはあれです。瞬とか先に天国に来た友人達が、けしかけた事だと思う事にしています。
いくらおまかせノベルでもここまで描いてしまっていいのだろうか……そんな葛藤の中にいます! でも、機会いただけて感謝ばかりです。


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2020年04月27日

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