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『漢、煌めく』
ジャック・J・グリーヴka1305

「成金のおっさんなんかに用はないよ!」
 案内された部屋に入るなり、小娘から罵声を浴びせられるジャック・J・グリーヴ(ka1305)。
「なんだ、このクソガキは?」
「クソガキじゃないもん!」
 手負いの獣のように吠える女の子。
 見れば着ている衣服はボロボロで、腕や足には痣だらけだ。
 一方のジャックといえば、いつもの黄金鎧に身を包み、ジャラジャラと装飾品が音を立てている。
「えと……アルテミスで保護した女の子で……サリちゃんと言います」
 後ろから紡伎 希(kz0174)が説明する。
 振り返ったジャックの眉間には、これ以上ないほど、皺が寄っていた。
「ほぉ? サオリたんの名前を騙るクソガキだとぉ?」
「サリちゃんです。ジャック様、そんなに怖い顔すると、女の子が逃げますよ」
 歴戦の強者である彼に対して希は言い返すと、グイっと一歩踏み込む。
 希の勢いに負けた訳ではないが、希が一歩近付く度にジャックが一歩後ろに下がる。
「なんで、私から逃げるのですか? ジャック様!」
「い、言わせんなよ、そんな事!」
 出逢った頃はこのクソガキのようなガキんちょが、最近はすっかりと大人な女性になるのだから、人の成長とは恐ろしいものだ。
「アルテミスで保護したなら、俺様は関係ねぇーだろーが」
「困った案件なので、ジャック様にお願いしようとしたのです」
「アタシは別に困ってないよ。そのおっさんにアタシを売るつもりでも、アタシは嫌だからねっ!」
 サリという名の幼い女の子は生意気な口調で力強く告げた。
「あん? 俺様だって、クソガキに興味はねぇよ!」
「どうだか、成金野郎の言う事なんか信じられるもんか! 無駄に眩しーんだよ、禿げ!」
「禿げてねぇし!」
 今にも額と額がぶつかりそうな勢いで向き合うジャックとサリ。
 ふんっ!
 っと、お互いが背を向けるので苦笑を浮かべる希。
 ジャックは不機嫌なまま部屋から出ると、事務所に置いてあるソファーにどんと座る。
 ここはアルテミスの王都支部だ。人々の救済を目的に設置されたこの団体に、ジャックは活動資金を提供していた。
「火急の用ってコレかよ」
「申し訳ございません……他の者は全員、出払っていて……ジャック様にしか頼れずに」
「全くだぜ。だいたい、てめぇも覚醒者だろう。自称保護者って奴が押し込んできても大丈夫だろうに」
 サリという女の子は王都の外街区に作られたスラム街に住んでいた。
 酷い虐待に遭っているという話でアルテミスが保護したのだが……。
「……私は……幼い頃、虐げられて育ちました……今、目の前でサリちゃんに何かあったら、私……我慢できる自信がなくて……」
 僅かに拳を振るえながら告白する希の台詞に、ジャックは舌打ちする。
 覚醒者だからこそ、手加減が必要な時がある。怒りのまま力を振るえば、一般人など木端微塵だろう。
「保護施設に移送手続きが完了するまで、ここに居りゃいいんだろ」
「ありがとうございます! ジャック様!」
 深々と頭を下げる希。
 胸糞悪い話は珍しい事ではない。人が生きている以上、何かとあるものだ。
 ジャックと希のやり取りを部屋の扉の影からチラっと覗いていたサリと目が合った。
「……ったく、子守屋じゃねぇーぞ、俺様は」


 手続きの為、希が外出し、事務所には幾人かの事務員とジャック、サリという女の子が残った。
 ふと、鎧の汚れが気になったジャックは、鎧を外すと乾いた布を取り出して、磨き始める。
 遠目からサリが言って来た。
「そんなに磨かなくても綺麗じゃん」
「馬鹿言え、磨くから輝くんだっつーの」
 無駄に勝ち誇った様子で応えるジャックが気に入らなかったのか、サリが口を尖らした。
 金持ちの道楽とでも思ったようだ。
「そんなシコシコしちゃって」
「シコシコしてねーし!」
 そんなやりとりに事務員がクスっと笑う。
 ギロリとジャックが視線を向けると――事務員達は一斉に仕事に戻る。
 静かになった空間。暫くの沈黙の後、サリがボソリと呟いた。
「……ねぇ。お金があれば、そんな風に光るの? アタシ……どんなに頑張っても、光れ……ない、よ……」
 その声は可細かったが、確かにジャックの耳に入っていた。
 サリの様子を見れば何があったのか、大方、見当はつく。スラム街では、それこそ珍しい話ではないだろう。
 だから、ジャックは慰めの言葉も励ましの言葉も掛けなかった。
 それがこの子にとっては何の役にも立たないと、知っていたから。
 鎧を磨く音がただ響く静寂は前振りも無く唐突に終わった。事務所の扉が勢いよく蹴破られたからだ。
「おらぁ! うちの商品、返して貰うぞ!」
 如何にも柄の悪そうな大男だった。
 ジャックが立ち上がるよりも早く、大男は事務員一人の胸倉を掴んだ。
「ここに居るって話は聞いているぞ! さっさと出せよ!」
「待てよ!」
「なんだてめぇ、用心棒か? だが、間抜けだな。鎧を着てねーとは」
 大男の手には小型のダガー。隠し持ちが出来るサイズのものだ。
 場慣れした雰囲気がするが、ジャックからすればそれだけだ。正直、政争相手の貴族の方がよっぽど手強い。
 掴んだ事務員の首元に刃を当てる大男。
「早く出せって言ってんだろうが!」
「ば、馬鹿をいう、な……」
 恐怖を感じながらも事務員が答える。
 その様子に奥の部屋から様子を見ていたサリが飛び出して来た。
「アタシはここに居るよ! だから、その人を離して!」
「いるじゃねぇかよ。手を掛けさせるんじゃねぇ。さっさと出ろ」
 大男の言葉に健気にも震える足を一歩一歩と進ませる少女。その眼前にジャックは立ち塞がった。
 サリはジャックの背を見つめながら目をパチクリとさせ、気に入らないように大男が叫ぶ。
「なんだてめぇ! 死にてぇのか? それとも、人質が目に入らねぇのか?」
 脅しを聞きもせずに、無防備な状態でサリの前に立ち続けるジャック。
「サリ、よく見ていろ。てめぇの知っている世界は糞かもしれねぇーがな……それでも、輝けるって事をよ」
「いや、おっさん。鎧が……」
「分かってねぇーな。鎧が光っているんじゃねぇ……煌めいているのは俺様だ!!」
 直後、ジャックの全身が輝く。
 圧倒的な光に大男はジャックを注視する事しかできない。
「いい大人がガキを使ってるんじゃねぇ!」
 ドンっと力強く踏み込み、事務所が揺れると同時に、ジャックの鋭い右ストレートが大男の顎に的確に入った。
 勝負は一瞬。その一撃で終わった。大男は白目を剥きながら音を立てて崩れ落ちたのだ。
「す……すごっ! おっさん、凄い! ただの成金じゃない!」
 衝撃的な結末にサリがジャックの背に飛びついた。
「俺様の輝き、目に焼き付けたな?」
「うん! ちゃんと!」
 一件落着ではないかもしれないが、幼い女の子の瞳に光が宿ったのをジャックは見逃さなかった。きっと、この女の子にも輝く時が来るはずだ。
 その時、手続きから希が戻ってきた。
 倒れている大男と幼い女の子に抱き着かれているジャックを見て、事態を察したようだ。
「……ジャック様、いつからロリコンになったのですか?」
「俺様はロリコンじゃねぇぇぇ!!」
 黄金騎士の叫び声が響き渡るのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
構成練りながらキ○メ○ジャーを見ていたら、これってジャック様じゃねぇ? 煌めくってジャック様しかないっしょ! ジャック様、マジピッカピカ! あとね、やっぱり、弩カッコいい。人質取られても慌てない所とか、鎧なしでも気にしない所とか、キリっとしながら「煌めいているのは俺様だ!!」とか、色々、ヤヴァイ。そんなマジヤバを描けて、私は大満足です! もう自分で何が言いたいかよく分からないけど、そんな感じっす!


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2020年04月27日

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