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『海賊になるということ』
ミハイル・エッカートla3184

 ミハイル・エッカート(la3184)のナイトメアに対する感情は、激しいものだ。
 元々は一般の会社に就職していたものの、ナイトメアの登場により倒産。金銭的な事情から再就職する事になったが、あのナイトメアが現れなければ人生設計が狂う事はなかった。

 ナイトメア、許すまじ。
 そういう感情を抱くのも無理からぬ事だ。
 だが、捨てる『道』もあれば拾う『道』もある。
 ミハイルは、まったく別の道を目指して歩き始めていた。

「……と、これで最後か」
 地中海周辺地域にてナイトメアの活動が活発化したと聞いたミハイルは、早々にナイトメア討伐依頼へ参加した。
 噂によれば欧州戦線はこれから反撃に討って出る。膠着状態を打開し、勢力図を一気に書き換えるつもりだというのだ。
 ミハイルにとってナイトメア討伐に繋がるならば、参加しない手はない。
 だが、今回の作戦には別の思惑があった。
「地中海。ここが有名な海賊達が犇めいていた海」
 依頼を達成したミハイルの前広がる海。
 ナイトメアによって会社が倒産したミハイルは、ある夢の実現に動き出した。
 かつて日本の子供向け特撮番組で放送されていた戦隊物。その中で主人公達が海賊という設定の物があった。
 一般的に海賊と言えば山賊や盗賊のような悪いイメージが持たれていた。
 言うなればアウトローとしての位置づけであり、その戦隊も海賊の汚名を誇りとして名乗っている。ミハイルからすれば一遍通りの正義ではない、海賊なりの矜持に強い感銘を受けていた。
 そして、気付けば『海賊になる』という突飛も無い夢を抱いていた。
「ピリー・レイス。ヘンリー・モーガン。キャプテン・キッド。
 数多の海賊が名乗りを上げ、名前を馳せていった。俺もいつか海賊に……」
「にゃ〜。海賊になるとは難儀な夢だにゃ〜」
「!」
 ミハイルが振り返ると猫型のヴァルキュリアが歩み寄っていた。
 この声、聞き覚えがある。
 ミハイルが以前、太平洋インソムニア『ルルイエ』攻略に対して中米西海岸に出没するナイトメアを討伐する任務に携わった際、作戦概要を説明していた。
 確か、ニャートマン軍曹(lz0051)と言ったか。
「盗み聞きとは感心できねぇな」
「聞くつもりはなかったにゃ〜。今回の依頼状況を確認する為に立ち寄ったらお前が勝手に話し出してただけにゃ〜」
 にゃ〜にゃ〜言う奇妙なヴァルキュリアであるが、こう見えてもルルイエ攻略主力部隊の指揮を執っていた存在だ。今回は欧州戦線の支援で北米から欧州へ転戦してきている。
「気が早いな。本部の報告を待てなかったのか?」
「SALFは大規模な作戦を準備しているにゃ〜。俺の海猫隊も作戦の魁となって敵地へ乗り込む必要があるにゃ〜。情報は少しでも早く入手したいにゃ〜」
「今回の依頼はそんなに重要なのか?」
 ミハイルは今回の依頼を思い返してみる。
 シチリア島南部周辺地域の調査。ナイトメアを発見次第、早急に撃破する事。可能であればあまり派手な破壊は起こさない事。
 やはり他の依頼同様、不自然な事は無さそうに見える。
「重要にゃ〜。ここの対岸はもうアフリカ。つまりナイトメアの支配地域が近いにゃ〜。作戦の初期段階を成功させて敵地に乗り込む為には、シチリア島周辺の安全確保が最優先にゃ〜」
 軍曹によれば今後アフリカ大陸に対する攻勢へ出る際、シチリア島に隠れていたナイトメアが後方から奇襲を掛けられる恐れもある。万一奇襲を掛けられなくても、アフリカ大陸にいるナイトメアに攻撃の情報を連絡されれば防衛戦力を固められる。確実に作戦を成功させる為には、今回の依頼は重要だったのだ。
「早速報告にゃ〜」
「シチリア島南部に潜んでいたナイトメアは残らず討伐した。現段階で周辺にナイトメアはいねぇよ」
「了解にゃ〜。これで海猫隊は安心してナイル川河口域へ進められるにゃ〜」
 そう言いながら、軍曹はミハイルの横に並び立つ。
 もう間もなく夕陽が地中海へと沈む。海面がほんのり紅く染まる。
「海賊、今でもなりたいのかにゃ〜」
「ああ。その為にも俺は足となる『船』を手に入れる。海賊にとって船がなけりゃ始まらないからな」
 ミハイルはキャリアーの入手を当面の目標としていた。
 海賊と言えば、相棒とも言える船だ。
 アニメでも宇宙海賊となれば自分の宇宙船を持っている。ミハイルも当面の目標は自分だけのキャリアーを入手する事。髑髏の旗をはためかせ、ナイトメアに文字通り悪夢を見させてやるのだ。
「ライセンサーは自由だにゃ〜。犯罪行為は許されにゃいが、その夢自体は誰も否定できないにゃ〜。俺もSALFにも海兵隊が必要だと上に訴えて海猫隊を設立したにゃ〜。
 海賊になるという夢、諦めなければきっと叶うにゃ〜」
 海賊になる。
 普通であれば笑われるような夢かもしれない。
 だが、軍曹はそれを笑う事はしなかった。
 むしろ、ミハイルの背中を押した。
「だといいがな」
「夢を叶えたければ、諦めない事にゃ〜」
 そう言い残して軍曹は踵を返した。
(夢を諦めないか。もう走り出しているんだ。海賊になる夢は、誰にも止めさせねぇよ)
 ミハイルの脳裏には、初めて海賊の戦隊を見た思い出が蘇る。
 アウトローで悪名を掲げながら、自分の決めた事を一切曲げずに貫き通す。それはナイトメアが現れる前だったら、決して真似ができない行為だ。
 単なる我が侭じゃない。誇りと自らに課した鉄の掟。それを背負う事が、ミハイルの目指す海賊の姿だ。

 ミハイルの前で夕陽は地平線へと消えていく。
 夜の帳が落ち始めれば、空には満点の星々が輝き始める。


おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月27日

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