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『黎明啓く魔女の魔法』
アルバ・フィオーレla0549


「いらっしゃいなの!」
【一花一会〜fortuna〜】の店先に、今日も朗らかな声が聞こえる。この店の店主であり、ライセンサーでもあるアルバ・フィオーレ(la0549)は今日も道行く人々に声を掛け、来店する客らへと声を掛ける。「花を買う」ということに慣れ親しまない人も多いグロリアスベースではあるが、アルバの花屋はまぁ、繁盛していると言って良い。それはアルバの人柄や、いつも絶やさない穏やかな笑みのおかげだろうか。売っている花の品ぞろえや、質が良いからだろうか。或いはその両方か。いずれにせよ、アルバの周囲には人の輪が花となって咲いている。その風景は、グロリアスベースの中で一つの風物詩となっていた。

 そんな花屋の裏手の、一角。陽の当たるサンルームにて草花の手入れをする時間がアルバは好きだった。風が入り込まぬように四方をビニルで囲まれた空間はぽかぽかと暖かく、春の穏やかな日差しが満遍なく降り注ぐ。店へ出す花を育て、あるいは殖やすための作業をしながら日光浴をするひと時は彼女にとって掛け替えのないものである。ライセンサーとしての仕事も忙しく舞い込んでくるが、それらの合間を縫ってでも「花の魔女」としての時間も確保したい。この世界で、この世界を守る者として生きていくことを決めたアルバの中で、それはひとつの誓いであった。この星にたどり着いて、たくさんの人と出会って。数え切れないほどの素敵な毎日を手に入れた。その代償は決して軽くはなく、過去を──喪った。
 でも。
「でも……、わたしは、お友達のみんなと。一緒に、歩いていきたいと、思うのだわ」
 パチリ──パチリと。鋏の音が響く。無心になって作業を進めていると、つい、心の裡が独り言となって出てしまう。そんな時に脳裏に浮かぶのは、友人であり、小隊の仲間であった。母も、父も……同族も。別の──「此処とは違う世界」から来た放浪者であるアルバは、まだその係累を見つけるには至っていない。記憶を喪った彼女にとって、係累が居ないという事が心細く感じられる時もある。だが、その代わりに大切なものを手に入れた。それは、一緒に泣いて、笑って──同じ時間を、同じ歩幅で歩んでいける相手。そんな人々が、この世界には沢山、たくさん居る。
(だから、わたしは)
『この』世界で新しく、他の誰でもないアルバ・フィオーレとして「花の魔女」でありたいと思う。例え魔法が使えなかったとしても、決意の代償として記憶が綻んでいったとしても──恐怖に耐え、足を地に付けて最後まで笑っていたい。皆に、笑って欲しい。

 大切な人を想う気持ちを、この決意を。形にしたい。
(南陽に──往く前に)
 何か、ひとつだけでも。両親から蒔かれた種が、この地でアルバとして花開いたように。アルバもまた、彼女自身がグロリアスベースに存在した証を、世界を愛していた事実を次の世代へと受け継ぎたい。そんな気持ちでここしばらくの彼女は、花の手入れを続けていた。
 先日よりSALFからはライセンサー全体へ向けて、南陽インソムニアの攻略に取り掛かる由が通達されていた。アルバも、その一員としてかの地へ向かう予定がある。これまで十分な情報が得られていないインソムニアの調査任務だ。万全を期すとは言えど、無事に生還できる保証はない。現に……過去のインソムニア攻略、ニュージーランドでは調査に赴いたライセンサーが囚われの身となった。同じような事態が、起こらないとは言い切れない。だから、ベースに居る間に何かしらの形を遺しておきたい。そんな思いがあったのかもしれない。
 遺すべきもの。世界に掛けるべき『魔法』。それは「魔女の花」である。この世界にある花も、無い花も、およそ考えつく限りは探しつくした。だが、彼女の理想とする花を見つけることは出来なかった。
(それなら、自分で、つくるのだわ)
 手がかりは、自分の中にあった。それは母親から遺されたブローチと、自分自身の名前。「魔女」であった母親から贈られた掛け替えの無い宝物。それを、自分自身の手で、再現する。それは茜差す黄昏ではない。朝日に輝く黎明の希望だ。未来を希う気持ちを、花の香りと風に乗せて、このグロリアスベースに……世界に咲かせたい。幾重にも光を折りたたんだ、柔らかな色彩に満ちた明日をこの手で咲かせるのだ。

 決して忘れぬよう、忘れられぬように。黎明を啓き、花咲く時をまたこの場所で迎えられるように。

──了──

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは、かもめです。
この度はご発注どうもありがとうございました。

無難に食べ物ネタにしようかなとも思ったのですが、シングルですし時期的にもと思いまして少し踏み込んだ内容を書かせていただきました。リテイク等のご要望ございましたらお気軽に公式フォームよりご連絡いただければ幸いです。
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グロリアスドライヴ
2020年04月28日

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