▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ETERNAL WIND』
鬼塚 陸ka0038)&鬼塚 小毬ka5959

 王国軍管轄下宇宙基地『崑崙』を巡る戦いは、大きな節目を迎えていた。
 制宙圏の奪取を何度も画策してきた帝国は、王国軍を打ち破る事ができなかった。
 崑崙を陥落させなければ、いくら戦況を優先に進めていても王国軍を降伏させる事ができない。

 そこで、帝国軍は『ある大規模作戦』を敢行する。
 異世界の遺物と思われるチューレ岩塊を月面軌道に乗せて崑崙へ落下させる。
 『ピースホライズン』と呼ばれるその作戦が成功すれば宇宙における帝国の優勢は決定的。王国領土内へ大気圏外からの直接攻撃も可能となる。

 だが。
 その作戦はチューレ衝突のあまり月を破壊する恐れもあった。月がクリムゾンウェストへ降り注ぎ、人類に大きな被害をもたらす可能性もある。

 リスクを承知で実行に移された作戦――ピースホライズン。
 邪神ファナティックブラッドが消えた世界でも、人間達は戦争を止める事ができない。

「これ以上、前に出ないで下さい!」
 鬼塚 小毬(ka5959)は叫びにも似た声を上げる。
 いくら叫んでも迫る帝国軍の兵士に、その懇願は伝わらない。
 分かっている。
 でも。そうでもしなければ、今から行う攻撃を自分の中で正当化できそうにない。
「敵、急速反応! 熱源拡大……来ますっ!」
「うわあああぁぁぁ!」
 数機のデュミナスを襲う白い光。
 小毬の乗る人造幻獣『エスメラルダ』が放つスーパーノヴァは、内包したエネルギーを宙域で爆発させる攻撃だ。その攻撃に巻き込まれれば、CAMであっても被害を免れる事はできない。
 白い光が晴れる頃、小毬の視界にいた数機のデュミナスは完全に喪失していた。
「エスメラルダ……」
 小毬は愛機であるエスメラルダに寄り添うように呟いた。
 東方で回収された大幻獣の亡骸の一部を回収した王国が、秘密裏に開発を続けていた試作幻獣。鳳凰のような姿だけあり、翼による衝撃破や炎による攻撃など多彩な技を保有している。小毬はこの試作人造幻獣のテストパイロットに選ばれていた。人造幻獣といっても、命のある生命体だ。小毬にも相応の愛着がある。
「ごめんなさい。でも、もう少しだけ。もう少しだけ力を貸して」
 小毬には目的があった。
 それはピースホライズンの阻止ではあるが、もう一つ個人的な事情を抱えていた。それは愛していた人が使っていた機体を奪ってこの戦場で使っていた者がいる。
 彼の機体は大精霊の加護を受けたマスティマ。
 主を失ったかの機体は悪用され、世界を穢す為に使われている。
 小毬にとって、そんな耐えがたい事が許せるはずもない。
「これだけ大きな作戦なら、必ずあの人のマスティマも現れる。エスメラルダ、あの人のマスティマを壊す為に力を貸して」
 小毬の願いに応えるよう、エスメラルダは大きな翼を大きくはためかせる。
 途中で道を塞ぐ敵がいても関係ない。
 目指すは――あの白い機体だ。


「敵の抵抗が想定よりも強い。計画が漏れていたんじゃないか?」
 帝国軍の同僚が乗るオファニムから、愚痴のような通信が入る。
 確かに先日偵察した状況と比較しても敵の防衛ラインは厚い。事前に計画が漏れるとしても、準備なしにこれ程の大部隊を崑崙に配備できるとは思えない。
(帝国軍にスパイが? いや、単なるスパイにしては大がかり過ぎる)
 鬼塚 陸(ka0038)――ゲフェングニス大佐に浮かぶある推理。
 なんだ、この戦況は。
 地上と宇宙で陽動作戦まで行って、奇襲の形でチューレを落下させる計画だった。
 予定であればチューレを月面軌道に乗せるまでに大きな抵抗はないはずだ。
 だが、実際はどうだ。王国宇宙機導軍が総力と言わんばかりの戦力を投入している。少なくとも二個師団はいるだろう。
「まさか、私達は捨て駒じゃないだろうな?」
 同僚が冗談とも取れるセリフを口にする。
 考えてみれば、クリムゾンウェストを守る為に命を賭けて戦い抜いた。邪神戦争の時には守護者として陣頭指揮を執った。そのお返しが帝国軍から捨て駒扱いされるというのか。
「ここで文句を言っても仕方ない。今はチューレを軌道へ乗せる為に全力を尽くすぞ」
「そうだな。
 ……私達が守り抜いたクリムゾンウェストを、自分達の手で破壊するかもしれない。ナディアが見ていたら、何て言うだろうな」
「…………」
 同僚の言葉に大佐は沈黙で答えた。
 初代ハンターズソサエティ総長ナディア・ドラゴネッティ(kz0207)は、ハンターの選択肢に従う形で邪神の中へと消えていった。今は消えたナディアが、この戦争を知ったら何と言うのか。
 嘆くのか。それとも怒るのか。
 いずれにしても、今その答える出せる自信はない。
「その話は後だ。今は作戦を成功させよう」
「そうだな」
「大佐! 敵の新型がこちらへ急接近しています。既に友軍に多数の被害が発生。このままでは前線が崩壊しかねません!」
 部下から悲鳴のような通信。
 見れば、十時方向から猛スピードで接近する大型機体の反応がある。部下の情報が確かであれば、友軍を撃墜しながらこちらへ向かっている。
 ――ただ者じゃない。
 大佐の勘が、放置してはいけないとアラームを鳴らす。
「……ちっ、新型はこちらに任せろ。チューレの方は頼んだぞ」
「分かった。頼むから死ぬなよ」
 オファニムのスラスターを全開にしてチューレの防衛へ向かう同僚。
 その赤い影を見守りながら、大佐は強いプレッシャーが待つ宙域へと向かう。

(この感覚はなんだ? ……呼んでいる?)
 心の中に――何か違和感を感じながら。


「あの機体っ! ……エスメラルダ!」
 小毬の目に飛び込んできたのは、白い機体。
 忘れもしない。否、忘れる事などできない。
 優しいあの人が乗っていた機体。あの機体を見守りながら、歪虚と戦ってきた日々。
 その機体が向こうからやって来る。
 ――倒さなければ。
 あの人の名声をあの人の機体で穢される前に。
(……! 何か来る)
 大佐は直感的にマスティマをプライマルシフトで転移させる。
 その直後、エスメラルダの放った巨大な赤い光線『エクスプローシブ』がマスティマのいた場所を通過する。
 マスティマの後方でいくつもの爆発が発生。帝国側の前線に混乱が生じ始める。
「王国の新型か? あんな危険な代物を王国が生み出したのか。……人は何処まで業が深いのか」
 マスティマでなければ。あの瞬時の判断がなければ、大佐は既にエスメラルダの光線によって焼かれていただろう。
 一方、小毬は早々に次の攻撃へ移っていた。
 マスティマがプライマルシフトを使う事を予見していたのだ。
(マスティマの事なら知っています。あの人の戦いをずっと見て来たのだから。
 そして、転移したばかりなら……)
 エスメラルダは無数のホーミング火弾を発射する。転移により距離が縮まる事を考慮した小毬は、エスメラルダを前進。回避不能な距離で火弾を炸裂させたのだ。
「くっ、読まれていたか!」
 大佐は冷静にパラドックス。
 ダメージを無効化してやり過ごそうとするが、小毬が放ったのは多数の火弾。すべてを無効化するのは不可能だ。聖機盾「オラシオン」で防ごうとするも、何発かは機体に直撃する。
 圧倒的な火力に加えて、万全なマスティマ対策。
 王国の新型が脅威的な兵器を製造したのは間違いない。
(行動が先読みされているのか。だが、なんだ? この違和感は)
 大佐は先程から脳裏に電気が走るような感覚があった。
 あの大きな幻獣に近づくにつれて、脳に棘が突き刺さるような痛みがある。
 敵の新たなる攻撃なのだろうか。
 その気を奪われた一瞬を、小毬は逃さなかった。
「動きが止まりました。あの人の機体を壊すなら、今です! 見ていて下さい、陸さん」
 一気に間合いを詰めるエスメラルダ。
 徐々に両機の距離が縮まっていく。
 その瞬間、大佐の視界にエスメラルダの背後に懐かしい影が見える。
「……あれは、小毬!」


 後に、それはエスメラルダに搭載されたシステム――『Micro-Linkage System』――通称MLSの暴走として処理されている。
 ユグディラが人間と意志疎通する際、相手の脳裏にイメージを念話で送り込む技術を発展させたこのシステムは操縦者とエスメラルダの反応速度を向上させる為に役立てていた。だが、テスト中であったこのシステムは操縦者の精神に大きな作用を受ける。
 それは、新たなる領域を引き起こす結果となった。

「これは……」
 大佐の意識はマスティマから離れ、宇宙空間を漂っていた。
 視線の先では今も乗っていたマスティマが巨大な幻獣と交戦している。
 幽霊にでもなったというのか。だが、幽霊ならあそこで戦っているのは誰だ。
「陸さん!」
 振り返れば、そこに小毬の姿があった。
 同じように宇宙空間を漂う存在となっている。
「小毬」
「陸さん。私、死んでしまったのでしょうか」
「いや、そうじゃない。理由は分からないが、お互いの意識が機体を離れて繋がっている感じだ」
 根拠はない。だが、そう考えるしかない状態だ。
 そして、不思議な事に陸には小毬の、小毬には陸の考えていた事が伝わってくる。
「陸さん、死んだなんて嘘を吐いていたんですね」
「ああするしかなかった。もう小毬が傷付くのを見たくなかった」
「気遣ってくれたんですよね。戦いに身を投じれば、かつての仲間を戦う事になります。そんな戦いに巻き込みたくなかった。今なら、分かります」
 お互いの抱えていた物が温かみとなって伝わってくる。

 自分は、こんなに愛されていたのか。
 自分は、こんなに愛していたのか。

 その温かみが、お互いの心に響いてくる。
 人は邪神が消えても争い続ける愚かな生き物かもしれない。
 だけど、相手を慈しみ、労る事だってできる。
 どんな過ちでも、悔いて償う事は不可能じゃない。
「あの幻獣も、マスティマも戦ってくれた」
「はい。でも、あの子も限界です。よく頑張ってくれました」
「それは俺のマスティマもだ。今まで、本当に助けてくれた」
「あなたがいたから、今まで戦って来られた」
「そうだ。本当の意味で相棒だった」
「だけど……」
 二人は、そっと手を取り合う。
 次の瞬間、宇宙に神々しい光が満ちあふれる。

「「もう大丈夫だから……」」


 崑崙へ向かっていたチューレ岩塊は、王国軍の反撃を受けて月からの軌道が逸れた。
 作戦失敗を察した帝国軍は撤退を開始。クリムゾンウェスト崩壊の危機は去った。
 しかし、両軍の被ったダメージは計り知れない。
 王国軍の新兵器である人造幻獣エスメラルダによって帝国軍の前線は崩壊。ゲフェングニス大佐のマスティマがエスメラルダと激しい交戦を繰り広げ、最終的にマスティマのハルマゲドンとエスメラルダのエクスプローシブが激突。両機は大きなダメージを負った上で消息を絶った。
 両軍は必死の捜索を行ったものの、現時点においてその行方は分かっていない。

「そうか。宇宙の戦いは痛み分けか」
 詩天にて隠忍倭衆より報告を受けた水野 武徳(kz0196)は、静かにそう呟いた。
 既に引退して隠居の身ではあるが、影では詩天の為にその手段を振るっていた。
「して、かの者達の存在は間違いないのだな」
「はい。この戦、すべて仕組まれております」
 隠忍倭衆の言葉を耳にして、武徳は盃を飲み干した。
 この異様な状況。何かあるとは思っていたが――。
「調べよ。この絵図を描いた『ノブレス』とやらを」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。近藤です。

この度は発注ありがとうございました。
三部作のような形になってしまいましたが、こちらで一端の区切りとなります。しかし、世界はまだ続いています。王国と帝国が争う切っ掛けとなったノブレスとは何か。それはまた機会があれば描かせていただければと思います。

それでは次回があれば宜しくお願い致します。
おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年04月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.