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『つづるものは……』
夢路 まよいka1328

「うーん……。何かちょっと足りないな……」
 手にした羽ペンをスタンドに置き、小首を傾げる夢路 まよい(ka1328)。
 彼女の目の前には沢山の紙が置かれている。

 ――まよいはここ最近、ハンターの仕事が休みの時はこうして自室で小説を書いている。
 何故かと問われると……やはり、物語が好きだから、ということになるのだろうか。
 ……思えば、ハンターになる前は、本が沢山ある場所に住んでいた。
 沢山の本に触れ、その中にある世界を旅してきた彼女が、物語が好きになるのも当然の帰結だった。
 邪神の討伐が無事に終わったら、ハンター稼業から離れて作家になるのもいいかもしれない。
 沢山の人たちに、自分と同じように本の中の世界を旅して貰えたら――。
 そんな思いでつづり始めた物語は、もう優に10を超えていた。

 そんなまよいが最近取り組んでいるのは恋物語だ。
 以前は幻想的な世界で生きる動物の話や、冒険をするお話など、楽しくも不思議な話を多く描いていたが、最近は『恋』という感情を掘り下げてみることが多くなった。

 ――どうしてなのかと問われると、ただ、描いてみたかったから……というのが答えになるのだろうか。
 恋をする乙女の感情というものは、ドキドキしたり、些細なことで喜んだり悲しんだり、とても忙しい。
 そんな内面を描いたら楽しいだろうと思ったのだが……これがなかなかどうして難しい。

 主人公は、年頃の普通の女の子だとして。
 ……彼女は、お相手の男性のどこに惹かれたのだろう。
 声? 容姿? 性格? それとも助けてもらったからとか? ずっと前からお友達だったというのもアリかもしれない。
 恋に落ちる切欠だけでもこれだけ思いつくのだ。
 ストーリーともなると、それこそ幅広く色々思いついて収集がつかない。
 流石にきちんと設定を固めて、ストーリーラインを決めてからでなければ物語が書けないので、まよいは一生懸命考える。

 ――例えば、この主人公が自分だったらどうなるだろう? どうやって好きになる?
 相手の男性のことも考えなくちゃ。
 そうだな……。少し年上の男の人がいいかな。
 優しくて、強い人がいい。
 強いというのは、戦う腕前だけじゃなくて、心も含めてで……笑顔が素敵だともっといいかもしれない。
 その人と偶然出会って、親しくなって、どんどん惹かれて行って……1つ1つ積み重ねて、秘めた想いは胸の中でどんどん色づいて行って……。

 まよいの中でどんどんと形になっていく物語。
 それを忘れないように、慌てて手元にある紙に書き殴って行く。
 点在する明かりのような、キラキラとした言葉を思いつくままにつづって……そこでふと気づく。

 ――人が人を好きになるというのは、実はとてもすごいことなのだ。
 だって、この世界には星の数ほど、数えきれないくらいの人がいる。
 そんな中で出会えたというだけでも奇跡なのではないだろうか。
 そこから更に、思いが通じ合うというのは天文学的な確率だ。
 ――ああ、そうか。
 恋がこんなに綺麗で輝いて見えるのは、些細なことではあるけれど、奇跡のようなことが積み重なって行くからなのだ。

 何故最近、こんなにも『恋物語』に心惹かれるのか分からなかったけれど、その答えを得たようで少しスッキリした気分になる。
 うん。やっぱり恋は素敵だ。生けとし生ける命も、皆スバラシイ!!
 恋せよ人類!! 君達は美しい!!
「……うーん。そっか。だから難しいんだね」
 ぽつりと呟くまよい。
 恋物語は、冒険譚より筆の進みが悪いとは感じていた。
 その理由も良く分かっていなかったけれど。
 小さな奇跡の積み重ねを……そしてそこに纏わる人の心を書き綴っていくのだから、難しいに決まっている。
 うん。今日はとても収穫が多い。勉強になる……!
 プロットを勢いよくつづっていたまよいは、ふと手を止めた。
「結末はどうしようかな……」
 主人公とお相手の出会いや想いの積み重ねまでは殴り書いたものの、その結末は決めていなかった。
 恋というのは残酷なもので、必ず幸せになるとは限らない。
 それもまた、物語としては美しいのかもしれないけれど――。
 ……私はこの主人公と、お相手の男性に、幸せになって欲しい。
 そうなってくれたら、嬉しいと思う。
「うん。ハッピーエンドにしよう。素敵な恋、したいもんね」
 こくりと頷くまよい。それはどこか、自分に言い聞かせるような響きもあって……。
 恋って綺麗だけど難しい。
 けれど、それを自分の手で解明していきたいな――。

 そんなことを考えながら、再び手を動かすまよい。
 その物語には、恋もまだハッキリと知らぬ乙女の、ささやかな願いも込められていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
まよいちゃんのお話、いかがでしたでしょうか。
物語を構築するのに思い悩む感じを出してみました。
甘ずっぱさが出ているかちょっと心配ですが、少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2020年04月28日

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