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『7ヵ月と10日間限定の魔法』
アウィン・ノルデンla3388

●03.22.23:30
 長らく家主が不在だった6畳ワンルームの空気は、ひんやりしている。
 家具らしい家具はテーブルとパイプベッド程度。
 必要最低限で構成された室内は殺風景だが機能的であり、人間らしい生活が営まれていることが見て取れた。
「間に合ってよかった……」
 濡れた髪をタオルで乾かしながら、アウィン・ノルデン(la3388)はバスルームから出てくる。
 外跳ねの黒髪はぺしょりとおとなしく、色白の肌はわずかに上気させ。藍宝色の瞳がチラリと時計を確認した。
 日付変更まで、あと30分。
 

 アウィンは放浪者だ。
 祖国では一領主家の次男であり、文官として責任ある立場にあった。
 が、この世界にあってはそれら全てが意味をなさない。
 『SALF』に所属する前は、自力で生活費を稼ぐためにバイト漬けの生活を送っていた。
 そんな日々も、ライセンサーとして戦うことで変化し始めている。
 得られる報酬はもちろんだが、任務で出会った友人知人、それから大切なひと。
 彼らから学ぶことは多く、この世界での目標が出来た。


 遅い時間に必要最低限の夕食をテーブルに並べ、日付を跨いでのバイトに勤しんでいた頃を思い出してアウィンは小さく笑う。
(生きるだけで手一杯だったからな)
 わけもわからぬ状況で、自分ひとり生き抜くことだけが目標だった。
 背負うものがあった祖国での日々とはかけ離れていて、それはそれで新鮮だったけれど。
 はっきり自覚してからは仕事量を調整し、日付を超えるシフトには入らないようにした。
 朝はランニング・筋トレで体をほぐしてからの勉強。
 夜は勉強で脳を活性化させてから軽く筋トレし深い睡眠を。
 一日一日を無駄にせず、24時間以上に活用する。
 不安がないわけではない。しかし充実した日々を送っていることは確かといえる。



●03.22.23:50
 朝に作っておいた、サバ味噌缶を使った大根と生姜の簡単煮。
 ぶつ切りにした焼きネギに醤油とわさびを添えて。
 コンビニで買っておいたハンバーグと鮭おにぎり2つを温める。
 今日は少し奮発して、発泡酒ではなくビールを。
 食後は勉強の時間だが、うわばみアウィンにとってこの程度のアルコールは6ターンもあれば分解してみせよう。
 肉と野菜は少しずつでもバランスよく。体づくりの基本だ。

 夕食というより夜食に近い本日の疲れを癒す食事を終えて、後片付けも終え、髪もドライヤーでしっかり乾かした。髪は再び、ヒョイと外に跳ねる。
 テーブルにはテキストを広げてある。
 普段ならすぐにとりかかるところだが、今日は……この時間ばかりは、再び時計を確認してしまう。ほう、と深い息を吐く。

 誕生日まで、あと10分。

(幼子でもあるまいし)
 どうにもソワソワしてしまう自分を窘めようとするが、制御できないのが感情といえるのかもしれない。
 3月23日という日が、待ち遠しかった。
 もちろん恋人は祝ってくれるだろう。
 それも嬉しいけれど、待ちわびている理由は別にあって。
「やっと……1歳縮まるな」
 ひとり言が、ひとりだけの部屋にポツンと響く。
 年齢ばかりは筋トレでもバイトでもどうにもならない。
 アウィンの恋人は、15歳年上。
 明日から彼女の誕生日までという期限付きで、14歳差になる。
 幼子のようだと笑われるかもしれないけれど、そのことがアウィンにはとても嬉しい。

 アウィンが祖国で積み重ねた経験や知識は、バイトの面接では通用しないし大学へ正式に入学することもままならない。
 身一つで。己の意思とは無関係に。責任も置き去りにして、やってきたこの世界。
 彼女と出会うまでは全て手探りで生きてきた。――その『手』を、彼女が引いてくれたのだ。
 『放浪者』ができること。
 『放浪者』でも、できること。
 学べることがある。経験できる場がある。ひとりの人間として生きていく場所がある。
「俺は、彼女から与えてもらってばかりだな……」 
 書き込みをして真っ黒のテキストを、愛おしい眼差しでペラリとめくる。
 少しでも彼女のためになることをしたい。1分1秒でも長く共に在りたい。
 その一念からアウィンは今の生き方を決めた。
 この世界で経験を積み重ねてきた彼女に遠く及ばないのは言わずもがな、彼女と並び立てる同年代の同僚男性たちを羨ましく感じてしまう。
「それは 彼らの努力であり 生まれ落ちた星のもとの抗いがたきことであり 俺は大学では並び立てなくとも戦場では並べるがそういうことではなくて」
 情けなかろうが羨ましいことは事実で、しかし情けないのでアウィンは声にすることで一生懸命否定する。
「うらやましい………」
 しかし最後に、本音がゴロリと落ちた。
 年齢差があるからといって、彼女は自分を子供扱いはしない。
 年齢差のほかに身長差もあるが、時としてそれを感じさせない強さもあるし、感じさせないために張り切りすぎる弱さも知っている。
 アウィンが気にしているほど、彼女は気にしていないかもしれない。
 それでも、だ。
「恋とは人を強くも弱くもするらしい……」
 不安、嫉妬、焦燥。
 それらを考慮してもあまりある歓喜。
 これほど感情の浮き沈みに振り回されるのも初めてではないだろうか?




 持たぬなら学んで身につけていけば良い。
 努力して立場を築けば良い。

 祖国で身に着けた『学ぶ方法』『努力をする方法』は、少なくとも無駄ではない。
 この世界でも活かしていける。
 アウィンのこれまでの人生は、この世界において全くの無意味ではないのだ。
「それでも年齢差は縮まらない……」
 ネガティブからポジティブへ。
 ぐるっと一周し再びネガティブに到着したところでアウィンはテーブルに突っ伏し、ゴチンと額をぶつけた。



●03.23.00:00
 スマートフォンが鳴動し、メールの受信を報せた。
 ずれてしまった眼鏡の位置を直し、アウィンは手を伸ばす。

「…………」

 恋人からだ。
 声にはしなくとも、その幸せそうな表情からすべてが伝わる。
(……14歳差)
 ふたたび差が開いてしまうまでに、自分はどれだけ彼女へ近づけるだろう。
 目標が可視化すると、俄然やる気が溢れてくる。


 アウィン・ノルデン、本日24歳の誕生日。
 その後、怒涛のようにメールや贈り物が届き、彼が地球へ来て最も多い祝福を受ける一日となった。
 今日という日を足がかりに、また一歩、先を目指して歩いてゆこう。
 まずはこの、テキストと格闘する。




【7ヵ月と10日間限定の魔法 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました。
誕生日直前のひとときをお届けいたします。
24歳、おめでとうございます! 実り多き一年となりますように。
楽しんで頂けましたら幸いです。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月28日

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