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『はじめまして、久しぶり』
狭間 久志la0848

「いらっしゃいませ」

 やって来た客に対し、狭間 久志(la0848)は投げやり気味な声で応対した。

 ここはエオニア王国の首都エオスにあるカフェバー『止まり木』。ライセンサーが代わる代わる店番に立つことで切り盛りされている風変わりな店だ。
 来客もライセンサーが多く、エオニア王国に来たライセンサーが交流をする場となっている。

 そのカフェバーで久志が店番をしているのは、どうか手伝ってほしいと頼まれたから。
 エオニア王国の沿岸にナイトメアが出現したため、彼は同行したライセンサーと共に戦い、見事撃退に成功した。
 さて帰ろうとしていたときに『止まり木』で人手が足りないから手伝ってと頭を下げられ、一日だけ店番を受け持つことになった。
 久志の担当は接客。客の注文を聞き、キッチンスタッフに伝え、できた飲み物や料理を客に運び続けている。
 望んで行っていることではないが、やると決めたからには手は抜かない。
 休憩を挟みつつも正午前から働いており、今はもう夕方。18時には上がれることになっているのでもう少しの辛抱だ。

 出入り口の扉が開き、取り付けられている鈴が澄んだ音を立てる。

「いらっしゃ――」

 礼儀として客に歓迎の言葉を伝えようとした久志の口は、途中で開きっぱなしになった。
 この来客には見覚えがあったのだ。ライセンサーとしてではなく、それ以前の彼として。
 友人と表現できるほど親しい相手ではなかった。会話も片手で数えられる程度しかしたことがないはずだ。それでも客はかつての久志の知り合いだった。
 客はSALFの制服を着ている。それは久志の記憶と異なる部分だ。それでも顔も体つきも雰囲気も、久志の記憶の中の人物と一致している。

 来客はぽかんとした店員の様子に首を傾げたが、何かに気が付いたように破顔する。

「ああ、狭間さんじゃないですか!」

 声も喋り方も久志の記憶と一致している。ドキリと彼の心臓が脈を打った。まさか――。

「はじめまして! 狭間さんのご活躍はかねがね伺っていました。同じライセンサーとして憧れていて。お目にかかれて光栄です」

「……そうか」

 久志は自分を殴りたい衝動に駆られた。自分は何を期待していた? 異世界で孤独に生活していた者同士の感動の再会か?

「すみません、気分を害してしまいましたか?」

 久志の顔色が悪いことに気付き、客は気遣わしげに言う。

「いや別に。好きな席について、何を注文するか決まったらまた呼べ」

「は、はい」

 恐縮した様子で客はカウンター席に座った。メニューを開いて何を頼むか考えているが、時々ちらちらと久志の方を窺っている。

「注文は決まったのか?」

「え?! あ、ごめんなさい、まだです」

「ならアールグレイにしたらどうだ」

 香りの良い紅茶は好みだろう、と言いかけて口をつぐむ。

「じゃあそれにします。こういういい香りの紅茶、好きなんで。狭間さん、初めての客の好みが分かるなんてすごいです」

 やや硬いながらも客は笑顔を見せた。全く悪意のない素直な微笑みだ。
 その表情も見覚えがあるもので、久志は聞こえないように舌打ちをする。勘違いしそうになる自分にイライラする。

 注文を受けてキッチンにそれを伝えた久志は、他のスタッフにもう上がらせてもらうと宣言した。
 慣れない仕事をして疲れたと嘘をつけば、スタッフ達はあっさりと納得して久志を帰らせてくれた。

 西の空には薄明が残っているが、空の大部分はもう闇に沈んでいる。
 街灯の灯った道を歩きながら、久志は今夜の内にエオニア王国を去ることに決めた。
 ここに居続けたら、また先程の「初見のライセンサー」に出くわすかもしれない。
 それは避けたかった。これ以上孤独を感じないために。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 この度はおまかせノベルのご発注ありがとうございました。
 久志さんの設定より、このような事態を何度も重ねているのかと想像して物語を紡がせていただきました。
 お気に召しましたら幸いです。
おまかせノベル -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月30日

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