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『アサルトコアの背中』
霜月 愁la0034

 太平洋インソムニア『ルルイエ』陥落は北米のSALFだけではなく、アメリカ国防軍にも歓喜の声が上がった。
 ライセンサーによる攻勢は既にロシアでも見られているが、国防軍にとっては『強いアメリカが帰ってきた』という感覚の方が強いようだ。
「さぁ、ピザでもチキンでも好きなだけ食ってくれ! 俺からの奢りだ!」
 アサルトコア専用ガレージで整備工達がパーティを催している。
 無理もない。日々アサルトコアを修理、改修していた彼らにとって、ルルイエ陥落は自分の仕事が成果に繋がった証左だ。今日ぐらいは羽を伸ばして大騒ぎしたいのだろう。
 少々事情が異なるのは、別件で用事のあった霜月 愁(la0034)が巻き込まれている事だ。
「どうもありがとうございます」
「ルルイエを陥落させたライセンサーの一人なんだろう?」
「はい」
「ビール……って、飲めないんだったな。ここにあるピザも好きなだけ食べてくれ」
 強引に肩を抱き寄せてきた整備工。
 既にビールの香りが漂っている。何処から聞きつけたのか、愁がルルイエ攻略に参加したライセンサーだと彼らに知られてしまった。始めは参加を断ろうとしたのだが、彼らの懇願に押し切られる形で参加する事になってしまった。
 普段は穏やかで落ち着いた性格の愁だ。騒がしいのはあまり好みではない。それにここにいれば次々とテンションの高い整備工が現れて愁に絡んでくる。酔っ払いの相手ばかりをしていられない。
「ここから大丈夫かな」
 ガレージの外に出た愁。
 昼頃から始まったパーティも、気付けば夕暮れ近くになっている。
 そろそろ潮時だろう――理由を付けて撤退する頃合いだ。
 踵を返して会場を後にしようとする愁。そこへ背後から声がかけられる。
「帰るのか?」
 愁が振り返れば、一人の年老いた整備員がビールに口をつけていた。
「はい。僕は偶然立ち寄ったに過ぎませんから」
「すまなかったな」
 整備員は、一言呟いた。
 愁にとってその一言は意外だった。
 パーティ会場で感謝を述べられる事があっても、謝られるとは思ってもみなかった。
「何かあったのですか?」
「お前さん、本当はこのパーティに出たくなかったのだろう? 断れば、パーティを楽しみにしていた彼らを傷付けると思ったのだろう。優しい子だ」
 愁は整備員に心を見透かされた感覚だった。
 同時に、このベテランの整備員に強い興味を抱いた。
「いえ」
「お前さん、彼らの服を見たろう? 汚れていない整備服は一つもない。お前さんが戦場でナイトメアと戦う為に、わしらは万全の整備を心がけておる。ネジの一つ一つをチェックする事は、戦場で戦うお前さん達を守るだからな」
 酔いが回っているのか、ベテランの整備員は口数が多い。
 だが、その事は愁も理解していた。ルルイエを攻略できたのは確かにライセンサーのおかげだ。だが、同時にアサルトコアの整備員が常日頃チェックしてくれるから、機体は万全の状態が保たれている。
「感謝しています。皆さんがいらっしゃらなければ、ルルイエは陥落できなかったと思います」
「…………」
 愁の言葉を聞きながら、整備員はジッと愁の顔を見つめている。
「何か?」
「お前さん。ナイトメアが出現していなかったら、何をやっていたかって想像した事はあるか?」
 突飛な質問。
 だが、愁には少々残酷な問いだ。数年前にナイトメアの襲撃を受けて両親を失っている。ナイトメアが出現していなければ、戦う日々など送ってはいないはずだ。それに今でも両親の事は強い傷となって心に残っている。
 正直、愁にとっては答えたくない質問だ。
「いいえ。それは無い物ねだりですから」
「無い物ねだりねぇ」
 整備兵は手にしていた缶ビールを飲み干す。
 そして新たな缶ビールに手を掛けてプルトップを引いた。
 缶が開く音が周囲に鳴り響く。
「確かに振り返っても仕方ない事だ。失われた物は帰って来ない。
 だがな。たまには平和な日常って奴を思い出してやる事だ」
「平和な日常?」
「戦いのない遠い日々って奴だ。うちの若い者達にも言っている話だ。
 俺達は知らないうちに心をすり減らしている。歯車と一緒だ。毎日懸命に回っているが、いつか歯車に無理が来る。時には油を差してやる事も必要だ」
 整備兵の言いたい事は愁も少し分かる。
 戦いばかりの毎日ではどうしても心が疲弊する。時には休む事も重要だ。愁もそれが分かっているからこそ、日常の過ごし方には気遣っている。
「それでしたらご安心下さい。休みの日は戦いを忘れて楽しんでいます」
「戦いを忘れて、か」
 整備兵はそう呟いてビールをグッと飲み込んだ。
 喉を鳴らす音が隣の愁にも聞こえてくる。
「忘れるなんて、無理だ」
「はい?」
「少なくとも俺には無理だ。長年連れ添った嫁をナイトメアに殺された。できればこの手でナイトメアを殺してやりたいが、その力もわしにはない。わしにできる事は、お前さん達のアサルトコアを整備してやる事だ」
 いつの間にか、整備兵の目が鋭くなっている事に愁は気付いた。
 愁は整備兵の言葉を黙って聞く他無かった。
「わしは想像するんだ。わしの整備したアサルトコアがナイトメアの奴らを始末していくのを。そのアサルトコアが放つ銃弾は、わしの恨みが込められている。そう考えなくちゃ、わしは頭がおかしくなってる。いや、もうおかしいのかもしれん」
「失礼ですが、何をおっしゃりたいのか……」
 愁は不穏な空気を察して話を打ち切ろうとした。
 だが、整備員は追いすがるように言葉を続ける。
「お前さんは、勝手に死ぬな」
「?」
「応援でも恨みでも、お前さんの背中には誰かの想いがある。
 その想いを抱えたまま、戦場で死ぬなんて事をするんじゃないぞ」
 ふいに告げられた言葉に愁は困惑した。
 何故、今この場でその話をしたのだろうか。
「あの、何故僕にその話をされたのでしょう?」
「なんというか、お前さんの目はすべてが他人事というかな。周りがどうでも良いとみている気がしてな。わしも昔は前線近くでアサルトコア整備していた事があって、その際によく見たんだ。感情を失って死ぬまで戦う新兵達を。
 お前さんを見ていると、そいつらを思い出した」
 整備兵は愁の心の内を見抜いていた。
 両親の死亡原因は自分にある。その責任を自らで覆い被り、死に場所を求め続ける。
 他人の為に自分の命を使う事が目的でライセンサーとなった。
 整備兵は愁を諫める為にこんな話をしたのだろうか。
「大丈夫です。僕はそこまで自分を見失ってはいませんから」
「そう願うよ。お前さんには、これからもナイトメアを殺してもらわんといかんからな」
 そう言った整備兵は二本目のビールを飲み干した。
 勢い良く握りつぶされた缶ビールが独特の音を鳴らして拉げた。


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近藤豊 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年04月30日

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