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『白銀の1日』
神上・桜la0412)&AZla0471

 一面の銀世界。
 その中にある露天風呂は、何だか雪山の中にぽっかりと開いた穴のようで、何とも不思議な光景だ。
「これが噂の秘湯か。雪の積もる中、湯気を上げる温泉。中々にいい情景ではないか」
「あ、うん」
「どうしたAZ。まだ温泉に浸かってないというのにのぼせたか?」
「いや、そういう訳じゃ……」
 首を傾げて怪訝そうな顔をしている神上・桜(la0412)から目を逸らすAZ(la0471)。

 ――神様。いや別に僕は敬虔な信者という訳でもないけどそれでもあなたに問いたい。
 確かに彼女と雪山の中にある秘湯に行こうという話はしたけど、どうして混浴なんですか。
 そんな話聞いてない。これっぽっちも聞いてない。
 しかもだよ。何で桜さんは迷わずスパーンと潔く脱いでるんだろうか。
 一応彼女も女性な訳で目のやりどころに困るというか、あれ? 僕の前で迷いなく脱げるということは男性として見られてない!!?
 いや確かに、割と中性的な容姿はしてるけどそれはあんまりというか、いや別に男性に見られてなくてもいいのかな??
 ……ん? 何だこの複雑な感情は!!?

「さっきから変な奴じゃのう。ほら、入るぞ」
 脳内で高速で葛藤を繰り広げるAZの横をすりぬけて、湯船に浸かる桜。
 幸い、乳白色の温泉だったお陰で、入ってしまえば身体は見えない。
 これなら並んで入っても目のやり場に困らずに済む。
 彼はほっと安堵のため息をつくと、恐る恐る湯に身体を浸す。
 乳白色の湯は少しとろりとしていて、温度もちょうど良い。
 温かい湯に対して外気がひんやりとしていて、いつまでも入っていられそうで……桜は満足気なため息を漏らす。
「それにしてもおぬし、スキーは初めてだったんじゃな」
「うん。一応調べて、道具は揃えて来たけど……桜さんは結構上手だったよね」
「ふ、我のような美少女にかかればスキーなぞ簡単なのじゃ♪」
「そっか。教え方も上手だったもんね」
「AZの飲み込みが早かったからの。我も教え甲斐があったのじゃ」
「そう? それは光栄だな」
 ふふんと笑う桜に、笑みを返すAZ。
 2人はここに来る前に、近くのスキー場でスキーを楽しんでいた。
 桜はスキーが得意というだけあって、どんな難解なコースも楽々と滑りこなした。
 黒い髪を靡かせ、颯爽と斜面を滑り降りる姿は、大層人目を引いていた。
 それに対し、AZはスキー未経験だった。
 スキー板をつけ、ストックを持ったはいいものの、どうしたら良いか分からず動けずにいた彼を、桜は笑うでもなく。
 歩き方から転び方、バランスのとり方、正しい滑走フォームに至るまで、手取足取り丁寧に教えて行った。
 桜の教え方が良かったのもそうだが、AZもまた、ライセンサーというだけあって身体能力は高い。
 彼女が教えた通りに身体を動かすことは苦ではなく、この1日で驚くほどの成長を見せた。
 ――まあ、彼女の前でいつまでもカッコ悪くスッ転んでいる訳にはいかない、というAZの男の意地もあったことも付け加えておく。
「AZの身体が感覚を覚えているうちに、またスキーをしようぞ。……という訳で明日もスキーじゃ」
「えっ。明日も? 明日はお土産を買いに行くんじゃなかった?」
「もちろんじゃ。だが土産を買うだけではつまらんじゃろ? スキーが終わってからにしようぞ」
「……分かった。付き合うよ」
「うむ! ……それにしても腹が減ったのう。そろそろ宿へと移動しようかの」
 ほのぼのと話していたと思ったら、何の前触れもなく立ち上がる桜。
 やっぱり、全然、ちっとも隠す様子はなくて、AZがアワアワと慌てる。
「ちょっ。わーーー!! 桜さん待って待って!! 僕ちょっと目逸らしてるからその隙に着替えて!!」
「……? なんじゃ? 別に見られても減らんぞ?」
「減るとか増えるとかそう言う問題じゃないから!! というか桜さん誰に対してもそうなの!?」
「ん? 誰にでもという訳ではないぞ? AZであれば別に見られても構わんというだけじゃ」
「……だからね、そういう事さらっと言わないでくれるかな」
 カラカラと笑う桜。AZは湯船に頭まで浸かりそうな勢いだった。

 ――神様。いや別に僕は敬虔な信者という訳でもないけどそれでももう一度あなたに問いたい。
 確かに温泉に入った後に宿に泊まろうという話はしたけど、どうして同室なんですか。
 そんな話聞いてない。これっぽっちも聞いてない。
 しかもだよ。何でお布団が並べられているんだろうか。
 1つのお布団でと言われなくてちょっと安心したけど、これはこれで心臓にあまり宜しくないというか、あれ? 桜さんに全く動じてないしやっぱり男性として見られてない!!?
 いや確かに、これはきっと信頼されているということだし、それは歓迎するべきなんだけど。
 ……ん? 何だこの複雑な感情は!!?

「……AZ、大丈夫かえ? 湯あたりでもしたか?」
「ん? ううん。僕は元気だよ」
「そうか。ならばよかった」
 本日二度目の思考に沈んでいたAZを引き戻す桜の声。
 純粋に心配してくれている様子の彼女をちらりと見て、AZは考えを振り払うように頭を巡らせる。
「えーと……晩御飯、美味しかったね」
「うむ、そうじゃな。評判というだけあってなかなかのものであった」
「お肉も魚も出て来るなんてすごいよね」
「この近くに川があって、そこで魚が豊富に獲れるそうじゃ。肉はイノシシが罠にかかったと言っておったのう」
「罠にかかったってことはいつでも出る訳じゃないよね。運が良かったね」
「そうじゃな。まあ、運も実力のうちと言う。我とAZが掴みとったものじゃな」
「あはは。そうだね」
 ポジティブな考え方をする桜に、くすくすと笑うAZ。
 桜はあっ! と声を上げると、カバンを手元に引き寄せて、中を探り始める。
 急にどうしたのかと様子をうかがっていた彼の前に、スッと薔薇の包装紙の小包が差し出された。
「桜さん、これ何? どうしたの?」
「何やら『ばれんたいん』とかいうものらしいからこれを汝にやるのじゃ。喜ぶがよい♪」
「えっ。いいの?」
「うむ。この間、ランテルナというところに行ってな。そこで買って来た」
「ランテルナ? 桜さんが依頼で行ったところだっけ?」
「そうじゃ。薔薇が咲き乱れる美しい地でな。なかなか良いところであったぞ。おぬしにも見せてやりたいと思っておったんじゃ」
「そうなんだ。桜さんのおススメならきっといい場所なんだね」
「うむ。今度共に行こうぞ」
「分かった。約束。……このチョコレート、今戴いてもいいかな?」
「勿論じゃ」
「折角だし、桜さんも一緒に食べよう」
「そうじゃな。では我が美味しい茶を淹れてしんぜよう」
「わあ。いいの? 嬉しいなぁ」
 にこにこと笑い合って、指切りをする2人。
 包みを開けて、中に入っているチョコレートの美しさに目を輝かせるAZに、桜が満足気に笑う。
 チョコレートと茶菓子をつまんで、温かなお茶を飲んで。
 窓越しに降りしきる雪を見ながら、そのまま長いこと話し続けて――彼らが眠りに落ちたのは大分夜が深くなってからだった。
 
 翌朝、朝に弱いAZがなかなか起きず、痺れを切らした桜に布団に強襲されたのはまた別の話である。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
桜さんとAZさんのお話、いかがでしたでしょうか。
ほのぼのというよりギャグ傾向が強くなってしまったような気がいたしますが、少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2020年05月07日

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