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『女王達と一輪の薔薇』
紫の花嫁・アリサ8884)&真紅の女王・美紅(8929)&黒の貴婦人・アルテミシア(8883)

 夜の闇だけが支配する世界。

「今日は来てくれて嬉しいわ」

 深紅の女王・美紅(8929)はそう言って黒の貴婦人・アルテミシア(8883)を己の城へ迎えた。

 美紅の隣には紫の花嫁・アリサ(8884)が控えている。

「今宵は貴女と私達だけの夜会。ゆっくりと楽しんでいって」

 美紅の言葉にアリサは恭しく頭を下げる。

(素晴らしいわ)

 アルテミシアはアリサの姿に目を細めた。

 胸元が大きく開いた深紅のドレスは、寝所へ誘うかのようにスカートの前の方が短く、その気高さを現すように後ろに長くトレーンをひいている。

 妖艶なメイクを際立たせるように彼女の身を飾っている宝飾品は美紅の物だろう。

長かった髪は、紅のベリーショートになり、昔の面影を残すのはサイドに残る一房の黒だけだ。

 見た目も、雰囲気も自分の城にいた時とは全てが変わっている。

 その表情や言葉は艶めかしく、雰囲気は一流の娼婦がもつそれであった。

 美紅の愛だけではなく、様々な貴婦人と愛を交わし、その味を覚えたのだろうことは容易く想像がつく。

 娼婦としての悦びに目覚めたものだけが纏う空気が彼女の周りにはあった。

 全身に纏う濃い薔薇の香りは美紅の物。

 つい先ほどまで愛を交わし合っていたことは明白。

 以前の潔癖なところのあった彼女ならそんなことはあり得なかった。

(ここまで変わるなんて、予想外だったわ)

 予想以上の『出来栄え』に、アルテミシアは息を呑む。

 以前の彼女も万人を虜に出来るほどの魅力があったが、今の彼女ならば潔癖な神ですら魅了してしまうかもしれない。

「どうかしら。とても素敵になったと思わない?」

 アリサの頬に口づけを落としながら、美紅は微笑んだ。

「ええ、本当に素敵だわ。私の花……」

「申し訳ありません。アルテミシア様。美紅様より真朱の名を賜っております。美紅様の娼婦・真朱としてお接し下さい」

 花嫁、と言いかけたアルテミシアを制するようにアリサ、いや真朱は微笑む。

 自然なその微笑みでさえ艶っぽい。

「そう、美紅。そちらの姫を紹介してくれないかしら」

「あぁ、そうね。真朱、ご挨拶なさい」

 それならば、と、初めて会う姫として振舞うよう促すと真朱はドレスの裾を広げ深々と頭を下げた。

「お初にお目にかかります。美紅様の娼婦・真朱でございます。アルテミシア様のお話は我が主よりかねがね伺っております。お会いできてとても嬉しく思います」

 ふと、その右小指にアルテミシアが真朱に贈った指輪が光っていることにアルテミシアは気が付いた。

(右の小指に……そういうこと……)

 美紅の意図を理解してアルテミシアは小さく笑った。

 右の小指は魅力を発揮する指。

 そこにアルテミシアの指輪をしているということが、美紅だけの力で今の魅力が引き出されているわけではないと言外に行っていた。

 美紅がその意味を知らずに、嵌めさせるわけがない。

 ひっそりとアルテミシアをたてている美紅の心遣いが嬉しかった。

 真朱本来の魅力が引き出された姿が今の姿であるなら、指輪は十分にその効果を発揮しているといえるだろう。

「素敵な姫ね。こちらこそよろしくお願いするわ、真朱」

 新たな名を与えられ、女王を名で呼ぶことが許される娼婦は一握りだ。

 目の前の深紅の女王がどれほど彼女に心を傾けているのかを感じ、アルテミシアは笑みを深くする。

 真朱もまた新たな主に心酔しているようだった。

 それは、彼女の振る舞いを見ていれば誰でも分かるだろう程に、あからさまだった。

(互いに相当気に入った様ね)

 それでこそ、企みを持ちかけた甲斐があるというものだ。

 アルテミシアがそう美紅に目配せすると美紅は、満足そうな微笑みで応えるのだった。

  ***

「真朱」

 美紅は愛を交わし合った真朱を抱き寄せその唇にキスをしながらその名を呼ぶ。

 甘いバラの香りにうっとりしながら真朱は微笑み、キスを返した。

「今宵の夜会、アルテミシアの花嫁ではなく、私の娼婦・真朱として出るのよ」

「かしこまりました」

 その返事に満足げに微笑んだ美紅は、自分の香りを移すようにキスを重ねる。

 夜会まではあと数刻。

 何度も何度も愛を交わし合った真朱の身体は身を清めた今でさえも美紅の濃密な香りを纏っている。

「アルテミシアの前に出るならもっと私の香りを移しておかなければ、ね」

「……はい」

 美紅とて、彼女がアルテミシアの前で粗相をするとは思っていない。

 だが、折角ならば徹底的に自分の娼婦としての姿をアルテミシアに見せたいと考えていた。

 二人の企みをより高みへ昇華させるためにそれは必要なことだと美紅は思っているのだ。

 彼女の身体のみならず、彼女の吐き出す吐息にまで香りを移さんとする愛に無心で応える真朱。

「いい子ね。貴女は最高の娼婦だわ」

 真朱の美しさを称え、どれほど愛しているのかを囁きながらアルテミシアの花嫁であったことを忘れさせるほどの寵愛を真朱へ注ぐ。

 真朱もその愛に応えんと美紅への愛と己の主の美しさをうたいながら彼女の愛に溺れていくのだった。

「ドレスはこれを着ていきなさいな」

 彼女の纏うドレスにも宝飾品にも美紅の香りが込められている。

 ドレスの裾へ肌を寄せ、くんと香りを確かめると嬉しそうに微笑むのだった。

  ***

「美紅に愛されるのはどんな気分?」

「素晴らしいですわ。こんなに愛してくださる女王は他にはおりません」

 アルテミシアの問いに真朱は頬を染めながらも即答する。

「毎夜素晴らしい寵愛を注いでくださいます。美紅様こそ、至高の主ですわ。美紅様の娼婦になれたことを心から嬉しく思っております」

 その後も続く美紅の美しさと愛を賛美する言葉にアルテミシアと美紅は満足げな表情を浮かべた。

「美紅様……」

 賛美の言葉の合間合間にキスを強請り、自ら見せつけるように美紅へ唇を落とす真朱の姿にアルテミシアは喉を鳴らす。

「そんなに見せつけられては少し妬けてしまうわね」

「そう? それならごめんなさい。真朱、私のことばかりではなく、アルテミシアのことは?」

 昔の主でしょう? と意地悪な質問をする美紅にも真朱は嫌な顔一つしない。

「お美しい美紅様のご友人ですわ」

「そう?」

 きっぱりとした物言いに、気分を害することもなくアルテミシアはそっと真朱の手を取り抱き寄せる。

「友人ならば口づけくらいはいいのかしら?」

 娼婦が己の主の友人と口づけを交わすのはこの世界ではあいさつ代わりのようなものだ。

「一夜の花嫁の契りを交わしたのであればいくらでも」

 しかし、真朱は誘うような視線だけを残して、するりとその腕をすり抜け美紅のもとへ戻ってしまう。

 そして、言葉を交わすように交わされる口づけ。

 その様子にもアルテミシアは感心する。

「では、今宵の契りを交わしてはくれないかしら」

 娼婦の交換もまた貴婦人達の間では当たり前のように行われている行為。

「申し訳ありません。今晩も美紅より寵愛を賜ることになっております」

 失礼がないようにか恭しく頭を下げるその姿とは裏腹にそこには明確な拒絶があった。

 正式な主の誘いに背を向け、仮初の契約を結んでいるとはいえ他の貴婦人の寝室へ赴くなど、アルテミシアだけに仕えていた頃には考えられない行為だ。

 頭を深く深く下げながら真朱はその背徳に悦びを感じていた。

「そう、残念ね」

 アルテミシアもまた彼女の受け答えに一種の悦びを感じていた。

 あの頃の彼女はもういない。

 そのことが、楽しくて仕方ない。

 彼女のことだ、自分への愛や忠誠は揺らいでいないだろう。

 背徳の悦びを噛みしめる表情からそのことはありありと伝わってきた。

(これだから、美紅との企みはやめられないわ)

 これまでの誰よりも素晴らしいものになるだろうと美紅へ視線で伝えると、美紅は深く深く微笑みながら真朱へ口づけを落とすのだった。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見) / 背徳に打ち震え 】

【 8929 / 真紅の女王・美紅 / 女性 / 20歳(外見) / 愛しい女王 】

【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 愛する貴婦人 】
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2020年05月07日

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