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『夕暮れの人助け』
ラシェル・ル・アヴィシニアla3428

「……タマさん?」

 妹に頼まれた買い物の帰り、ラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)は見知った姿に足を止めた。

 タマさんと呼ばれた黒猫もこちらに気が付いたようで、嬉しそうに走ってくる。

「こんなところで会うなんて珍しいね」

 しなやかなタマさんの身体を抱き上げるとゴロゴロと喉を鳴らした。

「あーいいなぁ。私も抱っこしたい!」

 その声に、視線を向けると、小さな女の子が肩で息をしながら立っているではないか。

「どうぞ」

 タマさんを追いかけてきたのだろう少女に少し微笑んで、ラシェルはタマさんを渡す。

 人に慣れているタマさんは嫌がる様子もなく彼女の腕の中に納まった。

「もこもこだぁ」

 嬉しそうに頭をなでる少女。

「このねこさん、お兄ちゃんの?」

 いいなぁと言いながら少女はラシェルに尋ねる。

「俺が飼ってるわけじゃないけど、大事な家族だよ」

 幼い子相手ということもあり、いつもより口調を柔らかくしてそう答えると、そっかぁと少女はタマさんの背を撫でながらつぶやいた。

「私もね、ねこさん大好きだからほしいっていつもいうんだけど、お母さんがダメっていうの」

「そうなんだ。そういえば、君1人?」

「ううん、あっちに……お母さん……?」

 少女はそう言って振り返るが、辺りを見渡しても保護者と思しき大人の姿は見えない。

「お母さん……どこ……?」

 抱く手に力が入ったのか、苦しそうにタマさんは一声鳴いて、少女の手から抜け出すとラシェルのもとへ戻ってきた。

「さっきまでそこに……お母さん……」

 さっきまでの笑顔はどこかに消え、大きな彼女の目にはみるみるうちに涙が溜まっていく。

(迷子か……)

 おおかた、タマさんを追いかけて来るうちにはぐれたんだろう。

 そんなことを考えながら、弱ったなぁとラシェルは頭をかく。

 夕方のこの時間、ここは学校帰りの学生や、買い物に訪れる主婦で人通りが激しい。

 探すといっても、そう簡単には見つからないだろうことは容易に想像がつく。

 かといって、

(放っておくわけにもいかないしな)

「君のお母さん、一緒に探すよ」

  ***

「お母さんは来るとき、どんな服だったか覚えてる?」

「うーん、分かんない」

 とぼとぼ歩く少女に歩幅を合わせながら、ラシェルは少女の母親の特徴をたずねる。

 だが、小さな子の記憶力のせいか髪の色と長さくらいしかわからない。

 辺りを見ても該当する女性はたくさんいる。

(困ったな)

 急ぎで買ってきてほしい、と言われた買い物袋を視界に入れつつ、彼は小さくため息をついた。

 この調子では急ぎどころか、かなり時間がかかりそうだ。

(ケーキでも買って帰るか)

 それでなんとか機嫌を取るとして、問題は……。

 空を見れば宵闇はすぐそこまで近づいている。

(あまり暗くなるとよくないな)

「ここには何で来たの?」

「自転車……お母さんが乗せてくれたの……」

 うつむき、目に見えて元気のない少女。

 それはそうだよな。とは思うが、自分が彼女の母親の見分けがつかない以上、彼女に見つけてもらうしかない。

 そのためにはとりあえず顔を上げてもらわなくてはならない。

「チョコレートは好き?」

「……うん」

 それならと、買い物袋からチョコレートを出す。

「これ食べてもう少し頑張ろうか」

「でも、知らない人にもらっちゃいけないってお母さんが言ってた……お母さん……」

 少女の目からぽろぽろと涙がこぼれていく。

「俺は、ラシェル。これで知らない人じゃないだろ」

「……うん、ありがと。ラシェルお兄ちゃん」

(そういえば……)

 チョコレートを食べる少女を見ながら昔もこんなことがあったなとラシェルは思い出す。

 幼いころ、妹と2人で迷子になったことがあった。

 その時も、泣きじゃくる妹にチョコレートを渡して泣き止ませたんだった。

 そんなことを思いながら少女が母親と一緒に買い物をしていたという店までやってくる。

「お母さんの自転車はどれかな」

「えっとね……あ! お母さん!!」

 きょろきょろと辺りを見渡していた少女がラシェルの手を振りほどいて走り出す。

 視線を向けると、青ざめた顔で辺りを見ていた女性がハッとした表情で少女に駆け寄っているところだった。

(よかった)

「あの……!」

 ほっと息を吐いて帰ろうとするラシェルを引き留めたのは、駆け寄ってきた女性の声だった。

「娘を連れてきてくれたそうで。ありがとうございました」

「チョコもくれたんだよ」

 何度も頭を下げる女性の横で、少女はタマさんを抱きしめていた時以上の笑顔で母親に話す。

「そうなの。本当になんとお礼を言っていいか……ちゃんとお礼は言った?」

「ありがと、ラシェルお兄ちゃん!」

「いえ。大したことはしてないですから。もうはぐれないようにね」

「うん! また、ねこちゃん抱っこさせてね!」

「お母さんといる時にね」

「うん!」

(さて急ぐか)

 何度も手を振り帰っていく少女を見送ってから、ラシェルはケーキ屋へと走り始めるのだった。




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la3428 / ラシェル・ル・アヴィシニア / 男性 / 18歳(外見) / 優しいお兄ちゃん 】
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月07日

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