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『【魔装】の巫女』
星輝 Amhranka0724

 後進の育成に務めながら、星輝 Amhran(ka0724)は『【魔装】の監視者』としての役目も担っていた。
 先代の監視者がこの世を去り、十数年。身内や知人らの力を借りつつ、星輝の【魔装】に対する研究は大詰めを迎えようとしていた。
「……やはり、直接、本人から確認するしかなかろう」
 星輝の台詞に紡伎 希(kz0174)は頷く。
 【魔装】との意思疎通は困難な状態が続いている。幾つか原因があるものの、もっともな原因は、本体そのもののマテリアルが枯渇しているからだ。
 マテリアルを補給しても流出が止まらない以上、補給の意味がない。もっと別のアプローチが必要だった。
「歪虚になる以前の存在……教えて頂けるのでしょうか?」
「だからこそ、わしが行くのじゃ」
 自信満々に告げる星輝。
 ネル・ベル(kz0082)が傲慢歪虚になる前の存在……そこに干渉する事ができればと星輝は考えたのだ。
「ダイブ自体は久々じゃの」
 星輝は台座に横たわり、スッと瞼を閉じる。
 神霊樹ネットワークにアクセスして、過去の【魔装】に直接、確認する為だ。


 ――王国歴1017年秋 大峡谷
 秋色に染まった森の中、星輝の視界内に希と【魔装】の姿があった。
(問題はどうアプローチするかじゃが……悩ましいの……)
 ダイブできる時間も限られている以上、小細工を用意している暇はない。
 アドリブと地力で何とかしなければならないのだ。
 暫く【魔装】の後を進んだ所で、星輝は先回りする事を選択した。
(希がいる以上、神霊樹ダイブの説明は問題ないはずじゃが……)
 ネル・ベルから見れば、自身の弱点を探る為にダイブしてきているのではないかと疑うはずだ。だとすれば、ダイブの事は伏せておいて話を進めるしかないが、そうなると今度は希が警戒する。
 森の中、一人で会いに来る事は状況的にはあり得ない。
 最悪、偽物か何かと捉えられる可能性があり、希が警戒する以上、【魔装】との話は進まない。
(仲が良すぎた事で困る事になるとはの)
 先回りした星輝は適当な切り株に腰を下ろした。
 当時の服装はダイブの時に合わせて設定している。
(……皆のような強大な力や武具は、わしには無い……じゃが、わしにしかできん事がある……真剣勝負じゃ、角折よ)
 心の奥底で呼びかけると星輝は、蹲った。
 【魔装】を背負って森の中を歩いていた希が慌てた様子で名前を呼びつつ駆けて来る。
「星輝様、大丈夫ですか?」
「お……おう、ノゾミよ。大丈夫じゃ……」
「どうして、ここに?」
 心配する希の顔が近い事を内心、気にしつつも、星輝はわざとらしく咳き込んだ。
「亜人の群れに襲われてのこの様じゃ……皆は近くにいるはずじゃから、わしの代わりに探してくれんかの?」
「分かりました!」
 希は快く返事をすると、背負っていた【魔装】を降ろして星輝が座っている切り株に立て掛ける。
 星輝の護衛に……という事なのだろう。
「行ってきます!」
 一礼すると希は森の中へと駆け出して行った。
 自然な形で希を【魔装】から引き離す事ができたので、一先ずは第一関門突破という所だろう。
「ネル殿! ちょっと聞いていいかの?」
「断る」
 身も蓋もない即答。
「なぜじゃぁぁぁ!」
「貴様は人間共の中で、もっとも油断できんからな」
「ぐぬぬぬ……」
 彼なりの最大限の褒め言葉ではあるが、今の状況では手放しに喜べない。
 色気に頼る訳ではないが、星輝は駄々をこねるように【魔装】を抱き締めた。
「どうしても教えて欲しい事があるのじゃ! 頼む、ネル殿!」
「……仕方がない。話だけは聞いてやろう」
「さすが、ネル殿じゃ!」
 チョロイと内心、ほくそ笑む星輝。
 だが、突然、本題に入る訳にはいかない。なにせ、もっとも油断できない相手と直に言われているのだ。
「王国に古くから竜との縁があるのは何故じゃ?」
「竜は本来、強者だ。強き者である傲慢に惹かれてやってきたのだろう」
「そうであるのなら、他の強欲が押しかけてくるじゃろ?」
 なぜ、王国の地に強大な竜が存在したのか……偶然とは思えない。
「私も古き事は知らぬが……白龍の拠点であるリタ・ティト。ここはかつて王国領の一部らしいな」
「そうじゃ、北秋に備える為、北部辺境領が成立したのは王国歴700年頃じゃ」
 北方王国が滅亡。グラズヘイム王国に向けて逃亡を続ける人々を追撃する歪虚勢力。
 地理的な状況も考慮しても、白龍とリタ・ティトが大きな役割を果たしたのは想像に難くない。
「北秋を退けた龍の力を、当時の王国上層部が無視すると思うか?」
「……龍の力の研究。となると、龍の一部を王国に連れてきた可能性も」
 星輝の推測に【魔装】が頷くようにカタリと音を鳴らした。
「じゃが、研究の成果は残っていないという事は、研究そのものが闇に葬られたと?」
「その通り。そして、それこそ、私が誕生した経緯でもあるのだ」
「どういう事じゃ?」
「私の真の力を貴様も見ただろう」
 幾度となく対峙してきた中、ネル・ベルは外見を変化させる事があった。
 真っ白な翼と、白銀に輝く竜鱗の両腕……あれは、傲慢特有の人間との優位性を見せつけるものではなかったという事だ。
「まさか……角折は、龍の眷属だったじゃと?」
「貴様ら、龍の巫女だから、その程度の事、既に見抜いていたと思っていたが、口先だけの巫女だったのか」
 無駄に勝ち誇るように皮肉を告げる【魔装】。
 話の流れから偶然にも目的となる話を聞けたが、その内容は驚くべき事であった。
「つまり、龍の眷属であった角折はフラベルと契約して傲慢になった訳じゃな!」
「分かっただろう。絶大なる力を持つ傲慢と竜。その二つを合わせ持つ私が如何に偉大なる存在だと」
「おー! わかったのじゃ! わかったのじゃ!」
 目的が達成できた事に星輝は歓喜のまま叫ぶと、再び、【魔装】を強く抱き締めた。
 しかも、だ。元の存在が龍の眷属であるのであれば、それは龍の巫女である星輝の専門分野でもある。
「流石、ネル殿よぉぉ!」
「フハハハ。もっと称えてもいいのだぞ!」
 【魔装】を抱えながらクルクルと回る星輝だったが、ダイブの時間が経過し、現実へと帰還するのであった。


 台座から身を起こした星輝に希が尋ねる。
「この後、星輝様はいかがなさいますか?」
「元の存在が龍の眷属である事が分かれば、希望は十分にある。優れた龍の巫女は、龍と意思を通じ合う事が出来るからの。後は、角折が持つ龍の波長……いわば、チャンネルを合わせればいいのじゃ」
「それじゃ、ネル・ベル様とお話する事もできるのですか!?」
 食い入るように詰め寄ってきた希に星輝は誇らしい笑顔を向けて頷いた。
「勿論じゃ。その為には龍の巫女としての修業が必要になるがの」
「私、頑張ります!」
「わしの修行は厳しいぞ」
 瞳を輝かせて宣言した希に、星輝はわざとらしく傲慢かつ尊大な態度で言い放つ。
 それぐらいしても罰は当たるまい。
(そうじゃろ、角折よ。本来であれば、お主がわしに感謝しなければならないのだからの)
 その想いが届いたかどうかは分からないけれども、【魔装】が収められている鞘が、抗議のようにカタリと音を立てたのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
星輝様といえば、ネル・ベルとの絡み!
というか、むしろ、私が描きたかった! だって、設定だけあって明かされないまま本編が終わってしまったんですよ!
ネル・ベルの設定はキャラ作成時からのものなので、ずっと絡んでいただけた星輝様のキャラ設定が龍の巫女だったのは、本当に偶然で、しかも、ネル・ベルが【魔装】になったのも、その後、星輝様が『【魔装】の監視者』になったのも、定められたレールでは無かったので、これって、凄すぎませんか!?
――と語り続けるとキリがないので、この辺で。ちな、星輝様とネル・ベルのバカップルみたいな絡みも大好きでした!


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2020年05月07日

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