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『永遠の白姫と千寿の領主』
銀 真白ka4128)&本多 七葵ka4740

 ――王国歴1045年頃。
 エトファリカ連邦国にある千寿と呼ばれる所に『白姫』と呼ばれる銀 真白(ka4128)が自領の者達と共に来訪した。
 理由は、長年の友であり、千寿の領主でもある本多 七葵(ka4740)の息子が元服する為だ。
「ようこそ、真白殿」
「千寿はいつ訪ねてもいい所だ」
 二人は確りと手を交わす。
 少なくとも領民から見れば安心を抱く光景だろう。
 この数年でエトファリカ連邦国の様相は大きく変わろうとしていた。黒龍の復活、朝廷と立花院家が推し進める治政方針。
 領地経営の良し悪しも表面化され、大小様々な領が併合と消滅を繰り返していたのだ。
 今回の真白の来訪は、表向き、七葵の息子の元服を祝うものではあるが、政治的な動きに対する話し合いでもある。
「詩天には独立を叫ぶ者と連邦国への恭順を示す者とが争っている状態で俺としても好ましくないと思っている」
 率直な七葵の言葉に真白は頷いた。
 大きく発展した詩天は、力を得たからこそ、困った状態になっているようだ。
「真美様も辛い立場だろうに。こんな時こそ、七葵殿のお力が必要かと」
「……実際、併合の話が来ている」
「相手は?」
 七葵が懐に忍ばせておいた和紙をスッと真白の前に出した。
 そこに描かれた名前を読み、真白は唸る。
「いかがしたものか?」
「相談する為に、真白殿を呼んだのだ」
 苦笑を浮かべる二人。
 手強い問題なのは確かな事だ。これなら、ただ歪虚と戦い続けた日々の方が、楽だったかもしれない。
 明確な敵が存在し、自分達は如何に生き残る戦いをするか――それを考えれば良かった。
 だが、今は違う。敵対している相手が明確にされている事は少なく、多くの人々の生活を考えて領地を治めなければならない。
「政略結婚というのは苦手だ……俺の場合は、それに近かったかもしれないが、付き合いのないままの結婚ではなかったからな」
 七葵の告白に真白は後頭部が痒くなりそうだった。
 領地を治めているうち、自然にそんな相手が出てきて、結婚する――ある意味、彼にとって理想的な形だったかもしれない。
「私は……恋愛事はよく分からない。七葵殿のようになるのか……それとも、紹介されるのか、政略となるのか」
 まるでポッカリとその部分だけが抜け落ちたようで。
「一度、逢わせてみてもいいのでは? よければ私から伝えても」
「逢わせるのも一つか……こんな事言うのも違うが、息子は今日、真白殿に逢える事を楽しみにしているぞ」
「親戚の叔母さんみたいな存在だからだろう」
 微笑を浮かべる真白に、七葵は心の中で複雑な心境を描いていた。
 息子が白姫に淡い恋心を抱いている事を、父として七葵は知っている。
 しかし、息子はそれを直接、口にはしない。父の友でもある白姫の所へ婿入りする事に遠慮を感じているのだろう。
(真白殿さえよければ、俺は別に構わないのだがな……)
 息子の人生だ。息子が決めればいい。
 だが、実際はどうだ。自領を守る為、元服間もない息子を政略結婚の材料にしようとしている。
 この葛藤が七葵を苦しめていた。
「……見合いの話は俺からしておく。今日はゆっくりと過ごしてくれ」
「畏まった。それなら、宴を楽しみにしておこう。七葵殿はまた面白い踊りを披露してくれるのだろう?」
 眩しいほどの笑顔の真白は、あの頃から全く年を重ねていなかった――。


 ――王国歴1060年頃。
 エトファリカ連邦国の治政方針は大きく変わり、十鳥城周辺の真白の領地は『十鳥省』と呼ばれるようになった。
 隣は『詩天省』だ。その中に七葵が治める千寿がある。併合された訳ではなく、将来的な行政区分の為だ。
「……そうか、いよいよ、孫が生まれる訳か。良い話ではないか、七葵殿」
「その孫も生まれた時から相手が決まっているのも……申し訳ない話だ」
 歳を重ねた七葵は髭を生やし、白髪も増えてきていた。
 といっても、年老けたオーラは発していない。全盛期の時のように眼光に宿る力は鋭く輝いている。
「逢ってみて本人同士でトントンと進む事もある。まだまだ見届けられる時間もあるだろう」
「……まぁ、孫の成長を楽しむというのも、また一つか」
「それにしても、七葵殿がついにお爺さんになるとは」
 意地悪そうに微笑む真白に七葵は笑い声をあげる。
 振り返ると時の流れは早い。ついこの前、元服した我が子が、詩天の有力武将の娘と結ばれたのだから。
 それもつかの間、今度は孫娘の誕生だ。
「真白殿は全くもって変わりはしないが」
「どうやら歳を取る事を忘れたようだ。なに、珍しい話ではあるまい。エルフもドワーフも似たようなもの。守護者の中には同じような者もいる」
 唯一、真白にとって不満なのは、胸が育たない事だろうか。
 悔しいが、成長自体が止まっているという事であれば、言い訳もつくだろう。
「そうだ、七葵殿。最近はその為か、すっかり縁談の話は来なくなったぞ」
「胸を張って言う所ではない気がするが……黒龍から友と呼ばれれば、簡単に手は出せない事情もあるのだろう」
 育って巨大化してきた黒龍の住処として、真白は十鳥城の地下に広がる空間を提供した。
 なんでも『十翼輝鳥』が見つかった深層部に繋がる場所らしい。
「こうなると私は嫁ぎ遅れという次元ではない。最近は身内も何も言わんよ」
「後継ぎはどうするのだ?」
「一先ずは合議体にするつもりだ。多くの人達で力を合わせているから、状況的には変わらない」
 治める領地が広くなれば、それだけ領主としての役割も大きくなる。
 手が届かない所は信頼できる者に権限を与え、任せるしかない。十鳥城は長年、代官が治めていた事もあり、そうした治政は受け入れられ易かった。
「そうか。俺はそろそろ、息子に家督を譲り、引退するつもりだ」
「そうすると、本当にお爺さんのようだな」
「全くだ。縁側で日向ぼっこでもするか」
 二人の笑い声が響いた。
 こんな平和な日がずっと続き、それを見届ける事が出来る……白姫はそう信じていた。


 ――王国歴1070年頃。
 突然の連絡に真白は早馬を駆る。
 七葵の孫娘が何者かによって誘拐されたという。大方、政争相手による陰謀だろう。
 真白は昨年、十鳥城領主の立場から引退していた。今なら一人のハンターとしてどこにでも顔が出せる。
 千寿領に入って真っ先に向かった先は七葵の隠居屋敷だった。
「七葵殿! 七葵殿!」
 屋敷は誘拐騒ぎで右往左往する使用人が数名。
 その内の一人が真白に気づき、息を切らして駆け寄ってきた。
「大変です、真白様。ご隠居様が一人で飛び出して……」
「なんて事だ……七葵殿!」
 グッと拳を握る真白。
 分かっていた事だ。子煩悩な友がこの事態に我慢できる訳がない。
 しかし、七葵はもう若くはないのだ。覚醒ができるかどうかも疑わしい。だから、自分が同行しようと思った。不老である自分ならまだ十分に戦える。
「何のための不老だ。これでは意味がない」
 使用人から七葵が向かった方向を確認すると、そちらに向かって馬を走らせた。
 間に合え――そう深く念じる事を嘲笑うように突然の雷雨が真白を襲う。
 視界が急に悪くなった。これだと探すのも一苦労だろう。
「七葵殿―!」
 声を大にして叫ぶが……鳴り響く雷と猛烈な風雨がかき消す。
 脳裏に浮かんだのは最悪の状況――それが友の人生の運命だとしたら、真白は絶対に認めたくなかった。
 約束したではないか。“彼ら”の分まで生きると。東方の地を見届けると。
 これで間に合わなかったら、真白はまた悔いの日々を生きる事になる。
「七葵殿!」
「真白殿!」
 力の限り発した声に、返事が微かに聞こえた。
 その方向に視線を向けて凝視する。そこには怪我をしつつも、孫娘を片手で確りと抱く友の姿があった。もう片方の手には詩天から授けられた降魔刀を持っている。
 対峙しているのは数名の侍。どれもこれも悪人面していた。
「許さぬ!」
 彼らも何か事情があるかもしれないが、幼い子を誘拐する悪人だ。情けをかける事はない。馬上で素早く『十翼輝鳥』を展開すると力強く引き絞った。
 マテリアルにより生成された矢が出現すると、呼吸を整えて放つ。
「新手か!?」
 雷雨により真白に気が付くのが遅かったようだ。
 放たれた矢が直撃し、侍の一人は倒れた。素早く次の矢を番える真白。自分に向かってくる敵よりも七葵に向かう敵を優先して狙う。
「調子に乗るなよ、小娘が!」
 覚醒者だろうか。一気に距離を詰めた侍の一人が馬上の真白に槍を突き出した。
 真白は盾を創り出すと穂先を受け止める。驚愕の表情を浮かべる侍。弓しか持っていないと思って油断したようだ。
「邪魔だ!」
 『十翼輝鳥』のタグを口元に当てると吹矢を飛ばす。
 首元を抑えて倒れた侍を馬で踏みつけつつ、真白は七葵に視線を向けた。
「ただの老いぼれのつもりはない!」
 気を失っている孫娘を片手で抱えながら刀を振るう。
 その捌き方は尋常ではない。幾つになっても真面目に鍛錬を重ねた彼だからこその無駄のない動きだ。
「クソ爺が!」
「くたばれ!」
 残った侍が一斉に七葵に襲い掛かる。
 それらに対し、練ったマテリアルと共に刀を周囲に向かって振り抜いた。
 宙をマテリアルの刃が駆け、侍達は次々に倒れる。
「よくぞ、無事で!」
 真白は急いで馬から降り気絶している七葵の孫娘に羽織を掛けた。
 周囲を警戒して『十翼輝鳥』を構えるが、立ち上がっている敵の姿はない。
「どうやら全て倒したか。だが、俺も腕が鈍ったようだ……」
 孫娘を庇ったのか背を斬られたようで、降り注ぐ雨が容赦なく血を流していく。
 真白は恥ずかし気もなく自身の着物を破くと止血の為に押し付け、その場所が濡れないように自身の身体を押し付けた。
「何故、先行した! 私が来るまで待っていれば!」
「……俺の孫娘だからだ」
「私であれば、七葵殿は怪我をする事はなかったはずだ。私が――」
 言葉は続かなかった。
 七葵が肩越しに真白の頭に手を置いて、静かに撫でたからだ。
「これでいい。真白殿が一人で背負う事でもない」
「私は……不老だ。七葵殿の人生を見届ける事も、詩天も東方も、ずっと見守る事が出来る。この地の行く末を守る事が出来る。それがダメだというのか?」
「それはダメだ」
 友の台詞に頭に置かれた手を真白は払いのけた。
「なぜだ!?」
「真白殿が一人で背負い込む事を正秋殿が望まない。領民達の笑顔や真白殿が幸せになる事を正秋殿は願うだろう。だが、一人で東方の全てを背負い込む事は違うはずだ!」
「七葵殿……」
「……けれど、友として駆けつけてきてくれた事に感謝する」
 穏やかに告げられた言葉に真白は肩の力を抜いた。
 こんな風に真正面から怒鳴ってくれる人はここ最近、居なかった事もある。
 片や歳を重ね、片や不老で――埋めがたい差は広がるばかりだと思っていたが、そんなものは最初から存在しなかった。
「いや、こちらこそ。七葵殿」
「これは貸しが出来たな。屋敷に戻ったら極上の酒を振舞うか」
 ぐいみをクイっとやる仕草を見せた戦友に真白は微笑む。
「それも魅力的だが、もう一度、七葵殿の面白い踊りが見たいな」
「怪我人に言ってくれる頼みだ」
 ニカっと笑い返した七葵の顔は、昔から変わらない雰囲気のままであった。


 ――王国歴1075年頃。
 千寿初代領主が老衰の為、天国へと旅立つ事になる、その直前。七葵の枕元に真白がちょこんと座る。
「悔いは無い。良い人生だったと俺は思う」
「そうか、それは良かった」
 優し気な表情を浮かべる真白を七葵は初めて見た気がした。
「思い残す事があるとすれば、真白殿の白無垢を見る事が叶わなかった事か」
「このままで良いと思っている」
 表情も瞳も変わる事はなく『永遠の白姫』は覚悟を告げているようでもあった。
「お疲れ様、七葵殿。私は良い友を持った。ありがとう」
 七葵は真白の言葉を聞きながら静かに頷いた。
 これはあの世で正秋殿に伝えなければならない……そう思いながら。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
男女の友情ってなんだろうと思っていましたが、こんな形で良いですかね?というか、こんな七葵君みたいな最期を迎えたいので、真白ちゃんみたいな女の子、誰か紹介して下さい!

某キャノンの勢いのままに、真面目な二人をコメディにするのは流石に難しかったので、ちょっと真面目な感じで描かせていただきました。その分、真白ちゃんが不老の為に、色々と背負い込んじゃっている子になっていますが……こういう経過を辿る事も、個人的には大好物なので! ほんと勝手にすみません! 私は満足です!(


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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2020年05月07日

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