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『転移した侍達』
不知火 仙火la2785)&日暮 さくらla2809

「謎の一団?」
 不知火 仙火(la2785)は、日暮 さくら(la2809)からの報告に首を傾げた。
 ニュージーランドで確認された放浪者の一団かとも思ったが、目撃情報から別の集団である可能性があるという。
「はい。私も最初はペンギン姿の放浪者だと思ってました。ですが、聞けば姿は人間のような姿をしていたそうです」
 アメリカ北部で目撃された一団は、まるで日本の足軽のような鎧に槍を手にしていたらしい。振り返って見ても、今までそのような報告は一度も上がっていない。仙火は集められた情報を元に脳裏で状況を整理していく。
「目撃された場所でナイトメアの被害報告はあるのか?」
「ありますね。ただ……」
「ただ?」
「被害に一貫性がないのです」
 さくらが手にした資料には、確かにナイトメアの仕業と思しき被害報告はある。
 しかし、奇妙な事にその被害内容には不自然な点がある。
 具体的には何かに傷付けられたという人間が傷付けられた報告もありながら、周辺の農作物が食い荒らされたという報告もある。また農機具の破壊報告もあれば馬泥棒もされた被害も上がっている。
「他にナイトメアの目撃証言は?」
「そんな報告は上がっていません」
「そうか。単一のナイトメアとは限らないか」
 この情報を元に、SALF依頼としてライセンサーへ広く参加募集がかけられている。
 既にライセンサーも依頼参加表明を行っている者もおり、仙火の知り合いも混じっている。だが、仙火は、何故かこの依頼が気になっていた。
「何か心配な事でもありますか?」
「心配というか、ちょっとした勘だ。この依頼、そう簡単な話じゃない気がする」
 言い知れぬ違和感を仙火は感じ取っていた。
 単なるナイトメア討伐で済むのか。それとも何か得体のしれない存在が待つのか。
 ただ、だからこそSALFはライセンサーを派遣する。ナイトメアであれば被害を抑える為、確実に討伐しなければならない。
「ま、簡単な話じゃなくても依頼を受けるんだがな」
 仙火は再び資料に目を落とす。
 少しでも違和感の正体を探る為に。


「殿。森に何者かが侵入しました」
 幕の張られた陣で、殿と呼ばれる存在が部下からの報告を受ける。
 この森に迷い込んだ当初、ここが何処なのかも分からなかった。部下からの報告で少しずつ周辺地域が分かってきたが、同時に奇妙な生物にも襲われる事もあった。
 陣を中心に守備を固めているが、今度は森の外から何者かが現れたという。
「敵か?」
「不明でございます。旗物もなければ家紋を確認できる物もございませんした」
「数は?」
「確認できただけでも6。例の奴らは未だ動いておりませぬ」
「うぅむ」
 今までこの森の中で人間に出会う事はなかった。遠目で見かける事はあったが、一様に人々は逃げ出していった。その中で自分から森に足を踏み入れる者達。
 彼らの目的は何か。そして、敵か――味方か。
「こちらから仕掛けてみるか。その動きで次の一手を判断する。手筈通りに動くのだ」


「視界は悪いな」
 仙火は目撃情報のあった森が、情報よりも薄暗い事に気付いた。
 まだ昼間であるにも関わらず、日光は森の地面に届いていていない。周囲に木々は生い茂っているものの、空は枝葉が覆い隠している。枯葉の香りと同時に湿っぽい土の香りがする。
「ここまで視界が悪ければ、飛び道具は控えた方が良いかもしれませんね」
「ああ。だが、それは敵も同じだ。これだけ木々があるなら狙撃の心配はねぇな」
 さくらの言葉を聞いていた仙火は、その言葉と裏腹に警戒を続けていた。
 ライセンサー6名で森に足を踏み入れたのだが、木々の間隔を見るだけでも槍などの長物を振るうには狭すぎる。他のライセンサーもその事が分かっているのだろう。やや短めの刀剣やハンドガンを中心に装備を固めていた。
「今回の敵、どう思います?」
 さくらは問いかけて来た。
 仙火はそこで率直な返答を返した。
「さぁな」
「……ふざけないで下さい」
「ふざけてねぇよ。情報が少なすぎるんだ。
 だが、仮説ぐらいは立てられる。そいつは……」
「誰か居たぞっ!」
 仙火の言葉を遮るように先行していたライセンサーの男が叫んだ。
 二人が顔を上げれば、日本の足軽のような姿をした男達が視界に入った。数は3人程度。こちらの姿を確認したのだろう。慌てて来た道を引き返している。
 自然の流れのように追いかけるライセンサー達。
「待て、逃げるな!」
 地面の枯葉を蹴り上げながら、走る。
 足軽達も必死なのか、時折振り返りながらこちらの様子を窺っている。
(逃げているのか? なら、何故逃げる必要がある? こちらは攻撃の構えすら取っていなかった)
 走りながら、仙火は違和感を感じ取っていた。
 そして、それはさくらも気付いていた。
「仙火、これは何かおかしいのでは? 少々不自然な気がします」
「だよなぁ。こういう場合、大抵ロクな事にはならねぇんだ」
 ライセンサーは足軽を追いかける最中、木々の海を抜けた。
 そこは視界が開けている上、前方と左右は一段高い崖があった。
 その上には足軽達の仲間と思しき侍風の男達が待ち構えていた。
「待ち伏せ……釣り野伏か」
「敵は遠距離攻撃を仕掛けてきます。盾で防御を!」
 仙火の呟きを聞いていたのか、さくらは直様他のライセンサーへ警告を促す。
 視界が開けた上に一段高い所へ敵を引き込んだとなれば、安全な所からの遠距離攻撃が定番だ。
 侍大将と思しき初老の侍が、大声で叫んだ。
「撃てっ!」
 次の瞬間、茂みに隠れていた足軽達の鉄砲が火を噴いた。
 ライセンサー達の構えた大盾に身を隠す仙火。盾越しに聞こえる弾の衝撃音。
「あれは……?」
 仙火が奇妙な点に気付いたのは、盾に当たった弾の音だ。いつもの戦場で聞く音に比べてずっと軽いのだ。これは単純に威力が低いからなのだが、仙火は盾の隙間から目にした足軽の武器に目を奪われた。
 銃に付けられた板バネの仕掛け。そして、それに付けられているのは火の付いた縄であった。
「火縄銃でしょうか。何故、このような武器を……」
「どうやら放浪者の一団はこいつらだな。ナイトメアとこんな武器で戦っているライセンサーなんて聞いた事ねぇぞ」
 銃弾の鳴り響く中、仙火は森で目撃された者達が彼らだと直感した。
 まともな武器も保有していない侍姿の男達が、ずっと森に隠れている。普通に考えれば放浪者が団体で出現したのだろう。事情を理解していない彼らは森で情報の収集を続けるのも頷ける。
 だが、気になる点もある。
「さくら、奴らが放浪者なら無意味に森の外の人間を傷付ける愚は犯さないはずだ」
「そうでしょうね。伏兵を用いて敵に挑むだけの知恵があるのですから」
「連中がそんなバカとは思えない。おそらく敵は奴らだけじゃない。周囲に警戒を怠るな」
 仙火の言葉にさくらは頷いた。
 できれば侍達の話を聞きたいところではあるが、それを実現するにはこの状況を打開する必要がある。仮にそれでも侍達が敵対するというのであれば、その時は実力を持って身柄を拘束すれば良い。
「敵の動きは封じた。今こそ、一気に討ち取るのじゃ!」
 再び侍の叫び声。
 おそらく銃弾で盾を構える事を計算した上で動きを封じるつもりだったのだろう。封じた上で足軽が陣に突撃して敵陣を蹂躙する。
 すべて計算していたのだろうが、侍達には計算できない部分があった。
 ライセンサーの単体戦力が、一般人よりも遙かに上だという現実に。
「前に出てくれるなら話は早ぇ。こっちもやるぞ」
「仙火、彼らから話を聞かなければなりません。派手に暴れすぎないように」
 守護刀「寥」を抜いたさくらは、迫ってくる足軽達の刀を屈んで回避。
 同時に抜き胴で寥の刃を叩き込む。胴の部分を破壊して吹き飛ばされる足軽。
 さらに後方から斬り掛かる足軽。
「このっ!」
 さくらは慌てる様子もなく振り下ろされる剣を横に回り込んで躱す。
 そして刀の柄で足軽の喉元に一撃を加える。
 呼吸困難に陥り、痛みで地面に悶える足軽。
「こちらはこれ以上の交戦を望みません。皆さんと話をさせて欲しい」
 周囲の者へ話し掛けるさくら。
 その一方、仙火は指揮していた侍へ真っ直ぐ向かっていた。
「お前が指揮官か!」
「!」
 仙火が放つ一刀を、指揮官は軍配で受け止める。
 軍配は金属製なのか、激しい金属音が響き渡る。
「真っ直ぐにわしを狙うとは。軍神か。それとも余程の愚か者か」
「できれば軍神って事にしてくれ。そっちの方が性に合う」
 守護刀「寥」に力を込める仙火。
 顔に刻まれた侍の皺。その一つ一つのが経験の証だ。足軽達を指揮している所を見れば、相応の地位にある者に違いない。
 一方、侍の方も刀に加えられる力から仙火の力量を察したようだ。
「この力。侍としては一角の者か」
「褒めてんのか?」
「いや、それだけの力量で伏兵に気付くのがらしくない。一緒に同行していた者は部下ではないのか?」
「残念ながら、部下じゃねぇよ!」
 寥の軌道を切り替え、力を受け流す仙火。
 一瞬、気圧される侍。
 その瞬間を狙って天堕れへ持ち替え、横から侍の首を狙う。
 だが、その一撃は侍へ届く事はなかった――。
「うわぁぁぁ!」
 周囲に響く足軽の声。
 侍も異変に気付く。
「何事ぞ?」
「殿、申し上げます。例の猿達が現れました」
「なんと!? この騒ぎに聞きつけたか。兵を集めて迎撃の用意じゃ」
 部下と侍のやり取りを聞いていた仙火。
 すぐにさくらへと振り返る。
「さくら」
「周囲を猿型のナイトメアに囲まれています。どうします? 彼らを助けますか?」
 さくらは仙火へ判断を促した。
 予想通り、森の外で人を襲っていたのはナイトメアだ。数は不明だが、侍達にも迎撃できていたとすればそれ程数は多くない。
 むしろ厄介なのは侍達の処遇だ。放浪者である事は間違いなさそうだが、戦いに乗じて彼らを捕縛する事も可能だ。戦力差を考えても決して不可能ではない。
 しかし、仙火は先程まで見ていた侍に強い興味を抱いていた。
「助けるぞ」
「こちらを攻撃しないという確証でもあるのですか?」
 さくらの疑念も無理はない。
 つい先程まで刃を交えていた相手だ。
 それに対して仙火は自信を持って答えた。
「ねぇよ。ただの勘だ」


「チキュウ? そのような場所、聞いた事もないぞ」
「こちらも千里の国とは聞いた事がありません」
 猿型ナイトメアを討伐したライセンサー達は、侍達と改めて話し合いを行う事にした。
 やはり、彼らは放浪者で異世界から地球へやってきたようだ。
 侍達は千里と呼ばれる国の侍で、隣国の山路の侵攻を食い止める為に金龍寺より出陣して数日後に地球へと転移してしまったようだ。転移した理由も思い当たる事がない上、気付けば地球へいた状況である為、この森で情報を収集していたようだ。
「還る術はないのか?」
「それは私も知りません」
 さくらは率直に答えを口にした。
 さくら自身はワープ装置を使って転移を強行、仙火も地球へ敵を追ってきたものの、諸事情で帰還する術が失われてしまった。だが、侍達は意図せず地球へやってきたのだ。できるものならば元の世界へ帰りたいはずだ。
「困ったぞ。山路は大群。策なくば、金竜寺は落ちるやもしれぬ」
「帰還の方法が分かったら教えてやるよ。それより、こっちはいけるんだろ?」
 仙火は侍に御猪口を差し出した。
 侍は軽く笑みを浮かべるとその御猪口を受け取った。
「この世界にも酒はあったか……んん!? なんじゃ、水か?」
「酒だよ。なんだ、酒を見た事はないのか?」
「いや、わしの知っている酒はもっと白く濁った酒じゃ。これがチキュウの酒か」
 御猪口に注がれた日本酒をまじまじと見つめる侍。
 その横から仙火は飲むように促す。
「飲んでみろ。まだ酒はあるからよ」
「うむ……おお、実に美味。鮮麗されておる」
 初めての日本酒にご満悦の侍。
 仙火は気になっていた事を侍へぶつけてみた。
「そういや、おっさん。名前は? 俺は不知火仙火。こっちはさくらだ」
「日暮さくらと申します」
 片膝を付いたまま頭を下げるさくら。
 侍は小さく頷いた後、ゆっくりとしゃべり出す。
「わしは千里の守護代東條家家老、田村時貞と申す」


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近藤豊 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月07日

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