▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『胎動 〜パレルモ防衛戦〜』
不知火 仙火la2785)&不知火 楓la2790

 東地中海沿岸地域を中心に発生した、ナイトメアによる大規模襲撃事件。
 沿岸地域の集落や街を襲撃した上で、多数の住民を何処かへ連れ去る事件が発生していた。
 SALFエオニア支部を中心に本事件の対応に追われる中、欧州戦線の維持を目的として北米支部よりSALF版海兵隊『海猫隊』が派遣されてきた。
 エオニア支部の面々からすれば完全な外様であるが、戦力増強が必要不可欠な状況である。北米からの派遣に感謝するも、エオニア支部の努力虚しく大規模襲撃事件は更に激化していた。
「まるで海賊だな」
 不知火 仙火(la2785)は事件の状況を、そう表現した。
 発生地域を地図上に表記してみたものの、事件の発生範囲があまりにも広い。地中海東部の沿岸地域ではあるが、イタリアからギリシャ、エオニア支部周辺と広範囲に渡る。おまけにナイトメアはこれらの地域に予告もなく出現して攻撃を仕掛けている。事前に部隊の駐留を行えれば撃退もできるだろうが、これらの地域すべての部隊を派遣するのは不可能だ。
「海賊の時代って随分前に終わったんだよね? 今更って感じだけど。私掠船団でも雇い入れる?」
 仙火と共に戦況を確認していた不知火 楓(la2790)は、やや揶揄するような言い方をする。
 確かに大航海時代が終わって久しいが、状況は海賊が跋扈する時代と変わらない。まさにイタチごっこな状況なのだが、決定的な打開策が見いだせていない。楓が揶揄しなくなる気持ちも理解できる。
「ナイトメアに攻撃してくれるナイトメアがいれば、私掠船団でも組ませるがな。
 厄介な事はもう一つある」
「厄介な事?」
「連中の積み荷……掠われた住民達だ」
 仙火、更にはSALFエオニア支部が頭を痛める点が、まさにここだ。
 ナイトメアは襲撃した集落から住民を多数連れ去っている。殺される住民も確かに存在するが、多くは殺さずに何処かへ移送しているようだ。
 楓は、その点について冷静に指摘する。
「ナイトメアなんだから、またエネルギー源にでもしているんじゃないの?」
 過去、ナイトメアの拠点であるインソムニアでは多数の人間がナイトメアのエネルギー源とされている事が確認されている。
 ナイトメアにとって想像力はエネルギーであり、力だ。
 大部隊を維持するには莫大なエネルギーが必要である。それを定期的に供給する為には人間を捕縛して悪夢を見させ続ける。そこから発生するエネルギーを採取すればナイトメアが活動するエネルギーを十分入手する事が可能だ。
 しかし、仙火はその説に懐疑的だ。
「そうかもしれねぇが、連れ去られた人間の数に対して敵の行動が不自然だろ。連れ去った人間はかなりの数だ。それだけの規模の人間が必要な部隊をナイトメアが保有しているなら、とっくに欧州へ総攻撃を仕掛けていてもおかしくねぇ。だが、今の所それもなしだ」
 仙火が気になっていたのは、連れ去った人間をナイトメアがどうしているのかという点だ。
 他のインソムニア同様にエネルギー源としているとしても、連れ去った人間の数があまりにも多い。それだけのエネルギーが必要な規模の部隊があるならば欧州本土へ攻撃を仕掛けているべきだ。言い換えれば、エネルギー源以外に人間が必要な状況が発生している事になる。
 ――それは、一体何なのか。
「確かに、不自然だね。ナイトメアに何らかの秘密があるって事?」
「そうかもしれねぇし、そうじゃねぇかもしれねぇ」
「どういう事?」
 首を傾げる楓。
 椅子に腰掛けていた仙火は、体を背もたれへと投げ出した。
「今の状況じゃ、はっきりした事は言えねぇって事だ。奴らが何かしようとしているのは間違いねぇだろうがな」
 仙火としてもこの状況だけで判断はできない。
 あまりにも情報が不足しているのだ。これを打開する為には、まず今の状況を変える必要がある。大規模襲撃事件を対応しながら、敵に攻勢を仕掛ける。
「簡単な話じゃねぇよなぁ、やっぱ」
 仙火は天井を見上げる。
 厄介な難題を前に、仙火はため息をついた。


「間もなく到着みたいだね」
「今度は何処だって?」
 海猫隊専用キャリアー『ニャーカイラム』で移送される楓と仙火。
 海猫隊にナイトメア襲撃の一報が入ったのは少し前。早急に戦力を整えてエオニア支部から出撃したのだが、現在もナイトメアの襲撃は続いているらしい。
「にゃ〜。目的地はシチリア島のパレルモだにゃ〜」
 海猫隊隊長のニャートマン軍曹(lz0051)が、仙火の問いへ答えるように通信機で伝えてきた。
 襲撃された場所はシチリア島のパレルモ。
 楓の記憶ではシチリア島は以前もナイトメアの襲撃を受けていたはずだ。
「また襲ってきたって事?」
「そうにゃ〜。連中、本当にしつこいにゃ〜」
「軍曹、確認されている敵戦力は? あと現地の状況も教えてくれ」
 少しでも情報が必要としていた仙火は軍曹へ呼び掛ける。
 現地の状況を少しでも知っていれば、現地で取るべき行動は自ずと見えてくる。
「えーと……確認されているのはチェックナイトと呼ばれる甲冑型ナイトメアが5体にゃ〜。町中で今も暴れているにゃ〜。あとまだ避難できていない市民もいるにゃ〜」
 軍曹によればパレルモに突如出現したチェックナイトが、剣や棍棒を手に町中で暴れているらしい。
 特に家屋の破壊を中心に行っており、市民の避難は未だ完了していないらしい。
「そうなると市民を避難させながらナイトメアを倒さないとだね」
「そうなるにゃ〜。こいつらは先日遭遇したパインツリバーって名乗った連中かもしれないにゃ〜」
 楓の言葉に軍曹は、知っていた情報を追加した。
 先日、海猫隊はナイトメアの一団と遭遇していた。パインツリバーと名乗った彼らはレッドフィールドというエルゴマンサーに率いられて集落を襲撃。正義に拘り、自らの正義を絶対視する彼らは十字軍を彷彿とさせる。
 特にレッドフィールドは厄介な相手だった。楓も報告書でその情報を知っているのだが――。
「……仙火?」
 楓は傍らにいた仙火の顔を覗き込むように問いかけた。
 先程から黙って情報を聞いていたようだが、何かを考えている様子だ。
 しばらく沈黙した後、仙火は口を開く。
「軍曹、連中は家屋を破壊している『だけ』なんだな?」
「そうにゃ〜。レッドフィールドもいないみたいだにゃ〜」
「そうか」
 仙火はそれだけ聞くと再び押し黙った。
 必死に考えを巡らせる仙火であるが、残念ながらここで時間切れとなる。
「現地に到着したにゃ〜。各員、パラシュートで降下するにゃ〜。急ぐにゃ〜、MOVEにゃ〜」
 緊張感のない声で命じる軍曹。
 楓と仙火は言われるがままに降下の準備を始める。


「仙火、そちらへ追い込むよ」
 禁書「スペルエラー」を手にした楓は因陀羅の矢をチェックナイトへ放つ。
 チェックナイトは後退しながら、身を守ろうと手にしていた盾で防御を固める。
 しかし、それ自体が楓の狙い。
 因陀羅の矢を放ったのは敵を倒す為ではない。
 楓はチェックナイトを後退させる事で目的の地点へ追い込む事だった。
 そして、そこには――。
「ようこそ。そして……さよならだ」
 背後から仙火の一刀。
 力任せに振り下ろされた一撃は、チェックナイトへ反撃の隙を与える前に両断する。
 白い仮面は割られ、チェックナイトだった者は音を立てながら地面へ崩れていく。
「これで最後だね」
 走り寄ってくる楓。
 だが、仙火の顔色が優れない。
「どうしたの? さっきから不機嫌そうだけど」
「おかしくねぇか?」
 仙火の言葉に首を傾げる楓。
 目標だったチェックナイトはすべて撃破。市民に被害はなく、家屋の破壊だけで済んでいる。これも比較的海猫隊の出動が早かった為だが、仙火は何かが気に入らない。
「おかしいって?」
「……軍曹、聞こえるか」
「にゃ〜。聞こえるにゃ〜。チェックナイトもすべて撃破したみたいだにゃ〜。よくやったにゃ〜」
 仙火の呼び掛けに軍曹は暢気な感じで答える。
 今回も早期出動でナイトメアを撃破できたのだから充分な戦果だ。
 暢気な軍曹に対して仙火は言葉を続ける。
「この街で誰か掠われていたか?」
「……あ」
 仙火の言葉で楓も気付く。
 不自然だった事。
 それは家屋の破壊だけで街の住民が掠われたという情報が入っていなかった。今までの襲撃であれば必ずナイトメアが住民を連れ去ろうとしていた。しかし、今回の情報の中で、住民が掠われているという話は一切なかった。家屋を破壊するだけでナイトメアは何もしていない。そもそもパレルモの街はシチリア島の中でも比較的大きな街だ。それをナイトメア5体が現れるのは不自然だ。
「そういえば、そんな話は聞いてないにゃ〜。被害も家屋だけって聞いているにゃ〜」
「仙火」
 楓は既に理解している。
 言葉にせずとも分かっている。
 このナイトメアの動きは、別の意図を隠す為の物だと――。
「軍曹、早急に周辺で異変がないか調べろ。こいつは陽動だ。連中の狙いは別にある」


「そうか。奴らは食いついたか」
 レッドフィールドは海猫隊の動きを察知して満足そうに呟いた。
 先日、シチリア島の集落で遭遇した敵。レッドフィールドには分かる。彼らは油断ならぬ存在。元より手加減する気もないが、油断をすれば危険な相手だ。
 だからこそ、作戦の成功に慎重な方法を取った。
 敵の目をシチリア島へ向けさせる裏で、本隊は別地点で本命の作戦行動を取る。
「騙し討ちな気もするが、これもすべては我が主と正義の為。致し方あるまい」
 レッドフィールドにしても不本意だ。
 本来であれば正面から相手を正義の下に斬り伏せるべきだ。
 しかし、主からの勅命であれば従う以外に選択肢はない。レッドフィールドは己の信条から目を逸らし、与えられた使命を全うしていく。
「さて、奴らはここに気付くか?」


「にゃ〜。急いで調べたんにゃが、ナイトメアに襲撃されたって報告はないにゃ〜」
 軍曹は仙火と楓に言われるまま、エオニア支部へ連絡を取った。
 しかし、ナイトメアに襲撃されたという報告は上がっていなかった。
「襲撃とは限らないんじゃないかな? 目撃情報でもいいんだけど」
 楓の言葉を受け、軍曹は通信機越しでも分かるぐらいに渋々と資料を漁り始める。
 陽動を仕掛けた時点で、本隊の目的は別にある。
 もし、破壊活動が目的であれば既に襲撃されている街が存在するはずだ。しかし、そのような報告は受けていない。となれば、陽動の目的は破壊活動ではなく、別の目的を果たす為の工作だったと考えるべきだ。
「ナイトメアの連中は、何かを企んでやがる。それを隠す為に陽動を仕掛けたんだ。現時点で俺達に知られたくない何かをやってる。その痕跡は必ずあるはずだ」
 仙火は、明確に断言する。
 意味も無く陽動をするはずがない。何か目的を果たす為の準備を行っている。準備が必要という時点で、大がかりな事を目論んでいる可能性がある。
 
 もし、今回の大規模襲撃がすべてその目的の為だとしたら?
 その目的達成の為にこれだけの『仕込み』を行っているとしたら?

 仙火の脳裏に一抹の不安が過る。
「これは関係あるか分からにゃいが……」
 そう言いながら、軍曹は報告書の一部を読み上げる。
「えーと……『ポンペイ周辺で多数のナイトメアを目撃したという連絡があり。現地へライセンサーが急行するも、ナイトメアの姿がなかった』とあるにゃ〜。結局、これは見間違えって事で処理されているにゃ〜」
「仙火」
 振り返る楓。
 敵の不自然な行動。
 しかも、多数のナイトメアならば本隊である可能性は高い。
「ああ、当たりだな」
「にゃにゃ〜!? どういう事だにゃ〜?」
 仙火の言葉を聞いた軍曹は、ちょっと怒気を織り交ぜながら騒ぐ。
 仙火は少しだけため息をついた後、気を引き締める。
 本番は――これからだ。
「敵の本隊は、そこだ。連中、ポンペイで何かやらかすつもりだぞ」


おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.