▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『上がれ 群れ星よ』
神取 アウィンla3388

●NAGOYAダンジョン
 『ライセンサーに優しい隠れ家レストランがある』
 そんな話しを私アウィン・ノルデン(la3388)が小耳に挟んだのは冬の終わり。場所は名古屋だと聞いて、よっぽどそちらで依頼がない限り行く事も無いのだろうなと思ってその時は聞き流すに終わった。
 それが春先。ちょうど大学も春休みの期間にたまたま彼女と私、ほぼ同時期に名古屋へ赴く用件が出来た。
 では向こうで落ち合おうと約束をしたのはまだ桜の咲く少し前。
 無事予約が取れた私は、早速単身名古屋へと乗り込んで、噂の隠れ家レストランへと向かった。
 ……紳士たるもの、恋人とデートするのに事前調査をしないなんて愚行は冒せない。
 特に初めて行く地だ。万が一交通機関を乗り間違えるなどあれば目も当てられない。

「……地下鉄はどこだ?」
 『名古屋駅は魔境だから気を付けてね!』なんていう話しを聞いてはいたものの、リニアから降りて案内板の通りに歩いたはずなのに、目的の出口に辿り着けないとは一体どういう事だろう?
「この矢印通りに行けば銀時計とやらに到着するのではなかったのか……?」
 銀時計に辿り着ければ、あとは直線で地下鉄の駅に出ると聞いたのに、そもそも銀時計に辿り着けない。
 新宿や大阪梅田の地下街も初心者には攻略が難しいダンジョンだと言われて半世紀。都会とは確たる物であるらしいが、まさか『名古屋飛ばし』で有名な地ですらダンジョン化しているとは思わなかった。
「これは下見に来て正解だったな……」
 学会だの何だのの関係で何度か来ている彼女ならもしかしたら攻略済みかも知れないが、異邦人の自分には何が何だか分からない。狭い地下道を歩かされる分、なんなら方角すら怪しい。
「これは……聞こう」
 ナビを使っても分からないのだから、諦めて誰かに聞こう。とりあえず売店は見つけられたので問いかけてみれば、意外にも近い場所まで来ていたことが分かった。
「お仕事中、ご親切に有り難うございました」
 礼を告げれば売店の女性は顔を赤らめつつも「いいのよー!」なんて手のひらをひらひらと振って見送ってくれた。

 教えて貰ったままに歩いてようやく目的のホームに辿り着き、行き先を確認して地下鉄に乗った。
 色々あったが時間に余裕を持たせておいて良かった。何とか予約の時間には間に合いそうだと安堵しつつ、最寄り駅に辿り着き、地上へと出た。
「……流石隠れ家レストランだな……全くわからん」
 出た先はオフィス街。高層ビルが並び、右も左も似たような風景が広がっている。
 『隠れ家』であるため、ネットの地図表示には出ないのだという。
 口コミで記されていた道順の通りに歩いたはずだが……目的のビルが見当たらず途方に暮れる。
 ジリジリと予約時間が迫っている中、これ以上時間を無駄にするのも惜しいと思い、素直にレストランへと電話する。
『今、周囲に何が見えますか?』
 やわらかな低音に問いかけられて、見える物をそのまま告げる。
『……左手にパン屋さんが見えませんか?』
「……あぁ、あります」
『ではその二件隣に周囲よりやや古いビルがありませんか?』
 二件隣。つまり、自分の立っている前のビルだ。確かに周囲に比べたら築年数の進んでいそうなビルではある。
『その奥に当店はございますので、そのまま奥へお進み頂けますでしょうか』
「え!?」
 ……辿り着けなかった敗因は、口コミに書かれていたビル名が間違っていた為だったと分かった。


●ダンジョンを抜けた先にはShangri‐La
「いらっしゃいませ」
 出迎えてくれたロマンスグレーの紳士が先ほどの電話の主だと分かった。
「有り難うございました。お陰で辿り着けました」
「よくいらっしゃいますよ。本当にこのビルで良いんだろうかと迷われる方も多いんです」
 そう上品に微笑む紳士の胸元には『店長』と書かれた名札があった。なるほど、この人物がこの店の雰囲気を作っているのかと納得する。
「ノルデン様ですね? ご案内いたします。こちらへどうぞ」
 メニューを手にした紳士の後に付いて歩いて行く。
 通りすがりに出逢うウェイターやウェイトレスも、私を認識すると一度手を止め「いらっしゃいませ」と静かにお辞儀をする。
 通されたのは、1階の大きなガラス窓のあるホール。1人掛けソファが2脚並んだテーブル席だった。
 ガラス窓からは評判の庭の様子が良く見える。が、まだ桜のつぼみは堅く、陽も沈んだ今は少し寒々しい印象を受けた。
 渡されたメニューを開けば、基本はフランス料理のようだが、一品物には和食、イタリアンと多岐にわたっている。
 また『ブフ・ブルギニヨン……牛肉の赤ワイン煮込み』などの注訳もちゃんと入っているため、知らないメニューがあってもいちいち調べたりはしなくて良さそうだ。
 ひとまず漁師風ブイヤベースとホタテのラタトゥイユ風パスタ、そしてグラスのハウスワインを注文し、再度庭へと視線を移す。
 燈篭の灯りが暖かく庭を灯している。
 まだ蕾の桜の木は葉すらなくやはり寒々しい。一方で桜の木の下部は常緑樹が植わっており瑞々しい緑が待ち遠しい春を思わせる。
「あの桜の木の根元の樹は何という樹だろうか?」
 調べれば分かるだろうが、食事を運んできてくれたウェイトレスに尋ねる事にした。
「シャクナゲですよ。ツツジによく似た花を咲かせますが、シャクナゲの方が花弁が可憐で纏まって咲くので迫力がありますよ」
 「漁師風ブイヤベースです」と丁寧にセッティングをしてウェイトレスは去って行った。
 うっかりハウスワインを赤で頼んでしまったのだが、頼んだメニューは明らかに魚介類。
 しくじったかと思ったが、さらりとした飲み口であるため、意外に料理の邪魔にはならなさそうだ。
 トマトベースのラタトゥイユには海老や白身魚、貝類がしっかり入っていて実に美味しい。
 別口にバケットが記載されていた理由が分かった。これはスープを浸して食べたら絶対に美味しい。
 丁度食べ終わった頃に今度はパスタが到着。
 ナス、ズッキーニ、パプリカに玉葱。こちらもトマトベースだが、しっかりと煮込まれた野菜が甘くてホタテとの相性も素晴らしく、ペロリと平らげてしまった。
 本当はデザートまで挑戦したかったが、時計を見ればそろそろ帰り支度をしなければならない時刻が近付いていた。
「次はもう少しゆっくり来ます」
 そう告げると、店主は「違ったら済みませんが、もしかして」と断ってから自分が彼女と予約した日時を言い当てた。
「先ほど、予約のお客様が帰られた所なのですが、お席も観て行かれますか?」
 驚く私を見て彼はチラリと伝票を見るとそう尋ねたが、私は逡巡の後それを丁重に断ることにした。
「楽しみに取っておきます」
「左様でございますか。では、当日を楽しみに待っておりますね」
 そう言ってやはり上品に微笑むと優雅に頭を下げた。
 一つ一つの所作を丁寧にやってきた者が身につけられる自然で有りながら筋の通った洗練された動きだった。


 店を出て、古びたビルを抜けた。
 オフィス街にはもう殆ど人気がなく、流れる車のヘッドライトが眩しい。
 それから逃れるように視線を上へ向ければ、四角く切り取られたような夜空には星が瞬いていた。
 大丈夫。きっとここなら彼女も気に入ってくれるだろうし、店の雰囲気的にも私の決意を示すにも邪魔することはないだろう。
 私は充足感を心身に感じつつ家路へと急いだのだった。




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【la3388/アウィン・ノルデン/男/外見年齢24歳/】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。
 朝起きたら猫耳が生えていたという出だしが浮かんだんですが、落ちが付けられなかったので意外に普通なノベルになってしまいました。
 反省。
 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またグロリアスドライヴの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。



おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.