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『重体になり過ぎて人間ではなくなったようですがキャノンとして残りの人生頑張ります!』
鬼塚 陸ka0038)&鬼塚 小毬ka5959

 僕――鬼塚 陸(ka0038)――は、最も愛する女性、鬼塚 小毬(ka5959)と共に、アルテミス王国支部にやって来ていた。
 ここで、ハンターオフィスの受付嬢でもある紡伎 希(kz0174)から、二人に大事なお知らせがあるというのだ。
「……では、心して聞いて下さいね、リク様。そして、コマリ様」
 希ちゃんは一呼吸置いてから真剣な表情でそう告げる。
 かつて、これほどまでに緊張するような事があっただろうか。僕は姿勢を正して頷いた。横に座る小毬も緊張しているようだ。チラっと胸の谷間が見えたが意識を強引に引き戻す。
「リク様は……エリクシールの使い過ぎで、身体の8割がキヅカキャノンになっています」
 緊張し過ぎて、僕は受付嬢の言葉を聞き間違えたようだ。
「ごめん。もう一回言って」
「はい。リク様はエリクシールの使い過ぎで、身体の8割がキヅカキャノンです」
 どうやら聞き間違いでは無かった。
 というか、希ちゃん、そんな真剣な顔で冗談言わなくていいのに。エイプリルフールは終わってるよ。
「なにを、やだな〜。希ちゃん。そんな事ある訳ないじゃん! ね、マリ」
 乾いた笑いを飛ばしつつ、僕は隣のマリに話を振った。
 こんな悪い冗談を聞かされるために、わざわざ王国まで足を運ばせた事に、万が一でもマリが激怒したら大変だ。ご機嫌取りが如何に大切な事なのか、この受付嬢は分かっていないのだ。
「そんな……リクさん」
 大号泣ですよ、この人。
 演技だよね? そんな冗談で泣ける訳ないよね? 人前だっていうのに、そんなに大胆に抱き着いてくるなんてさ。
 胸の圧力が凄い……あ。やばい。そんな場合じゃないって。
「希さん。回復の見込みはあるのですの?」
 僕に抱き着きながら泣き顔をチラっと希ちゃんの方に向けて健気に訊く。
 無情にも受付嬢は首を横に振った。
「残念ながら……元の姿に戻す方法を私は知りません」
「いやさ、二人とも冗談はいいよ。手が込んでいるとは思うけどさ」
 これはアレだろ。そこの奥の扉が開いて、賑やかな仲間達が『大成功』とか書かれたプラカード片手に入って来るやつだ。
 大体、僕は例のキャノンから解放され、清い体になっているんだ。その為の神社建立だよ。
「冗談ではありませんですわ!」
「まさか、既に頭の中までキヅカキャノンに……」
 必死な二人に僕もいい加減、大人になろうと思う。
 ここは敢えて乗ってあげるのだ。彼女らの『どっきり』に。
「それじゃさぁ、希ちゃん。どうして僕が8割キヅカキャノンになったのか、ちゃんと説明してよ」
「はい……リク様はこれまでの戦いで幾度もなく重体になり……都度、エリクシールをお使いでした」
 うんうん知ってる。
 酷い時は覚醒者であっても半月以上は身動きが取れない程、負傷した事があった。
 でも、エリクシールがあれば、一瞬で回復するのだ。
「エリクシールの正体は知っていますか?」
「星の力だと私は聞きましたわ」
「あ……そうなんだ。なんか、やばい薬だと思ってた」
 訓練所に行って台の上で寝かしつけられて目が覚めたら重体から回復しているから、やばい何かだと思っていたけど。
「コマリ様の仰る通り、星の力です。もっと正確に言うと星そのもの……と言ってもいいかもしれません」
「どういう事なんだい?」
 やけに手が込んでいる設定だが、聞いてやろうじゃないか。
 どうせ最後には『どっきり』カードがどこかから出てくるのだろうしな!
「重体の状態は肉体的にせよ精神的にせよ、本来あるべき姿より欠落している状況を指します。コマリ様、治癒魔法の原理はご存じですよね?」
「えぇ……体が持っている治癒力を高める事、あるいは、術者の治癒力を分け与える事……ですわ」
「その通りです。ですが、重体の状況というのは治癒力を受け付けない状態になっています。徐々に僅かずつ回復していく必要があるから、期間が必要なのです」
 妙に納得がいく説明だ。希ちゃんの話は続く。
「エリクシールはその過程を無視します。つまり、無の状態の所に有を創り出すのです」
「だから、星の力……なのですわね。人の存在そのものもある意味、星の一部。そうであれば、失われた箇所を再作成すれば回復を待つ必要性はないですわ」
 そういう仕組みか。
 これはきっと本当に近い話なのだろう。昔から嘘をつくときは本当の話の中に嘘を少し混ぜるって言うし。
「それと8割キヅカキャノンの関係はなんだろうか?」
「コマリ様のお言葉をお借りして説明すると、失われた箇所を再作成する際に、エラーが発生した……あるいは、星がおまけでより相応しい状態に再作成した……とか」
 少し顔を赤らめて視線を外す希ちゃん。
 ちょっと可愛い仕草だけど、意味深過ぎてよく分からないよ。
 つまりあれか、損傷した部位を復活させようとして、元の状態を哀れんだ星が、勝手にキャノンに変えてしまったという話かよ!
 僕は思わず自分の身体のある一点を見つめた。大丈夫。だって、毎日見ても触っても、自分のブツに違いないのだから。
「やだな〜。希ちゃん。そんな訳……」
「……リクさぁぁぁん!」
 コマリが大号泣で僕もこまります。なんつって。
 というか、今、大泣きするような場面じゃないっしょ。
「一度、キャノンに変換された箇所が生じた為、その後も、エリクシールを使用する度に、キャノンの領域が増えていったと思われます」
 ガチ泣きするマリに申し訳なさそうに告げる希ちゃん。
 ここまで来ると、流石の僕でも不安になるんだけど……。
「希ちゃん……この話、マジ?」
「マジです」
 即答かい!
 本当なのか? でも、希ちゃんはこんな冗談言う子じゃないし、マリの号泣の仕方もガチだし。
 けど、窓に映っている僕の姿は僕だよ。頭がPとかTとかなってないし。
「コマリ様……元の姿に戻す方法を私は知りませんが、何とかできる人がいるかもしれません」
「ほ、ほんとうですの!?」
「はい。王国のとある大貴族が決して治る事のない大病に伏しているのですが、その治療に当たっているのが、東方の方らしくて……今、王国に来ているのです」
 受付嬢の希望ある台詞にマリが泣き止んだよ。
 そんなに――キヅカキャノンの事、嫌いなのか?
「お二人さえよろしければ手配してきますので」
「早速、よろしくお願いしますわ!」
 僕の意見も確認しないで、マリったら、仕方ないな。
 でも、悪い気はないか。愛する人にガチ泣きも心配もさせる程の男って事だろ、僕は。
 希ちゃんが駆け足で部屋から出ていった後、マリが再び身体を密着させてきた。
「……リクさん。なんとかなって欲しいけど、私は、このひんやりとした身体も好きですわ」
 ぬぉぉぉ! ものすっごい意味深過ぎだってぇぇぇ!
 つーか、本当に僕は8割キャノンなの? まだ信じられないんだけどさ。
 マリを抱き締めている腕も足も、今まで通りなんだから。
(いや……待てよ……)
 ふと、僕は違和感を覚えた。
 窓に映る僕の姿、今まで気が付かなかったけど、全然、老けてなくないか?
 邪神戦争の頃からあんまり変わってない気がする……というか変わってない。
(そういえば、あの頃から妙に仲間が優しかったような?)
 いつもは豪放な彼奴らも、小悪魔のような笑顔を向けて来るあの子も、参謀役の頼もしい友も……ん?
 街を歩けば、幼女に指をさされ、その幼女が母親に「見ちゃダメ!」って言われている事もあったっけか?
(あれ……マジで……僕、キヅカキャノンに?)
 自分が見ている姿が自分なのも、さっきの希ちゃんの話から推測すれば説明できる。
 星の力で強引に無からキヅカを再作成させているのだ。万が一、自分の身体が異物と認識した場合、最悪、再作成した箇所を身体が受け入れず、僕は死んでしまうかもしれない。
(僕が見ている僕は、本当の僕ではなく、パルムが見せている幻影だって事か!)
 衝撃的な推測に僕は気が遠くなりそうだった。
 まだ……だ。これで希ちゃんが帰って来た時に『どっきり』プラカードを手にしているかもしれないじゃないか。
 その時、タイミング良く、扉がノックされた。
「あれ、なんだこりゃ。引き戸じゃねぇのか」
 返事をするよりも早く、扉を開けようとしていた人物の声が聞こえた。
「なんだよ。押すのか」
「マジかよ、すげぇなこの『どっきり』企画」
 まさかのスメラギ(kz0158)の登場。その事実に僕はいよいよ追い詰められた。
 たかがどっきり企画で、東方帝を呼び出せるはずもない。やっぱり、8割キャノンは本当のようだ。
「企画? なんの事かよく分からねぇが、話は聞いたぜ。まぁ、治せるかどうか分かんねぇけどよ……やれる事はやってやる!」
「大貴族を治療している東方の方というのは……」
 マリの質問のスメラギは首を傾げた。
 おい、この小僧を呼んだ希ちゃん。どういう事だよ。治療しているのはスメラギじゃないって事か?
「……あー。そういう事か。なるほど、かつての仲間達には知られたくないんだろ」
 ポンと手を叩いて自分で勝手に納得するスメラギ。
 意味が全然分からないが、とりあえず、符術の頂点に立つスメラギがやる気になっているのだ。ありがたい事だ。
「兎に角だ。まずは、そのキャノ……じゃなかった。頭を見せろ」
「ちょっと、その言い方」
「いいから、早く出すのですわ!」
 グイっと強引に降ろされる僕の頭。あんまり強くしないで……禿げそうだから。
 というか、さっきまで号泣していた割に、思いっきり、僕の頭を押し倒すよね、マリ。
 それだけ必死になる姿も可愛いんだけどさ。
 頭を念入りに確認されるが……禿げてねぇよな? というか、なんで術も使うんだよ。そんなすげぇのか、僕の頭は?
「ふむ……小毬は宝術を使えるか?」
「使えますわ」
「よし、時間が掛かるかもしれねぇが、黒龍にも手伝ってもらえれば、なんとかなるかもな」
 スメラギの言葉に歓喜の声を挙げて、三度、僕に抱き着くマリ。
 僕は状況がイマイチ飲み込めないまま安堵した。とりあえず、東方の地に赴けばいいのだろう。
 しかし、突如として爆音と激しい揺れが僕達を襲った。慌てて外を見ると、巨大な影が王都の上空に姿を現していた。
「俺は偉大なる傲慢王の“影”。貴様ら人間共の上に立つ者だ」
 王城を、いや、王都全てを飲み込もうとする程の巨大な影。
「大変ですわ、リクさん。あれを倒さないと東方には行けないですの」
「全く、とんでもねぇ所だな、王国はよ。だが、俺様が居る限り、話にならねぇ。陸、俺様が奴を封じる。その隙にぶっぱなしな!」
 幾枚もの符を宙に放り投げながら術式を展開するスメラギ。
 僕はマリと目を合わせた。東方の地に行く為には、あれを倒さなければいけない。
「行こう、マリ。僕達の力で倒すんだ!」
「はい、リクさん」
 そして、僕達は手を取り合って――ん?
 ちょっとマリさん。なぜ、僕の腰を両手で抱えているのかな?
「こういう時って手を握ったまま、走り出す所じゃないの?」
「今は戦闘に集中ですわ! 私が絶好の狙撃ポイントまで連れていきますの」
 抱えられるようにして廊下を走る僕。
 すっごい恥ずかしいんだけど……この姿を目撃している人達は、拍手喝采だし。
 お前らの顔、覚えておくからな!
「着きましたわ、リクさん!」
「早いな」
「私のマテリアルも流します! あとは、リクさんのタイミングですの!」
 全身に流れ込んでくるマリの力。
 正直、言うと気持ちいい。これは癖になりそうだ。
「凄い……マリを近くに感じる。マリだけじゃない。沢山の仲間達の力、人々の想い! そうか、これが星の力ッ! キヅカキャノン!」
「――ッ!」
 全身の力で抱き締めてくるマリに僕は身体を託し、意識を集中させる。
 イメージだ。巨大な光の柱を生み出す……僕なら出来る!
「喰らえっ! キヅカビームゥゥゥ!!」
 眩い光が僕の頭先から放たれた――。



 僕は心地よい春の風を受けて目を覚ました。
「……という夢を見たんだ」
「リクさん、あなた疲れているのですわ」
 マリはそっと僕の額に手を当てた。
 そっか、僕、まだ疲れているんだ。だったら二度寝してもいいよね。
 遠くなっていく意識の中でマリの声が微かに聞こえた。
「術式の準備は出来ましたわ。リクさん、待っていて下さいの」
 ――と。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
キヅカ様といえば、コマリ様との熱い()関係がやっぱり大事ですよね。どうしたら、二人の信頼関係が表現できるかなって悩んだ結果「リクさんがキャノンになってもリクさんですの」という一言が最初に浮かんだ所で「僕はキャノンから解放されたのだ…清い体になったのだ…」という呟きを見て、これはきっと私宛の希望なのだろうと感じ、珍しく一人称視点で描かせていただきました。
そんな訳で「僕自身がキャノンになることだ」とか「僕が、僕たちが、キャノンだ」とかも台詞が浮かんだのですが、流石に酷いと思いましたので、あの時、不発したビームにしておきました。やったね♪


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
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2020年05月08日

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