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『ヒーロー』
朝日薙 春都la3079)&常陸 祭莉la0023

「ア〜ザ〜ル〜ド〜ゴ〜ア〜〜〜〜!!」

 5歳の男の子が大声で泣いていた。左手にはアサルトコアXN-01ダンテの精巧なプラモデルを持っている。
 金色の前髪に半ば隠れた灰青色の目をこすり、わんわんと泣き続ける。
 男の子はしゃくり上げながらグロリアスベースの裏通りを歩いていた。
 時々周囲を見回して、さらに大きな声で泣きじゃくる。
 この辺りは夜になれば人通りが増えるのだが、午後1時を回ったばかりの現在は人通りもなかった。
 1人でとぼとぼと歩く男の子の前に、のそりと人の影。男の子は気付かずぶつかってしまい、相手の長い脚に抱きつくような形になった。

「……うぇ?」

 何が起こったのか確認しようと、男の子が涙で曇った目を上に向ける。暗く深い青の目と目が合った。その目の下には隈ができている。
 常陸 祭莉(la0023)は男の子の涙がズボンに染みこむのも気にせず、ゆっくりと口を開いた。

「どう、したの? ……迷子?」

「ちがう! まいごなんかじゃない!」

 男の子は勢いよく否定したが、祭莉が周囲を見渡しても保護者の姿はない。
 少し考えてから、祭莉は男の子と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。

「ボクは、マツリ。キミは?」

「……マティ」

「そう。マティは、アサルトコア、好き?」

 マティと名乗った男の子の涙が止まった。

「だいすき! アサルトコアはどんなに大きなナイトメアでもやっつけてくれるんだ!」

 目尻に涙を残しながらも、マティは笑顔でアサルトコアの魅力を語り始めた。
 どれほどアサルトコアが強く格好いいか。
 各社の技術がいかにアサルトコアの強さを生み出しているか。
 これまでのアサルトコアがナイトメアを撃破した戦闘についても、ニュースの記事になった範囲に限るが多くの知識を持っていた。

「ぼくはダンテがいちばんすき! かっこいいもん!」

 両手でXN-01ダンテのプラモデルを動かし、虚空にパンチやキックを繰り出す。
 すっかり高揚したマティに対し、さてどう話を進めようかと祭莉が考えていると。
 きょろきょろと何かを捜している様子の朝日薙 春都(la3079)が角から現れた。手には蒼い鳥のぬいぐるみを抱えている。

「あ! マティアス君だね!」

 祭莉と共にいるマティを見付け、春都はそう呼びかけた。
 マティはさっと春都に背を向けて走り出す。

「えっ!? なんで逃げるの? 待って!」

 春都も追うように走り出した。
 祭莉がぼうっと経緯を見ている間に、マティは全速力で逃げていく。
 それでもマティは年上の春都の速さに敵わないことを分かっているので、小回りで逃げ切ろうと狭い横道に入りこもうとした。
 結果、曲がりきれずに転倒。

「大丈夫?!」

 春都が慌てて駆け寄り、助け起こす。祭莉もその後ろから心配そうに覗きこんだ。
 マティは半ズボンの下に露出していた膝小僧と擦りむいてしまっている。
 再び大きな泣き声が裏通りに響いた。



 春都の夢は救命医であり、いつも救急治療セットを持ち歩いている。彼女は蛇口のある公園へマティを連れて行くと手早く傷口の汚れを落とし、消毒し、絆創膏で覆ってあげた。
 
「ほら、これで大丈夫。痛かったね。よく頑張ったね」

 まだ泣いているマティの体を抱きしめ、よしよしと頭を撫でてあげる。
 それからハンカチで涙を拭い、鼻をかませた。

 それを後ろから見ている祭莉は春都の手際の良さに感心していた。機器を弄るのは得意だが、自分ではここまで滑らかに子供の世話をできないだろうと思う。

「……お姉ちゃんはぼくをさがしていたの?」

「わたしは春都っていうの。それでね、うん、捜してた。子供が行方不明になったって頼まれたから」

「マティ、やっぱり迷子……?」

「まいごじゃない! せっかくグロリアスベースに来られたのに、アサルトコアを見ずにかえるなんてできないよ!」

 少し怒ったようなマティの様子に、春都と祭莉は顔を見合わせた。

「マツリ、ぼくをたすけて? アサルトコアをこの目で見たいんだ」

 助けを求められている。すがるような目を向けられている。ヒーローであれば迷わず子供を助けるのではないかと、祭莉の頭のどこかで声がした。
 大体の事情は推察できた。マティはグロリアスベースを訪れた大人の息子で、アサルトコア好きが高じて生でアサルトコアを見たくなり、一人で探していたのだろう。
 祭莉は俯き、首を横に振った。

「アサルトコアは……簡単に見せられるものじゃ、ない。依頼でもないのに出撃させるのは、難しい」

 マティの目が悲しみに曇った。頭を垂れ、拳をぎゅっと握っている。

「マティアス君、お母さんに連絡してあげるから、迎えに来てもらおう?」

「……わかった」

 それからのマティは無言だった。
 春都が自動販売機で飲み物を買い与えても、一緒にベンチに座ってマティのプラモデルのことを尋ねても、マティは生返事しかよこさない。

 しばらくしてやって来た母親に引き取られ、意気消沈したままマティは去って行った。

 これでよかったのかと祭莉は悩む。
 マティが期待するようなヒーローになれるつもりだったのかと頭のどこかから嘲る声が聞こえる。

「祭莉さん、子供の夢を叶えるのもライセンサーの務めだと思いませんか?」

 祭莉の苦悩を明るい春都の言葉が切り裂いた。



 後日。マティの母親の商談も終わり、親子はグロリアスベースを去る日を迎えた。
 空港に来たマティを春都が迎える。

「ハルト? 何で?」

 ダンテのプラモデルを抱きしめ警戒心を露わにしたマティに、春都は朗らかな笑顔を向ける。

「覚えておいて、ヒーローは必ず来るよ!」

 マティは何を言っているのか分からない様子。
 それでも春都は「期待していて」と言い、手荷物検査のゾーンへ消える親子を見送った。

 搭乗の準備は滞りなく進み、マティは母親と共に小型ジェット機に乗りこんだ。
 ため息をつく。ねだりにねだってグロリアスベースに連れてきてもらったのに、アサルトコアを見る機会は一度もなかった。
 落胆したまま、手元のプラモデルを弄りながらジェット機が滑走路に運ばれるのを待った。

「機長よりご案内いたします」

 機内放送が流れる。

「本日、滑走路への当機の誘導は特別な方法を採ります。皆様窓の外をご覧ください」

 ぼんやりと聞いていたマティの体が揺れを感じた。
 驚いて外を見ると、鋼色の大きな手。

「ダンテだ!!」

 アサルトコアに詳しいマティは一目見ただけで、それがXN-01ダンテであることが分かった。
 本物のダンテはゆっくりとジェット機を持ち上げ、滑走路まで運んでそっと下ろす。

 マティの席からちょうど全身が見える場所まで離れたダンテは、ジェット機に向かって手を振った。

「ママ、ダンテがぼくに手をふってくれているよ! すごい! ゆめみたい!」

 頬を赤く染め喜んでいる息子を見て、母親も笑顔になる。

 離陸の時刻になり、ジェット機は飛び立った。
 ダンテはジェット機が見えなくなるまで手を振り続け、マティはシートベルトを付けていても動ける範囲でずっとダンテを見続けていた。

 静かになった飛行場にて、ダンテのコックピットから祭莉が地面に降り立つ。

「祭莉さん、マティアス君の夢を叶えてあげられましたね。まさにヒーローです!」

 許可を得てダンテの傍まで来た春都は、ニコニコとした笑顔で祭莉を称えた。

「思い付いたのは、ハルトだし……」

 祭莉は無表情に首を横に振った。

「ううん、SALFへの面倒な交渉を通して、アサルトコアでのお見送りを実現させたのは祭莉さんじゃないですか! 祭莉さんの熱意がSALFを動かし、マティ君の願いを実現させたんですよ!」

 全部が自分の力だとは祭莉には思えなかった。
 自分が何をしようとしているのかを聞いて協力してくれた知り合いもいたからだ。
 春都は知らないようだが、交渉の大部分はそれが得意な知り合いに投げた。

 それでも、と祭莉は思う。
 自分がマティにとってのヒーローとなれたのであれば嬉しいと。
 たとえそれがつかの間のことであっても。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 この度はおまかせノベルのご発注、誠にありがとうございました。
 「おまかせ」ですので自由に書かせてもらいました。
 それぞれの意味で、春都さんも祭莉さんもマティ少年のヒーローであったと思います。
 お気に召すノベルとなっておりましたら嬉しいです。
おまかせノベル -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月08日

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