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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン1 第12話「終わりへの点火」(終)』
柞原 典la3876


 ついに、頭のネジが全部取れたエルゴマンサーとSALFが全面対決する機会が巡ってきた。柞原 典(la3876)も討伐チームに呼ばれ、現地で応援にかり出された保安官事務所のヴァージル(lz0103)と顔を合わせる。
「お前は来ると思ったよ」
「俺も、兄さんはおると思ったわぁ。保安官代理も忙しいんやね」
「そりゃな。このまま攻め込むのか?」
「SALFはそのつもりなんやけどなぁ」
 とは言え、こう言うときには邪魔が入るというのがお約束だ。典は周囲をぐるりと見回す。
 そうこうしている内に、突入準備が整い、典も呼ばれた。
「典」
 その彼を、ヴァージルが呼び止める。典は立ち止まって振り返った。
「どうした兄さん」
「あー……実は俺……」
 彼が言い淀むということは個人的なことか。もう行かないと。けれど典は返事を待って……。

 二台先の車が爆発した。

「え?」
 ヴァージルを無視して進んでいたら、間近で爆発されていた。典は身構える。あちこちで悲鳴と驚愕の声が上がっていた。
「なん……」
「おい! 大丈夫か!」
 ヴァージルが典の腕を掴んで引っ張った。典はされるがままに後ろに下がる。ヴァージルは典を自分の口元まで引き寄せて、囁いた。
「この現場、絶対内通者いるぞ」
「俺もそう思うわ」
「……お前、エルゴマンサーよりそっちを狙ってねぇか?」
「あのエルゴマンサーもおもろいし、玩具やと思うてるけど、それは別として、仕事はちゃんとせんとな?」
 SALFが仕事を果たすには、それを邪魔する者の排除もまた必要な仕事だ。
「俺も行く」
「ん。そらありがたいわ。でも兄さん、ナイトメア一匹でもおったらすぐ逃げてな? 一般人巻き込んだら報酬下がるもん」
「お前に始末書は書かせねぇよ。行くぞ」


「俺らの突入を邪魔したいんやったら、アサルトコアにも何か仕掛けてある筈や」
「なるほどな。アサルトコアの待機場所は? キャリアーだよな」
「そうやね。あれな、二百メートルくらいあるんよ。せやから、事故防止でどこに下りるかは知らされとる筈や」
「SALFの制服さえ入手できれば、キャリアーに乗り込むのも不可能じゃねぇ」
「そうやな。一般人のオペレーターさんなんかも制服は着るさかい、非適合者でも、制服やったらあんまり疑わんかもしれへん」
 この騒ぎで、アサルトコアの搬出はまだ始まっていない。典はキャリアーの方へ向かった。周辺には、制服のライセンサーや制服警官の他に、コスプレと見まごうような私服のライセンサーも集まっている。
「なんだこの一般人」
「あの人らもライセンサー。服装は自由なんやわ。俺も普通のスーツで依頼出ることあるし」
「何着てても疑われねぇな」
 二人はそのままキャリアーに乗り込んだ。
「アサルトコアは今回何機出るんだ」
「二十五」
 大体、少し大規模な作戦となると二十五人刻みとなる。典は生身で出る二十五人の一人だ。
「全部に細工はできねぇだろ」
「時間もないしな。敵さん、数機に細工したらすぐおさらばする気やと思う」
「俺でもそうする」
「怖いわぁ」
 くつくつと笑いながら、格納庫へ急ぐ。
「柞原やけど、今キャリアーの整備って誰かしとる? そう、後は出すだけだから誰もおらんと。りょーかい」
「典」
「ん」
 格納庫の方からやって来る、SALFの制服を着た男性。まるで、今着替えたばかりのようにぴしっとしている。この騒ぎなら、どんなにきちんと着ていても多少はよれていたりしそうなものだ。
「はぁい、兄さん。ちょっとええ?」
 典が進路を阻むように、壁にとんと肩を付けて笑いかけた。相手は急ぐ旨を伝えると、彼を避けて行こうとするが、典の後ろから現れたヴァージルが更にその進路を阻んだ。典が相手のポケットから飛び出している細いものをつまみ上げる。
「これ、何のリモコン? ignition……点火って書いてるな? 俺、作戦参加者やけど爆発の話は聞いてへんよ」
「いくらアサルトコアにシールドあっても、突然の爆発で削られたら命取りになりかねないからな」
「ちょいお話しせぇへん?」
 典がにっこりと笑うと──いつもの、目が笑っていないあの笑顔──相手は観念したようにうなだれた。


 結局、エルゴマンサーは逃がしてしまったが、結構な深手を負わせた。しばらくは悪巧みもできないだろう。作戦は成功したと言って良い。

 後日、用事ついでに典は保安官事務所に立ち寄った。
「ヴァージル兄さん、おる?」
 しかし、応対した職員から告げられた。彼は退職した。先日のエルゴマンサー戦での現場応援が最後の仕事だったのだと。もう有休消化に入り、ここへ来ることはないと。
「……ふーん」
 聞いてないのか? と、心配そうに問われて、典はにっこりと笑った。
「別に、俺らお友達でもなんでもないしな。兄さんだって俺に言う義理ない筈やで」
 そう、友達でもなんでもない。単に現場でよく出会うライセンサーと現地の保安官代理だ。
 誰との関係でも終わりはある。ヴァージルとにも、それが来ただけだ。典は挨拶をしてそのまま本部に帰還した。


 SALF本部に戻ると、オペレーターがものすごい勢いで手招きしてきた。聞けば、新人指導をしてもらいたいと言う。典はちょっと困った様に笑い、
「新人さん教えるって、俺そういうの性に合うてへんのやけどなぁ。セイント?」
「ゼルクナイトだよ。しょうがねぇからサブでスナイパーだ」
 聞き覚えのある声がして、典は振り返り、目を丸くした。
 SALFの制服を着たヴァージルがポケットに手を突っ込んで立っている。カーキ色の保安官代理の制服から、黒と青のSALF制服になって、まるで別人の様だ。
「兄さん?」
「本当は、あの現場で言おうと思ったんだよ。俺、適性あるらしいからライセンサーになることにしたって。爆発でそれどころじゃなかったけど」
「ああ……あれ、このことやったんか」
「ところで、お前が俺を訪ねてきたって連絡があったよ。何か用か?」
「いや、ちょっと通りかかったから、からかってやろう思うてな」
「そんなこったろうと思ったよ。同僚はお前のことえらく心配してたけどな。だから言っといたよ、どうせ大した理由じゃねぇからって。顔が良いからって、皆お前のこともてはやす……」
「へぇー? 兄さんがそれ言う?」
 そう言って意地悪な顔をして、ずいと近づくと、ヴァージルは少し気まずそうになって目を逸らした。典はヴァージルの肩をぽんと叩くと、
「ゼルクやったら丁度ええわ。固いし。か弱い俺を守ってな? ほんだらトレーニングプログラムの入り方から教えたるわ。それからスキルの取り方、依頼の受け方やね」
「誰がか弱いって?」
 先導する典の後ろをついて行きながら、ヴァージルは眉を上げて笑った。

 午後のSALF本部に二人分の足音が響く。

●シーズン2放映決定!
 ライセンサーになったヴァージルと指導の名目で組む事になった典。
「か弱い俺を守ってやー」
「よっしゃ任せ……ゴフッ!」
 アリーガードで典を庇ったら諸々足りずにそのまま気絶するヴァージル!
「何であのエルゴマンサーのことだけあだ名で呼んでるんだ?」
「兄さん妬いてるん?」
 変化していく二人の関係から目が離せない!
 「コールド・ロータス」シーズン2は2060年×月×日より放映開始(初回2時間スペシャル)!
 お楽しみに!

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
いなくなったと思った人がまたより近い立ち位置で現れるのは最終回あるあるなのでやりました。反省はしていますが後悔はしておりません。
典さんの相方観(?)が割と未知数だな……と思いつつ関係が終わるときは割とあっさり「おもろかったわぁ」で割りきるのかな、と思いながら書かせていただいております。
予告カットは、これが真っ先に出てきたので……笑。庇うこと自体は職業柄やりそうと思います。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年05月11日

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