▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『緑龍は未だ暁に眠る。されど巫女は祈り続ける』
Uisca=S=Amhranka0754

「その様子だと何故呼び出されたのかは分かっているみたいだね」
 焚き火の中で枯れ木が爆ぜる。
 軽く乾いた音が周囲に響く。
 シンチャチャシの中で、Uisca=S=Amhran(ka0754)はイクタサ(kz0246)と焚き火を囲んでいた。
 突然の呼び出し。Uiscaはその理由を何となく察していた。
「はい」
「その話題に移りたいんだけど……その前になんで彼がいるの?」
 彼――Uiscaの傍らにはヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)が座っていた。
 明らかに嫌そうな顔を浮かべるイクタサ。
「おや、私がいるとご迷惑ですか?」
「そうだよ」
 Uiscaは二人の関係が複雑な事を知っていた。
 口では嫌っているイクタサだが、正確には『できれば関わりたくない相手』という認識だ。できればイクタサと二人で話したかったのだが、今回の一件はヴェルナーの存在も忘れてはならない。
「ヴェルナーさんはお話の件で必要と判断してお呼びしました。勝手な真似、申し訳ありません」
「そう」
「そういう訳ですから、同席させていただきます。久し振りにイクタサさんのお顔を拝見できて良かったです」
「…………」
 ヴェルナーの笑顔に対してイクタサは相変わらずの冷たい顔。
 この日常的なやり取りを打ち壊したのは、他ならぬUiscaであった。
「単刀直入に申し上げます。お呼び出しの件は、緑龍の事でしょうか」
 ――緑龍。
 幻獣の森にて幻獣を守る為に結界を張っていたナーランギは、歪虚の強襲を受けてその命を散らした。幻獣の森が陥落する際、Uiscaはある卵を発見した。それが何の卵なのかは、現時点では分からない。しかし、Uiscaはナーランギが残した卵だと直感していた。
 Uiscaはこれも巫女としての役目と考え、緑龍の卵育成に動き始めていた。
「そう。その件。
 この卵が緑龍の卵として話を進めるけど、この緑龍の卵から孵った転生体を育てる体制を整えようとしているんだって?」
 イクタサは焚き火に枯れ木を焼べながら、Uiscaの近況を話題に挙げた。
 Uiscaは所用でリアルブルーへ赴いていたが、帰還すると辺境巫女や龍園への協力を打診し始める。六大龍の一角の転生体ではあるが、龍が成長する確率はかなり低い。幼いうちに死亡するケースが多々あるからだ。
「辺境の大巫女や龍園からは協力の申し出がございました。『今までハンターとしての働きを考えれば、当然の支援だ』と仰っていただけました」
 Uiscaは龍園や辺境の大巫女、さらには東方からの緑龍育成の支援を取り付けていた。
 緑龍の巫女は今まで存在しておらず、緑龍の育成に関する情報はかなり少ない。そこで各地の龍に仕える者達から支援を受ける事で緑龍育成に役立てようとしていた。
 しかし、イクタサが心配していたのはその点とは少し異なる。
「それはキミの功績だからね。特に心配はしてないよ。ボクが心配していたのは『緑龍の巫女』」
「! ……」
 Uiscaは、一瞬だけ体を震わせる。
 やはり、避けては通れない。イクタサでなくても、その指摘をするのは当然だ。
 Uiscaが考えた体制は、緑龍の世話を行う緑龍の巫女も育成しようとしていた。だが、龍園や辺境から巫女候補を回してもらえば、今度は彼らの龍を世話する者が足りなくなる。
 そう考えたUiscaが白羽の矢を立てたのは、『白龍から離反した巫女』だった。
「聞いたよ。緑龍の巫女達は、白龍から離反した元契約者だってね。
 彼女達は部族から才能があるとして巫女に迎えられたのに、小さな龍の世話が嫌で離れたって。契約者から覚醒者へ上書きしたものの、彼らは白龍の巫女にも部族にも戻れていないよね? その彼らを緑龍の巫女育成に駆り出したのは、何故?」
 イクタサの言葉が突き刺さる。
 白龍から離反した巫女達は、歪虚と手を結んだ元契約者だ。白龍を失い、新たな白龍と思しき白い龍を迎え入れる辺境巫女。しかし、彼女達は部族から巫女の才能があるとして聖地へ迎え入れられた者達だ。部族は誉れとして賞賛するが、当の本人からすれば重圧で束縛される人生を受け入れる事になる。さらに当の白龍は未だ幼く聖地にも存在していない。おそらく聖地へ白龍が正式に降臨するまで、自分は既に亡くなっている。
 巫女という存在に疑問を持った者達へ歪虚が囁き、契約者へ引き入れていったのだ。
「はい。彼女達は帰る場所を失いました。ヴェルナーさんが彼らの居場所を与えてくれましたが……」
 Uiscaは言葉を濁らせる。
 それを察してヴェルナーが離反者の現状を説明し始める。
「元契約者の彼女達は、部族に戻る事も、白龍の巫女へ戻る事もできません。私がノアーラ・クンタウ近郊の村を貸し与え、自給自足の生活を始めています。元契約者として顔が売れていますから、普通の生活もままなりません」
 元契約者の彼女達を待っていたのは過酷な生活であった。
 巫女を捨てても元契約者としての罪は消えない。街で職を探しても断られる日々。そこでヴェルナーが生活の場所を提供したのだが、決して楽な生活ではないらしい。
「私は彼女達が持つ巫女としての能力を緑龍の育成に役立てたいと考えています。その為に元巫女の方々に一生懸命説得して回っています」
 Uiscaは元巫女達に緑龍育成の協力を打診していた。
 彼女達のノウハウは必ず緑龍育成に利用できるからだ。
 ――しかし。
「それ、彼女達に同じような苦しみを与える事にならない? 本当に緑龍の転生体かも分からない卵を持ち出して、再び巫女として働けって割と残酷な話だよ」
 イクタサは更に踏み込んだ。
 確かにUiscaの考えは理に叶っている。しかし、当の巫女達からすれば嫌で逃れた龍の巫女へ戻れと言うのだ。事実、Uiscaはその説得が功を奏していない事も分かっている。多くの巫女がその誘いを断っているのだ。
 さらにイクタサは言葉を続ける。
「キミのその考えは、他人に対して願望を押しつけているだけに過ぎない」
「はい、その通りです」
 Uiscaはイクタサを前にはっきりと断言した。
「言い切ったね」
「分かった上で説得しています。
 いつ目覚めるかも分からない卵。孵ってもそれが緑龍の転生体ではないかもしれません。それは彼女達が捨てた白龍の再誕と同じです。
 ですが、私は大巫女様から『巫女の存在意義とは何か』という問いかけに悩み続けたいのです」
 Uiscaは自分の中に一つの芯を持っていた。
 ――巫女の存在意義。
 かつて大巫女が問いかけた言葉。
 もし、元契約者達がこの意義を取り戻せたなら、彼女達はその時こそ自分自身が取り戻せる。Uiscaはその手助けをしたいと考えていた。かつてリアルブルーにいた神父が、他人の為に最後まで信じて守ろうとしたように。
「彼女達は契約者だった。削られた寿命は戻らない。それでもキミは緑龍の巫女育成を彼女達に任せたいの?」
「はい」
 力強く断言するUisca。
 それをみたイクタサはため息をつく。
「そう。ならやってみるといいよ。この先もかなり厳しい道が続くと思うけど……きっとあの邪神を倒したキミなら何とかしちゃうんだろうね」


シングルノベル この商品を注文する
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年05月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.