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『パルム地獄と女将軍』
イレーヌka1372

「あのね、イレーヌ君。ちょっと訊いてもいいかな?」
 豊満過ぎるという言葉では足りない位の胸を揺らし、鳴月 牡丹(kz0180)が質問を投げかけてきた。
 面倒な手つきで獄パルムを背負い籠に投げ込み、イレーヌ(ka1372)は首を傾げる。
「なんだい、牡丹?」
「こういう時、イレーヌ君ってさ、凄く淡々とヤるよね。じゃなくて……なんで、僕達、地獄でパルムを拾っているの?」
「さぁ?」
 両肩を竦めて応えるイレーヌ。
 ここは地獄。それも、パルム地獄だ。ここを構成するのは、空も大地も草も木も、ぜーんぶ、パルムで出来ている。ちっちゃいパルムの集合体だったり、あるいはでっかいパルムそのものだったり、色々だ。問題があるとすれば、普通のパルムの姿はなく、毒パルムだったり、色々とヤヴァそうなパルムだったり、所謂、案件パルムのみしかいないという事。
 ここは『案件依頼』に登場して成仏できなかったというパルムの無念の澱み……なのだろう。
「だって、可笑しいよ! 地獄といえば、こう、修羅の世界みたいな感じで、ヤるかヤられるかじゃないの!?」
「私もそう思うのだが、地獄というのは罪を償う場。こういう世界もありなのだよ、牡丹」
 如何にも聖導士らしい言葉を告げるイレーヌ。もっとも、パルムを籠に投げ込みながらの台詞だから、説得力にイマイチ欠けるが。
 償うという意味で言うと、牡丹もイレーヌもここに居る理由にはなる。確かに……生前、そうしたパルムで遊んだ気がしないでもない。
「つまりなんだ。僕達が生前、パルムで遊び過ぎたから、パルム地獄に落とされたと?」
「自覚があるなら、文句言わずにさっさとやりな」
 彼女らにはそれぞれにパルム籠を3000万個作るという罰が与えられている。
「……くっそ……こうなったら!」
 籠にパルムを詰める作業に飽きた牡丹は、微動するバイブレーションパルムを手にする。
 そして、作業を続けるイレーヌの背にソロリソロリと近づいた。
「イレーヌ君!」
「だから、さっさと……むぐぅ!」
 名前を呼ばれて振り返った所を牡丹から強引にバイブレーションパルムを口に突っ込まれるイレーヌ。
 独特の苦い変な味が気持ち悪いが、グッとかみ殺した。
 口の中に残ったパルムを勢いよく吐き出す。
「――ベッ! なにをするんだ!」
「ナニに決まっているじゃないか。さっきからただただパルムばっかり集めてつまんないよ!」
「子供かっ!」
 人が一生懸命パルムを集めているというのに牡丹のくだらない言い訳がイレーヌを怒らせた。
 どう見てもヤヴァい形をしている凸パルムを素早く手にすると、牡丹の豊かな胸の間に突き刺す。
「だいたい、早死にする牡丹が悪いっ!」
「いや、それはパルム関係無いしっ……って、気持ち悪いものを胸ポッケに入れないでくれる!?」
 豊かな胸の間に挟まれたせいで昇天してしまったのか怪しげな液体を残して消えるパルム。
 気持ち悪そうな表情を浮かべる牡丹。
「始めたのは牡丹だろうに!」
 両者はパルムを構えて対峙する。
 こういう事やっているから地獄に落とされたのだが、もはや、そんな理由はどうでもいいようだ。
「ヤる気になったね」
「私に勝てるとでも?」
「僕の台詞だよ。運動能力じゃ、僕の方が上だからね」
 自信満々の牡丹。パルムを持つ手でイヤらしい軌道を描く。
 大地を蹴ってグッと迫る牡丹にイレーヌは一歩引きながら手にしていた凸パルムを地面と化している凹パルムに投げつけた。
 二つの凸凹パルムが結合した事により、塵と化して消える。突然、地面がなくなった為、牡丹はあっけなく落下した。
「イレーヌ君、ずる……うにゃ!?」
 穴の中で顔を挙げて抗議を主張しようとした牡丹に対し、ベトベトした意味深な液体を振りまく危険なパルムを投げ落とすイレーヌ。
「運動能力だけ良くても意味が無いだろう」
「にがっ! 変な臭いもするし!」
「悔い改めれば、天国にも行けるよ、牡丹」
 液体まみれになった牡丹を見下ろしながら淡々と告げるイレーヌは、容赦なく次々にヤヴァいパルムを落とす。こいつは――鬼か。
「既に地獄だって! こうなったら……あれ? ヌメヌメしていて上がれない!?」
「凄く良い光景だよ。写真に収めたい所だ」
 必死になって穴の壁を登ろうとするが、多量に巻き散らかされた意味深な液体のせいで滑って上がれないのだ。
 ステンっと豪快に転ぶと、全身、ベトベドだ。
「余裕で居られるのも今のう――って、変な所にパルムがぁ!」
 衣服の中に侵入してしまった毒パルムをなんとかひっつかもうとするがベト液の為に上手くいかない。
 身を悶えさせる牡丹。かといって、着替えがない地獄で衣服は脱ぎ捨てたくはないようだ。
 おぞましい光景に苦笑するイレーヌ。数ある地獄の中でもこれは指折りだろう。色々な意味で。
「これが本当のパルム地獄か」
「自分でやっておいて、酷い。こうなったら……道連れだぁぁぁ!」
 牡丹は力を込めた拳を壁に放った。
 猛烈な振動がイレーヌを襲う。バランスを崩して転倒してしまう所を、なんとか姿勢を保って耐えきった。とんでもない威力のパンチだ。流石、女将軍と呼ばれていた事はある。
 両手を広げてバランスをとっていたイレーヌは冷や汗を流す。
「セーフ。危ない危ない」
「フフ。油断大敵だよ、イレーヌ君!」
 勝ち誇った台詞と共に、再び突き出す拳。そこから衝撃波が生まれると、イレーヌの足元を形成しているパルム共が木端微塵に吹き飛んだ。それぞれ無念な様相で塵となって消え去っていく。
 パルムで遊びすぎて地獄に居るというのに、なんとも罰当たりな行動。聖導士の端くれであるイレーヌの予想を超えていた。
 足元が無くなってしまえばイレーヌも立ってはいられない。ビシャーっと大きな音を立てて、色々な意味で危険な香りがする水たまりに落下したイレーヌ。彼女もまた液まみれだ。
「ハハハハハ! どう、僕の力、凄いでしょ!」
「……この乳でか娘! 馬鹿な事をすると、集める籠の数が増えるぞ!」
「そ、そんなの怖くないもん!」
「子供かっ!」
 投げやりな牡丹の台詞にイレーヌは先程と同じ言葉を発すると背負っていた籠を乱暴に外す。
 一連の出来事で、パルム籠集めは100万個程、追加されたはずだ。
「あれ? イレーヌ君も諦めた?」
「違う。こうなったら、とことんヤるさ。その方が、牡丹も性に合っているだろう」
 それは牡丹にとって思いがけない言葉だったようだ。
 一瞬、キョトンとした後、悪人が浮かべるように口元を緩めた牡丹は拳をググっと握り締めた。
「やっぱり、持つべき者は友だね」
「巻き込まれるのは慣れているからな……存分にヤれ。背は私が守る」
 牡丹の攻撃でもパルムが消滅するのだ。この世界を構成している全てをパルムに拳を叩き込み、パルム地獄そのものを破壊する事も可能なのかもしれない。それは果てしないほど大変な事かもしれないが、3000万個の籠にパルムを詰める作業よりかは、自分達らしい事だろう。
 反省の色がないと言われればその通りだが、そんな事よりも、パルム如きに屈する事など、あり得ないのだ。
「遅れないでね、イレーヌ君!」
「勝手に先走ったのは牡丹だろうに。でも、心配しなくても、もう二度と置いてけぼりにはならないさ!」
 二人は巨大なパルム壁へと向かって拳を振り上げた。
 クソみたいなこの地獄を拳で粉砕して、望む場所へと至るために――。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
イレーヌと牡丹の組み合わせといえば、案件依頼。そして、案件依頼といえば、毒パルム。
恐るべきパルム地獄に落ちてしまった二人が、イチャイチャ……じゃなくて、パルムを押し付けあおうとする中、二人らしくパルム何するものぞと立ち向かう姿が良いな〜と思いながら描かせていただきました!
改めて、良い組み合わせの二人だと思うのです!!


この度は、ご依頼の程、ありがとうございました!
おまかせノベル -
赤山優牙 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年05月12日

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